■「いっぱいいますね、今日は。俺に届けるにはでかい声出すしかないし、でかい動きをするしかないぜ?頼むよ?こんなに人いるんだから、俺よりでかい音出したっていいぜ。かかってきな」
1月14日の東京・J:COMホール八王子からスタートしたVaundyのライブツアー『Vaundy one man live tour “replica”』。全国をくまなく周ってきたこのツアーが、3月26日、東京・東京ガーデンシアターでファイナルを迎えた。
ツアーをかけて磨き上げられてきたパフォーマンスが満員のオーディエンスの熱気とあいまって濃密な空気を生み出した一夜の模様をレポートする。
青い光に照らされたステージにバンドメンバーに続いてVaundyが登場すると、客席からものすごい歓声が巻き起こる。その声の熱量が、今のVaundyに向けられた期待の大きさを証明する。
そして後ろ向きに立ったVaundyが1曲目「まぶた」を歌い始めると、その熱はますます膨らんでいった。Vaundyのライブサウンドに欠かせない存在となったバンドが放つパワフルなサウンドは、ツアーでステージを重ねてきただけあって盤石そのもの。そしてそのパワーすらもねじ伏せるようなVaundyのボーカルが圧倒的だ。「灯火」に「踊り子」、曲を重ねるごとにその歌はどんどん解放され、エネルギーを増していく。
ギターを弾いて「置き手紙」を歌うと、「bemefits」「HERO」とロックモードの楽曲を立て続けに披露。「HERO」ではリズムやサウンドとリンクしたライトがオーディエンスのボルテージを否が応でも高める。
そしてそんなロックモードのピークとして繰り出されたのが「裸の勇者」。Vaundyが大きく息を吐き、ドラム・BOBOのスティックカウントから始まったこの曲は、間違いなくライブ序盤のハイライトだった。イントロからオーディエンスの力強い手拍子が鳴り響き、会場が瞬く間にひとつになる。
結果的に2022年のVaundyを代表する一曲となったこの楽曲は、2023年に突入した今もなお、そのスケール感とアグレッシブさにおいて、Vaundyのライブを加速させる大きな役割を担っているのだ。
一転してどっしりとしたリズムとゆったりとしたテンポが雄大な景色を描き出した「忘れ物」を終えると、息を切らしたVaundyが話し始める。「(大学)卒業おめでとう!」という客席からの声に「ありがとよ。卒業したぜ!」と応えるVaundy。
「いっぱいいますね、今日は。俺に届けるにはでかい声出すしかないし、でかい動きをするしかないぜ? 頼むよ? こんなに人いるんだから、俺よりでかい音出したっていいぜ。かかってきな」
そんな不敵な言葉を投げかけると、軽快なリズムが鳴り響く。「瞳惚れ」だ。ポップなサウンドに、一気に場内の空気が変わるのを肌で感じた。そしてそのままつなげるように「融解sink」へ。心地よいグルーヴに合わせてオーディエンスも手を打ち鳴らす。
それにしても、1曲終わるごとに発生する拍手と歓声がものすごい。その拍手と歓声が、Vaundyのパフォーマンスをさらに乗せていく。このツアーで明らかにそれまでと変わったことがあるとすれば、そうしたオーディエンスとの関係性だろう。初めて声出しが解禁されたツアーであるということももちろん大きいが、Vaundyという「器」がその期待を受け止められるほどに大きなものになったということでもあるのだろう。
「恋風邪にのせて」の流れるようなメロディを伸びやかに響かせると、ここでライブはひと休み。ここでも客席から「Vaundy大好き!」と声が飛ぶ。「知ってるよ」と応えるVaundyも余裕綽々の様子だが、その直後に「疲れたぜ…。今日は一段と暑いね」とこぼすのも彼らしい。
怒涛のように走ってきたこのツアーを振り返り、「年明けてすぐ始まって、もう4月になります。風みたいに通り過ぎていった感じがしますね」と言いつつ、Vaundyは「今年もあっという間に終わるんですよ、たぶん。今年も頑張ります」と決意をあらたにした。
そこからライブは「mabataki」で再開する。淡々と刻まれるストリングスのリフに乗せて、まるで語りかけるように歌われるこの楽曲はVaundyのレパートリーのなかで異質といえば異質だが、昨年の日本武道館での初披露以降、こうして彼のライブに欠かせないピースであり続けている。歌の絶妙なニュアンスや繊細な感情表現を味わえるという意味で、Vaundyという歌い手の底知れなさを教えてくれる曲だ。
そういう意味では続く「しわあわせ」もすばらしかった。抑えられたバックのサウンドのなかで、丁寧で豊かな歌の表現がのびのびと羽を広げる。ステージから放たれる眩い光が場内を照らし出すと、オーディエンスも手を広げてそれに応える。なんだか神々しさすら感じる瞬間だった。そして楽曲は怒涛のアウトロへ。バンドメンバーとともにドラムのもとに集まりすべてを絞り出すようなテンションで演奏を終えると、1拍おいて割れんばかりの拍手が会場を包み込んだ。
ここからはライブもいよいよクライマックスに突入していく。「盛り上げるのは俺だけの仕事じゃないからさ。みんなの力は絶対に必要だぜ、これからの音楽には」。そうやってオーディエンスにけしかけるVaundy。「いくら歌ってもいい。隣の人がうるさくても、Vaundyのライブはしょうがないと思ってください。でも大丈夫。俺のほうがうるさいから」。
そうして「不可幸力」に突入すると、Vaundyは「フォー!」と雄叫びを上げた。さらに「まだまだそんなもんじゃないだろ? こんなに人間が集まってるんだから。いくぞ!」と「CHAINSAW BLOOD」へ。唸るギターリフにハードなドラム、そして大量のスモークが「不可幸力」のタイトなグルーヴから一転、オーディエンスをド派手なロックショウの快楽へと叩き込んでいく。Vaundyも激しく体を動かしながらシャウト。いよいよ近づいてきたフィナーレに向けて、すべてを注ぎ込むような熱演が繰り広げられた。
そして最終盤。「泣き地蔵」から「soramimi」へのコンボでは本領発揮した照明がガーデンシアターを混沌としたダンスフロアへと変えていく。叫びとも悲鳴ともつかない声が客席を飛び交うなか、改めて「疲れたな…」と息も切れ切れに告げるVaundy。
「改めて、今日は最終公演です。でも皆さんとはまたどこかで会えるでしょう」と再会を誓うと、最後の曲へ突入していく。このライブで起きたすべてを包み込むように、そしてまるでオーディエンスとの「約束」のように鳴り渡ったのは、そう、「怪獣の花唄」だ。
会場がひとつになっての手拍子、そしてシンガロング。客席をも明るく照らすライトが、ここに集まったひとりひとりがこのライブを作ったんだ、と言ってくれているようだ。「ありがとう!」とVaundyが叫ぶ。最後の1音まで出し切ると、最高の多幸感に包まれてツアーは終わりを告げた。
このライブ中には、11月からスタートするアリーナツアー『Vaundy one man live ARENA tour』の追加公演が2024年1月20・21日の2日間にわたって東京・国立代々木競技場第一体育館で開催されることも発表された。
すでに全公演ソールドアウトとなっているツアーだけに、今回のワンマンツアー以上の盛り上がりは必至だ。さらにスケールアップした会場でVaundyがどんな新しい姿を見せてくれるのか、今から楽しみで仕方ない。
TEXT BY 小川智宏
PHOTO BY 日吉“JP”純平
■『Vaundy one man live tour “replica”』
2023年3月26日(日)東京・東京ガーデンシアター
<セットリスト>
01. まぶた
02. 灯火
03. 踊り子
04. 置き手紙
05. benefits
06. HERO
07. 裸の勇者
08. 忘れ物
09. 瞳惚れ
10. 融解sink
11. 恋風邪にのせて
12. mabataki
13. しわあわせ
14. 不可幸力
15. CHAINSAW BLOOD
16. 泣き地蔵
17. soramimi
18. 怪獣の花唄
リリース情報
2023.03.13 ON SALE
DIGITAL SINGLE「そんなbitterな話」
Vaundy OFFICIAL SITE
https://vaundy.jp