■「今日は誰がいちばん楽しむかが勝負」(SKY-HI)
新世代ジャズフェスティバル『LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL JAPAN 2023』が5月13日・14日に秩父ミューズパークにて開催された。
『LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL』は2013年にスタートし、毎年7月にイギリスのイースト・サセックスで開催されているヨーロッパ最大規模の野外ジャズフェスティバル。伝統的なジャズフェスティバルとイギリスのキャンプ文化が融合した空間のなかで、ジャズ、ソウル、ファンクを横断する洗練された音楽を楽しむことができ、『The Guardian』紙をはじめとしたイギリスの主要メディアから五つ星を付けられる等、上質な音楽を体感できるフェスであると高い評価を得ている。フェスの名前の由来は、JOHN COLTRANE(ジョン・コルトレーン)の「至上の愛(A LOVE SUPREME)」から。
【ライブレポート】
2022年に第1回目が開催された『LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL JAPAN 2023』(以下『ラブシュプ』)が、今年も秩父ミューズパークで行われた。新世代ジャズフェスティバルと謳ったこのフェスは、ジャズ、ソウル、ファンクを横断する上質で洗練された音楽を奏でる“今見るべき”アーティストが集結。2日間で8,000人のファンが、緑の中で繰り広げられた極上セッションの数々を楽しんだ。
2023年は、初日のヘッドライナーにファンク界のキングと最強軍団 GEORGE CLINTON & PARLIAMENT FUNKADELIC、2日目にジャズ/ソウル/ヒップホップシーンのスーパースター TERRACE MARTIN、ROBERT GLASPER、KAMASI WASHINGTONがタッグを組んだ超豪華プロジェクト、DINNER PARTYという、超大物アーティストを迎えたことでも大きな話題に。そして今年のグラミー賞最優秀新人賞にノミネートされたDOMi&JD BECKの出演も大きなトピックスになった。
さらに2月に公開され大ヒットを記録した、ジャズをテーマにしたアニメ映画『BLUE GIANT』の劇中で、バンドのライブシーンの演奏を担当したサックス奏者・馬場智章と、ドラマー・石若駿という現在のジャズシーンの牽引するふたりが、自身のリーダーセッションで出演することでも話題を集めた。
【5月13日】
■Answer to Remember with HIMI / Jua
ラブシュプはドーム型の屋根が特徴的な「THEATRE STAGE」と芝生エリアの「GREEN STAGE」というふたつのステージと、「DJ TENT」でアーティストとDJが一日中素晴らしいパフォーマンスを披露。
初日の「THEATRE STAGE」のトップバッターは馬場智章も参加している、石若駿率いるAnswer to Remember with HIMI / Juaだ。
石若とMarty Holoubekの強力なリズム隊と、各パートのアグレッシブでパワフルなソロでたっぷりとストレートなジャズで攻めた前半。そしてボーカリストを迎えた後半は、まずJuaが加わり熱いラップが跳ね、強力な音と融合する。millennium paradeにも参加しているermhoiは、繊細かつ力強い歌で「Tokyo」などを披露。「Tokyo」では石若とTaikimen(Per)のせめぎ合うようなプレイに歓声が上がる。HIMIが「Down Hill」を歌い始めるとチルな空気が流れ、美しいファルセットの「ゆめからさめるまで」「抱きしめたいよ」とメロウなダブ、ソウルが続く。演奏と歌、それぞれが立体的に交差しどこまで気持ちいい空気が生まれていた。
■DOMI&JD BECK
世界を虜にするZ世代のデュオDOMI&JD BECKがステージに登場すると大きな歓声が上がる。この日出演している多くのアーティストも客席後方から見守り、注目度の高さがわかる。ドラムのJD BECKとピアノのDOMiが向き合うセット。便器を模した、トイレットペーパーも付いたDOMiのイスに目がいってしまう。DOMiは鍵盤を左手でベースラインを弾き、右手で旋律を奏でる。JD BECKの超絶技巧のドラムと重なり、ふたりだけのミニマムな空間から超高速グルーヴが放たれる。演奏のスピードが増しエネルギッシュになればなるほどその音に渦に巻き込まれた客席の興奮が伝わってくる。
ハービー・ハンコックとの共作「MOON」やジョージ・デュークに捧げた「DUKE」とディズニーランドへのトリビュートである「SPACE MOUNTAiN」のメドレーなどを披露し、ウェイン・ショーターの「Endangered Species」やジャコ・パストリアス作曲の「Havona」などレジェンド達のカバーも独自の解釈で投下。「BOWLiNG」では、演奏だけではなく繊細なボーカルで魅了した。すべての人の音楽的好奇心をくすぐるふたりの圧巻の世界だった。
■その他のアーティスト
この日は「THEATRE STAGE」にAI、bird、家入レオ with SOIL&”PIMP”SESSIONS、ALI、「GREEN STAGE」に海野雅威 with Special Guest 藤原さくら、4 Aces with kiki vivi lily、MoMo(OPENING ACT)が出演し、セッションを繰り広げた。
■George Clinton&PARLIAMENT FUNKADELIC/ENDRECHERI
初日のヘッドライナーはGeorge Clinton & PARLIAMENT FUNKADELIC。「THEATER STAGE」に“総帥”ジョージ・クリントンが、スパンコールのロングジャケットを纏い登場すると、伝説を目撃しに来た客席から大歓声があがる。オープニングナンバーは「Jump Around(House Of Pain)」。70分ノンストップのファンクの響宴の幕開けだ。ステージ上から煽られ、早速客席は総立ちでジャンプ。「Pole Power」「Meow Meow」とめくるめくグルーヴの洪水に、老若男女がハンズアップし、飛び跳ね、ただただ音楽を楽しむ“自由”な空間ができあがる。
ラッパーたちが煽るハードファンク「Get Low」に続いて「FlashLight」が投下されるとENDRECHERIこと堂本 剛が“ギタリスト”として登場。ジョージ・クリントンへのリスペクトを日頃から語っているENDRECHERIが、総帥と同じくスパンコールのパンツスタイルで長尺のギターソロを披露すると、完全にバンドの音になっているその音色に、客席から大きな歓声が沸く。「(Not Just) Knee Deep」では、バンドのドラマー、ベンゼル・ボルチモアと親交がある天才中学生ドラマー、CHITTAが登場し、ENDRECHERIと共に体を揺らし、この瞬間を客席と共に体全体で楽しんでいた。CHITTAはラストの名曲「Give Up the Funk」でドラムソロを披露し、メンバー、客席から歓声が飛び交う。終始“Keep the bottom”、ヘヴィな低音のリズムとタフなサウンドが続き、ファンクの深い世界にすべての人を連れ出してくれた。バンドも客席も自由を謳歌する、祝祭感と多幸感溢れるステージだった。
【5月13日】
■馬場智章
2日目、14日の「GREEN STAGE」に馬場智章がバンドを率いて登場。馬場がこのステージの前に出演した「THEATRE STAGE」でのPenthouseとのライブを観終えた多くのリスナーが、そのまま移動してくる。佐瀬悠輔(Tp)、ermhoi(Vo)、Marty Holoubek(Ba)、David Bryant(Key)、松下マサナオ(Dr)という強力メンバーと緑に囲まれたステージで「過去から未来へと繋がる」(馬場)楽曲を次々と披露。タイトなリズムと躍動するピアノが印象的な「Voyage」では、コーラスと共に歌うようなサックスで魅了し、「Circus」でのトランペットとの掛け合いに客席が盛り上がる。ermhoiが歌った「Pine Tree」はその浮遊感を感じる声をバンドの音がさらに際立たせる。馬場のサックスがまさに森に響きわたる「Still Remeber」、そして「The Roots of Blood」で極上の“空間”を作り上げていた。
■SOIL&”PIMP” SESSIONS/SKY-HI&BMSG POSSE
SOIL&”PIMP” SESSIONSは今年はレジデンシャルバンドとして出演し、2日目の「THEATRE STAGE」では、SKY-HI&BMSG POSSE with SOIL&”PIMP”SESSIONSとして熱狂を作り出していた。まずはSOILが「Meiji-Jingumae ‘Harajuku’」を披露。それぞれのソロプレイに客席は引きつけられる。
そしてSOILの“社長”が“社長(SKY-HI)”を呼び込み、SKY-HI率いるBMSG POSSEが登場すると大歓声が沸き起こる。ジャズアレンジされた「何様」からセッションがスタート。SKY-HIの切れ味鋭いラップが会場中に襲い掛かる。そこにREIKOのソウルフルで美しいボーカルが加わる。Debra Lawsの「Very Special」を、MANATOとREIKOでカバーし、さらにSOILの楽曲「comrade」をMANATOがカバー。SOILの演奏と歌が交差し、心地いいグルーヴを生み出す。
SKY-HIは「今日は誰がいちばん楽しむかが勝負」と自身もステージ上でワインを楽しみ、メンバーも自由にステップを踏み楽しんでいる。Aile The Shotaは「DEEP」とSOILの楽曲「ユメマカセ」を披露するなど、昨年「GREEN STAGE」に出演してから一年、進化したその歌を聴かせてくれた。また、ShowMinorSavage-Aile The Shota, MANATO&SOTA from BE:FIRSTとしては、SOILの生演奏でThinkin’ bout youを披露するなどこの日だけのセッションは続き、ラストの「オプティミスティック」では打合せなしのフリースタイルセッションで、とことん自由にそしてクールにステージを楽しみ、楽しませてくれた。
※メイン写真:SKY-HI&BMSG POSSE with SOIL&”PIMP”SESSIONS
■その他のアーティスト
この日はBlue Lab Beats featuring 黒田卓也、 西口明宏 with 鈴木真海子(chelmico)、ARIWA(ASOUND)、Penthouse with 馬場智章、Kroi、BREIMEN、soraya(OPENING ACT)といった、様々な音楽を奏でる注目アーティストたちが、素晴らしい演奏で、客席を沸かせた。
■DINNER PARTY FEATURING TERRACE MARTIN, ROBERT GLASPER, KAMASI WASHINGTON
2日目のヘッドライナーは、DINNER PARTY FEATURING TERRACE MARTIN, ROBERT GLASPER, KAMASI WASHINGTONという、待ちに待ったステージが実現。客席はすでに総立ちで、大きな歓声と拍手がスタートの合図だ。Jahi Lake のDJプレイのあと、まずはゲストボーカルのArin Rayを迎えた「Sleepless Nights」からスタート。Justin Tyson(Dr)、Burniss Travis(Ba)という強力なリズム隊が生むドープなリズムに、早くも客席は酔っている。
「Breathe」ではカマシとテラスのWサックスでで、気持ちいいグルーヴが生まれる。「Need U Still」はグラスパーがエネルギッシュなキーボードソロを披露し、徐々に熱を帯び、強固で熱いリズムと絡み、熱狂が生まれる。この日はそれぞれのソロもたっぷりと披露し、レジェンドそれぞれが持つエネルギーが音になって放たれ、客席を熱くさせる。永遠に聴いていたい、そう思わせる演奏の数々だった。ラストは再びArin Rayが参加した「Freeze Tag」。カマシとテラスが曲の印象的なラインを一緒に演奏し。カマシの色気とパワーを感じさせてくれるソロに、客席の熱量が高くなる。まさに夢のような約80分のステージだった。
出演者もリスナーも、自由なスタンスとスタイルで音楽を楽しむ。それがこのフェスの醍醐味だ。開催前にSOILの社長が語っていた「世界の最前線で今のジャズを牽引するバンドと、JAZZの歴史を作ってきたレジェンドと、それらをミックスしてグルーヴを繋ぐDJという、JAZZの進化に欠かせない3つの要素がすべて楽しめるのは『LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL』しかありません」という言葉が実感できた2日間だった。
TEXT BY 田中久勝
『LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL JAPAN 2023』OFFICIAL SITE
https://lovesupremefestival.jp
https://lovesupremefestival.jp/eng