■BARK STAGEで斉藤和義のライブが終わった直後、画面に「NEXT ARTIST シーナ&ロケッツ」という文字が――。
毎年3月に幕張メッセで開催されている『ビクターロック祭り』。2023年はビクターエンタテインメント内のレーベルであるスピードスターレコーズが、設立30周年を迎えたことを記念し、ビクターロック祭り特別版『LIVE the SPEEDSTAR』として幕張メッセにて開催された。
星野 源、斉藤和義、スガ シカオ、くるり、KREVA、矢野顕子ら15組が熱演し、ひとつのレーベルが開催する音楽フェスしては異例の約1万人を集客し、9時間を超えるイベントは大盛況で幕を閉じた。
なお、こちらのイベントの模様はU-NEXTでの配信が決定しており、4月1日16時からU-NEXT独占見放題で配信が行われ、4月9日までの見逃し配信となる。
PHOTO BY AZUSA TAKADA(SOUND SHOOTER)※BARK STAGE
木下マリ(SOUND SHOOTER)※ROAR STAGE
【ライブレポート】
<BARK STAGE>
■GRAPEVINE
M-1 Alright
M-2 Evil Eye
M-3 目覚ましはいつも鳴りやまない
M-4 ねずみ浄土
M-5 Gifted
M-6 光について
M-7 Shiny Day
『LIVE the SPEEDSTAR』、BARK STAGEのトップはGRAPEVINE。スピードスターに移籍したのは2014年だが――以前本人たちにきいたのだが――1997年にメジャーデビューする前の各レコード会社による争奪戦のとき、最後まで残った2レーベルのうちのひとつがスピードスターだったという。それから17年を経てめでたく所属、となったわけである。
この日演奏した全7曲のうち、5曲目までがスピードスター移籍後のレパートリー。GRAPEVINE屈指のファンクチューン「Alright」でスタートし、ねばっこさと軽快さが同居する「Evil Eye」へ。特に、3曲目「目覚ましはいつも鳴り止まない」と、4曲目「ねずみ浄土」、最新のデジタルシングルが続いたゾーンが、圧巻だった。こんなにメロウでソウルフルな曲と、こんなにどうかしてる曲を連打して、ライブのピークを作ってしまうロックバンド、GRAPEVINEだけだろう。オーディエンスも「ねずみ浄土」を待っていたことを、曲終わりの拍手の大きさが表していた。
サイケデリックで雄大な「Gifted」、初期の名曲「光について」を経てのラストで、サプライズあり。つじあやのが登場、共に「Shiny Day」を歌ったのだ。2005年に根岸孝旨がプロデュースし、GRAPEVINEがバックを務めたこの曲を、そのままの組み合わせでライブで聴ける、サビでつじあやののボーカルにハモリをつける田中和将を観れる、という機会、極めてレアだと思う。
TEXT BY 兵庫慎司
■スガ シカオ
M-1 Party People
M-2 バニラ
M-3 19才
M-4 Real face
M-5 さよならサンセット
M-6 Progress
M-7 コノユビトマレ
「おはようございます! 楽しんでいくよ!」――力強い挨拶の声と共にスタートしたスガ シカオのライブ。オープニングを飾ったのは「Party People」。ファンキーに躍動するバンドサウンドと歌声が、ステージを見つめる我々のダンス衝動を掻き立てて止まない。観客たちが身体を一斉に揺らしながら放つ波動が、会場内の空気をみるみる内に温めていた。
「足元の悪いなか、ようこそ! 短い時間だけど、たっぷり楽しませていくのでよろしく。次に歌うのは、なかなか人前で歌えないかわいそうな曲です(笑)。でも、今日は何の制約もないので」という言葉を添えて歌い始めた「バニラ」は、艶めかしい歌詞の描写が刺激的だった。そして「バニラ」に匹敵するくらいの妖しい風味を堪能させてくれた「19才」に続いて披露されたのは「Real Face」。作曲を松本孝弘(B’z)、作詞をスガが手掛け、2006年にKAT-TUNへ提供されたこの曲は、やはり圧倒的にかっこいい。エネルギッシュなバンドサウンドも抜群に冴えわたっていた。
「この間、アルバム『イノセント』が出まして。8年くらい前にSPEEDSTARに移ってきて、まだ新入生的な扱いです(笑)。ちゃんと一歩ずつ階段を上がっていこうかなと。次に歌うのは出たばかりの曲です」と紹介しつつ歌い始めた「さよならサンセット」。『イノセント』の中でも美メロが光っていた曲だが、ライブで聴いても胸に深く染みた。続いてNHK総合『プロフェッショナル 仕事の流儀』のテーマソングとしてお馴染みの「Progress」も披露。そしてラストに届けられたのは「コノユビトマレ」。グルーヴィーなバンドサウンドに包まれながらギターを弾き、歌声を響かせるスガも心底楽しそう。掲げた腕を振りながら盛り上がる観客たちと一緒に幸福な空間を作り上げていた。
TEXT BY 田中大
■UA
M-1 太陽手に月は心の両手に
M-2 お茶
M-3 情熱
M-4 雲がちぎれる時
M-5 AUWA~TIDA
M-6 プライベートサーファー
M-7 微熱
「私はデビューして28年目に突入しているんですけど、最初から今までずっとスピードスターにいる者です。今日の(出演者の)中で、スピードスターではいちばん古株だということで、驚愕しております」
と、後半のMCで自己紹介したUAが、BARK STAGE 3番目のアクト。1曲目「太陽手に月は心の両手に」を歌い始めた瞬間、その声の豊かさで、幕張メッセの空気が変わったのがわかる。次は最新アルバム『Are U Romantic?』から「お茶」。1996年の曲と2022年の曲が、違和感なく並ぶさまが楽しい。
続いて「情熱」、さらに「雲がちぎれる時」と、初期のヒット曲が惜しみなく放たれる。フロアのあちこちで両腕が挙がる。UAとコーラス隊ふたりの声とアクションが、絶妙にシンクロし続ける「AUWA」は、曲間を空けずにそのまま「TIDA」へと続いていく。途中までピアノだけで歌われた「プライベートサーファー」は、荘厳で、壮大で、まるでゴスペルのような、すさまじい美しさだった。
「このレーベルはね、ほんとに人として音楽を見てくれる、育ててくれるレーベルなんです。こういうレーベルが日本でしっかりと活躍できるように、見守っていてくださいね」
という言葉から放たれたのは「微熱」。1年前のリリース時、朝本浩文の未発表曲か? と驚いた(GEZANのマヒトゥ・ザ・ピーポーが書いたことを知ってさらに驚いた)この曲を、極上の歌と演奏で、最後に届けてくれた。
TEXT BY 兵庫慎司
■KREVA
M-1 Finally
M-2 基準 ~2019 Ver.~
M-3 パーティはIZUKO? ~2019 Ver.~
M-4 人生
M-5 居場所
M-6 イッサイガッサイ ~2019 Ver.~
M-7 C’mon, Let’s go ~2019 Ver.~
M-8 音色 ~2019 Ver.~
KREBandの演奏が華麗に鳴り響いたあと、ステージにKREVAが登場。「SPEEDSTAR、30周年おめでとうございます。その中でも新人の部類ですが、よろしくお願いします。KREVA! って呼んでもいいらしいよ。それだけで感無量。やっとだね。初めてライブを観る人、やっと会えたな」――素敵な言葉にさっそく胸が熱くなる。そしてサングラスを不敵に輝かせながら歌い始めた1曲目は「Finally」。2022年2月にリリースされたアルバム『LOOP END / LOOP START』でもオープニングを飾っていたこの曲は、粋なライミングが満載されている。こんなにも極上のラップを浴びたら、じっとしていられる人類がこの世に存在するはずもない。観客たちは体を揺らして踊り始めた。続いて「基準〜2019Ver.〜」も届けられたが、ビートを巧みに乗りこなしながら放つラップの切れ味が本当にすごい。“かっこいいラップとはこういうことだ!”と堂々と名乗りを上げるかのような姿に痺れてしまった。
「皆さんも声を出せるので、声を出せるような曲を持ってきました。ぜひとも参加してもらえたらなと。エンタテインメントの現場は、みんなの声がないと完成しない。みんなで作るものだと思います」というMCのあとに披露された「パーティーはIZUKO〜2019Ver.〜」は、まさしく参加型の曲だった。“ねぇ パーティーはIZUKO”に対して“ここだ!”と元気いっぱいに返したくなる。そして「人生」と「居場所」は、会場のムードを瑞々しいものへと塗り替えた。こういう曲もKREVAのライブでいつも魅力を大いに煌めかせる。リリックの言葉の1つひとつに刻まれた深い情感を噛み締めながら、彼の表現力の幅を改めて実感した。
「みんなの声、存在のありがたさに気づかされる一方です。このままいろんなイベントが増えていくと思うけど、そのときにまたみんなに会えたらうれしいです。あと数曲で終わりですが、今日という日が特別な日になるように」――観客たちに感謝の想いを伝えたMCを経て、ライブはいよいよクライマックスへと突入していった。夏フェスを先取りするかのような爽やかな昂揚感を噛み締めさせてくれた「イッサイガッサイ〜2019Ver.〜」。最高のビートを徹底的に体感させてくれた「C’mon, Let’s go〜2019Ver.〜」。そしてラストは「音色〜2019 Ver.〜」が飾った。“愛してんぜ 音色”という印象的な一節に表れているとおり、音に対するラブソングとでも言うべきこの曲は、音楽愛に満ちた人々がたくさん集まっているこのイベントに実にふさわしかったと思う。ステージから届けられるサウンドに耳を傾けながら、「音楽って最高!」と心の底から感じることができた。
TEXT BY 田中大
■くるり
M-1 琥珀色の街、上海蟹の朝
M-2 ばらの花
M-3 虹色の天使
M-4 愛の太陽
M-5 Liberty & Gravity
M-6 everybody feels the same
M-7 ハイウェイ
M-8 Remember me
1998年のデビュー時から所属しているくるりは、「琥珀色の街、上海蟹の朝」でスタート。イントロのギターが響くと同時にフロアが湧き立つ。この曲でフロントマンの岸田繁はハンドマイクになるのが恒例だったが、少し前からギターを抱えたまま歌う形にシフトしている。岸田とベース佐藤征史を支える不動のサポートは、ギターの松本大樹とキーボードの野崎泰弘、ドラムはあらきゆうこだ。
「ばらの花」で盛大に拍手を浴び、『NIKKI』(2005年)から「虹色の天使」をプレイし、最新EPのタイトル曲「愛の太陽」へ。ライブでの再現が難しいとされていた実験作『天才の愛』の次は、シンプルな方向に振り切ったようだ。くるりのスタンダード曲に育っていきそうである。
目まぐるしく変わる展開がワクワクする「Liberty & Gravity」のあと、MCをはさんで「everybody feels the same」へ。岸田が都市名を並べるあたりから、フロアにハンドクラップが響きわたる。締めを飾るのは叙情性の面においてくるりを代表する2曲である「ハイウェイ」と「Remember me」。あまりにも良すぎたからか、曲が終わった時にはすっかり帰る気分になっていた。いやいや、フェスはまだまだ続く。
TEXT BY 兵庫慎司
■星野 源
M-1 ひらめき
M-2 ばらばら
M-3 スーダラ節
M-4 恋
M-5 化物
M-6 地獄でなぜ悪い
M-7 くせのうた
M-8 くだらないの中に
「ひらめき」からスタートした星野 源のライブ。2010年6月にリリースされた1stアルバム『ばかのうた』に収録されているこの曲を、弾き語りでじっくり聴くことができて、さっそくうれしくなったファンがたくさんいたに違いない。アコギを爪弾きながら響かせる歌声がとても穏やか。「すごい人! 来てくれてありがとうございます。めちゃくちゃ暗い曲をいっぱい持ってきました(笑)。SPEEDSTAR、30周年おめでとうございます。いつもお世話になってます。拾っていただき感謝しかありません」という最初のMCのあとに披露された「ばらばら」も『ばかのうた』の収録曲。優しい温もりで包んでくれるかのようなオープニングの2曲だった。
続いて「人間の真理が歌われているのでご自身に照らし合わせていただければ。」とMCを挟んで歌い始めたハナ肇とクレイジー・キャッツのカバー「スーダラ節」。『逃げるは恥だが役に立つ』の主題歌「恋」も弾き語りで披露されたあと、ステージに招き入れられたゲストはギタリストの長岡亮介。「化物」と「地獄でなぜ悪い」は、ふたりの躍動感に満ちたサウンドに誘われて、観客たちの間から明るい手拍子と声援が起こった。
「くせのうた」も2人編成で届けられたあと、「日々いろんなことがありますけど。シンプルですけど、生きていきましょう」という言葉が添えられて、ラストは「くだらないの中に」が締め括った。2011年3月にリリースされた1stシングルの曲だが、やはり堪らない魅力がある。耳を傾けていると、心が徐々に潤いを取り戻していくような感覚になった。全曲を歌い終えると、手を振りながらステージをあとにした星野。彼を見送る拍手と歓声は、特大級だった。
TEXT BY 田中大
■斉藤和義
M-1 やさしくなりたい
M-2 明日大好きなロックンロールバンドがこの街にやってくるんだ
M-3 問わず語りの子守唄
M-4 Boy
M-5 ずっと好きだった
M-6 ベリーベリーストロング
M-7 歩いて帰ろう
この日、斉藤和義が1曲目に持ってきたのは「やさしくなりたい」。ギター×2とベースとドラムと歌、シンプルなバンドサウンドのいかつい鳴りが、とても心地いい。次は2022年7月リリースの、現時点での最新曲「明日大好きなロックンロールバンドがこの街にやってくるんだ」。斉藤和義が弾くアコースティックギターの、激しいカッティング音が響く。
歌い終え、おなじみの「東洋一脱力した“いぇーい”」を放ってから、スピードスターと同じく自分も今年30周年である、と告げる斉藤和義。「知らない方もいると思うので。私、せっちゃんと呼ばれてまして……」と、ロックファンはみんな知っているその理由を、不必要なほど丁寧に説明する。
そして、4月に発売するニューアルバム『PINEAPPLE』から、「今日初めてやる新曲を…」と、「問わず語りの子守唄」を披露。一言ひと言が耳に刺さるようなリリックを搭載した曲である。2021年のデジタルシングル「Boy」を経ての「ずっと好きだった」では、サビで腕を振り上げる人、多数。口元はマスクで見えないが、みんな一緒に歌っていたのではないか。続く「ベリーベリーストロング」では、挙がる腕の数がさらに増える。
ラストは「歩いて帰ろう」。間奏明けのブロックで歌をオーディエンスにまかせる、本来おなじみだった光景を、久々に見ることができた。感動的だった。去り際に斉藤和義は、「またね」と両手を振った。
TEXT BY 兵庫慎司
■矢野顕子
M-1 ラーメンたべたい
M-2 音楽はおくりもの
M-3 PRAYER
M-4 ばらの花
M-5 PRESTO with 岸田繁(くるり)
M-6 おいてくよ with 岸田繁(くるり)
M-7 ドラゴンはのぼる
M-8 ひとつだけ
ステージ中央に置かれたグランドピアノに向かった矢野顕子。最初に届けられたのは「ラーメンたべたい」。ピアノとひとつになり、緩急自在に響かせる歌声に引き込まれずにはいられない。続いて「音楽はおくりもの」。弾かれているピアノが喜んでいるように感じられたのは、きっと気のせいではなかったのだと思う。至福のサウンドで完全に満たされた空間で耳を傾けるのは、何とも言えず素敵な体験であった。
「幕張メッセ、初めて来ました。SPEEDSTARに拾っていただき、今年で10年になるんだそうです。次にやる曲を書いてくれたのはパット・メセニー。ご本人は歌われないので音域がものすごく広いです(笑)」――ウィットを利かせた紹介を経て披露された「PRAYER」も素晴らしかった。観客たちの心が静かに震えているのが肌で感じられる…。そして「今日、くるりのステージでも演奏されましたが、そんなことは構わず、矢野顕子もこの曲をやります(笑)」という言葉が和やかな笑いを誘ってから届けられたくるりのカバー「ばらの花」。この曲のあとに、岸田繁(くるり)がステージに呼び込まれた。「私たちの数多くのヒット曲から厳選したこの曲を(笑)。ふたりで書いたんでしたっけ?」(矢野)「はい。漫画喫茶で」(岸田)「漫画喫茶に行ったのはあとにも先にもあれが初めてです」(矢野)「いい仕事できたかなと」(岸田)「まだ漫画喫茶ってあるんですか?」(矢野)「あります。シャワーも浴びれますし」――ほのぼのとしたやり取りのあとに披露されたのは、ふたりの共作で2006年にリリースされた「PRESTO with 岸田繁」。岸田もアコースティックギターを弾きながら歌い、温かなハーモニーを響かせていた。
くるりとの共演や、レイ・ハラカミも加わった3人で歌ったことは過去にあったが、ふたりきりの共演は、これが初であることが判明。感慨深そうだったMCタイムのあと、NYの矢野のスタジオで共作したのだという「おいてくよwith 岸田繁」もふたりで披露。そして岸田を送り出したあと、「皆さんを国際宇宙ステーションにご招待します。訓練は要りません。ロケットの名前はドラゴン。行きますよ」と言い、歌い始めた「ドラゴンはのぼる」。この曲は3月15日にリリースされた『君に会いたいんだ、とても』に収録されている。2020年11月16日に宇宙に飛び立った野口聡一飛行士に「宇宙で自由に詞を書いて下さい。私が曲をつけます」と矢野が提案したところから制作がスタートし、完成された最新アルバムの曲も聴くことができてうれしかった。
「ここにいられてうれしいのでみんなのために歌います」という言葉が添えられて、ラストには「ひとつだけ」が披露された。あんなにも素敵な歌、ピアノに包まれたら、当然ながら心は激しく震えずにはいられない。初めて矢野顕子のライブを観た人もたくさんいたはずだが、心の底から魅了されたのでは? 『LIVE the SPEEDSTAR』の最後を飾るにふさわしい余韻を残した名演であった。
TEXT BY 田中大
<ROAR STAGE>
■SPECIAL OTHERS
M-1 Fanfare
M-2 Potato
M-3 Timelapse
M-4 AIMS
BARK STAGEのGRAPEVINEの熱演に続いて、ROAR STAGEにはSPECIAL OTHERSが登場。9ヵ月連続リリースの第一弾として2月25日にリリースされた最新楽曲「Fanfare」の晴れやかな躍動感で、幕張メッセの空間を心地好く揺さぶっていく。インストゥルメンタルの演奏を主体としたジャムバンドではあるが――いや、言葉の意味に頼らないインストゥルメンタル音楽だからこそ、宮原”TOYIN”良太(Dr)/又吉”SEGUN”優也(Ba)/柳下”DAYO”武史(Gu)/芹澤”REMI”優真(Key)のアンサンブルは、聴く者の中に伸びやかで色彩豊かなイマジネーションを呼び起こしてくる。
「我々がSPEEDSTARに入って、14年ぐらい経ってました。30周年の半分くらい? 微力ながら貢献できてうれしいです!」と宮原。「SPEEDSTARのCD買っときゃ間違いない、みたいなイメージあったよね? 『おしゃれでかっこいい』みたいな感じで、憧れてたところもあったんだよね。そんなレーベルの、最高のイベントに参加できてうれしいです!」と芹澤。レーベルへの想いを語る言葉に、惜しみない拍手が広がる。
お馴染みのフライドポテト揚げ上がりサインをダンサブルなグルーヴに昇華した「Potato」の極上の演奏とユーモアでさらに会場の温度を上げたところで、2022年6月リリースの8thアルバム『Anniversary』から「Timelapse」を披露。唯一無二の進化を続けてきたバンドの道程と、その足跡を愛し続けたリスナー/オーディエンスを音で祝福するかのような多幸感が、フロアの隅々にまで温かく広がっていく。そしてラストは「AIMS」! 楽器と心で高らかに歌い上げる、スペアザならではのライブアンセムが、メッセを爽快な開放感で満たしていった。
TEXT BY 高橋智樹
■つじあやの
M-1 クローバー
M-2 春風
M-3 明日きっと
M-4 パレード
M-5 君にありがとう
M-6 風になる
「楽しいお祭りです。今日は楽しんでいってください!」という、爽やかな言葉で始まった、つじあやののステージ。ROAR STAGEのフロアに笑顔を運ぶ、朗らかで気持ちの良いライブである。
ウクレレのメロディに心洗われる「クローバー」が始まると、会場の空気がいきなり変わる。外はあいにくの雨模様だが、パッと晴れ間が広がるような歌声に癒される。踊るような鍵盤、跳ね回るリズムが快活に響きわたる「春風」を、タンバリンを叩きながら歌う姿が印象的だ。
「こんにちは、つじあやのです。スピードスター30周年です。私がスピードスターに来てから20数年になります。最初の頃は右も左もわからないけど、怖いものはなくて。個性溢れる先輩に囲まれながら、マイペースにやってきました」という彼女。おっとりしているようで芯のあるその言葉は、そのままつじあやのの音楽に繋がっているように思う。
約10年ぶりのオリジナルアルバムとしてリリースされた『HELLO WOMAN』から、「明日きっと」を披露する。雲に乗って青空を飛んでいくようなナンバーで、溌剌とした声は虹色の照明に乗って突き抜けていく。山下達郎のカバー「パレード」は、少ない音数ながら贅沢なアンサンブルが印象的だ。
そこからは一転、星空の下で歌っているような照明のもと、「君にありがとう」をスタート。心の奥にそっと流れ落ちるような声が魅力的だ。「スピードスターの素晴らしいアーティストが揃いも揃っています。最後まで楽しんでいってください」というMCから、押しも押されもせぬ代表曲「風になる」へ。
イントロを聴いただけで心が踊る、瑞々しい名曲である。自転車に乗って駆け抜けていくようなメロディと、そよ風に揺れるように手を振るお客さんが眩しい。幸運を運んでくるような声で魅了した彼女は、晴れやかにステージを後にした。
TEXT BY 黒田隆太朗
■藤巻亮太
M-1 この道どんな道
M-2 南風
M-3 3月9日
M-4朝焼けの向こう
M-5 粉雪
轟々たるフィードバックノイズを浴びながら、ROAR STAGEには藤巻亮太が意気揚々と登場。2023年1月にリリースされた4thアルバム『Sunshine』から「この道どんな道」を歌い上げるアグレッシブな歌声が、会場の期待感を歓喜の先へと導いていく。さらに、レミオロメンとして2004年にリリースした「南風」で、フロア狭しとハンドウェーブが巻き起こしてみせる。
「一人ひとりの思い出の中に、大事な人が浮かんできたり…そんな曲もあるかもしれません。だからこそ、僕も毎回、新鮮な気持ちで歌わせてもらっております」という言葉に続けて歌い上げたのは「3月9日」。ボーカリストとしての類稀なる表現力、感情の機微を珠玉のメロディへと結晶させるソングライティング…。ポップミュージックの訴求力と包容力そのもののような楽曲で、00年代以降の音楽シーンにその足跡を刻み込んできた藤巻の存在感が、この日のステージにも確かに花開いていた。
「藤巻亮太の現在地の曲だと思っています。不安なことも多い世の中だと思いますけど、皆さんの、静かに戦ってらっしゃる背中を、少しでも押せたらと思います」と披露したのは、2月にリリースされたばかりの配信シングル「朝焼けの向こう」。“諦めるなこの心よ/自分が自分であるために”――パワフルなバンドサウンドが、そして何より藤巻の圧巻のドライブ感が、ROAR STAGEの高揚感をさらに熱く煽り立てていく。そして最後、「今日は寒いですけど……雪まではいかなかったですよね? 最後に、パラッと降らしていきます!」と名曲「粉雪」で大団円! 歌の持つ力を誰もが最大限に体感し得た、至上のひとときだった。
TEXT BY 高橋智樹
■THE BACK HORN
M-1 シンフォニア
M-2 罠
M-3 美しい名前
M-4 希望を鳴らせ
M-5 コバルトブルー
M-6 太陽の花
荘厳なSEが流れ、THE BACK HORNのステージの幕が上がる。地響きのようなドラミングに乗って荒々しくドライヴしていく「シンフォニア」で、いきなりフロアのボルテージはマックスだ。涙を流しながら咆哮するようなギターが響く名曲「罠」。亡霊のように彷徨う上音と、フロアの床を侵食するように迫ってくる低音に飲み込まれる「美しい名前」。まるでのっけからクライマックス同然のテンションである。
ここでMCを挟んで小休止。嵐の前の最後の静けさだ。「30周年おめでとうございます。所属してから22年が経ちましたけど、結成してから25周年が経ちました。スピードスターが持つ色の変態っぽさと言いますか、キャラの濃い素晴らしいアーティストがいっぱいいます。力に変えて帰ってください」。さあ、ここから怒涛のフィナーレである。
誰もが歌いたくなるようなメロディに惹きつけられる「希望を鳴らせ」が、再びフロアに火を付ける。会場の向こうまでぶっ飛ばすように拳を挙げて歌う山田将司(Vo)の姿が目に焼き付いて離れない。間髪入れずに「コバルトブルー」で畳みかけると、命の限りに叫ぶようなギターと、腹の底にズシンと響くようなベースにクラクラさせられた。強靭なアンサンブルに身を任せ、荒ぶるように身体を動かすボーカルもカッコいい。そのどれもが真摯で鮮烈、この歌だけは正面から受け止めなければ、と思わせる迫力があるのだ。
最後は「また会おうぜ」という言葉を残し「太陽の花」へ。咲き乱れるように細かいリズムを刻む太いベースに、嫌でも身体が揺さぶられる。美しい旋律とカオスが同居するサウンド、ドス黒いのに眩しいメロディ、間違いなくこのバンドだからこそ築けた音楽だろう。どこまでも愚直で手加減を知らない、聴く者に生きる糧を与えるようなライブに絶え間ない拍手と拳が上がっていた。
TEXT BY 黒田隆太朗
■AA=
M-1 新曲
M-2 BORDER
M-3 PICK UP THE PIECES
M-4 NOISE OSC
M-5 The Klock
M-6 ユー・メイ・ドリーム
M-7 FREEDOM
荒々しいドラムの響きに続いて、ハンドマイクスタイルで強烈なメッセージを放つ上田剛士のスクリーム、そしてROAR STAGEに吹き荒れるハイパーな轟音の嵐! いきなり未発表の新曲からスタートしたAA=のステージは、コンセプチュアルアルバム『story of Suite #19』の収録曲「BORDER」へと雪崩れ込み、幕張メッセの熱気を熾烈な緊迫感と狂騒感で塗り替えていく。時代と向き合い時代と戦う音楽としてのハードコアのリアリズムが、2023年の「今」を芯から震わせていく。
上田剛士&白川貴善&児島実のパンキッシュな絶唱がメッセの天井を貫くように鳴りわたった「PICK UP THE PIECES」のダイナミズム。「NOISE OSC」から「The Klock」へとシームレスに繋ぐサウンドスケープに、世界の混沌を凝縮し炸裂させてみせた圧巻の展開…。衝撃と衝撃の軋轢の果てに、透徹した世界観とひと筋の光を描き出す。まさに唯一無二の表現だ。
そして、「SPEEDSTAR RECORDSのレジェンド、そしてロックンロールのレジェンド、シーナ&ザ・ロケッツの曲――日本でいちばんロマンチックなロックンロール、やります」という言葉とともに披露されたのは「ユー・メイ・ドリーム」。3月29日リリースの上田剛士初のカバーアルバム『TEENAGE DREAMS』にも収録されるシーナ&ザ・ロケッツの名曲が、時空を超えたロックの道筋を力強く照らし出していた。ラストの「FREEDOM」で再びROAR STAGEを震撼させたあと、「みんなにとって、明日がいい日であることを願っています。どうもありがとうございました!」と語りかける上田剛士の姿に、惜しみない拍手が降り注いだ。
TEXT BY 高橋智樹
■竹原ピストル
M-1 おーい!おーい!
M-2 カモメ
M-3 LIVE IN和歌山
M-4 ギラギラなやつをまだ持ってる
M-5 よー、そこの若いの
M-6 Amazing Grace
M-7 今宵もかろうじて歌い切る
M-8 アンチヒーロー
「お世話になっているSPEEDSTARに感謝を込めてやります、竹原ピストルです」が第一声。そう、彼の叫びはいつだって感謝の裏返しなのだろう。1曲目を歌い終わるや否や多くの拍手が起こり、一瞬の静寂が訪れた。のっけから余韻と期待に会場全体が包み込まれていたように思う。
「LIVE IN 和歌山」からは、いっそうゲインが上がっていく。時に語りかけるように、あるいは殴りつけるように歌う彼から目が離せない。ひときわ緊張感を持って歌われたのが、ラップともポエトリーとも言える「ギラギラなやつをまだ持ってる」である。懸命さと隣り合わせの攻撃性、情けなさと引き換えに掴んだ意地、音楽と人生に誠実でいるからこそ歌える“傷跡ひっくるめて魂だ”というリリック。アコギ1本とは思えない迫力満点のサウンドが胸を打つ。
「もしよかったら疲れない程度に手拍子ください」と言われれば、ハンズクラップで応えないわけにはいかないだろう。リズミカルな音に乗せて優しいメロディを届ける「よー、そこの若いの」を歌い、本ライブのハイライト「Amazing Grace」へと繋がっていく。「皆さんが健やかに過ごされますように、お祈りの気持ちを込めて歌います」というセリフと、真心込めて呟くような最後の“Amazing Grace”という詩。その清らかさに圧倒された者は多いはずだ。
さて、ここでひと呼吸を置くMCである。マスクをつけてもつけなくても、街中で誰からも気づかれないというエピソードが微笑ましい。怖いぐらいの誠実さとあどけないユーモア。竹原ピストルはそのふたつがあるから頼もしい。最後は未発表曲の「アンチヒーロー」で終幕。一度限りの人生を懸命に生き抜く歌、タフな表現者に万雷の拍手が送られた。
TEXT BY 黒田隆太朗
■LOVE PSYCHEDELICO
M-1 Free World
M-2 Swingin’
M-3 Your Song
M-4 Last Smile
M-5 Calling You
M-6 LADY MADONNA ~憂鬱なるスパイダー~
M-7 A revolution
『LIVE the SPEEDSTAR』、ROAR STAGEの最後を飾るのはLOVE PSYCHEDELICO。NAOKIのギターが「Free World」のイントロをかき鳴らすと、フロアに自然とクラップが溢れ、KUMIの歌声がオーディエンスの心を重力から解き放つ。エバーグリーンなロックが描き出す、涼やかでタフなポップの多幸感。祝祭の夜はなおも刻一刻と高まっていく。
「SPEEDSTAR 30周年、みんなで楽しんでいこう!」というKUMIの言葉に続けて、最新アルバム『A revolution』の「Swingin’」、さらにNAOKIのアコギソロを挟んで、1stアルバム『THE GREATEST HITS』から「Your Song」へと繋いで、フロアを軽快なクラップの渦へと巻き込んでいく。そして、1stアルバムからもう1曲「Last Smile」。日本語と英語をしなやかに織り重ねて美しいグルーヴを刻むKUMIの歌声、聴く者すべてのメランコリアと共振するメロディ、研ぎ澄まされたバンドアンサンブル、むせび泣くようなNAOKIのソロフレーズ――。リリースから20年以上の時を経てなお、いや時代の変遷を経た今こそ、その楽曲の輝きは鮮烈に伝わってくる。
「Calling You」のタイトなビートで再びROAR STAGEを揺らしたところで、NAOKIが繰り出す「LADY MADONNA〜憂鬱なるスパイダー〜」のリフに場内が拍手喝采で沸き返り、KUMIの“won’t you cry?”のリフレインに応えてオーディエンスの手が頭上に揺れる。ラウドでもエクストリームでもない、しかし力強く揺るぎないポップの訴求力が、音楽の理想郷の如き高揚の風景を切り開いていく。熱演を締め括ったのは、最新アルバムのタイトルナンバー「A revolution」。“Ten to nothing, we’re behind/それでも奪えない僕らの世界はbeautiful”…困難な日常すらも奮い立たせるロックが、ここには確かに鳴り渡っていた。
TEXT by高橋智樹
■鮎川誠 FOREVER(スペシャル映像上映)
BARK STAGEで斉藤和義のライブが終わった直後、画面に「NEXT ARTIST シーナ&ロケッツ」という文字が。この『LIVE the SPEEDSTAR』に出演するはずだったが、鮎川誠が1月29日に亡くなったため、出演をキャンセルせざるを得なかったシーナ&ロケッツは、スピードスター立ち上げのときから現在まで所属する、唯一のアーティストであり、レーベルを象徴する存在だった。その功績を振り返り、追悼の意を表す企画が、彼らの出演の代わりに、ここで行われたのだった。
スピードスターからのメッセージと企画の趣旨を文字で伝えたあと、「短い時間ではありますが、ありし日の雄姿をご覧ください」と、シーナ&ロケッツ(シーナの産休時に鮎川誠がボーカルで活動していたロケッツの曲も含む)の、テレビ出演時や、MVや、ライブの映像が流れる。
「ホラ吹きイナヅマ」。「Rock Is Alright」。キンクス「YOU REALLY GOT ME」のカバー。「スイート・インスピレーション」。「ロックの好きなベイビー抱いて」。「ラフネックブルース」…。
「レモンティー」の貴重なライブ映像は、長めの尺で見せてくれた。ラストはシナロケの最初の代表曲である「ユー・メイ・ドリーム」。すべての映像が終わり、鮎川誠の声が響き、彼の手書きメッセージが画面に現れた。それが消えると、大きな拍手がBARK STAGEを包んだ。
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