『THE FIRST TAKE』への出演や、大阪服部緑地野外音楽堂でのワンマン公演など、着実にそのキャリアを伸ばしている13人組ヒップホップクルー:梅田サイファー。3月にはメジャー1stアルバム『RAPNAVIO』をリリースし、さらにその名前を確かにしている彼らが、6月に東名阪福でのツアーを敢行。本稿ではZepp Shinjuku (TOKYO)にて行われた、6月11日の最終公演の様子をレポートする。
■リスナーに対し、個ではなく『集合体』として向かう現在の梅田サイファー
ソールドアウトとなった会場の明かりが落ちると、ステージにはDJ SPI-K、トラックなどサウンド面を担うCosaqu、デザインを手掛けるHATCHがブースに登場。3人で肩を組み、円陣を組んで気合を入れる。そしてSEが流れると、R-指定/ILL SWAG GAGA/KZ/KennyDoes/コーラ/KBD/KOPERU/テークエム/teppei/pekoの10MCがステージに登場。大きな拍手が巻き起こる中、10人は客席に正対しフォーメーションを組む。ユニット名からも、また様々なインタビューでも「自分たちは『グループ』ではなく『サイファー』(注:出入り自由なフリースタイルラップの環の意味)」と自分たちを規定してきた彼らだが、フォーメーションというステージング、そして揃いのユニフォームという表現からは、「リスナーに対し、個ではなく『集合体』として向かう現在の梅田サイファー」という、彼らの自己イメージの表出をその姿からも感じさせる。
そしてKOPERUとteppeiが細かいマイク回しとユニゾンで聴かせる冒頭部が印象的な「BIG BANG」、それぞれのキャラクター性をラップを通してタイトに聴かせる「KING(RAPNAVIO VER.)」、ディスコティックなビートに乗せ、コール&レスポンスやGAGAとCosaquの掛け合いなどノリよく聴かせる「かまへん」と、アルバムの曲順通りにライブを披露。その流れはアルバムへの自信を覗かせる。
「ソールドアウトありがとうございます。今日は肉体や音楽を使って楽しんでください。みんなと遊べるこういう場所をパーティと呼びたい」というKZのMCから楽曲は「PARTY」へ続き、アブストラクトかつミニマルな音像に乗せて、それぞれの主観を強く打ち出したリリックとラップフロウを、2小節ごとに回すMC陣。そういった集団ラップのライブらしいワサワサ感を形にしつつも、ラストではメンバー全員が倒れ込む中、スポットライトを浴びるpekoが独唱するという構成で、しっかりと「オチ」をつけるのも彼ららしく、同時に「集団としての表現」をしっかりと提示する。
■同じユニットのメンバーに対し、自分のスキルを叩きつけるような対抗心が、それぞれのラップからヒシヒシと感じられる
「(梅田サイファーが集っていた大阪は梅田駅の)歩道橋のヴァイブスのまま、自分たちはこの場所に立てました。俺らはラップする、音楽を聞かせるのが仕事、お客さんはぶち上がるのが今日の仕事。どこまで上がれるか、どこまでマジでハイになれるか!」というR-指定のコールから、MVの制作も含め、現在の梅田の快進撃の原点となった2019年リリースの楽曲「マジでハイ」へと展開し、ここからは参加メンバーがロングヴァースを蹴ることで、「ソロMCとしての強度」を提示する楽曲が中心となるセクションに突入。「マジでハイ」のライブバージョンにはteppeiが参加し、自らの経験を織り交ぜた内容と力強く芯の太いラップを聴かせる。そしてR-指定/KennyDoes/KOPERUが過去に結成していたユニット:コッペパンの3人による「レインメーカー」から、「トラボルタカスタム」へと展開。低い温度のラップの中にシリアスな視点を折り込んだヒリつく内容を聴かせるKZ、ライブバージョンに参加し珍しくテンション高めのラップを披露するpeko、タフなラップとライミングで楽曲の重心を下げるKBD、細かい譜割りと高速フロウで畳み掛けるR-指定と、同じユニットのメンバーに対し、自分のスキルを叩きつけるような対抗心が、それぞれのラップからヒシヒシと感じられる。
続く「ビックジャンボジェット」でも、縦のビートを意識したラップでテンションを高めるKennyDoes、リズミカルな言葉の刻みから生まれるノリの良さとメロディアスさを共存させるKOPERU、ビートのハイテンションさを更に倍加させるフリーキーなラップとフロウで煽るテークエムと、その「ライバル心」がそれぞれのラッパーのスキルを高めてきたことが、ライブを通して感じさせられる。そういった「自意識」とは極北にあるような、咆哮ともいえるシャウトとラップを聞かせるGAGAのプリミティブすぎるフックの破壊力と、GABBAキックとドラムンベースビートの相乗効果で会場が一気に爆発する怒涛の展開もまた、梅田サイファーらしい。そしてMVも公開されたばかりの「アマタノオロチ」や、「日本の言語では表せられない『とめられらんない』状態になってます!」というR-指定の言葉に続いて、「トメラレランナイ」では演者も観客もタオルを回し、会場が一体化した。
■後半戦は落ち着いたビートの中に、丁寧に言葉と思いを紡いだ楽曲
そういったアッパーな構成から、後半戦は「環状線」や「NO.1 PLAYER」など、落ち着いたビートの中に、丁寧に言葉と思いを紡いだ楽曲が中心となり、オーディエンスもゆったりとそのラップとビートに乗っていく。そしてラストはアルバムの最終曲である「KILLING TIME」を披露し、ポップな色合いでライブは一旦幕を閉じた。
アンコールでは、ライミングやフロウ、言葉遊びというラップの根源的な魅力を提示する「真・リズム天下一武道会」や、テークエムのアルバム『THE TAKES』に収録の「Poltergeist」(この曲は参加メンツの「それぞれのメッセージ」がかなり強烈なのでチェックされたし)などを披露。また、『RAPNAVIO』のLP盤と、服部緑地野外音楽堂でのライブの映像作品化というアナウンスには、大きな拍手が上がる。そしてライブは「梅田ナイトフィーバー’19」でラストを迎え、観客に向かってそれぞれ感謝を述べるメンバーの晴れやかな顔からも、この日の充実ぶりがしっかりとうかがい知ることができた。
■2時間強があっという間に感じさせられたバラエティと密度
様々な荒波を乗り越え完成した『RAPNAVIO』と、その楽曲を含めてこれまでの梅田の動きを総括するような今回のツアー。2時間強があっという間に感じさせられたバラエティと密度、そして「平均年齢34~5歳を超えてる我々ですが、これからもええなと思えるものを届けたいと思います」というKZの言葉からも、この先の洋々たる梅田の未来を感じさせられ、ますますその動きに期待させられる刺激に満ちたライブは、こうして幕を閉じた。
TEXT BY 高木 “JET” 晋一郎
PHOTO BY Hiroya Brian Nakano
“NEW ALBUM “RAPNAVIO” RELEASE ONE MAN TOUR”
2023年6月11日 Zepp Shinjuku (TOKYO)
【SET LIST】
01.BIG BANG
02.KING (RAPNAVIO VER.)
03.かまへん
04.PARTY
05.GOD’S SON
06.マジでハイ
07.レインメイカー
08.トラボルタカスタム
09.ビッグジャンボジェット
10.アマタノオロチ
11.トメラレランナイ
12.さめないうちに
13.環状線
14.Show Must Go On
15.NO.1 PLAYER
16.KILLING TIME
EN
17.真・リズム天下一武道会
18.Poltergeist
19.梅田ナイトフィーバー’19
リリース情報
2023.8.2 ON SALE
ANALOG『RAPNAVIO』
2023.8.2 ON SALE
LIVE BD / DVD『“RAPNAVIO” RELEASE ONE MAN LIVE at 服部緑地野外音楽堂』
梅田サイファー OFFICIAL SITE
https://www.umeda-cypher.com