■「何かに悩んだり悲しい気持ちになったときに読んで、もう1日頑張れる力を皆さんにお届けできればいいなと思ってます」(松下洸平)
松下洸平の初のエッセイ集『フキサチーフ』(KADOKAWA)の出版記念トークイベントが、12月16日にHMV&BOOKS SHIBUYAにて開催された。
本書は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2021年4月号~2024年1月号に掲載された連載に加え、2篇の書き下ろしを収録。タイトルの「フキサチーフ」とは、画材のひとつで、完成した作品が色褪せたり擦れて剥げてしまわぬように、画家が最後に絵に吹きつける定着液のこと。日々の景色や出会いを「書く」ことで描写し、「。」をつけて整理する。“松下洸平自身の日常の「フキサチーフ」”が、この一冊なのだ。
ドラマやCM、音楽番組など忙しい毎日を送るなか、丁寧に綴ってきた文章。夢を叶えていく一方で、「孤独にはなりたくない」と決意し、対話し、そして相手を尊重する…。まるで松下の声がページから聞こえてきそうなほど、素直で優しい言葉に溢れている。装画、表紙、挿絵のイラストも、すべて松下本人が担当。美術の学校に通学していた経歴を持つ松下が、その才能をフルに発揮している。
■レポート
トークイベントは、会場の機材トラブルにより少し予定より遅れてスタート。登壇した松下は、「この後予定がある方もいらっしゃると思うんですけど、大丈夫ですか?」と早速気遣う。
「自分の約3年半のすべてがここに詰まっているといっても過言ではないので、とても愛おしい気持ちになりました」本書に収められた36本のエッセイを振り返り、松下はこう語る。
「2021年から書いていて、『ああ忙しい、忙しい』ばっかり言っているんです。でもこれからもっと忙しくなるのを僕は知っているから懐かしい気持ちになったし、その後に待っているたくさんの出会いと別れをまだ知らない自分がここにいて、不思議な気持ちになりました」
書き下ろしの1本「居場所」は、本書の冒頭近くにある。デビューまでの自分を見失った数年間、俳優を目指したきっかけ、オーディションに落ち続けた日々など、今までの自身の歩みを飾ることなくストレートな言葉で表している。
「楽しかったことだけではなくて、自分なりに苦しかったことや悲しかったこと、悔しかったことも赤裸々に書くべきだろうなと」
それは、今だからこそ書けることだと松下は感じている。
「こんなこともあったなあと思える自分に、やっとなってきました。あのとき頑張った自分がいるからこそ、今こうやってみなさんともお話しできていると思うので、本当に感謝です。一つひとつの出来事、悔しかったことに対しても、『ありがとう』と思います」
■読者の心の中にもお守りになれるように
36本のうち、松下が一番気に入っている章は?
「『鬆』です」
明朝、早起きしなければいけないのに、深夜iPhoneで延々と珍しい漢字を探し続けてしまう話だ。
「『麤』という漢字について、『こんなにたくさんの鹿に会ったのは、修学旅行で行った奈良公園ぶりだった』って書いていて、我ながら『うまいこと言うね!』と(笑)」
本書の心温まる文章に、SNS等でも「心が洗われる」といった感想が多い。
「僕もそんなにいつも前向きなわけではないので、どの章もポジティブなことばかりではないです。悩んだり悲しいことがあったりするのは当たり前ですが、それだけで終わらせないようには努力していました。最後に小さな光をちょっと置いて。それは、読み手の皆さんのためというよりは、自分のためだったのかもしれません。悲しいことを悲しいままで終わらせてしまうと、そこから抜け出せなくなってしまう気がして…。悲しくても、明日頑張ろう。そういう思いをそっと残して終われるように、工夫していました」
締め括りは、「皆さん自身の心の中にもお守りのようにして、何かに悩んだり悲しい気持ちになったときに読んで、もう1日頑張れる力を皆さんにお届けできればいいなと思ってます」と、読者へのメッセージ。トーク中も当選した会場のファンだけでなく、生配信を観る視聴者にも心を配っていた松下。終始、和やかで温かさに包まれたイベントとなった。
PHOTO BY 山口宏之
書籍情報
2024.12.13 ON SALE
『フキサチーフ』
『フキサチーフ』情報ページ
https://www.kadokawa.co.jp/product/322405001085/
松下洸平 OFFICIAL SITE
https://www.kouheiweb.com/