TEXT BY 筧 真帆(日韓音楽コミュニケーター)
PHOTO BY SOURCE MUSIC
■HYBE初のガールズグループ・LE SSERAFIMがデビュー
BTSをはじめ、グローバルスターを多数輩出するHYBEから初のガールズグループ・LE SSERAFIM(ル セラフィム)が5月2日、満を持してデビューした。
デビュー前から“規格外の新人”として注目度の高い彼女たちだが、筆者としては“芯の太い”チームが誕生したという強いインパクトを受けた。
1stミニアルバム『FEARLESS』発売記念メディアショーケースの内容を盛り込みながら、彼女たちの魅力に迫る。
■“FEARLESS”がすべてのキーワード
黒いステージに“LE SSERAFIM”の白いロゴが浮かぶ巨大なLEDパネルが開くと、先陣を切ってSAKURAがランウェイに登場。
最もキャリアのあるメンバーとして経験値もさることながら、凛とした強さを携えた彼女の姿にチームの顔として存在するのだろうと感じた。
その後の写真撮影にて、KIM CHAEWONはキュートにほほ笑み、HUH YUNJINは堂々とした表情を見せ、KAZUHAは優しい笑みを、あどけなさの残るKIM GARAMと末っ子のHONG EUNCHAEは初々しさをのぞかせ、6人のキャラクターがそれぞれ伝わる瞬間が続く。
質疑応答で“LE SSERAFIM”というグループ名の意味について問われると、「“IM FEARLESS”(恐れを知らない、大胆不敵)を、文字を入れ替えるアナグラム方式で作られた名前です。“IM FEARLESS”のように、世間の視線に揺らぐことなく挑戦していく意味が盛り込まれています」とKIM CHAEWONが回答。
HYBE創設者であるパン・シヒョク氏が名づけたのだとKAZUHAが付け加えた。
そう、彼女たちはこの“FEARLESS”がすべてのキーワードになっている。
■自らの手で夢を叶えようとする、6人の逞しさ
ここ数年のガールズK-POPはガールクラッシュ全盛で、LE SSERAFIMもその一組と言っていいだろう。しかし彼女たちは、コンセプトがより明確である。
まずヘアカラー。K-POPでは明るい髪色のメンバーが最低1名はいるのが定番だが、6人ともダークトーンに髪色を揃え、衣装も基本はモノトーンでクールなイメージを貫いている。
さらに印象的なのが、デビューアルバム『FEARLESS』のトレーラー「The World Is My Oyster」である。
スピード感ある音楽に乗せて、「私は世界を手に入れたい」とSAKURAが日本語、「世界は私を評価する」とKIM GARAMが韓国語、「The World Is My Oyster」とHUH YUNJINが英語で語りかける。
何気ないワンシーンではあるが、すごく印象深く見えたのは、最初からワールドワイドな活動を見据えているLE SSERAFIMだからこそ。
そのひと言ひと言(あえて違う言語で語りかけていることも含めて)があることで、国や言葉を超えて自身が思う最高のパフォーマンスを届けたい…という彼女たちの想いや、それを自分たちの手で実現していくのだという覚悟のような、芯の強さを感じるからだ。
■レンジの広さを見せつけたパフォーマンス
また、ステージでは「FEARLESS」と「Blue Flame」の2曲を披露。
アルバムのリード曲「FEARLESS」は、床に横たわった状態からパフォーマンスを始め、キレのあるパワフルなダンスで圧倒。6人の揃い様は見事である。
一転して、「Blue Flame」は制服仕様のグレーの衣装で、キャッチーかつポップなパフォーマンスで魅了し、クールなだけではない、彼女たちの振り幅に心を掴まれる。
「Blue Flame」はKIM CHAEWONとHUH YUNJINが作詞に参加しており、KIM CHAEWONは「デビューアルバムのクレジットに私たちの名前を載せられて幸せです」、YUNJINは「私の書いたパートを自分が歌うことになって、レコーディングでうれしくなりました。次のアルバムにも参加したいです」とコメント。
デビュー作からメンバーも楽曲制作に加わることで、より自分たちらしいメッセージを自分たちらしい形で発信できるということだろう。
今回のアルバム全体の統括プロデューサーはパン・シヒョク氏が務め、コンセプトや歌詞はメンバーと制作チームで話し合って生まれたと言い、「パン・シヒョクPDも『これは“皆さんの話”を反映しているからしっかり気高く表現すると良い』と言葉をもらいました」とKIM CHAEWONが制作秘話を明かしている。
■過去にとらわれず、世の中の視線に揺らぐことなく、前へ進んでいく
ここで言う“皆さんの話”、つまり“彼女たちの話”とは何か? 改めて、6人の経歴を見ていこう。
リーダーのKIM CHAEWONはIZ*ONEで圧倒的歌唱力と人気を誇るオールラウンダー。
SAKURAはHKT48からIZ*ONEを経て、「これで3回目のデビュー」と口にしたようにキャリア10年のベテラン。
HUH YUNJINはIZ*ONEが結成されたオーディション番組『PRODUCE 48』で高い歌唱力と英語力を誇り存在感を示すもその後、練習生生活を送っていた。
KIM GARAMとHONG EUNCHAEは練習生からのデビュー。
そして、最もベールに包まれていたのがKAZUHA。「15年間バレエをしてきて、K-POPの魅力にハマってアイドルを夢見るようになりました」と告白し、昨年まではバレエ留学していたということで、短期間でK-POPのダンスや韓国語を習得したものと思われる。
別ジャンルでの舞台経験を含めると、6人中4人がステージ経験者なのだ。
KIM CHAEWONは「私とSAKURAは再デビューで、HUH YUNJINは番組(『PRODUCE 48』)でのイメージが形成されていると思います。またHYBE初のガールズグループとして多くの関心を持っていただき、そうした視線から自由ではない部分があります。過去にとらわれず、世の中の視線に揺らぐことなく、前へ進んでいこうという内容を制作チームと話を重ねて盛り込みました」と語っている。
その言葉どおり、「FEARLESS」の歌詞では、 “내 흠집도 나의 일부라면 겁이 없지, What you lookin’ at I’m fearless huh(私の傷も 私の一部なら 怖いものはない)”“What you lookin’ at(なに見てるの) I’m fearless huh(私は恐れを知らない)”と歌い、まるで彼女たちの生き様を歌にしたようだ。
■本質を捉える、彼女たちならではの“新解釈”
加えて、他の収録曲の歌詞も秀逸である。
「The Great Mermaid」は人魚姫の物語をモチーフとし、人間になるために声を失い結末は海の泡になる悲恋の原作に対して、“I’m living my life 원하는 건 다 가질 거야 (私は自分の人生を生きる 欲しいものは全て手に入る)/그래도 날 물거품으로 만들진 못해 (だけど私を泡にしたりしない)=自分の人生を生きる、望むものはすべて手に入れる”とポジティブに新解釈。
「Sour Grapes」はブドウが取れなかったキツネが「あのブドウは酸っぱかった」と負け惜しみを言うグリム童話『キツネとブドウ』を基に、“푸릇 쌉싸름 해, 그리 달콤하진 않을 것 같애(青くてほろ苦い、ちっとも甘くない)”“그런 게 만약 사랑이면(それが恋なら食べたくない)”と、ピュアで意地っ張りな歌詞がいじらしい。昔話をこんな風に新しい価値観で捉えるのも、まさに“FEARLESS”である。
「多くの方々が“レベルの違うチーム”と呼んでくださっています。それに相応しいチームになりたいです」(KIM CHAEWON)
「LE SSERAFIMとしてたった一回だけもらえる新人賞をいただけたらなと思います」(SAKURA)
恐れを知らない彼女たちの挑戦を、ともにワクワクしながら楽しみたい。