■「これからも、たくさん挑戦をしていきたいと思っているので。ついてきてください」(中村未来)
Co shu Nie(「o」はウムラウト付きが正式表記)のワンマンライブ『A coshutic Nie Vol.4 in Billboard Live TOKYO and OSAKA』の東京公演が、4月25日に東京・六本木のBillboard Live TOKYOで開催された。
ロック色の強い普段のライブとは異なる、Billboard Liveならではの独自のアレンジを通して、Co shu Nieの楽曲にあらたな角度からアプローチするライブシリーズ『A coshutic Nie』。
コロナ禍真っ只中の2020年12月に、Billboard Live TOKYOからの無観客配信ライブとして生まれた『A coshutic Nie』は、東京・大阪を舞台に初の有観客開催となっ『Vol.2』(2021年11月)、ライブでの声出しOKとなった『Vol.3』(2023年4月)と、社会の状況が変わる中で着実に回を重ね、表現の精度と自由度を高め続けてきた。
東京(4月25日)、大阪(4月27日)のBillboard Liveで1日2公演、計4公演にわたる『Vol.4』最初の舞台となった、東京公演の1stステージ。
妖艶なドレスに身を包んだ中村未来(Vo、Gu、Key、Manipulator)と、サポートメンバーのbeja(Piano、Gu、Syn、Sampler)が登場、ライブの幕開けを飾った楽曲は「Lamp」だった。
スタジオ盤ではスリリングなリズムセクションが印象的なこの曲だが、ピアノ&ボーカルというシンプルな編成によって体現されることで、ハイトーンの歌声はもちろんのこと、息遣いやビブラートといった刹那の要素までもがアンサンブルのビート感を力強く担っていくような、マジカルな感覚を生み出している。
ここで松本駿介(Ba)と、2023年の『A coshutic Nie Vol.3』でもサポートを務めた工藤誠也(Dr)が登場。4人全員揃ったところで、「『A coshutic Nie』、一年に一度のお楽しみです。今日は楽しんでいってね」という中村の挨拶とともに、「夢をみせて」へ。ハイブリッドな質感のR&Bバラードから、ジャジーなサウンドへと色合いを変え、満場のオーディエンスを魅了していく。
2023年からCo shu Nieロックセットのライブにも参加しているbeja、『A coshutic Nie Vol.3』でもドラムを担った工藤、というサポートの布陣を得たことで、中村&松本のプレイはさらなる開放感をもって鳴り渡り、変拍子や転調も多く含むCo shu Nieの音楽がますます自然で伸びやかな生命力を帯びていく。
「inertia」から「アマヤドリ」に流れ込んで会場一丸のクラップを呼び起こしたところで、「今年もこうやって、Billboardでライブができて、とてもとてもうれしいです!」と中村が観客に語りかける。
今回の『A coshutic Nie』では、最新楽曲のタイトルにちなんだオリジナルカクテル「Artificial Vampire」(アルコール/ノンアルコールの2種類)も販売されており、中村が最前列の観客とグラスを合わせてみせる場面にも、粋な遊び心が滲む。
16ビートとサンバが交錯するようなしなやかなリズムアレンジが印象的な「葡萄」。スタジオ盤のホーンセクションをピアノのパワフルな響きへと刷新してみせた「水槽のフール」。レゾナンスの効いた松本のベースサウンドがポップ異空間を描き出した「Artificial Vampire」。
そして、数多のアーティストにカバーされてきた、グローヴァー・ワシントン・ジュニア&ビル・ウィザースの名曲「Just The Two Of Us(クリスタルの恋人たち)」をさらに色鮮やかに輝かせる、中村の熱唱と美麗ファルセット…。
曲ごとに多彩な表情を見せながら、Co shu Nieのアンサンブルはエクスペリメンタルかつ自由に咲き乱れ、会場の没入感を刻一刻と深めていく。
なお、1stステージと2ndステージでは選曲が異なり、カバー曲のコーナーではエリカ・バドゥの「Rimshot」が披露された。
中盤のMCでは松本が「配信とかやってると『Billboardは初めてなので緊張します』みたいなコメントをくれる人もいるじゃないですか。でも、初めての体験を、Co shu Nieで冒険できるっていうのは、すごく素敵なことだなと思って。みんなと一緒に歩んでいる感じ」と『A coshutic Nie』ならではの感慨を語る。その言葉の端々からも、Billboardが今やCo shu Nieにとって大事な「ホーム」のひとつになっている実感が窺えた。
「私たちはこの曲でメジャーデビューしたんですが、最初からいろんなアレンジで聴いてもらっていると思うんですよ。そのときそのとき、今しかないような表現を、この曲でしてきたと思うんですが、今日もそういうつもりで演奏します」
そんな中村の曲紹介とともに披露された楽曲は「asphyxia」。地を這うように蠢きながら、観る者の悦楽を刺激する松本のベースサウンド。瞬間を感じ瞬間を歌う中村の、真摯でミステリアスな歌。音楽という、儚くも切実な表現だからこそ、全身全霊を傾けて向き合うCo shu Nieの真髄が、この日の「asphyxia」にも確かに宿っていた。
「fuji」に続けて、「こんなかんかん照りの日に…」と言いつつ中村がギターを構えて「雨」を演奏したところで、「私たちはロックバンドとして活動しているんですけど、好きな音楽はたくさんあるから。私たちの表現するいろんな音楽を、こうして吸収してもらえることが、すごく嬉しいです」とひと言ひと言噛みしめるように中村が語りかける。さらに、「これからも、たくさん挑戦をしていきたいと思っているので。ついてきてください」というメッセージに応えて、惜しみない拍手喝采が広がった。
中村がピアノに移動した「iB」ではbejaがギターを担い、さらに「大切な人に会いに行く曲です」という中村の言葉とともに披露された雄大な静寂の楽曲「海へ」では再び中村ボーカル、bejaピアノ編成に…と曲ごとにフォーメーションを変えつつ、4人は卓越した音世界を展開していく。かつては3ピース編成でライブに臨んでいたため、ステージでは中村がボーカル、ギター、ピアノを一手に引き受ける形となっていたが、こうしてボーカルに専念できる場面が多くなったことで、中村の歌声はよりいっそう豊潤な表現力と包容力を獲得している。
「終わるのがもったいない。2ヵ月に1回『こしゅあん(自主企画・Co shu Nie「Underground」の略)』やってるけど、全然足りないんだよね。もっとライブやりたいなと思うし。私たちとみんなは“共犯者”っていつも言ってるけど…生きづらい世の中、こうやって素敵な空間を一緒に作って、一緒に生きていきましょう」
ライブの終盤、中村は名残惜しい気持ちをそんなふうに語り、“10年後もその先も君のままで居て/ただ生きてて欲しいの”という「青春にして已む」の想いに満ちたフレーズが、客席一面のハンドウェーブとともに響き渡る。
ここで「みんなに伝えなければならないことが…」と思わせぶりな中村の前振りから、「9月にZepp、やります!」とあらたなライブの告知が飛び出すと、驚きと感激の声が熱い拍手とともに巻き起こった。
中村×bejaのWピアノの掛け合いも飛び出した「give it back」のあと、「みんなが今夜、あたたかい眠りにつけますように」という中村の言葉とともに披露された「迷路~序章~」「迷路~本編~」が、名演のラストをひときわドラマチックかつエモーショナルに彩っていた。
ライブ中に発表された東阪Zeppツアーは、9月7日に東京・Zepp DiverCity(TOKYO)、9月21日に大阪・Zepp Osaka Baysideにて開催される。ツアータイトルは『Co shu Nie Album Release Tour 2024 “Wage of Guilt”』。
2023年の『A coshutic Nie Vol.3』で「2024年秋に新作アルバム発売」をアナウンスして以降、「no future」「Burn The Fire」「Artificial Vampire」と次々に新曲をリリースしてきたCo shu Nieにとっても、進化と挑戦の「その先」を指し示す重要なツアーとなることだろう。この先に明かされるであろう新作アルバムとツアーの詳細が、今はただ楽しみで仕方がない。
TEXT BY 高橋智樹
PHOTO BY 鳥居洋介
<セットリスト>
01.Lamp
02.夢をみせて
03.inertia
04.アマヤドリ
05.葡萄
06.水槽のフール
07.Artificial Vampire
08.Just The Two Of Us(カバー曲)
09.asphyxia
10.fuji
11.雨
12.iB
13.海へ
14.青春にして已む
15.give it back
16.迷路~序章~
17.迷路~本編~
ライブ情報
Co shu Nie Album Release Tour 2024“Wage of Guilt”
09/07(土)東京・Zepp Diver City(TOKYO)
09/21(土)大阪・Zepp Osaka Bayside
Co shu Nie OFFICIAL SITE
https://coshunie.com