■「クレイジーな僕の芸術を愛してくれてありがとう」(HYDE)
HYDEが、6月にスタートしたライヴハウスツアー『HYDE [INSIDE] LIVE 2024』を経て、10月12日・13日に追加アリーナ公演『HYDE [INSIDE] LIVE 2024 -EXTRA-』を神戸ワールド記念ホールにて開催。そして、10月16日にリリースされたニューアルバム『HYDE [INSIDE]』の興奮冷めやらぬ中、10月26日・27日に幕張メッセにて、ツアーの集大成となる2days公演を敢行。最終日の27日は、衝撃的な演出と共に、MY FIRST STORYのHiroもサプライズゲスト参加するなど、2日間で約2万人を熱狂させるスペシャルな夜となった。
青い光の元、ステージ前に降ろされた幕に映し出された時計が「16:60」(※17時)を指すと、場内から観客の手拍子とカウントダウンの声が響く。そして、不穏な鐘の音のSEに重厚なコーラスとビートが重なり、やがてそこにダンスビートが鳴り響くと、頭上のミラボールが場内をパーティーな空間へ変えていく。それはまるで、ヘヴィロックやゴシックな精神を核に、海外の音楽シーンを意識したロック×EDMのアプローチを経たHYDEというアーティストの軌跡のように映る。
◼︎アルバムは「Googleマップ」みたいなもん。「現実」を楽しもうぜ
時計の文字が「16:66」を指し、幕が開くと、「HYDE」と描かれたバックドロップ電飾が輝くステージに設置された演説台にHYDEが登壇。サーカステントのような電飾が装飾されたステージの上、軍帽を被り、サングラスをかけたHYDEが歌い始めたのは、狂宴の始まりにふさわしい「LET IT OUT」だ。マスクをつけたバンドメンバーが重厚な音を響かせると、満杯の場内も一体となってコーラスや挙手で応える。
「『HYDE [INSIDE] 』は頭に叩き込んで来たかい? アルバムはGoogleマップみたいなもんで、地図上ではどこにでも行けるけど、実際に行くのとでは違う。ようこそ『HYDE [INSIDE] 』へ。現実を楽しもうぜ!」
非現実空間を見てわかった気になっていても、現実世界での経験を超えることはできない。ライヴを見据えて作り上げた『HYDE [INSIDE] 』が、長いツアーの日々を経て、すでに別次元の作品へと進化を遂げていることに対する揺るぎない自信があればこそのMCに、観客も大歓声で応える。そして、「カモン!」の声を合図にアリーナエリアに大きなサークルモッシュが生まれていく。
前作『ANTI』からのナンバー「AFTER LIGHT」を挟みつつ、『HYDE [INSIDE] 』からのナンバーを立て続けに披露していくHYDE。ニューアルバムからのナンバーとは言え、すでにライヴで鍛え上げられてきたナンバーが大半だが、真っ赤な照明の中で披露されたファルセットとデスボイスを交互に響かせるボーカリスト=HYDEの底力に改めて驚愕するナンバー「I GOT 666」では、もはや場内がヘドバンの坩堝になるほどの一体感に!
◼︎フェスで魅了された「HYDEビギナー」も参戦
ダンサブルなビートが鳴る「ON MY OWN」では軍帽を取り、フラッグを掲げて歌うHYDE。美しさと激しさが交錯する「THE ABYSS」では、絶望と後悔の底で許しを乞うように歌うHYDEの潤んだ瞳がスクリーンいっぱいに映し出される。そして、静かに拍手が響く中、8台の炎のトーチが点り、テレビアニメ『「鬼滅の刃」柱稽古編』のED主題歌、 “HYDE × MY FIRST STORY” 「永久 -トコシエ-」が歌い上げられる。<頭(こうべ)を垂れて道を譲れ>、「THE ABYSS」のリリックが対になって響くことで善悪の彼岸が曖昧になっていく…このアンビバレンツな表現こそ、HYDEというアーティストの真骨頂と言えるだろう。
濃密なライヴハウスツアーの合間、今年もHYDEは多くの大型フェスに出演している。ジャンルレスなものから、強者ラウドロック勢が集う『男鹿フェス』には2年連続の出演となるなど、数多のロックフェスでの手応えも確実に彼の音楽に大きな影響を与えているに違いない。そして、今回の『『HYDE [INSIDE] LIVE 2024 -EXTRA-』では、フェスで初めてHYDEのライヴを観て興味を持ってくれた人を今回のライヴに招待する「集えHYDEビギナー」というSNS企画が開催されており、この狂乱の空間の中にはそのHYDEビギナーたちも含まれているということになる。
この日、「昨日(幕張初日)はやり過ぎたかな、明日声出るかなって、ちょっと心配になるよね。けど全然、出るぜぇ~」と言った後、完璧な高音ファルセットを披露して見せた一幕もあったが、すさまじいほどのデスボイスを響かせたかと思えば、その反動など物ともせず優美なメロディをしっとりと歌い上げる。その姿は、確かにそこにあるのに絶対に手が届かないカリスマの姿。ビギナーたちの目にボーカリスト=HYDEの底力は一体どんな風に映ったのだろうか?
◼︎詩人の血
「飛べ!飛び跳ねろ!」。人生は喜劇、現実は悲劇と歌う「6or9」で観客を煽るHYDE。巨大な4体のスカイダンサー(吹き上げ人形)がステージで踊るアメリカンなロックショー空間で、観客たちもタオルを回し、飛び跳ねて応える。バンドメンバーもフロアを練り歩き客を煽って盛り上げる。
続く「MAD QUALIA」ではHYDEもフロアに降臨。柵の上に立つと、ドラマーもシンバルスタンドを抱えたままフロアを走り回っている。「SOCIAL VIRUS」ではHYDEが両手を掻き分けるようなポーズで観客に向かって合図。すると、モーゼの海割りのようにフロアに大きなウォール・オブ・デスが誕生。HYDEの「3、2、1」のカウントで壁は巨大なサークルモッシュと化す。
最強のライヴチューン「MIDNIGHT CELEBRATION II」が始まると、HYDEが頭から血塗れになった姿が見える。ヴィクトリアンなシャツブラウスにも血を滴らせながら激しく歌うその姿を前に、フロアではクラウドサーファーたちが次々と飛び交う。そして血塗れ姿のまま、切なく響くピアノに乗せ、「LAST SONG」を歌うHYDE。髪にも頬にも大量の血が滴る中、真っ赤な光に染まったステージの上から血しぶきのような赤い紙吹雪が降り注ぐ。食い入るようにステージを見つめる観客の前で、心の悲鳴のような歌を歌いながら崩れ落ちるHYDE。MVでの世界観さえ超越した“舞台”のような演出に誰もが息を呑む。
幕が降りた後は、バンドメンバーがステージを飛び出し各自がソロ演奏を披露。それぞれが強者ミュージシャンであることを痛感する中、ドラムがセットごと会場脇から登場。そのままフロアの中央で「HYDEコール」を扇動。すると遂にHYDEも登場。メンバー全員でヘドバンしながら「PANDORA」と「INTERPLAY」を披露。ミラーボールが光を放つ中、幸せなパーティーに観客の誰もが笑顔を浮かべているのが見える。演奏後は客席に向かって水鉄砲を放ちながらステージに戻るHYDE。
◼︎MY FIRST STORYのHiroが登場
「さっきの血、安心してください。ケチャップなんで(笑)。僕、美味しそうでしょ?」そう言って笑いを取った後、HYDEが続ける。「残りの人生、やりたいことをやりまくりたいですね。そういうワガママ、もう言ってもいいのかなと。忖度とか関係なくやりたいなと。ついて来れる人はついて来てください」。そして、「世の中辛いことばかりじゃない? 幸せオーラに包まれたい…」とHYDEが言うと、何かを察して歓声を上げる観客の前に登場したのはもちろん、MY FIRST STORYのHiro!
「ちょっと煽ってくれる? マイファスみたいに」というHYDEのリクエストに従い、Hiroが応える。「僕がここに出て来たということは! 久々にふたりで歌わせていただきます!」と、HYDEとのデュエットで「夢幻」(テレビアニメ『「鬼滅の刃」柱稽古編』OP主題歌)を披露。15センチほどの距離で顔を向かい合わせて歌うふたり。アリーナ公演中はHYDEのソロ曲として披露されていたが、日本公演最終日限定でふたりのデュオが実現。
「あー、幸せになった♡」。歌い終えたHYDEがそう言ってステージを去るHiroに投げキスを贈る…と、Hiroも投げキスを返す。
◼︎「クレイジーな僕の芸術を愛してくれてありがとう」
「BELIEVING IN MYSELF」と、HYDE版として大きく進化した「GLAMOROUS SKY」を続けて披露すると、フロアにはサークルモッシュやリフトが次々と誕生するカオス空間へ。それは、HYDEが人生を賭けて作り上げてきたラウドなロックショーの理想郷と言えるのではないだろうか。
そんな幸せなカオス空間に最後に投下されたのは、「SEX BLOOD ROCK N’ ROLL」。再び客席フロアに降りると、客の肩を借りながら客席の中で歌うHYDE。「一緒にはっちゃけたこと、忘れんなよ。次帰ってくるまで、忘れんなよ。次会うまで、首洗って待ってろよ!」、そう言って、轟音の残響が轟く中、投げキスだけでは飽き足らず、HYDEはなんと、カメラ(スクリーン)に直接キス!
「クレイジーな僕の芸術を愛してくれてありがとう」。「BELIEVING IN MYSELF」の演奏前、熱狂する観客に向かってそう語りかけていたHYDE。自分が理想とする芸術を追求するという”ワガママ”。それは、彼の進む道を信じ、それを共に楽しんできたファンとの絆があればこそ叶うものだ。
11月からは台北を皮切りに、香港、上海、韓国、NYとLAなど、8都市9公演のワールドツアー『HYDE [INSIDE] LIVE 2024 WORLD TOUR』が予定されている。世界を巡った後、HYDEが見据える「次」のフェーズにはどんな驚きが待ち構えているのだろうか。
TEXT BY 早川加奈子
PHOTO BY 岡田貴之 石川浩章
<セットリスト>
LET IT OUT
AFTER LIGHIT
I GOT 666
DEFEAT
BLEEDING
TAKING THEM DOWN
ON MY OWN
THE ABYSS
永久 -トコシエ-
6or9
MAD QUALIA
SOCIAL VIRUS
MIDNIGHT CELEBRATION II
LAST SONG
PANDORA
INTERPLAY
夢幻 (with Hiro from MY FIRST STORY)
BELIEVING IN MYSELF
GLAMOROUS SKY
SEX BLOOD ROCK N’ ROLL
リリース情報
2024.10.16 ON SALE
ALBUM『HYDE [INSIDE]』
HYDE OFFICIAL SITE
https://www.hyde.com/