■コラボ楽曲「劇情」も話題を集めているふた組
崎山蒼志とクジラ夜の街の2マンツアー「劇情」の最終公演が9月26日(木)、東京・LIQUIDROOMで開催された。
このツアーは、両者の所属事務所・ソニー・ミュージックアーティスツの50周年イベントの一環として行われたもの。コラボ楽曲「劇情」も話題を集めている崎山蒼志、クジラ夜の街は、互いの独創的な音楽性を交差する刺激的なステージを繰り広げた。
■崎山蒼志は、Base Ball Bearの堀之内大介(Dr)、関根史織(Ba)、クジラ夜の街のギター山本薫(Gt)というスペシャルな編成
最初に登場したのは、崎山蒼志。今回のツアー「劇情」では、Base Ball Bearの堀之内大介(Dr)、関根史織(Ba)、そして、クジラ夜の街のギター山本薫(Gt)というスペシャルな編成が実現。崎山のエクスペリメントかつポップな音楽性が凄腕ミュージシャンの演奏と融合し、特別なパフォーマンスへとつながった。
まずは崎山がギターの弾き語りで“「子どもの頃さ、見ていた空はもう見えないかな」”と「舟を漕ぐ」の郷愁的なフレーズを描く。さらにドラム、ベース、ギターが加わり、音像全体が立体的になると同時に、歌のなかにある情景がリアルに浮かび上がってくる。楽曲が進むにつれてエモーショナルの度合いが高まり、エンディングでは崎山の爆音ギターソロが炸裂。続く「My Beautiful Life」では、打力の強いビートが鳴らされたと思いきや、途中でレゲエ的なリズムが挿入されるなど多彩で意外性に溢れたサウンドが出現。冒頭から4人のプレイヤビリティが有機的に絡み合う。
「クジラ夜の街との対バン“劇情”の3公演目で、最後の東京です。今回はスペシャルセットでやってて」とバンドメンバーをうれしそうに紹介する崎山。「今日は結構低気圧で、天候にカマされてますが。低気圧を切り裂いていくんで。よろしくおねがいします」と、いつも通りの摩訶不思議なMCの後は、ダンサブルかつエキゾチックなサウンドスケープが渦巻いた「覚えていたのに」。石崎ひゅーいとの共作曲「告白」では関根史織のコーラスと崎山の歌声が共鳴し、普段とは違う表情を映し出していた。
■フェスや対バンを積極的に重ねてきた崎山蒼志。自らのパフォーマンスを確実に進化させ続けている
「I Don’t Wanna Dance In This Squall」「Pale Pink」では打ち込みのトラックと生楽器の響きがぶつかり合い、エクストリームなサウンドが立ち上がる。ハンドマイクの崎山はステージで飛び跳ね、客席フロアへ降り、どこまでも自由に声を響かせていた。メタリックなサウンドを打ち鳴らした「プレデター」も強烈。この夏、フェスや対バンを積極的に重ねてきた崎山蒼志は、自らのパフォーマンスを確実に進化させ続けているようだ。
「クジラ夜の街と僕は同じSMAという事務所に所属しているんですけど、ツアーを通して、さらに仲良くなれて。リキッドルームでライブをやれるのもめちゃくちゃ光栄です」というMC、そして、「僕もずっとBase Ball Bearを聴いてるんですけど、そのなかでもすごく好きな曲です」という「不思議な夜」(Base Ball Bear)のカバーからライブは後半へ。崎山の知名度を大きく上げた「燈」(TVアニメ『呪術廻戦』第2期「懐玉・玉折」EDテーマ)、そして、初期の代表曲「Samidare」が連なる。どちらもライブの定番曲だが、堀之内、関根、山本のプレイヤビリティが重なることで、楽曲の新たな魅力を引き出していた。“この音のなかで歌えるのが楽しい”と言わんばかりの崎山の表情も印象的だった。
最後は崎山のギター弾き語りで「ソフト」を披露。オーディエンスに手拍子を要求し、そのなかで自由にストロークを変化させながらナチュラルな一体感を生み出してみせた。
■クジラ夜の街、バンドが奏でるサウンドは、まるで劇伴のよう
“ファンタジーを創るバンド”クジラ夜の街は、「ヨエツアルアイハ1番街の時計塔」からライブをスタートさせた。
“うたうたうのさ なにはなくも メロディがあれば なんとかなるさ”。宮崎一晴(Vo、Gt)がそんなフレーズ──バンドの根幹に関わるような──を歌い上げ、「作戦決行は今夜。雪が降りはじめたらにしよう」という台詞によって、シアトリカルな雰囲気を生み出してみせた。
インタールード的な短い曲とストーリー性のある楽曲をつなげ、世界観を作り上げるのがクジラ夜の街のスタイル。
「たくさんのお話を持ってきたから、聴いていってください。銀河鉄道によく似た、空飛ぶ列車のお話」(宮崎)というMCに導かれたのは、インスト曲「海馬を泳いで」と「Memory」。宇宙的な壮大さをたたえた音像とともに“もうさみしくないよ さみしくないよ”というサビが放たれると、観客が一斉に手を挙げ、身体を揺らし始める。山本薫の煌びやかなギター、佐伯隼也の表情豊かなプレイを含め、バンドが奏でるサウンドは、まるで劇伴のよう。演劇との違いは、観客のリアクションによって相互に高め合う感覚が伴っていることだ。
秦愛翔のドラムソロから始まったのは、「夜間飛行」と「夜間飛行少年」。高揚感溢れるビートと“ベッドから這い出て 夜間飛行に出かけよう”という歌が響き合い、会場全体のテンションは一気にアップ。さらに「分岐」と「EDEN」では、神話的なスケールを感じさせるアレンジのなかで“人はそれぞれ違っていい、1人でも大丈夫というメッセージ”を映し出した。
「みなさんは素敵な恋愛をしてますか? それと同時に、素敵な失恋を」(宮崎)というMCを挟んで演奏されたのは新曲「失恋喫茶」。さらにインスト「詠唱」と「ラフマジック」をつなぎ、“君という魔女が去った”というワーディングで恋の終わりの切なさを描き出してみせた。
“崎山さんとのツアーが終わって寂しいね”というホッコリしたトークの後は、前日に配信されたばかりの新曲「雨の魔女」。圧倒的な疾走感に貫かれたビート、ネガティブをポジティブに転化させるパワーを持った歌は、今後のライブでも大きな役割を果たしそうだ。
■宮崎は客席に降り、そのままフロアを一周。直接的なコンタクトによって、ステージと客席の距離を縮めてみせた
フロアに満ち溢れた高揚をさらに引き上げたのは、「Saisei」。R&B的なグルーヴとともに“何度もリピートできるからこそ、前に進める”という思いを込めた歌を鳴らしながら、宮崎は客席に降り、そのままフロアを一周。直接的なコンタクトによって、ステージと客席の距離を縮めてみせた。
「誰しもが疎外感を感じるわけです。音楽なら孤独を紛らわせる、ライブハウスに行けば苦しみを忘れられるんじゃないかと思ってここにくるわけですが、その疎外感は一生あなたに付きまとうでしょう。だけど、どうか忘れようとしないで、逃げようとしないで。あなたは独りぼっちでも美しくて、誰よりも強くて、やさしい。真っ暗な道を僕たちと歩いていきましょう」(宮崎)。
そんな言葉から始まったラストナンバーは「祝祭は遠く」。アイリッシュ的なメロディ、“俺たちの夜はこれからさ 何にも怖いものはない”というフレーズが会場を包み込み、クジラ夜の街のステージは幕を閉じた。
■圧倒的なオリジナリティと心地よいポップネスを兼ね備えた「劇情」
鳴り止まない拍手と歓声のなか、崎山蒼志と宮崎一晴が肩を組んで登場。「歌詞やばいね。“いい失恋を”ってキラーワード」(崎山)「『ソフト』のギター、ヤバいって」(宮崎)とふたりで褒め合い(笑)、そのまま崎山の「ソフト」をふたりでちょっとだけセッション。さらに「チェーン店のごはん屋さん、どこが好き?」みたいなワチャワチャしたトークを繰り広げたあと、“クジラ夜の街×崎山蒼志”による「劇情」を演奏。フォーキーな弾き語りから始まり、多彩にして独創的なバンドサウンドへの移行。圧倒的なオリジナリティと心地よいポップネスを兼ね備えた「劇情」のパフォーマンスは、今回の対バンツアーの充実ぶりをはっきりと証明していたと思う。
TEXT BY 森朋之
PHOTO BY 中山涼平
SMA 50th Anniversary presents
クジラ夜の街×崎山蒼志「劇情」
2024年9月26日 LIQUIDROOM
セットリスト
崎山蒼志
1. 舟を漕ぐ
2. My Beautiful Life
3. 覚えていたのに
4. 告白
5. I Don’t Wanna Dance In This Squall
6. Pale Pink
7. プレデター
8. 不思議な夜 *Base Ball Bear楽曲Cover
9. 燈
10. Samidare
11. ソフト
クジラ夜の街
1. ヨエツアルカイハ1番街の時計塔
2. 海馬を泳いで
3. Memory
4. 夜間飛行
5. 夜間飛行少年
6. 分岐
7. EDEN
8. 失恋喫茶
9. 詠唱
10. ラフマジック
11. 雨の魔女
12. Saisei
13. 祝祭は遠く
En1.クジラ夜の街×崎山蒼志「劇情」
Sony Music Artists 50th Anniversary 特設サイト
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