■書影は、坂本龍一が「自然に還すための実験」と称して、ニューヨークの自宅の庭で野晒しのままにされてきたピアノ
6月21日に刊行される、坂本龍一の著書『ぼくはあと何回、満月を見るだろう』。死生観と共に最晩年までの活動が語られた、本書の書影が公開となった。
カバーに採用されたのは、ニューヨークの自宅の庭に佇むピアノの写真。坂本がこのピアノと出会ったのは、2015年のこと。前年に最初のガンが発覚し、療養のためハワイを訪れた坂本は、現地の風土に惹かれて、勢いで中古住宅を購入したという。そこに置かれていたのが、今から90年近くも前に作られたというこのピアノだ。
住宅自体はすぐに手放してしまったそうだが、この古びたピアノとは別れがたく、ニューヨークへ持って帰ることにして、以来「自然に還すための実験」と称して、自宅の庭で野晒しのままにしてきたのだとか。次第に塗装も剥がれ、本来の木の状態が剥き出しになっていくこのピアノの姿に、坂本は自らの身体の変化を重ねていたのかもしれない。
他にも東日本大震災後の「津波ピアノ」との出会いなど、本書には自然と人間のあるべき関係を考察したエピソードがいくつも登場する。
なお、表紙を開いてすぐの本扉には、ピアノの写真と同じくZakkubalanの撮影による、生前の坂本氏が大変気に入っていたという「満月」モチーフのアートワークが登場。こちらも要チェックだ。
■『新潮』編集部 コメント
坂本龍一氏がガンのステージ4にあると診断され、医師から余命宣告を受けたのは、2020年12月のことでした。そこから、プロデューサーでもあるパートナーとも話し合い、「生きているうちにしておくべきことのリスト」を作ったといいます。先日文庫化された2009年までの自伝『音楽は自由にする』以降の活動を振り返る、口述筆記のプロジェクトを進めることになったのも、その一環でした。21年後半に小誌編集部に相談があり、22年いっぱいの残された時間を使って、収録が進められました。
盟友の鈴木正文氏を聞き手として、坂本氏の口からは、横で聞きながら「そこまで明かしていいの?」と心配になってしまうほど惜しげもなく、創作秘話や昔の出来事、闘病中の日々のことが語られました。各章とも、約5時間の充実したインタビューの内容を踏まえています。そして、編集部が構成した原稿には毎回、坂本氏みずから細かくチェックを入れてくれました。時には「自分が原稿を見られるのは、これで最後になるかもしれないから、もっと強い章タイトルにした方がいいのでは?」ということもおっしゃりながら――。
連載最終回が掲載された『新潮』の発売日は2023年1月7日、坂本氏がお亡くなりになったのは3月28日の未明でした。もちろん、もっともっと長生きして、続きを語ってほしかった。しかし一方では、ギリギリ間に合った、という思いもあります。
この稀代の音楽家の「最後の言葉」を、ぜひ多くの方に読んでもらえたら嬉しいです。
PHOTO BY Zakkubalan (C)Kab Inc.
書籍情報
2023.06.21 ON SALE
『ぼくはあと何回、満月を見るだろう』
著者:坂本龍一
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