■「最高だったね今日。ずっと袖で見させてもらいましたけど、泣いていいのかどうしたらいいのか、もうほんと最高でした(笑)」(高橋優)
高橋優が主催する地元密着型フェス『秋田CARAVAN MUSIC FES 2023』(以下、ACMF)が2023年も開催された。秋田県内にある13の市を巡るキャラバン型フェスであるACMF、今回は潟上市・元木山公園に設けられた特設ステージを会場に、2日間で約1万8,000人(主催者発表)の観客が訪れた。
ライブアクトはもちろん、開場中BGMで流れる秋田民謡や県出身著名人のコメントやフードエリアなども含めて、深い秋田愛に満ちた本イベント。秋田の夏の終わりを告げる風物詩となった感もある6回目のACMF、2日間の模様をレポートする。
■DAY1 9月16日(土)
鈴木雄大・潟上市長の開会宣言が行われたオープニングセレモニーでは、赤いハッピを着た高橋優が登場。毎回弾き語りで1曲歌うのが恒例となっているが、今年はこのフェスのテーマソングとしてすっかり定着している「秋田の行事」をバンドで披露した。
ACMFには2つのステージがある。白神STAGEと鳥海STAGEだ。秋田県の南北に位置する山脈の名前を冠した前者ではアーティストによるライブが、後者ではお笑い芸人によるショーが繰り広げられる。
「Shout Baby」で幕を開けた緑黄色社会は、秋田での初パフォーマンスだった。「秋田の魂を感じてみんなと一緒になりたいと思います」という長屋のMCのあとに披露したのは「陽はまた昇るから」。続く「想い人」では、大切な人への想いが確かな言葉と切ないメロディになって秋田の空に溶けていった。9月6日にリリースしたばかりの新曲「サマータイムシンデレラ」、そして「Mela!」と一気に会場を盛り上げる。ラストは「キャラクター」のファンキーなグルーヴがオーディエンスの体を揺らした。
SKY-HIはDJ+ドラム+ギターという編成で登場。「Happy Boss Day」の曲間で、「せっかく遊びに来たんだ。体動かしたいんじゃないかい? 飛ぶぞ!」とオーディエンスを盛り上げる。「Double Down」ではドラムとバトルするようにラップするセクションからダイナミックなコーラスでオーディエンス全員の手が上がり、巨大クラブさながらの熱気に。続いて「新曲やります」とさらりと言って超攻撃的なナンバー「Sarracenia」を披露。最後は「The Debut」の真っ直ぐすぎる言葉を残してステージを終えた。
フジファブリックの1曲目は「若者のすべて」。イントロと同時にオーディエンスからクラップが鳴らされる。この季節にこれ以上ぴったりくる曲もないだろう。そこから「Sugar!!」、そして「楽園」を挟んで「徒然モノクローム」と続く流れは、バンドの重要な時期までの道のりを凝縮しているようで気持ちが揺さぶられる。ギターリフでのキメの振りをオーディエンスと練習して臨んだラストは「ミラクルレボリューション No.9」。ニューウェイブにディスコサウンドを掛け合わせたような癖になるサウンドで会場を沸かせた。
鳥海ステージでは、こがけん、秋田出身の岡部大を擁する3人組コント師・ハナコ、そしてチョコレートプラネットがネタを披露して会場を大いに沸かせた。チョコプラのTT兄弟が秋田CARAVAN MUSIC FESに発見した最大の「T」は、高橋の「T」!
SEとともにステージに現れたのは高橋優。「絶頂は今」から始まったステージは、今日1日を紡いできてくれた全アーティストへのリスペクトと、一緒にこのフェスを作ってくれたオーディエンス、スタッフへの感謝が目一杯詰まったものだった。「最高だったね今日。ずっと袖で見させてもらいましたけど、泣いていいのかどうしたらいいのか、もうほんと最高でした(笑)。潟上市にこんなすごい人たちが来てくれるなんてね。自分もすごいライブができるように精一杯やります」。
MCに続いて披露したのは6月にリリースした「spotlight」。誰もの日常の些細な、だけど素晴らしい瞬間に光を当てる歌詞がオーディエンスに勇気を与える。高橋優の歌が理屈抜きに響くのは、例えば次のMCからもよくわかる。そこには彼の音楽の源泉がはっきりと示されている。
「今日を無事に迎えることができてうれしく思ってるんですけど、大きな出来事が秋田にはありました。7月の豪雨災害です。もしかしたら今日ここにいる人たちにも被災した人がいるかもしれない。来られなかった人もいるかもしれない。ほんのちょっとでもそういう人たちの力になれる曲が書けたらなと思って作った曲です」。
「はなうた」は、リアルタイム・シンガーソングライター・高橋優が実際にボランティアとして被災地に駆けつけ、被災者の方々の話を聞いた経験を元にして出来た、まだリリースもしていない曲だ。
後半は、「虹」「泣く子はいねが」、そして「明日はきっといい日になる」といったライブアンセムとも言える楽曲を連続して投下。
「この出会いを、今日の繋がりを、また明日へと繋いでいけますようにという願いを込めて」。
この日の最後に披露したのは「ピーナッツ」。確かな想いを明日へ――。『秋田CARAVAN MUSIC FES 2023』に4年ぶりにオーディエンスの声が戻った。
■DAY2 9月17日(日)
この日はいきなりのサプライズで幕を開けた。
「今日、実は、あの曲を一緒に歌いたいということで、ある方をお呼びしていいでしょうか?」と高橋が呼び込んで登場したのは、藤あや子(仙北市出身)。いきなりの大物歌手の出演に会場がどよめく。着物に赤いハッピというスタイルで披露するのはもちろん「秋田の行事」。いきなり豪華なコラボが実現して、2日目のACMFがスタートした。藤あや子は自身の出番のあと、 ACMFに寄せてこんなメッセージを残してくれた。
「元気なパワーをすごく感じることができました。まだまだこれから秋田のいいところを発信していきたいと思います」
イントロからギターリフが印象的な「90’S TOKYO BOYS」で、OKAMOTO’Sが秋田に降り立つ。「我々14年目なんですけど、今後ないでしょうね、藤あや子さんの次というのは」(ハマ・オカモト)。オカモトショウがオーディエンスを煽ると「SEXT BODY」へ。強い日差しに照らされた会場が“あーい? あーい!”のコール&レスポンスでひとつになる。最後は、良いことも悪いことも含めてそのすべてが美しいという想いを込めた「Beautiful Days」のメッセージが会場に響いた。
「いつか同じステージに立てたらいいなと思って、今日はひとつ夢が叶いました」という橋口洋平(Vo&Gt)のMCからwacciのライブは始まった。1曲目は「駱駝」。高橋優の原点とも言える曲のカバーだ。途中から高橋も歌唱に加わってコラボが実現した。珠玉のバラード「恋だろ」で会場を感動に包み込んだあとは、「夜を越えて」「フレンズ」「最上級」と連続でたたみ掛けた。「最上級」ではオーディエンスを左右半分に分け、全員でコーラスをハモった。ラストの「大丈夫」まで、最高のポップスを聴かせてくれた。
ゴールデンボンバーは1曲目「#CDが売れないこんな世の中じゃ」からいきなりタオルの華が咲き乱れる。MCで喜屋武は謎のきりたんぽ愛を告白し、樽美酒が田沢湖のたつ湖像をもっと大事にせよと声をあげたのは完全に前フリ。「抱きしめてシュヴァルツ」の間奏で、喜屋武が仕込んだ大量のきりたんぽを頬張り、樽美酒は自らの肉体美を曝け出してたつこ像になりきった。ケルト音楽を取り入れた「Yeah!めっちゃストレス」、ユーロビートの「令和」などパフォーマンスだけでなく音楽的にもなんでもありのステージはただただ楽しい。ラストはもちろん「女々しくて」。スクールメイツ風ダンスで締めた。
この日の鳥海ステージには、お見送り芸人しんいち、もも、レイザーラモンRGの3組が登場。ギターを使った毒のある漫談、互いを「◯◯顔」と言い合う漫才、そしてRGがあるキャラに扮してクイーンの「ボヘミアン・ラプソディー」に乗せて放った「秋田あるある」は…秋田はTBS系列の局がないから、このキャラ(ドラマ『VIVANT』のチンギス)やっててもわからない。
「裸の王国」「ルポルタージュ」とアグレッシブな2曲でこの日の高橋優のステージは始まった。「今日のACMF2023、2日目はいろんな意味でヤバかったね(笑)。主催者として言わせていただければ、最初のOKAMOTO’S からRGさんまで、本当にポジティブな意味で、今まででいちばんムチャクチャな日になってます!(笑)。もう何回もブチ上がって来たと思うけど、まだいけるでしょ? 最後までよろしくお願いします」。
「spotlight」ではオーディエンス全員が手を上げて左右に振り、「HIGH FIVE」ではそのままクラップになる。自然に会場から発生したライブのグルーヴが西日に照らされて目に見えるようだ。
昨日に続きインスタライブで一度披露しただけの未発表曲「はなうた」の前にはこんな言葉で想いを語った。「今年の夏は笑顔だけでは片付けられない出来事が秋田にはありました。7月の豪雨被害です。僕も被災地に行って実際に被災された方々や、そこで頑張っている人たちに接して、そうやって頑張っている人たちに何かできることはないかなと思って。今も考え続けています。頑張ろうと思っても頑張れない現実があったり、そういう人たちのために書いた曲です」。“あなた”に語りかけるような歌詞が胸を打つ「はなうた」を弾き語りでパフォーマンスした。
「象」「現実という名の怪物と戦う者たち」から始まった後半パートでは一気にスパートをかける。「泣く子はいねが」ではステージを降り、会場を走りながら歌う姿も。高橋優のライブにおける最も純粋で核になる部分を凝縮して堪能できるのは、やはりこのACMFなのだと思う。
「これまでもACMFに来てくれた方もいます。今回はじめて来たっていう人たちもいます。この出会いを繋げていきたいと思います」と言って最後に披露したのは「ピーナッツ」。来年は7回目となるACMF、次の街へ想いは繋がっていく――。
メンバーを送り出したステージに残った高橋優からふたつ、サプライズの発表があった。まずは、自身初の全国47都道府県ツアーの開催。『47都道府県 弾き語りツアー 2023-2024「ONE STROKE SHOW〜一顰一笑〜」』。12月15日の神奈川・相模女子大学グリーンホールを皮切りに、47会場49公演、自身の原点である弾き語りスタイルでのツアーとなる。
なお、本公演は、高校生・中学生を対象とした学生割引、小学生以下を対象としたキッズ割引を会場でのキャッシュバックで実施することが決まっている。チケット最速先行受付は9月18日から高橋優オフィシャルファンクラブ先行にて開始となる。
「一顰一笑(いっぴんいっしょう)」とは少し顔をしかめたり、ちょっと笑ったりするといったわずかな表情の変化を意味する。リスナーのもとへ会いに行き、直接歌を届けることを信念とする高橋優のパフォーマンスを、近くの会場へぜひ足を運んで体感しよう。
そして、NHK Eテレアニメ『ドッグシグナル』のオープンニングテーマとして書き下ろしたデジタルシングル「雪月風花」を10月25日にリリースことも発表。アニメ『ドッグシグナル』の初回オンエアは10月22日17時。原作は、自らも愛犬家であるみやうち沙矢によるマンガ「DOG SIGNAL」。犬たちと人間の深い繋がりを描き、SNS などで大きな反響を呼んでいる。
TEXT BY 谷岡正浩
PHOTO BY 新保勇樹
■高橋優 コメント
◇「雪月風花」について
たとえば10年間、一緒にいられる大好きな友達に巡り会えたとして。今年が終わればあと9回の春、来年にはあと8回の夏。大好きだけれど、段々と一緒にいられる時間は少なくなってゆきます。あと何度同じ季節を迎えられるだろうかと数えるほどに、いつか来る別れを憂いている場合ではなく、今ここで伝えられるだけの想いを伝え、分かち合えるものは分かち合いたい。一緒にいられる今を、一秒でも長く大切にしたいと思うのではないでしょうか。アニメの原作を読ませていただき「雪月風花」という楽曲を作りました。
愛おしい存在に、ただ愛おしいと伝えることがどれほど大切かを改めて思い出させてもらえる温かな作品でした。翌日瞼が腫れるほど泣いて読み進めたシーン多数。
何がこんなにも心を揺さぶるのか。
原作者の手腕と言えばそれまでですが、登場する人と犬との物語の中に、誰しもきっと心当たる「まごころ」が描かれているからではないかと感じました。相手のために尽くそうという純粋な気持ち。
そんな素晴らしい作品に花を添えられるような楽曲を作りたいと思いました。アニメと共に、リズムに体揺らし、聴いていただけたら幸いです。
リリース情報
2023.10.25 ON SALE
DIGITAL SINGLE「雪月風花」
『47都道府県 弾き語りツアー 2023-2024「ONE STROKE SHOW ~一顰一笑~」』特設サイト
https://fc.takahashiyu.com/feature/one_stroke_show
高橋優 OFFICIAL SITE
https://www.takahashiyu.com/