■“楠木ともりがセレクトした各アーティストのおすすめ楽曲プレイリスト”も紹介
楠木ともりによる対バンイベント『TOMORI FES.』(3月8日 KT Zepp Yokohama)が開催された。
このイベントは2024年にスタートしたソニー・ミュージックアーティスツの創立50周年記念ライブシリーズ『SMA 50th Anniversary』の一環として行われるもので、楠木ともりにとって初の対バンライブとなる。 出演アーティストは、楠木の1stアルバム『PRESENCE / ABSENCE』に楽曲提供したCö shu Nie、TOOBOE、ハルカトミユキ、meiyoの4組。イベント開催発表時に楠木は「こんなトンデモフェスが開催できるとは夢にも思わず…どんな空間になるのか正直まったく想像がついていません」とコメントしていたが、際立った個性と才能を持ったアーティスト同士が共鳴する、濃密なライブイベントが実現した。
イベントは、楠木ともりのアナウンス→アーティストのライブという順番で進行。開催に先がけて公開していた“楠木ともりがセレクトした各アーティストのおすすめ楽曲プレイリスト”も紹介された。
■TOOBOEの諦念と憤りと解放感が混ざり合うようなボーカルが観客を一瞬にして惹きつける
トップバッターは、TOOBOE(楠木の推し曲は「心臓」「fish」「紛い者(feat.楠木ともり)」)。楠木とのつながりのきっかけは、彼女がマキマ役で出演したTVアニメ『チェンソーマン』第4話エンディング・テーマ「錠剤」を手がけたこと。その後、TOOBOEが楠木に「青天の霹靂」を提供。さらにTOOBOEの「紛い者 feat.楠木ともり」に楠木がフィーチャーされるなど、音楽的交流が続いてきた。
獰猛なロック・ファンク・チューン「往生際の意味を知れ!」でライブはスタート。濃密なバンドグルーヴと歪んだギターサウンド、諦念と憤りと解放感が混ざり合うようなボーカルによって、フロアを埋め尽くした観客を一瞬にして惹きつける。「痛いの痛いの飛んでいけ」では“残酷なんだ人生なんて”“天国みたいなisland 鬼さん手の鳴る方へ”といったフレーズを突き刺し、刹那的な一体感に結び付けた。エンディングにおけるロングトーン・ボーカルもカッコいい!
ライブのピークを演出したのはやはり「錠剤」。ドラムンベース的な性急感とグランジロックの刺々しさがぶつかり合い、気持ちよさと気持ち悪さが同時に伝わってくるこの曲の感触は、まさに『チェンソーマン』の世界観。初期衝動的なパワーを持った楽曲に凄腕ミュージシャンたちが新たな息吹を与え、TOOBOEは観客を煽りながら爆発的な盛り上がりを生み出してみせた。最後に「マキマさーん!」と叫ぶパフォーマンスも含め、この日のイベントの最初のハイライトだったと言っていいだろう。
さらに「紛い者 feat.楠木ともり」では楠木がステージに登場。華美な衣装に身を包んだ楠木と(まったく目を合わせようとしない)TOOBOEの生コラボレーションが実現した。オーディエンスの声援が一段と高くなったのは言うまでもない。
■中毒性のある楽曲と即効性の強いステージ、人懐こさが印象的だったmeiyo
続いてはmeiyo。2019年7月に行われた『バンめし♪』のライブでmeiyoがドラムを叩いたことが両者の交流のはじまり。その後も楠木が自身のラジオでmeiyoの楽曲をオンエアし、それが楽曲提供(「StrangeX」)へと繋がった。(楠木の推し曲は「なにやってもうまくいかない」「KonichiwaTempraSushiNatto」「うろちょろ」)
タイトなビートとダンサブルなメロディ、そして“ピタッとピタッと / くっついていたんだずっと”という愛らしいフレーズがひとつになった「STICKER!!!」を放つと、観客が楽しそうに身体を揺らし始める。アーティスト・meiyoの起点となった「KonichiwaTempraSushiNatto」では機械的なリズムと和テイストの旋律、キャッチー&コミカルな歌詞を響かせ、さらにはハッピーな空間が出現。そして「PAKU」では“パクっとしたいわ”にリンクとした振付で盛り上がる。よく“中毒性がある”と評されるmeiyoの楽曲だが、彼のステージを体感すれば“即効性”の強さを実感できるはず。そう、“はじめまして”の観客を惹きつける力もまた、meiyoの大きな武器。「TOOBOEさんが“お客さん、温まってる”と言ってましたけど、温まりきってる様子ですね」と話しかける人懐こさも印象的だった。
「なにやってもうまくいかない」も強く心に残った。2021年にバイラルヒットを記録し、meiyoの存在を世に知らしめたこの曲は、今や20年代ヒットチューンの定番。もちろん何度も耳にしてきたが、ライブではしなやかな身体性が伴い、生々しいグルーヴを感じ取ることができた。ビートを正確に掴み、メロディと言葉をブレなく放ちまくるもボーカルも素晴らしい。
ラストは「僕はポップミュージックに救われてきました」というMCからはじまった「ビートDEトーヒ」。さらにこの日演奏しなかった「うろちょろ」(楠木の推し曲)をワンフレーズだけアカペラで歌い、大きな喝采を浴びていた。このサービス精神もまた、meiyoのチャームポイントだ。
■一瞬でハルカトミユキの世界へと誘われる、美しく、浮遊感のあるメロディ
「好きなアーティストは?」という質問に対し、「ハルカトミユキ」と答えてきた楠木ともり。2019年に楠木のラジオ番組にハルカトミユキが出演し、やり取りがはじまったという両者。楽曲提供(「それを僕は強さと呼びたい」)、そして『TOMORI FES.』への出演もまさに必然だったと言えるだろう。(楠木のプレイリストは「17才」「ニュートンの林檎」「夜明けの月」)
1曲目は「ドライアイス」。楠木がハルカトミユキを知ったきっかけの楽曲だ。シンプルで美しい鍵盤の響き、ノイジーな透明感をまとったギターサウンド、浮遊感のあるメロディによって、一瞬でハルカトミユキの世界へと誘われる。
90年代オルタナティブの音像を想起させる「ニュートンの林檎」も鮮烈だった。“重力”と“権力”を対比させ、“理不尽なだけの日々も / 勝てないお前が悪いから”というシリアスなフレーズを響かせるこの曲は、前述した通り、楠木自身もフェイバリットに挙げている。自主企画イベントでこの曲が演奏されたことは、彼女にとっても大きな意味があったはずだ。
「次の曲は私の妹のために書いた曲です。今日は妹みたいにかわいいともりちゃんと、皆さんのために演奏します」(ハルカ)というMCからはじまったのは、「夜明けの月」。孤独を抱えた“君”への深く、強い親愛を綴った歌詞がオーディエンスに手渡されるシーンもまた、『TOMORI FES.』の大きなハイライトだったと思う。
別れと出会いが交差する光景を鮮やかなバンドサウンドとともに映し出した「17才」、オーディエンスの大合唱が生まれた「世界」でハルカトミユキのステージは終了。6月に行われる1stアルバム『シアノタイプ』の再現ライブも楽しみだ(←楠木さん「私も行きたいなあ」とコメントしていました)
■官能的で、唯一無二の音楽世界へと引きずり込むCö shu Nie
最後のゲストアーティストとして登場したのは、Cö shu Nie。楠木がCö shu Nieと出会ったきっかけは、後輩がLINEのBGMを「asphyxia」にしていたこと。サウンド、歌詞、ボーカルを含めてすべてに惹かれ、いつかこんな音楽をやってみたいと強く思ったことが、提供曲「BONE ASH」に帰結したというわけだ。(楠木の推し曲は「asphyxia」「defection」「undress me」)。
スタイリッシュかつノイジーなSEとともに登場した中村未来(Vo / Gu / Key)、松本駿介(Ba)とサポートメンバー2人(Dr、Key&Gu)はアッパーチューン「絶対絶命」からライブをスタートさせた。中村のギターの音が出なくなるトラブルが発生するも、すぐにギターを置いて、サポート・キーボードに「弾いて!」と指示。ベース、ドラム、鍵盤のサウンドに切り替え、ハンドマイクで起伏に富んだメロディを艶やかに響かせる。想定外の出来事を受け止め、その瞬間にしか生まれ得ないステージングへと繋げるセンスと度胸に圧倒されてしまった。
続く「undress me」では緻密に構築されたアレンジメントとともに、色気が滲む旋律と“目を閉じてあかく染まれ / ねえキスして”というラインを描き出し、会場全体を官能的な世界へと引きずり込む。そして「自分で自分自身を救った曲です」(中村)という「asphyxia」(TVアニメ『東京喰種トーキョーグール:re』OPテーマ)のタイミングでギターが復旧し、美しく歪んだサウンドで楽曲の世界観を彩っていく。さらに中村が鍵盤を弾き、不穏にして美麗なムードを生み出した「give it back」、“わたしはわたしのバディ”というフレーズで自己愛をアップデートさせる「消えちゃう前に」を披露。アレンジ、パフォーマンス、歌詞のメッセージ性を含め、唯一無二としか言いようがない音楽世界を体現してみせた。
■トリッキーかつキャッチーなメロディを歌い上げるボーカルがとにかく素晴らしい、楠木ともり
『TOMORI FES.』のファイナルを飾ったのは、もちろん楠木ともり。パンツスーツ姿で登場すると、この日いちばん大きい歓声と拍手が会場を包み込み、フロアのテンションはさらに上がっていく。
オープニングナンバーは「Forced Shutdown」。“もうきっと取り返せないのだろう / 伝えたかったことは伝わらないまま”と囁くような歌声が届き、一瞬にして引き込まれてしまう。変拍子を取り入れたリズムアレンジをしっかりと掴み取り、トリッキーかつキャッチーなメロディを歌い上げるボーカルがとにかく素晴らしい。
さらにジャズ、ロック、ワルツなどのテイストが絡み合う「DOLL」を披露し、最初のMC。
「改めまして、“TOMORI FES.”へようこそ。今日はSMAの50周年、KT Zepp Yokohamaさん5周年のお祝い、そして、私のごほうびみたいなフェスになってます!」と語り掛けると、会場からは温かい拍手が巻き起こった。
■提供楽曲を4曲続けて披露。今回の出演アーティストに対する想いを言葉に
さらに「ここからは本日のゲストアーティストのみなさんにご提供していただいた曲を聴いていただこうと思います」という言葉から、4曲続けて披露。
「それを僕は強さと呼びたい」(楽曲提供 / ハルカトミユキ)は言葉の強さが際立つ楽曲。“思い出は滲んで 未来は真っ黒だ”という切実な状況を見つめながら、“何一つ生まれない日も生きていること / それを僕は強さと呼びたい”という決意に結び付ける。ひとつひとつのフレーズに思いを刻み、観客ひとりひとりに届けようとする姿に強く心を揺さぶられた。
「StrangeX」(楽曲提供/meiyo)は、シンプルに抑制されたリズム、ストリングスを取り入れたシックなアレンジ、どこか淡々としたボーカルが響き合うポップナンバー。特に吐息交じりのサビの表現が秀逸で、楽曲の世界観を的確に描き出していた。
“行くぞ、ともりフェス!”というシャウトから始まったのは、「青天の霹靂」(楽曲提供 / TOOBOE)。ボカロ系×ロックな性急なサウンドが鳴り響き、観客は“オイ!オイ!”というコールで応える。劣等感や憤りをストレートに反映した歌詞を思い切り歌い上げる姿も文句なくカッコいい。そして「BONE ASH」(楽曲提供 / Cö shu Nie)。“体を包む 灰を吹け”という強烈なフレーズからはじまり、緻密な構築美~奔放なダイナミズムを行き来するバンドサウンドへと移行。スリリングなメロディラインを描き出す楠木のボーカルも最高だった。
「このフェスがいかにあり得なくて、豪華なことなのかっていうのをみなさんに改めてお伝えしたい。すごくないですか?」「アルバム『PRESENCE / ABSENCE』を作るときに“絶対、この方に曲を書いてほしい”という4組にお願いして。“いいですよ”と言ってくださった心優しき皆さまなんです。今日、改めてライブを見させていただいて、最高だなって思いました。この4曲を歌わせてもらって、すごく力をもらえるんですよね。いつもと違う自分になれるんです」
今回の出演アーティストに対する想いを言葉にしたあとは、「ハミダシモノ」「ロマンロン」「熾火」のメドレー。曲が切り替わるたびに「おお!」という歓声が上り、観客のテンションも最高潮へ。熱気と興奮が溢れるなか、本編はエンディングを迎えた。
アンコールは“なんとなくやる気がない”ブルーな状態をテーマにした「MAYBLUES」から。「ここからクラップで一緒に盛り上がってください!」というMCに導かれたのはシックなポップチューン「もうひとくち」。ハンドクラップが鳴り響き、ナチュラルな一体感が生まれた。
■“アーティスト・楠木ともり”にとっても大きなターニングポイントといえるフェス
「さっきも言いましたけど、すごくレアなフェスで。皆さんに音楽を楽しんでもらえて、とってもうれしいです!」。初のフェスをやり遂げた喜びを告げ、ラストの「風前の灯火」へ。“燃え上がれ灯火 もう少しだけ”という熱いフレーズを響かせ、4時間半に渡って行われた『TOMORI FES.』は大団円となった。彼女自身が敬愛するアーティストの音楽を共有し、自らの楽曲をしっかりと提示したこのフェスは、“アーティスト・楠木ともり”にとっても大きなターニングポイントになるはずだ。第2回の開催、熱望します!
TEXT BY 森朋之
PHOTO BY AZUSA TAKADA
SMA 50th Anniversary presents「TOMORI FES.」supported by KT Zepp Yokohama 5th Anniversary
2025年3月8日 KT Zepp Yokohama
<セットリスト>
TOOBOE
1.往生際の意味を知れ!
2.天晴れ乾杯
3.痛いの痛いの飛んでいけ
4.錠剤
5.ダーウィン
6.心臓
7.紛い者 feat.楠木ともり
8.素晴らしき世界
meiyo
1.STICKER!!!
2.クエスチョン
3.KonichiwaTempraSushiNatto
4.クラクラ
5.PAKU
6.っすか?
7.なにやってもうまくいかない
8.ビートDEトーヒ
ハルカトミユキ
1.ドライアイス
2.マネキン
3.ニュートンの林檎
4.絶望ごっこ
5.夜明けの月
6.17才
7.世界
Cö shu Nie
1.絶対絶命
2.undress me
3.水槽のフール
4.asphyxia
5.bullet
6.永遠のトルテ
7.give it back
8.消えちゃう前に
楠木ともり
1.Forced Shutdown
2.DOLL
3.それを僕は強さと呼びたい
4.StrangeX
5.青天の霹靂
6.BONE ASH
7.メドレー
(ハミダシモノ/ロマンロン/熾火)
EN1.MAYBLUES
EN2.もうひとくち
EN3.風前の灯火
Sony Music Artists 50th Anniversary 特設サイト
https://www.sma.co.jp/s/sma/page/50th?ima=0000#top
ライブ情報
楠木ともり「Zepp TOUR 2025」
7月11日(金) 【愛知公演】Zepp Nagoya
7月21日(月祝) 【大阪公演】Zepp Namba(OSAKA)
7月30日(水) 【東京公演】Zepp Haneda(TOKYO)
オフィシャル先行受付中
https://eplus.jp/kusunokitomori/
楠木ともり OFFICAL SITE
https://www.kusunokitomori.com/