一気に春めく風が吹いた3月24日。東京・コニカミノルタプラネタリウム天空 in 東京スカイツリータウン(R)で、堂珍嘉邦が出演する『LIVE in the DARK』が開催された。2017年から開催されてきたこのライブは、プラネタリウムと演奏が一体化した空間ごと楽しむイベントだ。
■プラネタリウムという特別な空間で歌を届ける堂珍嘉邦
堂珍嘉邦はリハーサルから、いきいき振る舞っていた。回を重ねているとはいえ、細かな調整をもとに行う。
プラネタリウムに意味なく影やハレーションが映り込まないよう、ステージには3人のサポートミュージシャンと堂珍とでぎりぎりのスペース。堂珍の立ち位置も、10センチ単位で決められている。
「アタックの強い曲からやりましょう」
堂珍の歌が始まる。数曲が終わると、ミュージシャンたちに堂珍が声をかけた。
「大丈夫? 暗くない?」「暗いです」「だよね(笑)」「いや、大丈夫です」
ステージ上の譜面を照らす灯りは赤を使う。それが天空の映像に影響しないらしい。曲に合わせて映像が変化する。音響チームと映像チームの連携もばっちりだ。
さて、いよいよ本番。
バッキングボーカルとパーカッションの真城めぐみ、キーボードの上田壮一、同じくキーボードとマニュプレーターの清野雄翔が登場、そしてボーカルの堂珍嘉邦が登場すると、客席からは拍手が起こる。天空は夕景。波が静かに沖へと流れていく。
キーボードの弾くイントロがその波に呼応するように聴こえてくる1曲目は「Life goes on~side D~」。 CHEMISTRY楽曲を堂珍本人がカバーする。
“悲しい時に「悲しい」と告げるのは 弱いってことかな”と、恋人に問う前の心のうちを見せるような詞が、夕景にしみる。波の前にはあえて堂珍の背中がシルエットに映し出されている。
1曲目が終わると、短く堂珍から挨拶。本公演がインフルエンザで休演になった振替公演だということが照れくさそうに語られた後、こんな言葉を続けた。
「天空と映像と歌。気配。すべてを五感で楽しんでもらえたらうれしいです。この特別な空間を一緒に過ごしてください。シートはリクライニングできますから、僕のことは皆さんからは見えないので、気配を存分に楽しんでください。では…おやすみなさい」
2曲目「朝のテーブルに足りないもの」はSPANOVAのカバー。映像は夕焼けからゆっくりと夜へと変わり、星があらわれはじめる。やがてそれは無数になり、手の届かない深い空を埋め尽くしていく。3曲目の「STEP TO FAR」はまさにそこに吸い込まれていくような感覚だ。
堂珍の歌声は伸びやかで、艶やかで、少し夜を感じる湿度がある。日本語の発音と抑揚が鮮明で、心にすっと入り込んでくる。
4曲目にはスピッツの「流れ星」をカバー。天空からは流星がこちらに落ちてくる。歌声が上から落ちてくるような感覚になる。カバー曲を歌っていても、もうこれはこの空間で、堂珍にしか歌えない珠玉の一曲となっていく。
その流星を受け止めた後に披露されたのは、言わずと知れた久保田利伸の名曲「Missing」だ。切ないバラードを大切に歌い切った堂珍は、再びMCの時間をもった。
「この『LIVE in the DARK』は2019年からやらせてもらっているので、5年目かな。『流れ星』『Missing』10代のときの、甘酸っぱい感じもあり、時間の流れも感じています。次の曲は大好きな佐藤竹善さん(SING LIKE TALKING)の曲。大人の愛を歌っています。映像と歌とのコラボレーションも凄まじくなります」
映像は生まれたての星が解き放たれるようで、一つひとつ星が燃えるように輝く。「HEAVENLY」は雲の上。いつか飛行機から見たような雲の海が広がる。雲が切れ、オーロラが現れ、「BETWEEN SLEEP AND AWAKE」で星が瞬き始める。
回を重ねているが、星空も毎回同じなわけではない。天の川の位置も少しずつ変わっていく。「このままこの空間にいつまでもいられたら…」という観客の儚い陶酔も伝わってくる。
「曇り夜空」では月が顔を出し、だんだんと発光する。まるで自分も星のひとつなのだと打ち明けるように──。
ライブも終盤。山下達郎の名曲「FUTARI」をこれほどに歌いこなす人はいない。堂珍の「FUTARI」は彼の物語になっている。最後の曲の前、堂珍はこんな言葉を残している。
「僕は今年47歳になるんですが。この場所にいる皆さんとも、世代は違えど、それぞれにいろんな時代があって。あと何年ぐらい、過ごせるのかなと逆算して、より貴重に思えるようになりました。最近、出会った先輩とトークをしていて『40代中盤は人生で2回目の悩みどころなんじゃないか』という話になりました。まあ、時間に抱かれて、日々精進しつつ、楽しく活動していきたいです」
ああ、そうかと思った。最近の彼の声にあるかすかな憂いのようなもの。それはとても歌にスパイスを与えている。あまり悩みすぎないでほしいけれど。
「舞台やミュージカルにトライしていて、カッコ良い先輩に出会うことがあります。ひとつのものに向かって歩いていく感じ、どこにモチベーションを保つのか。そんななかで、出会った曲を最後に歌わせてください」
彼が選んだのは、サミー・デイヴィス Jr.の「Mr. Bojangles」。監獄で出会った老いさらばえたタップダンサーの悲哀を綴った一曲だ。同曲内で出てくる“靴”という歌詞に合わせ、自らの足元を指差した堂珍。その動きはミュージカルのワンシーンのように目に焼きつき、いつしか朝焼けの空の下だった。
天空の星たちとともに、深くお辞儀をし、手を振って去っていった堂珍嘉邦。今度はどこで彼と会えるだろう。
TEXT BY 森綾
PHOTO BY 冨田味我
■『LIVE in the DARK』公演情報
【振替公演】堂珍嘉邦 LIVE in the DARK tour 2024 -AMANOGAWA-
2025年3月24日 東京・コニカミノルタプラネタリウム天空 in 東京スカイツリータウン(R)
◎セットリスト
01.Life goes on~side D~ (CHEMISTRY Cover)
02.朝のテーブルに足りないもの (SPANOVA Cover)
03.STEP TO FAR (Spiral Life Cover)
04.流れ星 (スピッツ Cover)
05.Missing (久保田利伸 Cover)
06.Flame (SING LIKE TALKING Cover)
07.HEAVENLY (ohana Cover)
08.BETWEEN SLEEP AND AWAKE
09.曇り夜空 (Akeboshi Cover)
10.FUTARI (山下達郎 Cover)
11.Mr. Bojangle (サミー・デイヴィス Jr. Cover)
◎出演
堂珍嘉邦(Vocal)
◎ミュージシャン
真城めぐみ(Backing Vocal, Percussion)from HICKSVILLE
上田壮一(Keyboard)
清野雄翔(Keyboards / Manipulator)
◎サウンドエンジニア
田鹿充
■舞台情報
TRUMPシリーズ最新作出演決定!
ミュージカル『キルバーン』
9月・10月 東京・大阪
出演:松岡充/小林亮太 内田未来 フランク莉奈 山崎樹範 倉持聖菜 池田晴香 宮川浩/堂珍嘉邦
主催・企画・製作:ワタナベエンターテインメント
ミュージカル『キルバーン』OFFICIAL SITE
http://kill-burn.westage.jp/
TRUMPシリーズ OFFICIAL SITE
https://trump10th.jp/
ワタナベ演劇 OFFICIAL X
@watanabe_engeki
堂珍嘉邦 OFFICIAL SITE
https://dohchin.com/
■ツアー情報
『CHEMISTRY TOUR 2025「MORE FREEDOM」』
6/22(日)大阪・なんばHatch
6/29(日)神奈川・横浜ベイホール
7/04(金)宮城・仙台Rensa
7/11(金)福岡・DRUM LOGOS
7/12(土)熊本・B.9 V1
7/25(金)東京・Spotify O-EAST
7/26(土)愛知・DIAMOND HALL
CHEMISTRY OFFICIAL SITE
https://chemistry-official.net/