■さいたまスーパーアリーナの広さをものともせず、むしろ天井を突き破りそうなほどの天文学的な熱量を持って、最後まで会場全体を圧倒!
2018年に韓国でデビューし、2023年12月にリリースされた2ndフルアルバム『THE WORLD EP.FIN : WILL』が、米Billboardのメインチャート「Billboard 200」にて1位、英・オフィシャルアルバムチャートにて2位を獲得し、世界2大音楽チャートを席巻するなど、グローバルな人気を誇る韓国の8人組ボーイズグループ、ATEEZ。
そんなATEEZが、2月3日・4日に自身初となるさいたまスーパーアリーナでのワンマンライブを開催し、2日間で計3万4,000人を動員。会場に集まったファンを大いに沸かせた。
『2024 ATEEZ WORLD TOUR [TOWARDS THE LIGHT : WILL TO POWER] IN JAPAN』と題された今回のツアーは、1月27日・28日にソウルを皮切りにスタートしたATEEZのワールドツアー『TOWARDS THE LIGHT : WILL TO POWER』の日本公演。
そんな本公演における当日の模様をレポートする。
開演前からひときわ目を引くのは、ステージ中央にそびえ立つ一基の大きなタワー。その上端には星が輝いている。その様子を見るだけでも、これからいったい何が起こるのかと期待が高まる。17時10分、会場が紫と黒の不穏な世界へと変わる。オープニングVCRを締めくくる「Don’t be afraid. Show your “Will to Power.”」のナレーションが響くと、黒い衣装で登場したダンサーたちがタワーに輝きを与えていく。するとタワーの中から真っ白な衣装に身を包み、まばゆい光を放つATEEZの8人が姿を現す。会場が揺れんばかりの大歓声が起こるなか、キャプテン・HONGJOONGの「ATINY(エイティニ:ファンの呼称)! 叫べ!」の第一声で最新曲「Crazy Form」がスタート。1曲目からステージ上は炎も花火も燃え上がり、テンション高くパフォーマンスする8人の気迫に呼応して、会場の一糸乱れぬ掛け声も大音量で響く。
間髪入れずに8人は花道を抜けセンターステージへ移動。日本語で「ツアータイトル[TOWARDS THE LIGHT]のように、今日はみんなで光に向かって走りましょう。皆さんは存在しているだけで光輝く人たちです。僕らと一緒に思いきり楽しんで、一緒に歌って、皆さんのありのままの輝きを見せてください!」(HONGJOONG)と語りかけ会場をひとつにすると、MINGIの「叫べー!」のアジテートでバンドアレンジの「Say My Name」がスタート。サビのアイコニックなダンスが、真っ赤に染まるステージで披露されると大歓声が湧き起こる。はやくも眩暈がしそうなくらいの猛烈な熱気に包まれる会場をさらに燃え上がらせるように、「WIN」へと雪崩れ込む。ここまでの怒涛の展開に8人のパフォーマンスもますます熱量を上げ、MINGIのラップとJONGHOのボーカルが競い合い、“踊り狂う”ラストのダンスを駆け抜け、そして勝利宣言をするかのようにSANが拳を突き上げた。
一転、人のささやき声が不穏に響くなか、センターステージにひとり残ったHONGJOONGが怯えるように耳を塞ぎ、よろめきながらどこからともなく現れた黒服の4人とともに煙の中へと消えていく。するとさっきまで星が輝いていたタワーの上端が会場を監視する目に変わる。くるくると不気味に動く目に連動するように会場の様子が映し出され、その異様な空間に会場も動揺が隠せない。突然サイレンが鳴り響くと、そんな“監視社会”の中から脱出を試みるようにYUNHOがステージに現れ、逃げ惑う迫真の演技を見せる。続いて登場したSANも黒衣装のダンサーたちに捕らわれながらも「This World」へ。モノトーンの衣装に変わったメンバー7人も合流し、ダークな世界観を描く。続く、ふたつのテーブルと赤いテープで鏡に映るシンメトリーな世界を巧みに表現したパフォーマンスと黒い目隠しを使ったセクシーなダンスが印象的な「Wake Up」とで、感情をなくした闇の世界からの決別を歌う。
耳馴染みのあるイントロのリフレインが聞こえてくると、タワー下でエレキギターを抱えるHONGJOONGがスポットライトに照らされ、挑発的な眼光を放ちながらディストーションギターを掻き鳴らす。超攻撃的なラップを合図に「Guerrilla (Flag Ver.)」へ。全身が揺さぶられるほどのヘヴィな音圧でMINGIのラップが暴れ、SEONGHWAもWOOYOUNGもアジテートし、YUNHOの“Make some noise!”の雄叫びを合図に会場は“Break the wall!”の大絶叫。わずか5曲目にして会場のボルテージは最高潮に達し、ひとつのクライマックスを迎えたのだった。
一瞬たりとも息つく暇を与えずに、まるで映画を観るかのようなストーリー性の高いステージを繰り出して会場を圧倒したところで、本日最初のMCは9ヵ月前よりも小慣れた日本語での自己紹介。「日本のATINYのみなさん、待っていてくれましたよね? ATEEZが遂にさいたまスーパーアリーナに来ました!」(SEONGHWA)とATINYに声をかけると、今年初めて日本のATINYに会えたことを記念して、WOOYOUNGの提案でATINYと「明けましておめでとうー!」と新年の挨拶を交わす。
どさくさに紛れて「お年玉ください!」と言うWOOYOUNGに「WOOYOUNGさん、今年は大人になれよ!」とHONGJOONGが突っ込む微笑ましい瞬間にほっと一息。さらに今回のツアーテーマを丁寧に日本語で伝え、「タワーが光を取り戻すまで力を合わせないといけないですよね」(HONGJOONG)「僕らにはまだ時間があるので、ATINYと力を合わせましょう」(YEOSANG)と続けると、「MINGIさん、魅せて!」のキャプテンのひと声で次のセクションへ。
サングラスをかけたMINGIがデジタルサウンドとレーザーが暴れるなかソロラップをドロップ。会場を再びATEEZの世界へと引きずり込むと、ネオンカラーのグラフィティがあしらわれた椅子に座った7人が合流し「Cyberpunk (Japanese Ver.)」がスタート。先ほどまでとは打って変わってEDMサウンドが淡々と会場の温度を上げると、会場がピンクの照明に染まる「Deja Vu」へ。静と動、柔と剛が交差する妖艶なパフォーマンスを繰り出し、終盤にYEOSANGがサラリと見せた腹筋やJONGHOとSANのアドリブに歓声が湧き起こった。
スモークが立ち込めるセンターステージで幻想的なエメラルドグリーンのスポットライトに照らされるのは、椅子に座り、長い手脚を柔らかに踊らせるSEONGHWA。HONGJOONGとYUNHOも加わりシアトリカルに情感たっぷりに演じると、LEDが巧みにシンクロし、まるで彼の背中に大きな翼が生えたように見える美しい演出に息を飲む。さらに視点をメインステージに移すと、そこには鳥籠に閉じ込められたYEOSANG。体から鳥の羽を散らばらせ、エレガンドながらもソリッドなダンスで鳥籠を抜け出し、真っ青な色彩の中で美しく翼を伸ばす。ふたりの抒情的なパフォーマンスにATEEZの表現力の奥行をあらためて感じるのだった。
最新アルバム『THE WORLD EP.FIN : WILL』でデビュー以来、初めてユニット曲を収録したATEEZ。ここからはユニットのステージだ。YEOSANG、SAN、WOOYOUNGによる「IT’s You」はグループ曲とはまた違う、シックな雰囲気を纏い夜の冷たさをステージに残していった。続くVCRではライティニ(公式ペンライト)も消え、真っ暗な会場に「僕たちは本当に光を探し出せるだろうか?」という問いが投げかけられる。ここで言う「光」が、ATEEZというグループの世界観から生み出される寓話的な「光」なだけでなく、メンバー8人自身がATEEZの一員として現実世界で探し続けてきた「光」であるということに気づかされる。ユニット曲は、そんな彼ら自身の感情の機微やここまでの道のりを語っていたりもするのだ。
YUNHO、MINGIによる「Youth」はふたりの電話のやりとりからスタート。これは練習生になる前からの友人であるふたりの実際のやりとりをモチーフにしており、現実とリンクしたこの曲は等身大の彼らを映す。暗転したステージに次に現れたのはJONGHO。時間を逆走し舞い上がる雪の映像の中、「Everything」をしっとりと、そして圧倒的な歌声で歌い上げると会場からは自然と感嘆の拍手が湧き起こった。VCRを挟みセンターステージにWOOYOUNGが現れるとソロダンスを披露。WOOYOUNGがタワーに向かって拳を突き上げたのをきっかけにシルバーが基調の衣装の7人がセンターステージに上がり、全員で「Silver Light」へ。LED用カメラや花道を使いながら変化に富む見応えあるパフォーマンスを展開。曲の終盤には客席のライティニの光が吸い上げられ、タワーはまばゆい光を取り戻したのだった。
物語が終着点に辿り着くとタワーは灯台へと姿を変え、LEDには明るく穏やかな海が映し出される。遠くで汽笛が鳴り響いたのを合図に「WAVE」がスタート。メンバーがステージの四方、思い思いの場所で客席と軽やかにコミュニケーションをとると、会場も先ほどまでの緊張感から解き放たれ、楽曲の心地よさに身を委ねて楽しむ。MCを挟み、「ATINYともっと遊べる曲を」と「Dancing Like Butterfly Wings」へ。サビで喜びが弾けるかのように踊る8人。2019年にリリースされたこの曲の歌詞には「僕たちは明かりを灯した」とあり、まるでこの日繰り広げられた物語の結末を祝福するかのようだった。曲のラストには8人で肩を組み、お決まりの「8 makes 1 team!」を高らかに叫んで締めくくった。
ネオンライトが煌びやかなコミカルなVCRを挟むと、ブラウンのファーコートにブラックレザーパンツという出で立ちで登場したHONGJOONGとSEONGHWA。炎が噴き上がりレーザーがバキバキに乱れ飛ぶと、ユニット曲「MATZ」のヘヴィなビートが再び会場に火を着け、曲中に映像のブレイクを挟むというお洒落な演出も相まって会場を熱狂させた。ふたりの安定感あるパフォーマンスが終わると、メインステージにはウエスタン・サルーンのセットが素早く組まれ、6人がブラウンのジャケットで登場すると「アーリーバー!」(HONGJOONG)の高らかな掛け声で「ARRIBA」へ。MINGIの表現豊かなステージングや、小道具を駆使し、小芝居をも挟むシアトリカルな展開に、この日2本目の映画を観ているような感覚になる。続く「DJANGO」も目まぐるしくカットが変わる西部劇のようで、ATEEZの縦横無尽でハイレベルな表現力を見せつけたのだった。
本編もいよいよ終盤。腹に響く重低音が痺れるイントロとともに「僕たちのエネルギーをもっと込めて、もう一度いきましょう!」とSANが叫ぶと、ダメ押しの「BOUNCY (K-HOT CHILLI PEPPERS)」へ。会場も残されたエネルギーのすべてを掛け声と歓声に変えんばかりの気迫で彼らの熱量に応える。そしてラストは圧倒的な威厳を放つ「WONDERLAND (Symphony No.9 “From The Wonderland”)」。9ヵ月前に日本で目撃したそれよりも安定感を増し、それでいて力強く重厚で、獰猛。ここまで約2時間、全18曲を全身全霊で踊り歌い続けてきたとは思えない底知れぬエネルギーは、さいたまスーパーアリーナの広さをものともせず、むしろ天井を突き破りそうなほどの天文学的な熱量を持って最後まで会場全体を圧倒したのだった。
本編終了後も興奮の坩堝と化した会場に純白の衣装で光に包まれるメンバーのVCRが流れると、真っ白に輝くライティニが会場後方から前方へ、まるで光を運んでいくかのようにメインステージのタワーへと移動していく。会場中の光を集めたタワーがこの日いちばんの輝きを放つと、センターステージには手を模したバルーンが出現。その掌に光がおさまると、アンコールがスタート。リラックスした雰囲気でセンターステージから登場した8人。YUNHOとWOOYOUNGは手にカメラを持ってメンバーや客席を撮影しながら楽しそうにしている。「Dreamy Day」に続き、「Eternal Sunshine」からのメドレーは「Fireworks (I’m the One)」でエモーショナルに盛り上げ、バンドアレンジの「The Real」で再度会場のボルテージをつり上げたのだった。
最後のMCで「ATINY、僕たちがプレゼントした光は受け取れましたか? 僕らのメッセージが少しでもATINYの力になればうれしいです」とYEOSANG。JONGHOはなんと、前回のコンサートでATINYと交わした、クロージングコメントを日本語で自由に話すという約束を守り、「今日、ATINYの声が聞けて本当にうれしかったです。ATINYのおかげで元気になりました。ありがとうございます。ATINYは僕の宝物です」とコメント。
「僕たちが今日のような公演ができたのも、ATINYという原動力があったからです。いつもまた立ち上がれる力、挑戦できる勇気を与えてくれてありがとうございます。今日見つけた、自分だけの光を心の中で大切にしてくれたらうれしいです。皆さんは世界にひとりだけの大切な存在だということを忘れないでください」というSANの温かいコメントから、「最後の曲、一緒に歌ってください。僕たちも心を込めてお届けします」(HONGJOONG)と言って届けられたのは、アレンジを変えた「夜間飛行 야간비행 (Turbulence) (Japanese Ver.)」。メンバー各々、日本語詞を心の中心から絞り出すように情感を込めて歌い上げる。自然発生的に拍手が巻き起こると、「まだ終わりません」のひと言からアンコールラスト「UTOPIA (Japanese Ver.)」へ。
原曲よりもアッパーにアレンジされたEDM Verは、光を探し求めたこの旅路を締めくくるにふさわしい爽快感に満ち、会場にはまさに理想郷を体現するような虹色の紙吹雪が美しく舞った。最後の挨拶を終えてから、SANが「2階、3階よく見えますか? どうしよう、どうしよう?」と言っていると「では、もっと近くで会いましょう!」と、ステージ両サイドから4人ずつトロッコに乗って会場内を一周。2時間半の熱演の疲労を微塵も感じさせずに、上階の席、後方の席と見わたし、ATINYに日本語で言葉をかけながらくまなくファンサービスを届ける。メインステージに戻るといよいよ今日の締めくくりの挨拶。口々に会場を埋めたATIINYに感謝の言葉を述べながら、8人は光に包まれるタワーの中へと吸い込まれていった。
2022年から2023年にかけて行われたワールド・ツアーATEEZ WORLD TOUR [THE FELLOWSHIP : BREAK THE WALL]は、韓国・ソウルを皮切りに日本、アメリカ、そしてヨーロッパで開催された。さらに、デビュー後初めてアジアと南米ツアーを開催し、約40万人のファンとともに、グローバルにその名声を轟かせた。その過程において彼らはきっと、自分たちの音楽表現を通して言語や文化の壁を乗り越えられるということを実感し、「伝わる」手応えを掴んできたのだろう。ゆえに、まだ序盤にも関わらず本ツアーでの彼らは自信に満ち溢れ、ATEEZの物語を伝える意志に寸分の迷いもなく、それを伝える方法にも圧倒的な説得力が宿っているのだろう。
ATEEZの物語の中で探す「光」はメンバー8人それぞれがひとりの人として苦悩し葛藤する中で見つけてきた「光」でもあり、それはこの日会場を埋めたATINYの心に灯った「光」でもあり、そしてその光はまたATEEZを突き動かしていく。そんな光の連鎖の中で、ATEEZは次に掴むべき強烈な光を真っすぐに見据えながら、ますます大きくなっていくだろうと期待が膨らむ夜だった。
そして2月28日にはシングルとしては約1年ぶりとなる日本3rdシングル「NOT OKAY」のリリースも控えている。日本楽曲とその活動においてもこれからどんな物語を紡いでいってくれるのか、楽しみにしたいと思う。
なお、ATEEZは4月12日と19日、アメリカ・カリフォルニア州インディオの砂漠地帯であるコーアチェラ・バレーで開催される『Coachella Valley Music and Arts Festival』に出演する。『Coachella Valley Music and Arts Festival』は1999年から始まり、伝統と権威を誇る世界最大級のミュージックフェスティバルで、毎年20万人以上の観客を魅了し、多くの音楽人たちの「夢のステージ」と呼ばれており、その意味が特別でもある。
ATEEZは同フェスに初出演するが、これはK-POPボーイズグループ史上初の出演となり、“K-POP最高アーティスト”としての地位を誇っている。
TEXT BY 中村 萌
PHOTO BY 宮田浩史 (C)KQ Entertainment
<セットリスト>
1 Crazy Form
2 Say My Name
3 WIN
4 This World + Wake Up
5 Guerrilla (Flag Ver.)
6 Cyberpunk (Japanese Ver.)
7 Deja Vu
8 IT’s You
9 Youth
10 Everything
11 Silver Light
12 Crescent pt2.
WAVE
13 Dancing Like Butterfly Wings
14 MATZ
15 ARRIBA
16 DJANGO
17 BOUNCY (K-HOT CHILLI PEPPERS)
18 WONDERLAND (Symphony No.9 “From The Wonderland”)
19 Dreamy Day
20 Title Medley
(Eternal Sunshine+ Fireworks (I’m the One)+The Real)
21 夜間飛行 야간비행 (Turbulence) (Japanese Ver.)
22 UTOPIA (Japanese Ver.)
リリース情報
2024.02.28 ON SALE
SINGLE「NOT OKAY」
ATEEZ JAPAN OFFICIAL SITE
https://ateez-official.jp/