渡辺 淳之介
WACK代表取締役
森分 大翔
BiSH A&R
エイベックス・エンタテインメント
BiSH解散直前、スタッフの本音。
普通の女の子から、東京ドームアーティストへ。
BiSHと名曲「オーケストラ」のヤバさを渡辺淳之介とレーベルスタッフが語る。
2023年6月29日に東京ドーム公演「Bye-Bye Show for Never」を終え、ファンに惜しまれながら解散を迎えたBiSH。彼女たちがBiSHとして駆け抜けた8年間。結成から解散までを傍で見守り並走し続けてきたのが、株式会社WACK代表取締役の渡辺淳之介さんと、エイベックス・エンタテインメント A&Rの森分大翔さん。
解散LIVE数日前の取材となった本インタビュー。「本当に早く終わってほしい(笑)。あとはもう、とにかくやるだけですから」と渡辺さんは語るが、BiSHにとって長年の夢でもあった東京ドームLIVEを間近に控え、おふたりは今何を思うのか。そして”新生クソアイドル”として始まり、多くの人々の心を掴んできたBiSHの歴史の裏側には何があったのか。グループ屈指のライブアンセムであり、新たなBiSHの一面を表現するきっかけになったヤバイ曲「オーケストラ」の裏側をはじめ、BiSHというグループのヤバさについてお話をうかがいました。
名曲「オーケストラ」は
空耳から生まれた?
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THE FIRST TIMES編集部員 (以下、TIMES編集部員)
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- 本日はありがとうございます。解散を直前に控えた今だからこそ、まずはグループに大きな影響をもたらした楽曲「オーケストラ」についてお話を伺いたいと思います。多くのファンの心を掴んだまさにヤバイ曲だと思うのですが、どういった経緯で生まれた楽曲なのでしょうか。
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渡辺淳之介さん(以下、渡辺さん)
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- そもそもBiSHは、僕がもともとプロデュースしていたBiSというアイドルグループをもう一度始めようと思って立ち上げたグループなんです。当時のBiSを知ってる人は破天荒というか、無茶苦茶やるようなヤツらみたいなイメージがあったと思うんですけど(笑)。
- BiSHを始めるにあたって考えたのは、大きさというか規模。BiSのときも楽しかったんですけど、どちらかというとこぢんまりというか、めちゃめちゃな内輪ノリを数千人ぐらいでやってたイメージで。それを10万人、100万人規模まで広げたらどうなるんだろうなと考えて作ったのがBiSHなんです。
- なるほどなるほど。
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渡辺さん
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- で、メジャーデビューしてアルバムを制作するとなったときに、いわゆるヒット曲を作りたいよねという話になって制作したのが「オーケストラ」でした。
- 東京ドームなどの大きな会場でライブをされている人たちはどう盛り上げてるのか、どういう展開をしてるのか、どのようにサビまで持っていっているのかなど、そういうところも含めて、サウンドプロデューサーの松隈ケンタさんをはじめ、チームのみんなで話し合った覚えがあります。
- ヒット曲を生み出すために、どのようなことを意識されたんですか?
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渡辺さん
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- 普遍的に聴かれているロックソングって何だろうと考えたときに、僕のイメージはもう完全に「BUMP OF CHICKENだ!」ってなって(笑)。当時はもう本当にバンプを聴きまくっていましたね。
- すごいですね(笑)。BUMP OF CHICKENの研究からはどんな要素を活かされたのでしょうか。
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渡辺さん
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- 「天体観測」や「車輪の唄」とかもそうなんですけど、ひとつの物語が曲の中で前に進んでいくような感じがあるなと思って。誰が聴いてもわかりやすいと感じられる部分をすごく意識して作詞しつつ、さらにちょっと今までになかった、恋愛とかでもないんですが、相手を想うような要素を入れてみたりしました。
- それまでのBiSHにない、新鮮な雰囲気の楽曲でしたよね。
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渡辺さん
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- 当時からメンバーたちも歌詞を書いていたんですけど、恋愛の歌を禁止してたんですよ。なんか変態なやつだったらいいけどみたいな(笑)。
- そもそも禁止だったんですね(笑)。
- 歌詞の中で“オーケストラ”というワードがすごく印象的で、楽曲の展開も含めてとても素敵な表現だなと感じたのですが、“オーケストラ”というワードは何からインスピレーションを受けて発想されたのでしょうか。
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渡辺さん
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- これ話していいか分からないんですけど、実は完全に空耳から始まってるんですよ。
- 松隈さんが曲を作るときに仮歌だったり仮の歌詞を入れてくれるんですが、そのときはたまたまアジカンが入っていて。聴いていると “おーけして”っていう歌詞で。それが“オーケストラ”に聞こえて、これいけるなと思って(笑)。
- すごいエピソードですね(笑)。そこからの膨らませ方というか、別れだったり相手を思うことを“オーケストラ”という言葉にまとめるのが、すごく素敵です。
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渡辺さん
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- ありがとうございます。
- 「オーケストラ」が出たタイミングで一気にBiSH自体の話題も増えたように感じます。
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森分大翔さん(以下、森分さん)
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- そうですね。本当に「オーケストラ」はBiSHの認知度を高めるきっかけになった曲で、いろいろメディアに出させてもらえるようになったのも「オーケストラ」が最初だったっていうのがありましたね。
- 野音でのパフォーマンスがきっかけで情報番組でも取り上げてもらったんすよ。あれが多分、最初だったんで。それで「帝王切開」をZIP!に取り上げていただいて、SCHOOL OF LOCK! もこのタイミングで気にかけていただいて。
- レーベルサイドから見て「オーケストラ」が出来上がってきたときの社内の雰囲気はいかがでしたか?
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森分さん
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- 「オーケストラ」が上がってきたときの温度感はすごい高かったですね。
- BiSHが目指していくロックのブランディングを印象づけていくためにメディア露出をしっかり狙っていきたいと考えている中で、やっぱりSCHOOL OF LOCK! の出演を目指すというのがチーム内でもあって。あとは野音でどれだけ露出できるかもありましたね。「オーケストラ」の力でメディアに初めて取り上げてもらって、それがその先の「プロミスザスター」に繋がっていったような時期でした。
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渡辺さん
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- 彼女たちの表現というか、アイナ・ジ・エンドが作る振り付けだったり、ファンとのストーリーだったり、そういった部分がより色濃く出てるのが「オーケストラ」なのかなと。
- 野音でガチッとハマったパフォーマンスができたことで彼女たちの感情も動いて、結果としてそれがここまで広がっていく力になったのかなと思います。それまで感情をあんまり表現してこなかったアユニ・Dも、野音が終わった後にびっくりするぐらい号泣するっていう(笑)。
- アユニさんはグループに入って間もない頃ですよね。それまでの緊張の糸が切れたような部分もあったのかなと思います。
- 「オーケストラ」という楽曲を軸にすると、「THE FIRST TAKE」にもアイナさんおひとりでご出演されていましたが、すごく素敵なパフォーマンスでした。あれには何かストーリーや狙いがあったのでしょうか。
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渡辺さん
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- アイナもそうですし、アユニのソロプロジェクトのPEDROとかもそうなんですけど、メンバーには「BiSHをやってるときは、BiSHが一番だからね」っていう話をいつもしていました。だから、「じゃあ今回はアイナひとりだけど、BiSHのためにやろうか」と進められたのが良かったのかなと思います。
- たしかに冒頭のMCでも、他のメンバーのみなさんの想いを背負うような発言をされていましたよね。BiSHに対する大きな愛情が感じられました。
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BiSHのルールと、ありのままをプロデュースすること
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TIMES編集部員
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- アイナさんの振り付けは唯一無二というか、ほかであまり見ない振り付けなので話題になることも多いと思います。「オーケストラ」をはじめ、ライブで楽曲を披露するときに大切にされていることはあるのでしょうか。
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渡辺さん
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- 当初からそうなんですけど、振り付けに関しては、「サビは絶対に手を挙げよう」というルールが僕とメンバーたちの中であって。こちらが手を挙げると、お客さんも反射的に手を挙げてくれるんですよ。みんなが真似して手を上げた瞬間って、なんか盛り上がってるように見えるし。
- 対バンのイベントも多かったですし、もう勝手に踊らせとけみたいな感じで、そこは一番大事にしていた部分でした。ただこれ、最近はアイナにも無視されてるんですけどね(笑)。
- たしかにライブ映像を観ていても、サビでは毎回手が挙がってるような気がしますね。
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渡辺さん
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- 最初のほうは振り付けも逐一チェックしていました。「これじゃ会場の手は挙がらない」とか。あとやっぱりいきなり手を挙げてもしょうがないんで助走っていうか、「さあ行くぞ、今から手を挙げるぞ」っていう感じを出していこうとか。けっこう細かく言ってましたね。
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森分さん
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- 「オーケストラ」はまさにそうですよね。助走があってその後に全員が手を挙げるような、振り付けにもストーリーがある。
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渡辺さん
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- あとBiSHにはすごく濃いファンというか、本当に毎回来てくれるような熱烈なファンの方々もいるんですよ。そしてそういう人たちっていつも最前列付近にいる。だから「最前列よりも後方で彼氏面して、腕組んでるような奴に対して率先して目を合わせろ」っていう話はしてましたね(笑)。まあ、これも今ではすごく無視されてるんですけど。
- すごく具体的ですね(笑)。それは内輪ノリにしないようにするために?
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渡辺さん
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- ほかのグループとかも同じで、最初のころはつい前ばっかり見ちゃう。自分たちのことをよく知ってくれている最前列をどうしても見がちなんですけど、そこばっかり見てるとやっぱり後ろの人たちが入りづらいというか。それは良くないし避けたいなと。
- なるほど。BiSHとして活動する上でルールなどを細かく決めているんですか?
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渡辺さん
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- いやいや、そんなことはないですよ。よく僕たちの事務所……というか僕のイメージなんでしょうけど、いわゆる“プロデュース型”のように言われることが多いんです。けど実は、基本的に自由にやってもらってます。それこそ髪型やメイクも好きなように。っていうのも、やっぱかっこつけてもなんかボロが出るっていうか。加工アプリとかも使わないようにと伝えていましたね。
- それは、SNSに写真をアップする時もですか?
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渡辺さん
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- そう。加工アプリって現実よりも良く写るじゃないですか。でも実際に会って「本物の方が良くなかった」ってなったら、ファン心としてはちょっと複雑なんじゃないかと。仮にダメな印象を持たれていても、「実際会ったらかわいいじゃん」となるほうが結果的に良いんじゃないかなと思ってて。
- たしかにそうですよね。BiSHのみなさんはどこでお会いしても、普段見ている雰囲気のままなような気がします。
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渡辺さん
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- 結局は自分のオリジナルの部分がないと、それを増長させることもできないというか。なので基本は素のまんまで、その上でありのままをどうやって良く見せるかを意識することが多いですね。彼女たちの良いところとか、ありのままの姿をどうやって良きように表現できるかは常に考えていました。
- BiSHはメンバーそれぞれの個性が他と比べても特に際立ったグループだなと感じるのですが、渡辺さんの中で8年間意識し続けていることや、スタートから変えずにやってきたことがあれば教えてください。
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渡辺さん
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- 性格が悪くないかは一番に見ています。あとWACKが年齢非公開にしていることもあるのですが、「グループに入ったら一心同体だから、敬語を使ったり先輩後輩もやめよう」とは言ってます。僕たちも言いたいことを言うし、メンバーも言いたいことを言う。抑え込んだり溜め込んだりするものがないっていう、ある種フラットな雰囲気なのも良いところのひとつなのかもしれません。
- たしかにめちゃくちゃ仲が良いというより、適度な距離感とお互いのゾーンがあるように思います。個性がバラバラだからそうなるんでしょうか。
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渡辺さん
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- お互いを尊重し合っているんですよね。もちろん集まらなきゃいけないときは集まるんですけど、そうじゃないときは集まらないし、楽屋でも全員違う方向を見てたりしますしね(笑)。
- ただ僕らは「僕たちは友達じゃなくてビジネスパートナーだから、変に馴れ馴れしくする必要もないし、別にご飯だって行かなくたっていい。だけど、BiSHとして活動するときはBiSHのことを第一に考えないといけないよ」って話をよくしています。
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森分さん
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- 本当にメンバー全員がBiSHのためになることを考えているっていうのは僕も感じています。
- チーム全員がBiSHのことを最優先に考えているからこそ、良い距離感が保たれているんですね。
BiSHにとっての
ターニングポイントとは
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TIMES編集部員
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- 少し話は変わって、これまでBiSHが歩んできた歴史の中で様々なターニングポイントがあったと思いますが、今改めて振り返ってみて、おふたりはどこが大きなターニングポイントになったと感じていますか?
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渡辺さん
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- やっぱり「アメトーーク!」じゃない?
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森分さん
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- 一番はそうですね、確実に。あれは本当にすごかった。全部の数字の伸び率が2ステップぐらい上がりましたよね。
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渡辺さん
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- そうそう。CDの売れ行きもすごかったし、初めてのホールツアーも大盛況でした。それまで地方はちょっと苦戦してたんですけど、それが全部ソールドアウトしたんですよ。すごくいろいろなものが合致したっていうか、「アメトーーク!」っていうものがお笑いの番組でありながら、好きなものを好きなように面白く紹介してくれるスタイルだったのであんなにハマったのかも。そこら辺から事務所も含め、知名度が上がったというか。
- たしかに「アメトーーク!」の切り抜き動画はいまだにSNSでも見かけます。渡辺さんご自身も変化を感じましたか?
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渡辺さん
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- ある日、どうしても餃子が食いたくなって宇都宮に行ったんですよ。で、餃子屋の列に並んでたんですけど、小学生がずっと目の前を往復してて。僕を見つめながら、でもずっと話しかけずに往復してくるわけですよ。
- そうするとだんだん僕の前後に並んでいる人たちが「何かこの人有名人じゃない?」みたいな空気になっちゃって(笑)。これはもうやばいなと思って、思い切ってその小学生に声かけたら「BiSHのプロデューサーさんですよね」って言われて。それで「わかった写真撮ろう、内緒だぞ」っつって一緒に写真撮ったんですけど。テレビで取り上げられてからすぐの出来事だったので、そのときに「話題になってるんだな」っていうのはちょっと感じましたね。
- めちゃくちゃかわいいですね(笑)。活動自体にインパクトがあるだけにその裏側も壮絶なようなイメージがありますが、「この時はヤバかった」というような時期はありますか?
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森分さん
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- マネージャーがいない時期はありましたよね(笑)。
- それはヤバイですね(笑)。
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渡辺さん
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- そうそう。今でこそ何人かのマネジメントがいるんですけど、当時はまだ担当の現場マネージャーが一人しかいない時期で、しかもそのときは山中湖でライブだったんですよ。チケットとかも全部その人が持ってるのに、突然連絡つかなくなっちゃって(笑)。
- 幸いなことに物販だけは事前に送られてきてたんですが、集合からチケットもないし、場所が場所だから電車の本数も少ないし、ずっと立ちっぱなしで会場に行って物販とかも僕が全部やって。
- そんなイレギュラーな状況でもなんとか力を合わせて乗り切って、でもやっぱり帰りは疲れてるじゃないですか。帰りの電車の中で、セントチヒロ・チッチがつり革つかまりながらブチギレてるっていう(笑)。
- ヤバイ(笑)。
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渡辺さん
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- 本当にメンバーにも申し訳なかったし、逆にもう全員でレーベルとか事務所とか関係なくみんなで乗り切った記憶があります。「ここマネージャーつけられないんだけど行けるやついる?」みたいな(笑)。
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森分さん
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- ヤバかったですね。でもそういう経験を積んできているからこそ、良い意味でファミリー感というか今の絆が生まれたとも思います……結果論ではありますけど(笑)。
学生・渡辺淳之介の夢、
J-POP×アイドルの融合
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TIMES編集部員
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- BiSHは“楽器を持たないパンクバンド”として活動されてきましたが、渡辺さんがTHE YELLOW MONKEYに影響を受けたこともきっかけだったと伺っています。ロック畑からどういう変遷を経てアイドルのプロデュースに至ったのでしょうか。
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渡辺さん
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- 大学生までは毎年フジロックでテントを張ってたくらいロックが好きなので、卒業したらどこかのレコード会社に入って、フジロックに出るようなバンドを自分で発掘して、AAAのパスを持って裏でビール飲んだりしたかったんです。だからアイドルとかは本当に通ってきてなくて(笑)。
- なるほど!まったくですか?
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渡辺さん
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- はい。ロック好きな人たちの中にも、ハロープロジェクトとかアイドルの曲をガツガツ聴く人たちもいますけど、当時僕は「何がいいんだ」みたいな感じで思ってて(笑)。聴くのは国内と海外のロックだけでしたね。
- ガチガチにロックがお好きだったのに、なぜアイドルのプロデューサーに?
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渡辺さん
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- どこのレコード会社を受けても受からず、インディーズの事務所に入ったんですけど、小さな事務所なのでとにかく予算がないんですよ。13年前とかの話になりますが、すでにロックバンドのCDの売り上げは伸び悩んでいて。
- 予算がとれるのはなんだろうと考えたとき、当時はちょうど地下アイドルブームの黎明期でした。1年ぐらいでいろんな地下アイドルがメジャーデビューしていった時期だったので、アイドルなら売れると思ったんです。事務所の稟議に掛け合って、「チェキを撮ったらCD3枚とか買ってくれるし、握手会とかやったらCD積めるんですよ!」とか言ったら、「やれやれ!」みたいな感じで(笑)。それがアイドルのプロデュースを始めたきっかけでした。
- あともうひとつの理由としては、僕が学生時代から知っていた松隈さんと仕事がしたかったことですね。彼の作る曲をアイドルに歌わせれば、彼の音楽を広められると思って。本当はTHE YELLOW MONKEYみたいなバンドを発掘してCDを出すのが夢だったんですけどね(笑)。
- なるほど。松隈さんの曲をアイドルに歌わせたら良いと思った理由はなんでしょうか? ロックにアイドルという要素を組み合わせることで、ある種の違和感みたいなのが生まれるというような予感があったとか?
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渡辺さん
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- いや、まったく予感はなかったですね(笑)。ただ僕が大学生のとき、松隈さんと一緒にスタジオで働いてたことがあって、そのときに聴かせてもらったプレイリストが超J-POP一色で。松隈さん自身はめちゃくちゃロックの人なので、「あ、この人すげえな」と思って。僕のイメージでは彼の音楽は、J-POPとロックの融合っていうか、それがうまくハマったのがよかったですね。
- 結果的に、アイドルのプロデュースに好きなロックの要素を持ち込める形になったんですね。
伝えたいのは「こんなやつがいてもいいんだ」
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TIMES編集部員
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- グループの売り出し方についてもBiSHにはアイドルではなくパンクバンドという肩書きがついていますが、これは計算された戦略だったのでしょうか?
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渡辺さん
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- 頑なにアイドルと呼ばないということもないですし、アイドルという肩書きで呼ばなかったのはたまたまなんですよ。全然戦略とかじゃないんです。いまだにIDOLって書いてあるTシャツとか売ってますし(笑)。ただ、ファンのみなさんからは「アイドルを超えた」だったり、嬉しい評価をしていただけることにもつながっているので、結果良かったんですけどね。
- そうだったんですね(笑)。個人的になのですが、BiSHのプロモーションからはどこか海外っぽさを感じるというか。週刊BiSH春とかちょっとスキャンダラスだったり、枠からはみ出るような雰囲気があると思うんですが、それはどういった方針で実践されているんでしょう?
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渡辺さん
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- そうですね、元々海外のロックバンドが好きなのでスキャンダル自体をニュースにしてしまうような海外バンドなんかが僕のプロモーションの発想の元になっているような気がします。
- 学生時代からすごく好きで絶対マネできないですけど、セックス・ピストルズがテムズ川の船上パーティーで女王様万歳って歌って警察に捕まってニュースになって、それをプロモーションにするとか。バンクシーがパリス・ヒルトンのデビューCDを勝手に入れ替えて売ったりしてるとか。最近は他のアーティストなんですけど、そこから着想を得て勝手にCDを置いていく“万置き”っていう施策をやったんですが全然話題にならなかった(笑)。
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森分さん
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- 面白かったですけどね。
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渡辺さん
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- まず“万置き”っていう名前が良くない。けっこう大掛かりなプロモーションだったわりには話題にならなくて悲しかったな。
- 日本のアーティストがあまりやらなそうなことですよね。とにかくユニークで目を引くというか。
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渡辺さん
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- こういったプロモーションを仕掛けるのは自分が好きというのもありますが、いくつか理由があって。
- プロデュースを始めた当初は潤沢な広告費があったわけではないので、やっぱり人の目を引くようなものだったりとか、人が喋りたくなるようなものを仕掛けることを意識していたんです。できるだけ低予算でプロモーションしたいところから始まって、今もそれに近い発想で続いているというか。
- たしかに予算とかは関係なく、いわゆる話題にしたくなるような企画が多いように感じます。
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渡辺さん
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- あとはBiSH春とか自分も体張ることが多いんですけど、僕のことを「こんなやつがいてもいいんだ」と思ってほしいという理由があって。僕、中学校から不登校になって音楽しか好きじゃなくて、なんで生きてんだろうみたいな感じでずっとくすぶってたんですよ。だから今でも、特段“出たがり”ってわけじゃないんですけど、裏側が見えることによって「こんなことで良いなら俺もできるかもしれない」とか、ある意味当時中学2年生の自分とか、僕みたいな人に少しでも刺さる何かがあればとは思ってます。
- ピストルズとかもそうで、楽器できない、ベース弾いていない、でもそんなやつでもバンドやって良いんだとか、なんかそういう感じに思ってもらえたら良いなと思って発信はし続けてますね。
- ご自身のルーツというか体験が発想の元になってるんですね。逆にいつかこういう企画をやってみたい、などはあるんでしょうか?
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渡辺さん
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- いつか“ガチ死んだドッキリ”はやりたいなと思ってたんですけどさすがにできないかな……(笑)。親とか、おじいちゃんおばあちゃんぐらいまで家族全員騙して、みんなが本気で泣いてるところを別室でモニターしながら、最後出てくるっていうアイデアをずっと練っているんですけどやっぱりもう無理そうですかね。まわりに心配とか迷惑がかかりすぎますよね。
- 実現したらインパクトがすごそうですね(笑)。森分さんは、エイベックス目線でこういったプロモーションにどう向き合われているのでしょうか。
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森分さん
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- そうですね、リリースから担当するときは僕らも企画を提案させてもらいます。渡辺さんが面白いと思うものをどれだけ提案できるかが僕らの仕事かなって思っていて、渡辺さんっていう面白いことを考える人が軸にいるので、そこにめがけて僕らが面白いアイデアを考えて、それをどんどんブラッシュアップしていくようなイメージです。
- 逆に今までで一番良かったと思うプロモーションはなんですか?
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森分さん
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- 「THE GUERRiLLA BiSH」(ゲリラ・ビッシュ)っていうアルバムを出したときの企画は良かったですね。あのときは多分初めてゲリラCDを販売して船上ライブもやって。あとは朝のスッキリに生出演したときに「夜、ヒルズアリーナでゲリラライブやります」というゲリラ告知をしたりとか。その後SCHOOL OF LOCK! にも出たりして。狙いと実際の企画がガチッとハマってすごく気持ち良かったです。
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渡辺さん
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- あれは結構バチっとハマった感じがしたよね。
インディーズ界の星となった、
普通の女の子たち
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TIMES編集部員
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- おふたりにとってBiSHというグループのヤバさだったり、魅力って何だと思われますか?
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森分さん
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- 礼儀正しいしちゃんと受け答えもしてくれるんですけど、何かそこには近づきすぎず、遠すぎずみたいな空間があるんですよ。だからこそ、その中でちょっと笑顔が見られると嬉しくなるというか。彼女たちがスタッフさんたちから愛される理由は、やっぱりその距離感なんじゃないかなと思います。
- いつもニコニコしてて人懐っこい子も良いんですけど、「この子が笑ってくれたらちょっと嬉しいな」みたいな、そんな感じの距離感。素だからこそ、そういう良い感じの距離感が生まれているのかなと感じています。
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渡辺さん
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- 僕はさっきと被っちゃいますけど、良い人を選べたっていうことなのかなと。ある程度地位を手に入れても驕ったりしないし、あとは本当に個性が集まって奇跡的なバランスができているというか。
- BiSHの雰囲気はやっぱり唯一無二ですよね。
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渡辺さん
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- あとヤバイ部分でいうと、本当にインディーズ界の星というか。何かの訓練を受けてきたわけでもなければ、K-POPの方たちみたいに5年間毎日練習してみたいな厳しい環境で下積みをしてきたわけではない。ある意味本当にほとんどが素人から始まって、それでも東京ドームを埋められるぐらいになるってヤバいですよね。本当にインディーズ界の星、素人の星だと思います。最近喋ってても、本当にこの子たち東京ドームを埋めたんだなって思うぐらい(笑)。
- たしかにBiSHというと破天荒だったり個性が強いイメージがありますが、逆に普通から始まった女の子たちが真面目に活動を続けてきて、それで東京ドームを埋めてることが一番ヤバイのかもしれませんね。
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渡辺さん
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- 最初はちんちくりんだったのに、今ではスタッフさんにもファンの方からも「BiSHって雰囲気があるね」と言ってもらえるようになったんです。実直に積み上げてきたものが、ヤバさにつながっているんだと思いますね。
チームBiSHのこれからと新たな挑戦
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TIMES編集部員
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- ありがとうございます。6月29日にBiSHは解散となりますが、今は第2のBiSHを発掘する「BiTE A SHOCK / BiSH THE NEXT」の企画も進行しているかと思います。そこも含めて、今後の展望を聞かせてもらえますでしょうか。
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渡辺さん
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- 自分はずっとオーディションの番組をやりたかったので、今回日テレさんとやらせてもらえてすごくありがたかったです。加えて総合プロデューサーもやらせてもらったので、構成から何からものすごく細かく意見を出すことができました。だから「すげえ楽しいな」みたいなのが一番。
- あとはテレビなんで対マスというか、多くの方々に向けて発信するトレンド意識も取り入れるようにしています。最近またちょっと復活の兆しは見えてきてる感じはありますけど、それでもやっぱりロックバンドが売れなくなってる状況とか、みんながあんまり聴かなくなっちゃってることを考慮すると、ロックよりももうちょっと耳馴染みのいいヒップホップ的な要素を入れる方が良いのかもしれないなと模索している最中です。
- 「オーディションでできたグループをこうしていきたい」など、今後のビジョンはあるのでしょうか。
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渡辺さん
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- 次のグループに関しては、今まで僕たちは女性グループをプロデュースすることが多かったんで、そこじゃない部分をうまく広げていけたら良いなと思っています。男女混合グループって成功することが少ないと思うんですけど、そこに挑戦したいっていう想いはありますね。
- 今回、それこそダイバーシティみたいなところで日本語を話せれば全人類OKという条件でオーディションをやらせてもらいました。新型コロナウイルスがなければ、本当は海外の方たちにも来てほしいなと思ったんですけど、やっぱりなかなか難しかったですね。
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森分さん
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- ちなみに今回も性格が良い子たちばかり残っています。そもそも選考基準が、人間性の部分をすごく重視されているので。そこはやっぱりWACK、渡辺さんのプロデュースならではと思います。
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渡辺さん
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- あとは自分の今後についてよく聞かれるんですけど……「渡辺さん次何やるんですか」みたいなの。今はそれがちょっと苦痛だなと思ったりもします。残りの人生があと40年もあるかと思うと、なんかけっこう絶望っていうか(笑)。
- BiSHというグループがすごく大きくなったからこそ、ハードルもプレッシャーも上がっています。それをどうやって乗り越えていくかが、今の僕にとっての一番の課題なのかもしれませんね。
- 解散直前にも関わらず敢行した本インタビュー。編集部員も先日解散LIVEに参戦してきましたが、まさに熱狂と青春、そしてBiSHと清掃員の愛にあふれた本当に素晴らしいLIVEでした。
- ロックへの憧れから始まり、BiSHというまさにヤバいグループのプロデュース、そして今は新たな挑戦に向けて突き進む渡辺淳之介さん。渡辺さんのプロデュースを支え、多くの人にBiSH、そしてWACKの魅力を伝える下支えとなってきた森分大翔さん。おふたりにお話を伺ってみて感じたのは、やはり8年間の歴史の裏側にはたくさんの出来事と想いがあり、そして何よりおふたりがBiSHのことを一番に考えてお仕事をされてきたということ。
- 終始和やかなムードで思い出話に花を咲かせながらBiSHについて語るおふたりの姿にふれて、これから先の挑戦にもさらに注目していきたいと感じました。解散を経て普遍となった「オーケストラ」とBiSHの名曲の数々。これらを聴きながらチームBiSHの今後を楽しみにしたいと思います。
- 次回もお楽しみに!
渡辺 淳之介
株式会社WACKの代表取締役、音楽プロデューサー。BiSHをはじめ多くのアイドルグループ、 第2のBiSHを作る「BiTE A SHOCK / BiSH THE NEXT」のプロデュース等を手掛けている。
森分 大翔
2015年エイベックス・エンタテインメント株式会社へ入社。
WACKチームプランナー、プロモーション部門のマネージャーとして、多くのアーティストのプラニング全般を担当。
WACKチームプランナー、プロモーション部門のマネージャーとして、多くのアーティストのプラニング全般を担当。