■「100%Anlyが生み出している音」で、バンドセットのような音を作り上げる
Anlyの全国ツアー『“Loop Around the World”〜TRACK4 / QUARTER TOUR〜』の東京公演が12月1日、東京 EX THEATER ROPPONGIで行われた。
ステージの上には、前回の弾き語りツアー『“いめんしょり”-Imensholy Tour 47-』と同じく、ギターを持ったAnlyひとり。違うのは足元に配置されたルーパー(エフェクター)を駆使し、多重録音を行いながらパフォーマンスしていくスタイルだ。今やAnlyの代名詞ともいうべきこのループペダルライブ。アコギの低音=ベース、アコギのボディを叩く=4つ打ちのバスドラム、ブラッシング=スネアとハイハット、アコギの高音=フレーズ、そしてコーラス上下、の音を重ねていき「100%Anlyが生み出している音」で、バンドセットのような音を作り上げる。何度観てもまさに“音の職人”という感じで見入って、聴き入ってしまうのだから、初見の人の衝撃たるや…と、オープニングナンバーの「VOLTAGE」を聴きながら考えていた。客席はすでに総立ちだ。
TikTok合算累計再生回数12億回を突破し、注目を集めている「カラノココロ」で伸びのある高音を響かせる。そして「We’ll Never Die」と前半にライブ鉄板曲を持ってきて、すでに客席は熱を帯びている。「100%Anlyが生み出していく音で音楽が出来上がっていく時間も味わって」と語り、音を重ねていく時間、音楽が生まれる瞬間を目の当たりにできる、Anlyの感性のすべてに触れることができる空間だ。ギターをフェンダーのアコスタ ソニック ジャズマスターに持ち替え「CRAZY WORLD」を披露。アコギとエレキの音を重ね、当たり前だが音源よりも生々しくどこか民族音楽的な薫りを漂わせながら、音が“強度”を増していく。そして“Welcome to the Crazy World/ 狂ってるこの世界に僕は飲み込まれない”と、このクレイジーな世の中に向け強いメッセージを突き刺す。ひとりなのに圧倒的なパワーだ。
「IDENTITY」はオルタナティブロックの音像で、ざらざらした心の内側を表現したこの曲の本当の温度を伝えてくれているようだ。
■一音目、ひと言目からしっかりと聴き手の心に届ける
「KAKKOII」「Homesick」と、より内省的なことを歌った楽曲をギター一本で歌い、客席はさらにひこまれる。音を重ね、紡いでいく“職人的”な佇まいが印象的だが、その音に乗せ届ける歌こそが、彼女の最大の武器だ。アタックが強いその歌は、一音目、ひと言目からしっかりと聴き手の心に届ける。ロックもバラードもどんなテンポの曲でも、彼女がひと声発した瞬間、確実に聴き手の心を捉える。そして豊かな表現力で、歌の世界観を余すことなく感じさせ、心の中に置いていく。
「KOMOREBI」に続く「Angel voice」では、静かに思いが溢れてくるような、美しい声、ファルセットを聴かせてくれる。彼女の声の様々な面にスポットが当てられ、声の立体感が際立ってくる。一曲一曲、聴き手を深いところまで連れて行ってくれる。「Do Do Do」「FIRE」とループペダルライブでは定番曲を披露する。引き算の美学ともでもいうべき、ミニマムな音像を作り上げメッセージをぶつけていく。それにしてもシンガー、プレイヤー、そしてコンダクターとして、最小人数で同期も使わず、豊かな音を奏でる“Anly楽団”を操るようで、もう圧巻という言葉しか浮かんでこない。
■92歳の祖母から聞かされ、感じたことを、次代に伝えていかなければいけないという強い決意
4thアルバム『QUARTER』を象徴する一曲といえる「Alive」は、沖縄という地に生まれ、育ち、彼女自身が92歳の祖母から聞かされ、感じたことを、次代に伝えていかなければいけないという強い決意を感じさせてくれる曲だ。優しいコーラスとどこか崇高さを感じるギターの音が重なり生まれる力強さと優しさ。そこに突けるような声で英詞と日本語詞がミックされたメッセージを歌う。コロナ禍で表現者として手にした新たな思いが詰まっているかのような、底知れないエネルギーを感じさせてくれた。そして“愛の歌を口ずさもう/世界が手を繋ぐように/武器を置いて心を交わそう”というストレートなメッセージが響き渡る本編ラストの「Welcome to my island」へと繋がる。
鳴りやまない拍手に応え再び登場したAnlyを迎えたのは、総立ちのファンと彼女のツアーには欠かせない、ファン有志の手による横断幕だ。心を豊かにしてくれる彼女の音楽と、Anlyへの感謝が込められている。アンコール1曲目は「Saturday Kiss」。“見知らぬ街のどこかで/この海や空の向こうで/あなたの幸せを願う人がいる”と歌う、ギター一本で歌う彼女の声が、光になって射してくるような、さわやかな幸せソングだ。そしてラストは「歌うたびに違う景色が見える曲です。皆さんもそれぞれの景色を楽しんで」と「星瞬~Star Wink~」を披露した。
■Anlyの歌は進化を重ね“深化”し、ギターとルーパーで大きな世界に連れて行ってくれる
Anlyにとってルーパーは、ストレートにすべての想いを届けるための武器なんだということを改めて感じさせてくれたライブだった。8年目に突入したAnlyの歌は進化を重ね“深化”し、ギターとルーパーで大きな世界に連れて行ってくれる。
2023年1月22日には、渋谷 duo MUSIC EXCHAGEでバースデーライブ『Anly 〜2ROCK祭〜』をバンドセットで行なうことを発表した。この日のライブとはまったく違うライブになるはずだ。バンドのアンサンブルとAnlyのパワフルな歌が交差し生まれるグルーヴが楽しみだ。
TEXT BY 田中久勝
PHOTO BY 黒崎健一
『“Loop Around the World”〜TRACK4 / QUARTER TOUR〜』
2022/12/1 東京 EX THEATER ROPPONGI
セットリスト
1.VOLTAGE
2.カラノココロ
3.We’ll Never Die
4.CRAZY WORLD
5.IDENTITY
6.KAKKOII
7.Homesick
8.KOMOREBI
9.Angel voice
10.Do Do Do
11.FIRE
12.Alive
13.Welcome to my island
encore
14.Saturday Kiss
15.星瞬~Star Wink~
ライブ情報
Anly ~2ROCK祭~
[2023年]
1/22(日) 渋谷 duo Music EXCHANGE
Anly OFFICIAL SITE
https://www.anly-singer.com