■Aimerのゲストルームに招かれたような、親密で温かいステージ
Aimerの約5年ぶりのファンクラブ限定ツアー『Aimer Fan Club Tour “Chambre d’hôte”』が、2023年10月から11月にかけて全国7都市・9公演で開催された。
ツアータイトルの“Chambre d’hôte”(シャンブル・ドット)は、“ゲストルーム”の意味。この言葉通り、まるでAimerのゲストルームに招かれたような、親密で温かいステージが繰り広げられた。
開演前のBGMは、カバーアルバム『Bitter&Sweet』の音源。KT Zepp Yokohamaのフロアを埋め尽くしたオーディエンスはもちろん、Aimerの熱心なファンばかり。近い距離で彼女の歌をたっぷりと堪能できるレアなライブとあって、開演前から静かな熱気がダイレクトに伝わってきた。
19時ちょうどに暗転し、最新アルバム『Open α Door』の1曲目「Open α Door」が響くなか、バンドメンバーとAimerが登場。大きな歓声に迎えられた日替わりのオープニングナンバーは「Ref:rain」、しかもピアノと歌による特別なバージョン。“ただ足りなくて/まだ言えなくて”というフレーズを手渡すように歌うAimerの姿を白いライトが照らし、会場はホーリーな雰囲気で包まれた。白い布で作られたオブジェが配されたステージセットも、楽曲の雰囲気を際立たせていた。
■心も物理的な距離も本当に近くにいることを感じながら、アットホームなツアーにしたくて
両手を左右に広げ、抱きしめるような仕草で観客を迎え入れた後、最初のMC。「約5年ぶりのファンクラブツアー。そして、私にとって初めてのKT Zepp Yokohama。あなたに会えて本当にうれしいよ。ありがとう!」「タイトルの“Chambre d’hôte”は“ゲストルーム”という意味。今回はZeppということもあって、心も物理的な距離も本当に近くにいることを感じながら、アットホームなツアーにしたくて。全身の力を抜いて(笑)、楽しんで、リラックスしていこうと思うので、最後まで素敵な時間にできたらうれしいです」と語り掛けると、フロアから温かい拍手が送られた。
2曲目はアルバム『Open α Door』から「群青色の空」。夕方から夜にかけての空を思い描いて制作したというこの曲によって、美しいノスタルジアを含んだ空気がゆったりと広がっていく。ラップ的なボーカル表現を取り入れた「Life is a song」は、ヒップホップのライブっぽく(?)観客に手を挙げるように促し、一体感を演出。Aimerの歌の世界を支えるバンドメンバー(野間康介/Key、三井律郎/Gu、佐々木“コジロー”貴之/Gu、高間有一/Ba、宮川剛/Dr、吉田翔平/Vn、柳野裕孝/MNP)の手腕も素晴らしい。
「尊敬するコンポーザーの方と初めてご一緒した曲です」と紹介されたのは、梶浦由記が手がけたバラード「花の唄」。ピアノとバイオリンともに披露された1番は痛みにも似た感情が真っ直ぐに伝わり、バンドサウンドが加わった後は、徐々に穏やかな癒しに包まれる。本当に豊かな表現力を持ったシンガーだなと、改めて実感させられた。
観客との気の置けないトークも、ファンクラブツアーならでは。“どこから来ました?”という質問では、客席から「台湾」「香港」「韓国」「ロンドン」といった声が飛ぶ。「有給を取ってくれた人もいるのかな?」「え、神奈川ってかまぼこも有名なんですか?」という(ちょっとユルめな)MCも楽しい。
「あなたがあなたらしく生きていってほしいという思いを込めて作りました」という「Ash flame」、鋭利なサウンドとメロディが共鳴する「ONE AND LAST」を放った後、ステージ転換。カラフルな照明とともにツアータイトル“Chambre d’hôte”の文字が掲げられ、解放的なムードが広がった。
ジャズのテイストを色濃く反映した「空噪wired」の間奏では、バンドメンバーがソロ演奏を披露。メンバー紹介しながら笑顔で歓声を上げるAimer自身も、この場所を全身で楽しんでいるようだ。
「一緒に歌って!」という煽りによって観客のシンガロングが起きた「I know U know」をきっかけにライブの高揚感はさらにアップ。「ここからラストスパート、行っていいですか?!」という言葉から「Resonantia」、そして、ストリーミング再生が4億回を超え、彼女の歌の素晴らしさをさらに多くの音楽ファンに知らしめた「残響散歌」。イントロを長めにする──つまり助走をしっかり取ることで──楽曲の持つパワーとカタルシスが増強されていく。アッパーチューンを続け、会場全体の熱気を挙げるステージングからは、彼女のパフォーマーとしての進化がはっきりと感じられた。
■歌い続けるのは、曲を聴いてくれて、ライブに足を運んでいてくれる“あなた”がいるから
ここでAimerはゆっくりとオーディエンスに語り掛けた。デビュー12周年を迎え、感謝とともに、歌いづけるという言葉の意味が重みを増している。活動を続けるなかで、不安や迷いを感じることもあるし、歌うことが苦しいと思うこともある。それでも歌い続けるのは、曲を聴いてくれて、ライブに足を運んでいてくれる“あなた”がいるから。「素敵なアーティストがたくさんいる世界のなかで、私を見つけてくれて、出会ってくれて、音楽を通して一緒に生きてくれて、いちばん近くで見ててくれて、応援してくれて。本当にありがとう」という言葉に対し、会場からはこの日いちばん大きい拍手が送られた。
本編ラストは「キズナ」。“たとえどんな離れても 信じ合える”というフレーズに生々しい感情を込めたボーカルは、目の前にいる観客との強いつながりを証明していたと思う。
■アンコールではレアなカバー曲が披露
アンコールではレアなカバー曲が披露された。まずは「Blinding Lights」(The Weeknd)。サングラスをかけたバンドメンバーがステージ前方で横並びになり、揃いの振り付けで盛り上げる演出もめちゃくちゃ楽しい(Aimerいわく、“今までいちばんチョケてます”)。続く「Lemon」(米津玄師)は原曲よりもテンポを落とし、バラード的なアレンジで歌詞の良さを際立たせていた。
最後は新曲「白色蜉蝣」。NHKドラマ10『大奥Season 2』主題歌としても注目を集めているこの曲は、“大切なもの、大切な人を守りたい”という普遍的な願いを込めた楽曲。「白色蜉蝣」を表題曲にしたニューシングルは12月6日にリリースされる。
丁寧に観客とコミュニケーションを取りながら、親密な雰囲気のなかで、代表曲、レア曲、カバー曲などバラエティに富んだ楽曲を歌ったAimer。歌うことに対する強く、深い思いを実感できる、きわめて貴重なライブだったと思う。
TEXT BY 森朋之
ファンクラブ限定ツアー
「Aimer Fan Club Tour “Chambre d’hôte”」
2023年11月2日(木) KT Zepp Yokohama
セットリスト
1.Ref:rain
2.群青色の空
3.Life is a song
4.花の唄
5.Ash flame
6.ONE AND LAST
7.空噪wired
8.I know U know
9.Resonantia
10.残響散歌 (Long Intro ver)
11.キズナ
アンコール
En1.Blinding Lights / The-Weeknd
En2.Lemon / 米津玄師
En3.白色蜉蝣
リリース情報
2023.12.6 ON SALE
SINGLE「白色蜉蝣」
Aimer OFFICIAL SITE
https://www.aimer-web.jp/