■ライブアーティストとしての進化ぶりを開始2曲で早速感じた
くじらが自身3度目のワンマンライブ「3rd ONE MAN LIVE 『野菜室』」を12月24日、恵比寿LIQUIDROOMで開催した。
11月22日にメジャー2ndアルバム『野菜室』をリリースしたくじら。同作の根底にあるのは「野菜室と人の脳内は似ている」という発想で、ステージは、脳やシナプスを思わせる装飾が施されていた。「ようこそ」という音声が組み込まれたSEに観客の期待が高まる中、くじらは、大きなくじらのぬいぐるみを抱えて登場。1曲目「アルカホリック・ランデヴー 2020」の冒頭を歌い終えたあと、くるっとターンをして「恵比寿ー!」と呼びかけると、観客が歓声を返した。ステージ上のくじらも、腕を上げたり手拍子をしたりしながら盛り上がる観客も、一緒になって楽しむオープニング。その温かい空気のまま、次に披露されたのはアルバムに収録されている「東京」だ。ポップでカラフルなバンドのアンサンブルとともに、自由に跳ね回るくじらのボーカルは、リズミカルでソウルフル。また、バンドの音にノリながら軽やかにステップを踏む姿からは、無邪気に音楽を楽しむ気持ちが溢れ出しているが、つい目で追ってしまう華やかさもある。ライブアーティストとしての進化ぶりを開始2曲で早速感じた。
ライブ前半では「春と修羅」、「POOL.」、「Hollows…」、「BOOK STORE」、「ひかりをためる」とアルバム収録曲を立て続けに披露。ヒップホップ、R&B、ネオソウルとグラデーションを描きながら変化するバンドのグルーヴ、レイドバックするリズムを乗りこなしながら、深みへと入っていった。前半のラストを飾ったのは、イントロのギターリフに誘われて観客が手拍子した「ひかりをためる」、4つ打ちのビートにくじらも観客も飛び跳ねた「レプリカ」。曲と曲の鮮やかな接続も相まって、凄まじい盛り上がりだ。演奏が終わったタイミングで観客が「フゥ―!」と歓声を上げると、くじらも「あっちー!」と叫び、互いに笑い合った。
約1年前に初のワンマンライブ『鯨と水星』を開催したくじら。その時に感じた「ライブめっちゃ楽しい!」という気持ちや、「あんな曲やこんな曲がほしい」というアイデアから生まれた曲がアルバム『野菜室』には収録されているらしく、ライブの半ばのMCでは「“やっぱりライブで聴きたいよね”って曲をいっぱい持ってきたので、いっぱいやらせてもらえればと思います」と伝えた。
■パワフルなバンドサウンドが鳴るなか、くじらも、時に前屈みになりながら、情熱を注ぎ込むように歌う
インディーロックへの憧憬を滲ませた「夏」「夕餉」から演奏再開。ライブ前半とは打って変わって、パワフルなバンドサウンドが鳴るなか、くじらも、時に前屈みになりながら、情熱を注ぎ込むように歌い、「悪者」や「続・生活」ではギターボーカルを初披露した。そして“たとえ暮らしが楽になれど/その先に君たちがいないのは嫌!”と歌詞を替えて歌った「続・生活」によって、今目の前にいる観客の一人ひとりがくじらの生活を彩る存在なのだと強調される。くじらの言葉を借りれば「自分に似たあなた」であり、自分が日々思っていることの具現化と言うべき音楽を共有できている人たちだからだ。「抱きしめたいほど美しい日々に」、「呼吸」を経ての「水星」では観客の合唱とともに一体感が生まれ、くじらも思わず「最高!」と笑う。純度の高いバラード「私たち問いを抱えて」を歌い上げたあと、本編ラストを飾ったのは「白鳥」。くじらも観客も拳を突き上げながら、力強く駆け抜けた。
■「私にとっても、みんなにとっても、音楽はいつでも味方です」
アンコールではまず、「幽霊少女」を披露。さらに『野菜室』は「いっそ言葉を忘れてみんなと歌えたら」という気持ちで作ったアルバムなのだと明かしたあと、「FRIENDLY・NIGHTMARE」、「野菜室」を観客とともに歌い、ライブを締め括った。MCで語られたのは、日々つらいこともあるが、この世界に存在しているだけでそれは喜びなのでは、という感覚。思考も悩みも尽きないからこそ、くじらは楽曲を作り続けるが、「せめて根源的な喜びを」という願いを叶えられる場所もまた音楽なのだろう。それは、懸命に生きる日々のいとまにライブ会場を訪れた私たちも同様。「落ち込んでどうしようもない時はありますが、私には大好きな音楽があるし、ライブに来てくれる人がこんなにいっぱいいるし、なんて音楽は素晴らしいんだろうと思います。私にとっても、みんなにとっても、音楽はいつでも味方です。それを忘れないで、生きていきましょう」というくじらのメッセージ、祝福の音楽が温かい余韻を生む中、シンガロングが高らかに響いた。
TEXT BY 蜂須賀ちなみ
PHOTO BY Kana Tarumi
くじら 3rd ONE MAN LIVE『野菜室』
2023年12月24日(日) 恵比寿 LIQUIDROOM
セットリスト
1.アルカホリック・ランデヴー 2020
2.東京
3.春と修羅
4.POOL.
5.Hollows…
6.BOOK STORE
7.ひかりをためる
8.レプリカ
9.夏
10.夕餉
11.ねむるまち
12.金木犀
13,悪者
14.続・生活
15.抱きしめたいほど美しい日々に
16.呼吸
17.水星
18.私たち問いを抱えて
19.白鳥
EN1.幽霊少女
EN2.FRIENDLY・NIGHTMARE
EN3.野菜室
くじら OFFICIAL SITE
https://twitter.com/WhaleDontSleep