■CDなどで新曲を聴いて来ていても、やはりライブでの生演奏の迫力とパワーは別格
3月30日の東京・中野サンプラザのステージに登場したザ・クロマニヨンズ。2月2日にスタートした全国ツアー『MOUNTAIN BANANA 2023』17本目とあって絶好調のライブで満席の会場を沸かせた。1月にリリースした新作『MOUNTAIN BANANA』の全曲を惜しげなく演奏し、さらにライブでのテッパン曲もタップリぶちこんだセットリストは最強だ。
通常はカーテンで隠れる両側も全開にしたステージに、照明で作った花道を通って4人が登場し、甲本ヒロト(Vo)が「ロックンロール!」と叫ぶと会場の熱気が一気にあがった。のっけから新曲でもツアーで歌いこんでいるヒロトの声は力強く響き、真島昌利(Gu)のリフが突き刺さる。小林勝(Ba)のベースが唸り、桐田勝治(Dr)のツーバスがフロアを揺らす。CDなどで新曲を聴いて来ていても、やはりライブでの生演奏の迫力とパワーは別格だ。たとえ初めて聴く曲でも体を動かさずにいられないのがロックロール。そんなオーディエンスに向かってヒロトは、「よく来てくれた!最後まで楽しんでいってください!」と呼びかけ、自分も楽しそうにステップを踏みながら歌っていく。マスク着用は呼びかけられているが声援はOK、始まった頃は少々遠慮がちだったシンガロングも曲が進むほどに大きく広がった。
■ザ・クロマニヨンズが案内するロックンロールのラビリンスにワクワクがとまらない
4人の後方には『MOUNTAIN BANANA』のアルバム・ジャケットと同じデザインのバックドロップが飾られ、アルバムジャケット裏と歌詞カードに描かれた不思議なキャラクターのパネルがバンドの両脇を固めている。それらをカラフルな照明が照らし出すと、不思議な密林にでも迷い込んでいくような錯覚にとらわれた。パワフルなロックンロールに導かれて山頂のバナナを目指して進めば、でんでんむしやカマキリがいるし、一反木綿がどこかに隠れているかもしれない。ザ・クロマニヨンズが案内するロックンロールのラビリンスにワクワクがとまらない。
ザ・クロマニヨンズの新作を携えてのツアーでは、いつからか収録曲順に演奏していくのが定番になっている。今回もその例に漏れず、ヒロトが「LPのA面4曲目」などと曲名を告げながら進めていく。LPとはロング・プレイの略で、アナログ盤のフル・アルバムをさす言い方だが、アナログ・レコードがブームになるずっと前からアナログにこだわり続けてきた彼ららしい一面だ。
一旦バックドロップが降ろされて雰囲気が変わった中盤、新作以外の曲はバンドもオーディエンスも少しリラックスしてフットワークが軽くなるのは当然だろう。息の合ったキレのいいビートに骨っぽいコーラスがホールに響き渡り、ヒロトのブルース・ハープとマーシーの掛け合いに大きな声援が送られた。そして再びバックドロップが掲げられると、ヒロトが「今日帰って“あー楽しかった!”と思ったら、もう1回聴いてくれ、同じ曲順で流れる」と言ったのは、ライブもCDやLPも同じとの思いだろう。曲順がわかったからといってライブの楽しみが減るものでもないし、家で聴いても曲の楽しさは変わらない。ロックンロールはどこにでもあるのだ。
■ムード満点のジャジーな間奏は、バンドの新局面
TV番組『ギョギョッとサカナ★スター』主題歌になっている「イノチノマーチ」は、まさにそれを体感させてくれた。TVで何度も流れ、CDでも聴いているのにライブで初めて聴いた感動と迫力は格別だった。また「もうすぐだぞ! 野犬!」はライブで聴くとひときわ哀愁を漂わせた聴かせる曲になっていて、冷たいコンクリートにうずくまる犬の姿が目に浮かんだ。レゲエ・ナンバーではベースが一段と重さを増し、ディレイをかけてダブ仕立てにしたボーカルが心地よい余韻を残した。「心配停止ブギウギ」のムード満点のジャジーな間奏は、バンドの新局面と言っていいだろう。
後半バックドロップが下されキャラのパネルも片付けられると、ヒロトは「何もなくてもロックンロールできるよ。みんなロックンロールの楽しみわかっとる。(ステージの)この線から向こうは任せたよ。こっちは俺たちに任せてくれ! いろんなアルバムから盛り上がりそうなヤツを見繕ってやるから、盛り上がってくれ! ぶっとばしていくぜ!」
ヒロトのハープに煽られて真島もギターを掻き鳴らし、ステージ前方に進んでオーディエンスにアピールする。ヒロトの言葉に応えるようにシンガロングもオイ・コールも大きく響き、腕を振り上げ高く回し体を揺らし客席は盛り上がった。そこにヒロトは「もう一発行くぜ! でっかい声で頼むぜ!」と追い打ちをかけ、「イエー!」とオーディエンスと応酬を繰り返す。畳み掛けるように曲を続けて本編を終えた彼らに盛大なアンコールが送られたのはいうまでもない。
■オーディエンスの大きな声援を受けると、百戦錬磨の彼らでもライブの熱量が格段に上がることを実感
アンコールに応えてヒロトは「盛大なアンコールありがとう! 特別だったな、楽しかったな! ロックンロールはいつでも特別です」とお馴染みのロックンロール・ナンバーを連発。思い切り楽しんでいるオーディエンスの大きな声援を受けると、百戦錬磨の彼らでもライブの熱量が格段に上がることを実感。いつでも特別な彼らのライブが、さらに特別に感じられた夜だった。
TEXT BY 今井智子
PHOTO BY 柴田恵理
ザ・クロマニヨンズ OFFICIAL SITE
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