TEXT BY 永堀アツオ
PHOTO BY MASANORI FUJIKAWA
■私たちが、たくさんの蝶や虫が群がるライトトラップになって
リーガルリリーが7月5日(火)にZepp DiverCity(TOKYO)で全国ツアー『Light Trap Trip』のファイナル公演を迎えた。
たかはしほのか(Vo、Gu)、ゆきやま(Dr)、海(Ba)からなるスリーピースのロックバンド、リーガルリリーは今年1月19日(水)に2枚目のフルアルバム『Cとし生けるもの』をリリースし、1月30日(日)から2月8日(火)にかけて、東名阪ツアー『Cとし生けるもの』を開催した。タイトルにある“C”とは、電子の配列の違いによって“ダイヤモンド”にも“黒鉛”にもなる“炭素”の元素記号のこと。私たち人間も他者との結びつき方次第で輝きは変わっていく、「自分で光りかたを探していく生き物である」という思いが込められていた。さらに、彼女たちは、『Cとし生けるもの』の世界観をより深く体感できるコンセプトツアー『Light Trap Trip』を開催。4月23日(土)の京都公演を皮切りに、全国13ヵ所を回るバンド史上最大規模のツアーとなっていた。
最終公演のアンコールでは、2ndアルバムの収録曲「セイントアンガー」の“みんな光りかたを探していた”という歌詞から名付けられたツアータイトルの意味が、発案者の海から「昔開催したツアーに“羽化する”という公演があって。蝶々が、羽根が生えて飛ぶという意味だったので、今回は私たちが、たくさんの蝶や虫が群がるライトトラップになって、皆さんを集めたいと思ってつけた」と明かされた。
『Cとし生けるもの』と『Light Trap Trip』というふたつのツアーの根底にはともに“光”というテーマがあったのだが、強く眩い光を感じたのは前者の方だった。筆者は中野サンプラザ公演を観覧したのだが、数多くのライトに照らされた3人は大海を渡る豪華客船の先端に位置する甲板で演奏しているように見えた。ホールという特性や、スモークが焚かれていたことも関係しているかもしれない。霧が出ている夜にひとりで海岸沿いを散歩していたら、真っ暗な海からこちらに向かってライトを照らされているような感覚を受けたライブだった。特に、“輝きを放て”と歌う「蛍狩り」から“光りかた”というフレーズが際立っていた「セイントアンガー」までの終盤の流れは会場を満たす光とともに、深く記憶に刻まれることとなった。
そして後者で感じたのは、たかはしの言葉を借りれば、「暗がりにしか見えない光」だったのだが、途中からは、光よりも、光が照らす影に焦点を当てているように感じた。しかし、そのことにはっきりと気がついたのは、13曲目「GOLD TRAIN」を演奏したあとだった。
この日の会場は、入り口から照明が少し落とされており、薄暗いフロアには開演前のBGMとして川のせせらぎが流されていた。この時点でイメージしたのは、初夏の夜、綺麗な水が流れる川沿いで淡い光を点滅させる蛍だった。そして、オープニングナンバーは、前ツアーと同じく、アルバムの1曲目である「たたかわないらいおん」。たかはしはパワフルなビートの上をゆらゆらと揺れながら、拳を上げて盛り上がる観客の心に向けて、“目の前の暗がりは1人で守るんだ”というメッセージを伝えた。そして、会いたいという気持ちが涙と共に溢れ出てくるような「風にとどけ」で、凝り固まった心のこわばりをときほぐし、「東京」では激しいバンドアンサンブルと身体をのけぞるほどのプレイで会場の熱気を一気に上昇させ、闇に向かって“照明弾”を思いっきり撃ち放った。
私は私の世界の実験台であると歌う「1997」、自分の心は自分の体という容れ物に入ってると認識している「きれいなおと」の2曲は、フロアはナイトクラブのようにカラフルで踊れるライトが照らされていが、この日のセットリストでは、もっとも深い闇の中を表現していた。大きな星をバックにたかはしがシルエットとなった「ほしのなみだ」、満月の夜に旅立った君がくれた美しくも恐ろしい言葉を胸に、誰もいない遠く静かな場所へと向かう「ぶらんこ」と、続編のような朗読。ダイナミックな音の渦の中で、幻想的な風景が繰り広げられていく。メンバーの顔が見えないほど小さい、まさに蛍のような灯りの中で“輝きを放て”と繰り返した「蛍狩り」。アウトロでは、私という名の国の国家のようなメロディが奏でられ、私の頭の中の戦場が激しさを増していく。「ジョニー」で“ばかばっかのせんじょう”に出て、「うつくしいひと」ではレクイエムを歌い、「9mmの花」では行進しながら銃弾飛び交う国境を越え、爆撃機のような残響音を経て、「アルケミラ」で帰還して、眠りにつく。“おやすみ世界/また明日。”というフレーズによって1日が終わるとともに前半である第一部が締め括られた。
■視点が一転し、光が照らす影の方に移った
再び川の音が流れ始め、虫の声も聞こえてくる中で、ステージ後方のスクリーンが開いた。いよいよ、本編の13曲目「GOLD TRAIN」である。閃光が走った一瞬、たかはしはスクリーンに映る自分の影に目を向けた。そして、目の前に東京の夜景と星空が広がる「惑星トラッシュ」で小田急線に飛び乗り、中央線に乗り換えた「教室のドアの向こう」では、メンバーには正面から光が照らされており、スクリーンには3人が演奏する影が映し出されていた。ここで、一観客としては、視点が一転し、光が照らす影の方に移った。この転換が本ツアーのハイライトだったように思う。その後、「中央線」で中央線を降り、環七通りを悶々と彷徨ったあとのMCで、たかはしが本コンセプトツアーについてこう語った。
「今まで、光について、たくさん曲を書いていたなと思いました。そんな光の曲をセットリストのいろんな場所に散りばめてみました。このツアーがあって、もちろん光のことは、たくさん考えて歩いてきたんですけど、おひさまが照っているときに、自分についてくる影がずっといて。光がある場所に、私だけの影がずっとついてきてくれて。色は黒なんですけど、その黒の中には無限の色の可能性が凝縮されていて。私の色をたくさん背負っているんだなって、自分の影を見て、そう感じました。そんな暗闇に支えられているんだなって、初めて思いました。いろんな色が入った、いろんな人を支えている黒についての曲を歌います」
そんなMCを経て歌われた「セイントアンガー」は、まさに生きとし生けるものすべての“僕ら”の生活を照らす光と影を描いた曲だ。その音楽の中には、“私”や私の影である“君”だけでなく、少年少女やホームレスのおじさん、野球選手もいる。疲れた身体を引きずりながら家路につき、外から見た家の窓の光が灯っていることに安らぎや喜びを感じるようなストーリーが脳内で展開していった。続く、インディーズ時代からの人気曲「リッケンバッカー」と最新アルバムでも最後を飾っていた「Candy」はいわば、光と影の物語のエンドロールだ。心の目である窓は開け放たれて光が差しており、心の中にはその光によって作られた影ができている。
■蝶々が羽化し、光へと集まったあと、果たしてどこに
アンコールではバンド史上最大規模のツアーを無事に完走したことを振り返り、ベースの海が「うれしいです。ツアー楽しかったね」と笑顔を見せると、ドラムのゆきやまも「充実したツアーになりました」と感想を述べた。そして、“恋と戦争”という、彼女たちにしかないテーマが浮かぶ新曲「ノーワー」が披露された。リーガルリリーは寓話的な言葉とピュアな歌声、そして、ラウドな演奏を武器にリアルな世界の矛盾に切り込んでいく。夜はまだ進んでいくのか?夜明けはやってくるのか?「せかいのおわり」では、歌詞とリンクするようにフロアのそこかしこをサーチライトが飛び交い、サイレンが鳴り響いた。地球を諦め、月への移住していく登場人物たちを見つめながら“かがやく。いきたい”というフレーズをこぼした彼女たちは、ノイジーな轟音を残して、ステージをあとにした。蝶々が羽化し、光へと集まったあと、果たしてどこに向かっていくのか。彼女たちの物語性や風景感、乱調の中から浮かび上がる抒情的な美しさはライブでよりすごさが伝わってくるので、ぜひ一刻も早く彼女たちのライブを体験する機会を持ってほしい。
リーガルリリー「Light Trap Trip」
2022年7月5日 Zepp DiverCity(TOKYO)
セットリスト
01.たたかわないらいおん
02.風にとどけ
03.東京
04.1997
05.きれいなおと
06.ほしのなみだ
07.ぶらんこ
08.蛍狩り
09.ジョニー
10.うつくしいひと
11.9mmの花
12.アルケミラ
13.GOLD TRAIN
14.惑星トラッシュ
15.教室のしかく
16.教室のドアの向こう
17.中央線
18.セイントアンガー
19.リッケンバッカー
20.Candy
<アンコール>
21.ノーワー
22.せかいのおわり
配信情報
リーガルリリー『Light Trap Trip』
※有料アーカイブ
配信期間:07/09(土)18:00~07/16(土)18:00
ライブ情報
『cell,core 2022』《名古屋編》
11/09(水)愛知・名古屋ボトムライン
『cell,core 2022』《大阪編》
11/15(火)大阪・BIGCAT
『cell,core 2022』《東京編》
11/17(木)東京・Zepp Haneda
リーガルリリー OFFICIAL SITE
https://www.office-augusta.com/regallily/