■「すべての歌がここで歌われることに繋がっていたように思える」(福山雅治)
10月13日。長崎市、快晴。気温、25℃。夏の名残を感じさせる暑さのなか、詰めかけたオーディエンスが、PEACE STADIUM Connected by SoftBankの客席を埋め尽くしている。翌日10月14日から開業する長崎スタジアムシティ、そのこけら落としとなる福山雅治フリーライブ『Great Freedom』の開演を、今か今かと待ちわびていた。長崎スタジアムシティ公式アプリから募集された約2万5,000席分のチケットには、実に全国から53万人を超える応募が殺到したという。
しかし、この日、まず大きく沸いたのは本会場のPEACE STADIUMではなく、長崎スタジアムシティ内に隣接するHAPPINESS ARENAで開催されたライブビューイングの会場だった。『地底人ラジオ』でお馴染みの荘口彰久アナと福山が、プロバスケットボールクラブ・長崎ヴェルカのユニフォームを着てサプライズで登壇したのだ。まさかの福山の登場に、約5,000人の観客は沸きに沸き返った。
そもそも今回のライブにおける福山のスタンスは単なるライブのキャストではない。地元・長崎の企業であるジャパネットグループが地域創生事業として取り組む「長崎スタジアムシティ」プロジェクトに共鳴した福山は、2022年6月、同プロジェクトのクリエイティブプロデューサーに就任。
ライブ開演前に会場で上映されていたCM映像をはじめとするPR・クリエイティブの監修を務め、コンセプトワークやディレクション、演出などに携わって、この日を迎えている。大一番直前のサプライズ登壇というアクションからも、とにかく自ら率先して、プロジェクトを、オーディエンスを、大いに盛り上げ、楽しませたいという福山の気概が感じられた。
16時58分、荘口アナの影アナウンスを合図に、約2万5,000人が手拍子を始める。その熱気に応えるかのようにステージではサポートミュージシャンが演奏をスタート。バンドのスペクタクルなオーバーチュア(前奏)に誘われて、白のコスチュームを着た福山がステージに登場。そのまま花道をゆっくりと歩きセンターステージへ。ギターを掲げると「HELLO」(1995年)がスタート。「ようこそ長崎へ!」、と爆発音とともに挨拶代わりの1曲目から最高潮のような盛り上がりだ。
「会いたかったですよ、長崎!! そして帰ってきました長崎!! そしてそして、ようこそスタジアムシティへ!!」「生まれ変わったこの街、新しい人生が始まった感じです」「フリーライブにすることで、話題にしていただきたかった」と語り、ジャパネット関係者、会場、パブリックビューイングのオーディエンスへの感謝を伝える。「お一人おひとりの人生と僕の人生がひとつになることを」と語り、18歳の頃ギター1本で長崎から上京した自らのヒストリーと照らし合わせるかのように、まさにギター1本の弾き語りから「少年」(2010年)を歌い始める。
このPEACE STADIUM、セールスポイントのひとつが、ピッチから最前列の客席までの距離が最短約5メートルという臨場感だ。センターステージの福山の姿がとても近くに感じられる。“名も無きこの歌/君へのこの歌”。約2万5,0000人の大合唱と手拍子が場内にこだまする。
そこから間髪入れずに「All My Loving」(1993年)へ。アメリカンポップス調の弾むリズムのなか、ドライブインやルート66など、アメリカンなネオンサインのCGが映し出され、デビュー後、ルート66の横断旅行から様々な経験を持ち帰った福山の原点の一端を想起させる。キャノン砲による銀テープ発射を挟んで、巨大なメインステージ左右を軽快に闊歩。
続く「聖域」(2017年)では、12本もの盛大な火柱のなか、ロカビリー調のリズムにサックス、バイオリンがジャジーに絡むアレンジに乗って、スタンドマイクとハンドマイクを使い分け、妖艶さと貫禄を兼ね備えたパフォーマンスを見せつける。
続いては、ストラトキャスターを抱えて「虹」(2003年)へ。再びアコギを抱え、長崎の海の映像を背に歌いはじめた「18 ~eighteen~」(2009年)、再びセンターステージに移動しての「Good Luck」(1993年)と、まだ何者でもなかった長崎時代の心象風景を歌い上げていく。
思えば福山の長崎における大規模ライブは、2015年の稲佐山公園野外ステージにおける『福山 夏の大創業祭 稲佐山』以来。2020年9月にもデビュー30周年記念のライブを予定していたが、コロナ禍の影響で翌年(2021年)に延期。最終的にはやむなく中止となったため、ライブとしては9年ぶりの凱旋だ。やはり長崎でのライブは、彼にとってひとしおの感慨があるのだと感じられる。
オーディエンスのライトバングルの灯が映える夕暮れの頃合いを迎えると、LEDスクリーンにライブ映像の月が映し出された。
「みんなと同じ月を見ながらライブをするのは、僕にとっても初めての経験」
「音楽にお芝居、自分が気づかない自分の可能性を見出してくれたリクエストには、120パーセントで応えてきた」
稲佐山ライブ、テレビドラマ、映画といった活動が経済効果を生み、ひいては地域の活性化に繋がったというこれまでの足跡を振り返りつつ、「人生のテーマソング」というテーマで、タイアップ曲として広く世に知れ渡った「ヒトツボシ」(2022年映画『沈黙のパレード』主題歌)、「家族になろうよ」(2011年『ゼクシィ』CMソング)、「道標2022」(初出2009年『NEWS ZERO』エンディングテーマ)を朗々と歌い上げる。その力強い歌声に、無数のライトバングルの光が呼応し、揺れている。
気づけば会場はすっかり夜の闇に。スクリーンには、今回のライブ「Great Freedom」(=大いなる自由)というタイトルに込めた思いを伝えるイメージ映像が映し出される。西欧の文化の風を受けて繁栄した長崎の歴史。経済成長や戦争を経て変化し続けてきた自由のかたち。そこに音楽に目覚めた少年時代の福山がオーバーラップして、あらたな歌へと繋がっていく。この日のために書き下ろされた新曲だ(※タイトル未定)。
疾走感溢れるアレンジに乗せて、夢を追い、敗北や挫折を繰り返しながら、それでも創造を、自分らしさを求める自由な魂の旅路を描いたリリックが“新しい長崎”にこだまする。アウトロのラップ調のヴァースも新鮮な一曲だった。
「後半戦、もっともっとひとつになりましょう!! C’mon NAGASAKI!!」
ベルベットのセットアップを纏った福山がコードをかき鳴らして「KISSして」(2008年)へ。スタンド中段にも設置されている帯状のLEDスクリーンがメインステージのLEDスクリーンと連動して、カラフルなグラフィックスを全方位で展開。従来のアリーナ/スタジアムクラスの会場とはひと味異なる一体感のなか、福山のギターソロが長崎の夜空を貫く。
ロックな勢いはますます加速する。『ガリレオ』のオープニングテーマで知られるインストゥルメンタル曲「vs.2022 ~知覚と快楽の螺旋~」(初出2013年)では、バンド全パートによるスリリングな掛け合いが繰り広げられる。
さらに“闇落ち”した姿で肥大化するポップアイコンというペルソナを演じ切る「Popstar」(2020年)、バンドのヘヴィなミドルテンポのグルーヴと絡みつくようなボーカルの醍醐味が秀逸な「Cherry」(2014年)と続く。特効の炎と真紅のレーザーに包まれながら、福山のポップ&ロックの魅力が文字どおり“燃え上がった”。
一転、眩い光に包まれてはじまったのは、「万有引力」(2024年)。最新ツアーでも披露されてきたこの一曲、やはりスタジアムの会場にも映えるスケール感だ。やがて、鐘の音のSEから「想望」(2023年)へ。飽くなき希望と理想の追求、そして鎮魂の祈り。最新曲2曲がクライマックスを担うステージングに、福山の今現在の音楽活動の充実ぶりが感じられる。
「こんなにいい月を用意してくれたのはあなたですよね!?」「もう一発、ひとつになりましょう!!」という呼びかけから、「明日の☆SHOW」(2008年)へ。バンドのおだやかなアンサンブルと温かなライティングが彩るなか、約2万5,000のリストバンドによって長崎スタジアムシティが“明日のお日様”のような黄色で染め上げられる。最後は福山がステージからノンマイクで「どうもありがとう!!」と感慨無量の想いを伝えて、本編が幕を閉じた。
盛大なアンコールの拍手と歓声のなか、「待っていてくれてありがとう」というメッセージから長崎スタジアムシティの開業までの軌跡をまとめた動画が上映される。このスタジアムをホームとするV・ファーレン長崎の面々、工事関係者、地元の方々の笑顔、そして、今後同会場で行われるはずのエンタテインメントを楽しむ人々のイメージ…。
数え切れない人々に支えられて誕生した“新しい長崎”の思いを届けるべく、チェック柄のシャツとデニムを着た福山とバンドが再びステージに登場。いっそう眩いライティングのなか、「光」(2023年)を高らかに歌い上げた。
さらにたおやかなベースのフレーズを挟んで、センターステージからアコギを弾きながら「桜坂2024」(初出2000年)へ。桜の花びらが全方位で舞い散るグラフィックのなか、福山の切々としたボーカルにオーディエンスの誰もが酔いしれているように感じられた。
メインステージに戻った福山は、金原千恵子、山木秀夫、今剛、小倉博和、山本拓夫、高水健司、バンドキャプテン・井上鑑らバンドメンバーを紹介。次いで、10月11日、日本原水爆被害者団体協議会がノーベル平和賞を受賞したことに触れ、「この受賞には大きな意味があると思います」とコメント。
「すべての歌がここで歌われることに繋がっていたように思える」と言葉を続けると、「すべての命が平等であるように、祈りを込めて作った曲」と、井上とふたりで「クスノキ」(2014年)を演奏。アコギを弾きながら、魂の在り処、その奪われること無き不倒の精神を朗々と歌い上げていく。強い想いが込められているかのようなフレーズ一音一音の輪郭が印象的だった。
「ここで終わり、のはずなんですが…もう一曲いいですか!?」「最後は明るく、ドカンと終わりましょうかー」「僕のライブのテーマソングとも言える一曲で、みんなとひとつになりたいと思います!!」と笑顔で呼びかけると、ギター1本の弾き語りスタイルで「幸福論」(2009年)へ。ハンドクラップで応えるPEACE STADIUM 2万5,000人のオーディエンスと福山はもはやライブハウスのような距離感だ。
途中、福山が改めて長崎スタジアムシティの関係者と警備、行政関係者に労いの言葉を挟み、客席に「成功と言ってもいいんですかね!?」と問いかける。無論、オーディエンス一同が拍手で応える。最後の最後は、“僕と君の幸福論!!”とシンガロング。すべてのパフォーマンスが幕を閉じた。
「エンタテイメントによる社会課題の解決に繋がればという思いで今日のライブを行いました」というMCから、福山は株式会社ジャパネットホールディングス代表取締役社長 兼 CEO 高田旭人氏(「高」は、はしごだかが正式表記)をセンターステージに呼び込んだ。
「2年前から『伝説の日を作ろう』とふたりで語り合ってきた。スタジアムに魂を入れてもらった。この想いを繋げていきたい」と万感の思いを語る高田氏。そして、「最後に、長崎の皆さんにふたりからプレゼントです」と告げると、700発の盛大な打ち上げ花火が長崎の空を彩った。「また会いましょう!!」。大輪の花火の轟音のなか、最後は客席に笑顔で投げキッス。すべてのパフォーマンスが幕を閉じた。
本会場約2万5,000人、ライブビューイング会場約5,000人、長崎県内全域自治体主催ライブビューイング約8,500人。そして公式アプリによる生配信の視聴者27万8,000人を合わせた計31万6,000人のオーディエンスが見守るなか、『Great Freedom』は、無事、成功を収めた。
これまでの福山、これからの福山。これまでの長崎、これからの長崎。エンタテインメントによる社会貢献の新しいかたち。デビューを飾った1990年代から2000年代、2010年代、2020年代からの選曲に新曲までをも交えたセットリストによってあらゆる想いを具現化したライブは、まさに“伝説の一夜”として語り継がれるにふさしいステージとなった。
TEXT BY 内田正樹
PHOTO BY 板橋淳一、木村琢也、上飯坂一、西槇太一
地元・長崎の地で、長く語り継がれるであろう伝説を作った福山雅治。ライブというエンタテインメントをライブフィルムとして完成させた『FUKUYAMA MASAHARU LIVE FILM 言霊の幸わう夏 @NIPPON BUDOKAN 2023』が、Blu-ray&DVDとして12月18日に発売となる。
今年1月に4週間限定で劇場公開された際には収録されていなかった5曲も加え、さらに“理想のライブの音”にどっぷりと没入して楽しむことができる公演全編25曲が収録されるライブ音源が2枚組CDとしても付属される。
2025年にデビュー35周年を迎える福山雅治。13歳でギターに出会い、18歳で上京、シンガーソングライターとして描く音楽絵巻の標石となる映像作品をぜひ手に取ってみよう。
リリース情報
2024.12.18 ON SALE
Blu-ray&DVD『FUKUYAMA MASAHARU LIVE FILM言霊の幸わう夏@NIPPON BUDOKAN 2023』
福山雅治 OFFICIAL SITE
https://fmsp.amob.jp