TEXT BY 荒金良介
PHOTO BY AZUSA TAKADA
■アーティストと観客の間に心地いい緊張感
ライブイベント『BIRTH Vol.4』が新代田FEVERで開催された。この日はNakanoまる、ざきのすけ。と2022年の音楽シーンおいて注目すべきアーティストが顔を揃え、さらにYouTubeチャンネル『THE FIRST TAKE』が昨年開催したオーディションプログラム『THE FIRST TAKE STAGE』にて、第1回グランプリアーティストに輝いた麗奈が、オーディション以降初めて東京でライブを行う。
今日は早耳の熱心な音楽リスナーから、おそらくYouTubeチャンネル『THE FIRST TAKE』をチェックして、会場に足を運んだ人もいただろう。今日の出演者3組は音楽性もひとつのジャンルに傾倒せず、一人ひとりが個性的で異彩を放っていた。ただ、唯一共通点があるとすれば、3人とも身ひとつで舞台に立つアーティストだったということ。ライブハウスは目と鼻の距離に観客がいる。ミスをすれば、それは筒抜けとなってしまう。その意味で、アーティストと観客の間に心地いい緊張感みたいなものも漂っていた。
■胸ぐらをグッと掴むような力強い歌声
まずトップを飾ったのは、Nakanoまる。読み方はナカノーマルという。彼女は福岡発のシンガーソングライターで、エレキ・ギターを引っ提げ、冒頭から芯の太いハイトーン・ボイスを解き放つ。いきなり胸ぐらをグッと掴むような力強い歌声に引き込まれた。曲によっては言葉数が多い楽曲もあり、情念のこもった歌声も彼女の魅力と言っていい。とりわけ、中盤に披露された「ヒステリックちゃん」には心を奪われた。ポエトリー・リーディングを取り入れた歌唱法で、抑制が効かない感情のすべてを、ここに吐き出しているよう。規定の額縁に収まり切らない、いや、明確にハミ出したエモーションの発露が生々しかった。それは痛々しさと背中合わせではあるけれど、嘘偽りなきリアルな叫びに胸を突かれる思いだった。
■伸びやかな歌声を存分に魅せつける
二番手に現れたざきのすけ。は、ラッパー兼シンガーというスタイルの持ち主。彼は北海道出身で、オーディションプログラム『THE FIRST TAKE STAGE』のファイナリスト4名にも選ばれている。しかも、そこで今日の出演者である麗奈と競演したこともあるそうだ。ライブ自体はR&B調のノリのいいトラックに乗せ、伸びやかな歌声を存分に魅せつける。また、ファルセットを交えて、ソウルフルな声色を会場全体に行き渡らせるなど、身振り手振りのパフォーマンスでアグレッシヴに伝えていく。「1年ぶりのライブで緊張してます。僕以外のふたりはシンガーソングライターだけど、お客さんも温かくて。…喋るのが苦手ですが(笑)」と照れ臭げな表情を浮かべ、「最後はしっとりした曲、でも踊れるので踊ってください!」と言い放ち、ラストに「MINT」を披露。大人びたメロウな声色からキーの高いメロディまで完全にコントロールし、多くの観客をスウィングさせていた。
そして、トリは鹿児島発のシンガーソングライター・麗奈が務めた。アコースティック・ギターを弾きながら、観る者に優しく寄り添う、繊細な歌声。序盤から透き通る美声を耳にして、大勢の観客が聴き入っていた。1曲1曲終わるたびに、場内には拍手が響き、彼女は曲間にチューニング調整を怠らない。9歳からギターを持ち、同時にYouTubeへのカヴァー動画やオリジナル曲の投稿も始めたというZ世代らしいエピソードを挟み、ONE OK ROCKの「欲望に満ちた青年団」を演奏。この曲はワンオクのメジャー1stアルバム『ゼイタクビョウ』(2007年発表)に収録されており、原曲もアコギを用いているため、彼女のスタイルとも相性は抜群であった。
■“We”的な世界観で多くの人に届ける姿が強く印象に残った
後半、物静かな彼女が長めのMCで語りかける場面があり、「中学で曲を作り始め、高校ではいろんな曲を作り始めた。どんなにつらくても、明日も生きなきゃいけない。私もいろんな音楽に助けられたから、私もいろんな人の支えになれたら」と告げ、最後は「僕らの明日」で締め括った。“生きていることを見つめてみたんだよ”、“僕らの明日僕らで掴もう”という歌詞が耳に飛び込んできた。“I”ではなく、“We”的な世界観で多くの人に届ける姿が強く印象に残った。無垢で、透き通った彼女の声色の源泉には、そんな真摯な心情が脈打っているのだろう。ずっとこの曲に浸りたくなってしまうほど、包容力に溢れた歌声に感銘してしまった。
『BIRTH Vol.4』
2022.5.19@新代田FEVER
■Nakanoまる
1.G◯d
2.Mango
3.ヒステリックちゃん
4.LOVE is SEA
5.Cindellera
■ざきのすけ。
1.The gifted…?
2.Take a Risk
3.Bipolar
4.Feel Like
5.CASSIS
6.MINT
■麗奈
1.僕だけを
2.意味(仮タイトル)
3.欲望に満ちた青年団(ONE OK ROCK Cover)
4.ワンルーム
5.僕らの明日