TEXT BY 石井恵梨子
PHOTO BY ゴンダイメグミ
■自主企画ライブ『4 COUNT』最終日、新代田FEVERで行われた待望のワンマン
「ザ・グレート・アマチュアリズム。」言わずと知れたライムスターの名曲だ。彼らが自分の表現の根幹と向き合った一曲で、リリックは“シャベクリ倒すこちとらシロウト”“ヘタな知識持つだけ邪魔んなる”などと究極の開き直り。ただし曲のグルーヴは止まることなく、初期衝動を掲げて突っ走れば“誰かが待ちきれずうたい出す”と、素敵なロマンが花開いていく。このヒップホップ・クラシックをふと思い出したのは、なぜだかTHIS IS JAPANを見た直後だった。
バンドが久しぶりに立ち上げた自主企画ライブ『THIS IS JAPAN pre. “4COUNT”』。盟友との対バンを3本、最後にワンマンという計4本のツアーである。都内と大阪限定なのでツアーと言うのかも微妙だが、そういう企画さえやりづらかったのがこの2年半だ。
メジャーデビューが2020年2月、まさにコロナ禍と同時進行。今のところシングル3枚を発表したきりのTHIS IS JAPANにとっては、ようやくステージに立てるだけでも生き返る気分だろう。どのライブハウスにも満員の観客は戻っていない。
その中で解散や活動休止を選んだ仲間も少なからずいる。それを思えば、新代田FEVERで行われた『4 COUNT』最終日、このセットリストになるのは当然だったかもしれない。
■馬鹿馬鹿しいくらいの前傾姿勢がバンドのチャームポイント
杉森ジャック(Vo,Gu)の夢と理想を詰め込んだ名曲「TALK BACK」からのスタート。絶叫しながらファズを踏み込む彼と、その背中を直接蹴り上げるようなビートを繰り出すかわむら(Dr)。思わず細胞が沸き立つ組み合わせだ。
koyabin(Gu,Vo)によるエッジの効いたリフ、意外と動き回る低音で全体を支える水元太郎(Ba)の存在ももちろん大事だが、やはり、このバンドは杉森のディストーションとかわむらの“ドドドドド!”がキモだと思う。
とにかくアガる絶叫とビートを、誰より勢いよく、後先考えず繰り出すこと。馬鹿馬鹿しいくらいの前傾姿勢は、THIS IS JAPANに限っては不思議なチャームポイントになる。猛り狂ったハードコアではない。ただ「バンドやるならデカい音が楽しくねぇ?」という感じで、それがどんどんエスカレートし、何をするにも爆笑のテンションになっていく。喩えるなら10代の部活みたいなムードがこのバンドにはあるのだ。
アッパーな3曲を一気に叩きつけ、「よく来たね。あなたがたに言いたいことがひとつだけ…」と言葉を重ね、直後、初期の必殺曲「カンタンなビートにしなきゃ踊れないのか」が出てくるところなど、ただただ爆笑のワンシーン。タイトルに反して、全然不遜に聞こえない歌詞のユーモアが場の空気をさらに熱く盛り上げていくのだ。
このあとはミドルの曲やバラードも挟み…となるなら普通だった。しかし、新曲「METAL-MAN」から「ストロボ」「グルメ」と選曲はひたすらアッパー。もともと速めのテンポがさらに上がり、ゴリゴリなヘヴィ系はさらに強度を高め、ディストーションと「ドドドドド!」の応酬が続く。箸休めの時間はまるでない。少し呆れつつ、途中から私の爆笑は止まらなくなっていた。
プロフェッショナルの頭で考えるなら、これは必殺ナンバーの無駄打ちに近いもの。少し焦らすくらいのタメを作るほうが最新シングル「トワイライト・ファズ」の輝きも増したかもしれない。でも、それをしないのが今のTHIS IS JAPANだ。他人目線のMCで杉森が語っていたが「かっ飛ばしてんなー、ディスジャパ。こんな飛ばしてるバンド、いまだにライブハウスにいるんですね」という姿勢が大事。“誰かを意識しての所信表明ではない。どうせやるならそっちのほうが楽しい、バカみたいに真っ白になってしまいたい”と、自分たち4人の理想を再確認したのだろう。
コロナ禍が浮き上がらせたのは、いわば、彼らのグレート・アマチュアリズム。向こう見ずな初期衝動を繰り返すうち、“誰かが待ちきれずうたい出す瞬間”はやってくる。後半、「Super Enough, Hyper Young」で起きた大合唱は本当に美しかった。杉森が荒々しく叫べば叫ぶほど、隣で歌うkoyabinの爽やかな存在が際立つのもいいバランスだ。歌詞に出てくる“ナンバーガール”を筆頭に、かつて憧れ続けたバンドへの愛とロマンが溢れ出していた。
THIS IS JAPANは今、とんでもなくうるさくて、シロウト臭くて、格好いいロックバンド
ほぼ暴走で駆け抜けた1時間半。アンコールに待っていたのはセントチヒロ・チッチ本人を迎えた初披露の「KARAGARA feat. セントチヒロ・チッチ(BiSH)」であった。
ずいぶん小柄なのに誰より強いロックシンガーたるチッチはもちろん格好よかったが、彼女に向かって「本物だーー」と叫んでいた杉森のアマチュア感がとてもよかった。
この曲でかわむらの“ドドドドドド!”が一際強くなっていたのもよかった。メジャーだからどうとか、共演のメリットやアプローチを考えてとか、面倒な思考は結局邪魔になる。
かといって、ヤケクソのムードは皆無、むしろこれでいいと確信している表情だったのが最もよかったところ。THIS IS JAPANは今、とんでもなくうるさくて、シロウト臭くて、格好いいロックバンドになっている。
『THIS IS JAPAN pre. “4COUNT”』 2022.7.10 @ LIVE HOUSE FEVER
1 TALK BACK
2 D.I.Y.
3 MONKEY MUSIC
4 カンタンなビートしなきゃ踊れないのか
5 悪魔とロックンロール
~MC~
6 METAL-MAN
7 ストロボ
8 グルメ
9 chemical-X
10 FREEMAN
~MC~
11 トワイライト・ファズ
12 コースアウト
13 IDLING
14 手紙
15 SuperEnough,HyperYoung.
~MC~
16 ボダレス
17 new world
18 TAXI DRIVER
19 Not Youth But You
EN
20 KARAGARA feat. セントチヒロ・チッチ(BiSH)
21 GALAXY
22 RIDE
プレイリスト
https://open.spotify.com/playlist/4rcfWitE4k7U3D0C3Pan8f
THIS IS JAPAN OFFICIAL SITE
https://thisisjapan.net