■「原因は自分にある。は、僕にとって際限のない自信と終わることのない夢を見せてくれる存在です」(長野凌大)
次元を超え、リアルとアンリアルを行き交う独自の世界観で人気のダンスボーカルユニット・原因は自分にある。(通称・げんじぶ)が、春のホールツアー『LIVE TOUR 2024“架空のアウトライン”』を開催。3月23日の仙台を皮切りに全国5都市を回り、4月26・27日の大阪公演でファイナルを迎えた。
始動5周年を迎える今年は「夢現の続き」というテーマを掲げ、様々なプロジェクトを計画している彼らだが、全公演ソールドアウトとなった今回のツアーでもあらたな挑戦を敢行。セットを極力排したステージとシームレスな構成、MCも最小限でアンコールもなしというかつてないスタイルで、曲ごとに異なる物語を描いている最新作『仮定法のあなたへ』の多彩な世界観を見事に具現化してみせた。
“盛る”のではなく“削ぎ落とす”演出により、質の高いパフォーマンスと豊かな表現力を証明してみせた7人。11月17日に自身2度目のぴあアリーナMMワンマンを行うことも発表して、満場の観測者(原因は自分にある。ファンの呼称)に無限の物語を味わわせた。
3月13日にリリースされた彼ら初のEP『仮定法のあなたへ』は、6つの“if”(仮定法)をテーマに取った6つの物語と、そのなかに生きる“あなた”に想いを馳せる6曲が収められたコンセプト作。各曲に各メンバーが名前を付けたイメージキャラクターまで存在し、2次元と3次元、物語と現実をつなぐ彼ららしい仕掛けに溢れた1枚だ。
それらのキャラクターたちが飛びだすオープニング映像が流れ、噴き出すスモークのなかから姿を現した7人は、EPのリード曲「マルチバース・アドベンチャー」でライブをスタート。春らしい華やかな出で立ちの7人に、7色のペンライトが揺れる客席は一気に大歓声をあげ、オーケストレーションにブラス、ピアノ、バンドサウンドが重なり合う壮大なナンバーは、冒険へと向かう勇者のRPGのように次々展開を変えていく。
「もしも、“あなた”が隣にいなくても…」という楽曲テーマに沿って提示されていくのは、欠落さえも愛しいという力強いメッセージ。遠くにいる“あなた”に心を寄せつつ“もしもあなたがいてくれたら”と長野凌大が歌うラストフレーズは、ともにげんじぶの世界を共有してほしいという、観測者に向けた彼らの切なる願いにほかならない。
ライブという“刹那”が観測者の心に“永遠”に残るように…そんな想いは「一緒に歌って、踊って、楽しんでいきましょう!」という長野の言葉からなだれ込んだ2曲目「原因は君にもある。」でも明らか。
ハイスピードな音に乗せた渾身のパフォーマンスでともに声と手を振り上げ、杢代和人は“明らかに観測者、君のせいだ”と歌い替えながら客席を指さし、観測者との強固な一体感を作り上げる。
さらにラブソング「シェイクスピアに学ぶ恋愛定理」では「最高の思い出を作りましょう!」というリーダー吉澤要人の言葉を手始めに、メンバーそれぞれが「盛り上がっていきましょう!」「会いたかったぜ!」と観測者にアピール。「みんなのところに行くよ!」と小泉光咲が宣言してからは、なんと客席通路に飛び出して観測者の間近に迫るのだから場内のテンションは爆上がりだ。武藤潤は「盛り上がってるかい!?」と観測者にマイクを向け、タイトルどおりデジタリックなヒップホップで飛び跳ねる「GOD釈迦にHip-Hop」へと、その熱狂を引き継いでいく。
そしてスポットを浴びた吉澤のもとに別れを告げる手紙が届き、それを読んだ彼が白い花を拾い上げて始まった「ダイヤモンドリリー」からは、映像も交えた“物語”で多彩な世界観を堪能させるターンに。「もしも、“あなた”がこの世にいなくても…」というテーマのもと、ボカロPのMIMIが提供したEP曲で、あの世とこの世に隔てられた恋人たちの切ない恋模様を描き出していく。
手紙の最後に綴られた“また、会う日まで。”という一文はダイヤモンドリリーの花言葉であり、歌詞のなかの“永遠みたいな一瞬”という文言はライブを象徴するもの。演出を駆使して歌詞とパフォーマンスをつなげ、かけがえのない瞬間が積み重ねられていくライブ空間と物語をシンクロさせる彼らの手腕は、始動以来“次元を超え、つなぐ”というコンセプトを掲げてきた5年間の活動の賜物だ。
以降は最小限の小道具しか登場しない素舞台で、自身のパフォーマンスだけを武器に曲ごとに異なる世界観を表現。「キミヲナクシテ」ではテンポの速いリズムに乗りつつ、ときに舞台上のテーブルにもたれて寂しげな空気を演出し、「貴方に溺れて、僕は潤んで。」では熱と揺らぎを滲ませた歌声や、動きの一つひとつに意味を持たせたダンスで見る者の感情を揺さぶっていく。
「もしも、私だけが知っている“あなた”がみんなのものだったら…」をテーマに、ジャジーに迫る新曲「美しい人」でも、全員ソファに腰かけたまま手と足の限られた動きだけでセクシーなムードを醸すのがお見事。そこから立ちあがり、「In the Nude」ではピアノの音色で軽快にスイングしながら思う存分色気を振りまいて、観測者たちを釘付けにしてみせた。全員が学生だったデビュー時から5年が経ち、人としてもエンターテイナーとしても、彼らは着実に大人の階段を上っている。
ここで大倉空人がPC操作をして、彼が名を付けた宇宙人キャラ・キャトミンから“今日のデート一緒に楽しもうね”とニナニナ語で書かれたメールを受け取ると、「ニナニナ!」とニッコリ微笑んで「推論的に宇宙人」へ。
「もしも、大好きな“あなた”が宇宙人だったら…」というお題でボカロPのナユタン星人が制作した、このにぎやかなポップチューンは今ツアーが初披露だ。にもかかわらず、観測者と息ピッタリのコール&レスポンスを繰り広げ、桜木雅哉は「“宙!”のコールが気持ちいい!」と大喜び。そんなハッピーな空気は「チョコループ」でさらに甘くなり、歌いながらステージを端から端まで歩く7人はメンバー同士で頬をつついたり、大サビを歌う小泉に長野と杢代が迫ったりと、無邪気な仕草で観測者のツボを突きまくる。
ひたすらに“物語”を具現化するパフォーマンス重視の今ツアーでは、MCも11曲40分を超えた、このタイミングでの1回のみ。当然メンバーみな汗だくながら、初日の仙台公演では桜木が「高校も卒業したんで…染めちゃいました!」と人生初めての金髪を披露して、このツアーへの気合を表してみせた。
また、桜満開の時期に行われた名古屋公演では、ツアーグッズでもある桜木のネームタオルを広げてステージ上でお花見をする場面も。メンバー間の仲の良さを存分に見せつけ、観測者をホッコリさせる一方、新作EP『仮定法のあなた』について“もしも〇〇だったら”というストーリーが各曲にあること、それに沿って今回のツアーはストーリー仕立てのライブになっていることも説明された。
「一つのストーリーを見ているような気持ちで楽しんでくれたら」と長野が告げ、後半戦を幕開けた「545」では、メンバー同士肩を組んだり、ステージ壇上に座ったまま大きく手を振ったりと、温かなムードで場内をいっぱいに。
そのまま流麗なピアノの音色が導いた「ラベンダー(ピアノ ver.)」でも、ステージ上に散らばった7人へと順にスポットが当たり、流れるような仕草の一つひとつから切ないドラマを感じさせていく。最後は小泉、長野、武藤の3人が舞台に残り、物悲しいエンディングを歌の力だけで描き上げていった。
しかし、山場はまだまだこれから。感傷的な余韻の残る場内に、7人を写し取った古びた書物のページがめくられる映像が流れると、ファンタジックでダイナミックなダンストラックがスタート。杢代と桜木が黒幕を掲げて姿を隠し、一瞬で大倉と吉澤に入れ替わるイリュージョンも交えつつ、黒と白のモノトーンに着替えた7人そろってスリリングなダンスパフォーマンスを展開していく。
そして天井から落ちたアシンメトリーの白布が赤い照明を浴びて炎のようにひらめけば、すかさずEP収録の最強ラップ曲「ケイカクドヲリ」を投下。攻撃的なヴァースを我先にと畳みかけるなか、音でバトルする7人の中心で小泉がロングトーンの雄叫びをあげて、「もしも、己の正義が悪だとしても“あなた”の為ならば…」というエゴイスティックな物語を体現してみせた。
さらに、バスドラの音が鳴り響く壮大ヘヴィロック曲「Museum:0」では、カラフルかつカオティックな映像と照明を背に“何処にもないなら描いてしまえばいい”と、ハイトーンも駆使した力強いボーカリゼーションで独自の道を切り拓く覚悟と自信を提示。スタイリッシュな身のこなしでたくましいダンスも繰り出すリーダー吉澤がまとう衣装の一部が、赤くひらめくのも美しい。
そしてライブはクライマックスへ。「もしも、1000年後の世界で“あなた”の歌が見つかったら…」とスクリーンに映った曲テーマを読み上げる大倉から、荒廃した惑星で遠い過去の遺物を拾い上げる未来人の物語を順に朗読し、“『誰も知らない歌』を歌おう”と声をそろえて始まったのは「『誰も知らない歌』」。
時計やゼンマイといった“時”を示すオブジェクトが浮かぶステージで、7人は朗読した言葉を今度は歌詞に変えると、“この歌は未来でも響いている”と必死に歌い募る。メンバーが手にした古い書物が開かれると光が溢れ出し、武藤が“『誰も知らない歌』を歌おう”と高らかに歌いあげる声は、まるで天まで届くかのよう。真っ白な光とスモークのなかから、心洗われるような多幸感を放っていく。
さらに“もしも、まだ会場のみんなと…まだまだもっと、盛り上がってもいいですか……?”という文字がモニターに浮かんでからは、人気曲をメドレー披露していくことに。「観測者の皆さんともっと盛り上がっていきたいです。あなたの声をぜひ聞かせてください!」と杢代が告げた「夢に唄えば」に、「嗜好に関する世論調査」では“2択”の歌詞を観測者ともどもリフレイン。再び客席へ飛びだして、各公演地の名物をコールしての「ギミギミラブ」に「ネバーエンドロール」と、2階席までくまなく周回して観測者と熱気を分かち合う。
年度末となった3月31日の埼玉公演では、この季節ならではの「桜Ground」で「明日から新学期! 勉強や仕事でいっぱいいっぱいになるときもあるだろうけど、たまにでいい、げんじぶに会いに来てくれ!」と武藤が叫ぶひと幕も。大学を卒業する人々と同じ学年の彼が贈ったメッセージは、あらたな環境へと旅立つ観測者たちにとって、これ以上ない励ましになっただろう。
ステージに戻って7人が一列に並び、ホール中に熱い声を響かせた「THE EMPATHY」では“Wow Oh Oh Oh!!”と大合唱を呼んで、最高の盛り上がりのなかドロップされたのはデビュー曲「原因は自分にある。」。彼らの名刺とも言えるナンバーで、笑顔から一瞬で変化する目線で殺す長野を筆頭に研ぎ澄まされた表情管理で観測者を翻弄し、観測者の大歓声を浴びた。
ここで終わりを告げる鐘の音と、時計のねじを巻く音が。高まった熱を一気に冷ましていくように、「灼けゆく青」の無機質なビートが場内に流れると、モニターのなかでは“失われた青春”を綴る歌詞が流れ落ちていく。メカニカルな動きとポエトリーな歌唱で漂わせる冷たさの奥に嘆きを滲ませる7人のパフォーマンスに大量のスモークが噴射され、それが消えると無人のステージが。
瞬時に客電が灯り、終演のアナウンスが流れて、果たして、今まで見ていたライブは現実なのか? ついさっきまでそこにいた7人は夢か幻か? そんな狐につままれたような感覚を残して終了したステージは、まさしく『架空のアウトライン』というツアータイトルにふさわしい。架空だからこそ想像次第で自在に変化し、見た人の数だけ物語を生みだしていくのだ。
そうして形を変える外郭=アウトラインに、まだ見ぬあなたの表情を重ね、出逢いを待ち詫びるというのも、このタイトルに込められた心情だ。初日、仙台公演の第1部では、11月17日にぴあアリーナMMでワンマンライブ『白昼夢への招待(インビテーション)』を開催することも発表。2023年11月に初のアリーナ公演を行った会場に、ちょうど1年後に帰還するということで「去年感じた想いを次につなげたい」(吉澤)、「満席で良い景色を皆さんに見せることを、ここで約束したいと思います」(杢代)と宣言した。
そして長野は、白昼夢=目を覚ましたまま見る夢であることを伝え、「原因は自分にある。は、僕にとって際限のない自信と終わることのない夢を見せてくれる存在です。これからも続いていく白昼夢から目が覚めないように、いろんな話をさせてください。また、あの場所で会えることを願っています。どうかこの招待状を受け取ってくれたらうれしいです」と頭を下げた。
また、最終日の大阪公演では7月7日のデビュー記念日に、LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)ワンマンライブ『GNJB 5th Anniversary LIVE “夢現の続き”』の開催も告知。このライブについてメンバーは、「記念すべき5周年を迎えるライブとなるので、期待して待っていてください!」と語り、満員の観測者たちを喜ばせた。7月7日の渋谷で、そして11月17日の横浜で、彼らの『夢現』は着実に夢から真へと実っていくだろう。
TEXT BY 清水素子
PHOTO BY 米山三郎
<セットリスト>
01. マルチバース・アドベンチャー
02. 原因は君にもある。
03. シェイクスピアに学ぶ恋愛定理
04. GOD釈迦にHip-Hop
05. ダイヤモンドリリー
06. キミヲナクシテ
07. 貴方に溺れて、僕は潤んで。
08. 美しい人
09. In the Nude
10. 推論的に宇宙人
11. チョコループ
12. 545
13. ラベンダー(Piano ver. )
~DANCE TRACK~
14. ケイカクドヲリ
15. Museum:0
16. 『誰も知らない歌』
17. ~メドレー~
a. 夢に唄えば
b. 嗜好に関する世論調査
c. ギミギミラブ
d. ネバーエンドロール
e. 桜Ground
18. THE EMPATHY
19. 原因は自分にある。
20. 灼けゆく青
原因は自分にある。OFFICIAL SITE
https://genjibu.jp/