■バンドとしての新たな進化、このバンドの唯一無二を改めて実感
ヘビィロック、ポストパンク、ゴス、ニューウェイブ、ギターポップ、エレクトロといった多彩な要素を血肉化した音楽性、4人の個性と技術がせめぎ合うようにして生まれるアンサンブル、最先端のテクノロジーを駆使した演出とステージング。このバンドの唯一無二を改めて実感できる、圧巻のライヴだった。
L’Arc~en~Cielのアリーナツアー『ARENA TOUR 2024 UNDERGROUND』、国立代々木競技場 第一体育館公演(2024年3月7日)。これまでステージで披露される機会が少なかった楽曲を掘り起こし、“今”の表現へと昇華させた今回のツアーで彼らは、バンドとしての新たな進化と奥深い音楽性を示してみせた。
アリーナのど真ん中にステージが設置され、東西南北それぞれに花道が敷かれている。幕が架けられたステージ上部のスクリーンには雨をモチーフにした映像。開演時間が過ぎると少しずつ場内が暗くなり、雨音が強くなる。ライヴブのスタートは、廃墟と化した城を中心にしたダークファンタジー的な映像。メンバーの顔が映し出された後、突如として演奏がはじまり、4人のシルエットが浮かび上がった瞬間に客席から凄まじい歓声が沸き起こった。
■4人がステージで揃うのは、2022年5月、結成30周年を記念して開催した東京ドーム2Days公演以来
1曲目はアルバム『KISS』(2007年)に収められたヘビィなロックチューン「THE BLACK ROSE」。重厚にして鋭利なバンドサウンド、それを貫くようなボーカルが響き渡り、会場全体が一気に高揚していく。続く「EXISTENCE」で幕が落とされ、hyde(Vo)、tetsuya(Ba)、ken(Gu)、yukihiro(Dr)の姿が露わになる。4人がステージで揃うのは、2022年5月、結成30周年を記念して開催した東京ドーム2Days公演『30th L’Anniversary LIVE』以来。しかも彼らとファンにとってコロナ禍以降、初の“声出し解禁ライヴ”とあって、冒頭からテンションは上がりっぱなしだ。
今回のツアーは3部構成。最初のシークエンスは、2000年代の楽曲が中心だった。強靭なバンドサウンドが炸裂した「THE NEPENTHES」ではスモークや炎が立ち上がり、L’ライト(制御式ペンライト)の鮮やかな光が客席を照らし出す。美しいギターのカッティングに導かれた「砂時計」では、hydeが“大切な人を守る為に違う誰かを傷つけてる”というフレーズを丁寧に紡ぎ出し、ギターと歌から始まった「a silent letter」では壮大な広がりを持つメロディラインにtetsuyaの高音のコーラスが加わり、切なくもロマンティックな空間を生み出した。この曲の演奏中に円形ステージが270度回転(東向き→北向き)。続く「Ophelia」ではhydeがサックスを持ち、憂いを帯びた旋律を響かせる。ジャズのフィーリングをたたえたベースラインとドラム、スパニッシュの香りを漂わせるギタープレイを含め、このバンドの奥深い音楽性を堪能することができた。第1部のエンディングは、1stアルバム『DUNE』(1993年)の収録曲「Taste of love」。疾走するベースラインが先陣を切り、スリリングなバンドサウンドが出現。速弾きを交えたギターソロもそうだが、ロックバンドとしての強みをダイレクトにアピールしてみせた。
■第2部では、ライヴの雰囲気は一変。ライティングも明るくなり、メンバーの表情もはっきりと目視できる
ここでいったんメンバーがステージを下り、近未来的なイメージの映像、テクノポップ的なSEが流れる。第2部のスタートは『DUNE』収録曲の「Voice」。80’sニューウェイブのテイストを感じさせる楽曲が広がり、ライヴの雰囲気は一変。ライティングも明るくなり、メンバーの表情もはっきりと目視できる。hydeが観客に向かって手を振ると、会場中から嬌声にも似た歓声が沸き上がった。
このコーナーは1990年代の楽曲を中心に構成されていた。心地よいスウィング感と色彩豊かなポップネスをたたえた「Vivid Colors」ではL’ライトが虹色を作り出し、hydeが「叫べ!東京!」と煽る。“どれだけ離れたなら忘れられるだろう”から始まるラスサビでは観客の大合唱が巻き起こった。hydeのブルースハープから始まる「flower」は初期の代表曲のひとつ。1980年代のネオアコの雰囲気をまとったサウンドからも、このバンドの持つ多様性が実感できた。hydeがtetsuyaの肩に手をかけるシーンも素敵だ。
ここで再びステージが回転。hydeが「ありがとう。会いたかった?」「声出せるようになってよかったよね」「今日はあの頃の分まで取り返そうぜ」と語り掛け、オーディエンスはさらに大きい歓声と拍手で応えた。
ここからはL’Arc~en~Cielが持つ奥深い音楽性をさらに深く体感できるシーンが続いた。「It’s the end」ではゴス~ポストパンクを反映したバンドサウンドを放ち、気持ちいい緊張感が漲る。演奏の軸を担っているのは、鋭利にして正確なyukihiroのドラムだ。さらにkenのクリーンなアルペジオが印象的だった「Cureless」、アコギから始まり、メロディアスなベースラインとボーカルの旋律が心地よく絡み合う「Blame」へ。個人的にもっとも心に残ったのは、2005年のシングル曲「叙情詩」。クラシカルな雰囲気のイントロ、軽快な16ビート、指弾きによる洗練されたベースが一つになったアンサンブル、そして、愛する人に宛てた詩のようなリリックの耽美な美しさは、このバンドにしか表せないだろう。
■華やかなムービーで幕を開けた第3部。花道に移動し、観客のすぐそばで演奏
ここで再びメンバーはバックステージへ。会場では観客参加型の「THE L’ArQuiz」(第1問は「1999年に同時リリースされた『ark』『ray』の売上の合計は?」でした)で楽しんだ後、オープニングと同じく雨の音が聞こえてくる。スクリーンに映し出されたのは、雨が上がり、日差しに溢れた城の情景。美しい花が咲き、平和の象徴である白い鳩が飛ぶなか、城の上に虹が架かる──華やかなムービーで幕を開けた第3部は2011年のシングル曲「GOOD LUCK MY WAY」からスタート。重厚感としなやかさを含んだ音像のなかでhydeは“移り行く世界の片隅で君に会えて嬉しい”というフレーズを高らかに響かせる。tetsuya、kenも花道に移動し、観客のすぐそばで演奏。気持ちいい体感を生み出ししてみせた。
「Killing Me」ではステージが回転し、派手な火花、メンバーの表情をアップで映し出す映像を交えた演出へ。さらに極上のアッパーチューン「NEXUS 4」を叩き込み、ライヴの興奮は一気にピークへと向かった。
メリーゴーラウンド的な映像とともに披露された「Bye Bye」(グラムロック、フレンチポップ、モータウンなどの要素を絡めたアレンジが楽しい!)からついにライヴはクライマックスに突入。ここで披露されたのは、2021年リリースの「ミライ」。壮大なストリングス、エレクトロの要素を取り入れたバンドサウンド、ドラマティックなヴォーカルが共鳴し、神聖な空間へと結びつける。“oh,glory day,our hearts forevermore”というコーラスは、観客ひとりひとりの心に強く刻まれたはずだ。さらに「Link」で爆発的な盛り上がりを生み出した後、hydeはオーディエンスに向かってゆっくりと話しかけた。
■「33年経ってもまだまだ進化できる。たぶん、今がいちばんカッコいいんじゃない?」
「今回のツアーはあまりやってなかった曲が多くて。(ツアーの準備のために)CDを聴くのは恥ずかしいところもあったけど、“今ならもっとうまく歌える”“面白い表現ができる”と思って練習してました。33年経ってもまだまだ進化できる。たぶん、今がいちばんカッコいいんじゃないかな?」
そんな言葉の後に演奏されたラストの曲は「MY HEART DRAWS A DREAM」。大らかで美しいメロディとともに響き渡った“夢を描くよ”のシンガロングは、今回のツアーの充実ぶりを証明していた。
レアな楽曲を中心にしたセットリストによって、奥深く、多彩な音楽性を体現した今回のツアー。L’Arc~en~Cielのディープな音楽世界をもっともっと味わいたい。そんな思いをさらに強くしたのは筆者だけではないだろう。
TEXT BY 森朋之
PHOTO BY Hideaki Imamoto/Takayuki Okada/Yuki Kawamoto(*メイン写真)
Hiroaki Ishikawa/Tomohide Sodeyama/Viola Kam
L’Arc-en-Ciel ARENA TOUR 2024 UNDERGROUND
2024年3月7日(木)国立代々木競技場 第一第体育館
<セットリスト>
01. THE BLACK ROSE
02. EXISTENCE
03. THE NEPENTHES
04. 砂時計
05.a silent letter
06. Ophelia
07. Taste of love
08. Voice
09. Vivid Colors
10. flower
11. It’s the end
12. Cureless
13. Blame
14. 叙情詩
15. GOOD LUCK MY WAY
16. Killing Me
17. NEXUS 4
18. Bye Bye
19. ミライ
20. Link
21. MY HEART DRAWS A DREAM
ARENA TOUR 2024 UNDERGROUNDオフィシャル 特設サイト
https://le-ciel.com/UNDERGROUND-2024/
L’Arc-en-Ciel OFFICIAL SITE
www.LArc-en-Ciel.com