■「みんなをもっと大きいところに連れていけるように、30代からもやっていきたいと思ってます。長いマラソンになると思うので、みんなもケガしないようについてきてくれたらうれしいです!」(山本彩)
山本彩の全国ライブハウスツアー『SAYAKA YAMAMOTO TOUR 2023 – & -』のファイナル公演(追加公演)が8月3日、東京・Zepp Haneda(TOKYO)で開催された。3年ぶりのオリジナルアルバム『&』を携えた今回のツアー。この日のライブで彼女は、観客の熱狂的な歓声を受けながら、アーティストとしての魅力をダイレクトに見せつけた。
オープニングを飾ったのはアルバム『&』の収録曲。ラップを取り入れたボーカルと強靭なバンドサウンドが共鳴する「Don’t hold me back」、“私は最強だ!”という強いエモーションが突き刺さる「Bring it on」。激しくギターをかき鳴らしながら凛とした歌声を響かせる山本彩のパフォーマンスによって、観客のテンションは一気に上がっていく。
アコギに持ち替えて披露されたのは、山本自身が敬愛する阿部真央の書き下ろし曲「喝采」。フロアに伸びる花道に進んだ山本は、オーディエンスとしっかり目を合わせながら、心地よい一体感へとつなげた。
「ツアーファイナルへようこそ、山本彩です!」と挨拶すると、会場全体から凄すさまじい歓声が沸き起こる。「みんなの声の聞かせてもらっていいですか? 女性(限定)エリアのみんな! 男子負けてないよね!」と観客の高揚感をさらに引き上げたあと、「unreachable」へ。
ラテンの雰囲気を感じさせるサウンドとともに、官能性を滲ませるボーカルに強く惹きつけられる。ハンドマイクによるセクシーなステージングからは、シンガーとしての魅力がはっきりと伝わってきた。
そして、ライブ前半でもっとも心に残ったのは、「劣等感」だった。マイナスの感情に苦しめられながらも、“ムカつく程に今日も劣等感に生かされる”というフレーズにたどり着く。自身のリアルな感情を刻み込んだ楽曲をステージで解き放つ姿は、まさに圧巻だ。
伸びやかな歌声が印象的だった「風の日」を披露した後のMCコーナーでは、山本、バンドメンバーがツアーの思い出を語り合った。バンドメンバーの小名川高弘(Key、Gu)、草刈浩司(Gu)、SATOKO(Dr)、奥野翔太(Ba)、Ayasa(Violin)、asami(Cho)は、1stツアーの時期から山本を支えてきた“チームSY”。演奏の素晴らしさはもちろん、トークからも気の置けない関係性を感じることができた。
「そんじゃあ、夏っぽい曲をやりたいと思います」という言葉に導かれた「蛍」(山本のギターソロも素敵!)からは、山本彩の多彩なボーカル表現を体感できるシーンが続いた。
理想と現実の間で揺れながらも、“きっとなりたい自分になれる”という思い美しいファルセットとともに描いた「ゼロ ユニバース」。大切な存在だった“あなた”との別れを抒情的に映し出す「追憶の光」。そして、異国情緒漂うメロディがゆったりと広がった「ラメント」。エモーショナルなロックチューンの印象も強いが、山本の音楽性とボーカリゼーションはきわめて多彩だ。
「まだいけるか、東京!? 後半いくぞ!」というシャウトとともに打ち鳴らされたのは、激しさと切なさを兼ね備えたロックナンバー「JOKER」。さらに「HAPPY HAPPY Party Boy,Happy Happy Party Girl」の大合唱からはじまった「Weeeekend☆」、“壁にぶつかっても、自分を信じて突き進め”というメッセージが真っすぐに伝わる「TRUE BLUE」とアッパーチューンを続け、ライブはクライマックスへ。
本編ラストはアルバム『&』収録曲「ドラマチックに乾杯」。山本とオーディエンスがタオルを振り回しながら楽曲を共有し、圧倒的な解放感を生み出した。
“彩コール”に導かれて再びステージに登場した山本彩は、今回のツアーを振り返りながら、観客にゆっくりと語り掛けた。
「“最高のステージだ”と思えるのは、みんなの力のおかげ。こうやって声を出して、騒いで。完璧な相思相愛だなって思います。今日もステージに立たせてくれてありがとう」「前々回のツアー(2020年)、前回のツアー(2021年)は完走できなかったんですよね。すごい悔しかったし、みんなに申し訳なくて。そんな思いも含めて、長かった霧のなかから抜け出せた気持ちがあって。ツアーが始まってからの2ヵ月間、めちゃくちゃ幸せでした」という言葉、会場からはこの日、いちばん大きい拍手が送られた。
さらに「自分にはすごいものがあるとか、特別なものがあるなんていっさい思ってなくて。そんな自分にもやり遂げられること、自信を持てることが、続けていればできるんじゃないかなって。みんなをもっと大きいところに連れていけるように、30代からもやっていきたいと思ってます。長いマラソンになると思うので、みんなもケガしないようについてきてくれたらうれしいです!」と未来に対する決意を口にした。
「これからの旅にピッタリな曲です」という「yonder」、そして、「明日の自分に会いに行こう」というラインが響き渡った「Are You Ready?」でライブはエンディング。彼女の最高の笑顔からは、アルバム『α』と今回のツアーに対する確かな手ごたえが伝わってきた。
シンガーソングライターとしての才能、ライブ・パフォーマーとしての魅力をダイレクトに証明した山本彩。この先のさらなるステップアップにつながる、きわめて意義深いツアーだったと思う。
TEXT BY 森朋之
PHOTO BY 佐藤祐介・半田安政
リリース情報
2023.05.17 ON SALE
ALBUM『&』
山本彩 OFFICIAL SITE
http://yamamotosayaka.jp/