■大トリはBAD HOP。「今日は特別なフェス。トリを務めさせてもらって光栄です」
10月23日、国立代々木競技場 第一体育館にて、『THE HOPE』が開催された。
<日本最大級のHIP HOPフェスティバル>を掲げ、多くの注目と期待を集めて開催された『THE HOPE』。野外のブースに登場したDJ陣も合わせると、この日、会場の国立代々木競技場 第一体育館には総勢50組以上のHIP HOPアーティストが集結した。
『THE HOPE』のフェス名をかたどったモニュメントや、出演アーティストらの名前がコラージュされた大きなブロック、そして、ネオンの明かりが灯るラジカセ型のDJブースなど、会場の入り口には無料で入場可能なFESTIVAL AREAが設けられた。フードエリアも並ぶ野外スペースは、晴天のもと自由に楽しむオーディエンスで賑わい、高揚したフェスの雰囲気をよりいっそう盛り上げていた。
チケットを手に場内へ入ると、すぐ目に飛び込んでくるのはNIKE SNKRSによる大きなブース。歴代のスニーカーに加え未発表のレアなモデルや出演アーティストの私物スニーカーも展示され、来場者の目を引いた。さらにはスニーカーを磨いてくれるシューシャインスポットもお目見えし、HIP HOPシーンに根ざすスニーカー文化を体現したような空間が出来上がっていた。こうした複合的なプレゼンテーションは、まさに次世代のHIP HOPフェスならでは。これまでにないHIP HOPフェスの在り方をも提示していた。
開演時間ぴったりにステージに登場し、先陣を切って会場のアツい火蓋を切ったのはBleecker Chromeのふたり。KenyaのボーカルとアクティブなXinの動きがステージを彩った。その後、福岡のラップクルー、Deep Leafが登場し、メンバーである16のソロステージへ。短い転換の後にEASTA、ShowyRENZO、Only Uらフレッシュなメンツのパフォーマンスが続く。
前半のパフォーマンスの白眉となったのは、Only Uによる「Stranger」、Fuji Taitoによる「Crayon」、Candeeによる「ASOBI」など、SNSを中心にヴァイラル・ヒットとなったヒット曲の数々だ。早くもオーディエンスの一体感を生み出し、若手アーティストの瞬発力の高さをグイグイと見せつけていく。2021年の「ラップスタア誕生」の覇者であるeydenも、早くも人気ラッパーとしての風格を漂わせ「House Party」で会場を沸かせた。目を引く衣装で登場したCYBER RUIは全身からフレッシュなエネルギーを放ち、魅力たっぷりのパフォーマンスを披露。
メロディアスなフロウで、自身の世界観へと一気にオーディエンスを引き込んだYoung Daluに続いて登場したのはralph。「下手に横浜をレペゼンなんて言えないが、俺なりの答えを用意してきた」とMCを挟んでキックしたのは、横浜の大御所、OZROSAURUSによる不動の人気曲「Area Area」をサンプリングし、ドリル風に仕立てた新曲。OG へのリスペクトともに会場に地元の風を吹かせた。「ここで実力を見せたい」とralphの呼びかけにHideyoshiが登場し、そのまま「Jitsuryoku」を披露。勢いは止まらず、グイグイとオーディエンスを引っ張っていく。
そして、場の雰囲気を一変させたのが、その後に続くElle Teresa。キュートかつ堂々とした振る舞いは、まさにイットガールといった風情だった。2021年からじわじわとヒットを続けている「High School Dropout」を引っ提げ、勢いよくステージに現れたDADA、弾けるような魅力を存分に発揮したYoung Cocoと、若き実力派ラッパーたちがさらに場を盛り上げていく。
そもそも、『THE HOPE』というフェスのタイトルは“10代〜20代前半の良質な若手ラッパーたちにもっとスポットライトが当たる場を提供したい、未来ある「希望」に注目してほしい”という実行委員会の想いに由来しているもの。活動歴はまだ短いながら、ヒット曲を引っ提げて大いに会場を盛り上げる若手アーティストらからは、はち切れそうなエネルギーを感じたし、それに応じるオーディエンスの盛り上がりも最高だった。
しばしの休憩時間を経て、「UP IN SMOKE」のイントロを轟かせステージに登場したのはMONYPETZJNKMN。スモーキーなバイブスを漂わせつつ、マイペースにオーディエンスを煽っていく。出番の最後は、絶賛ヒット中のMonyHorse「SUSUME」で締めくくった。PERSIAは電動キックボードで颯爽と(かつ派手に)ステージに登場。ストリートで鍛え上げたパフォーマンス力で会場をハイな雰囲気で包み込んだ。RAM HEADも参加した「YAH」では見事なハーモニーを聴かせた。PERSIAからのバトンを受け継ぐかのごとく、あとに続いたのはジャパニーズマゲニーズ。MC含め、自分たちの“飛び道具”を存分に活用した見応えあるステージで魅了した。孫GONGは「今、猛烈に感動しています。こんなところで歌えると思っていなかった。ありがとう」とオーディエンスに謝辞を述べ、「最後の一本」を披露。アリーナ後方から上階の席まで手を左右に振り続けるオーディエンスの様子も、印象的な一幕だった。その後、C.O.S.A.が登場すると場の空気はさらにタフなバイブスへ。クールに、そしてヘヴィに畳み掛けるラップに心酔するひと時を演出した。
長丁場も折り返すタイミングで、フレッシュに現れたのはEric B. Jr.。自らの思いを込めた「First Day Out」で、若いながらも迫力あるライブでインパクトを残した。そして、真っ赤な衣装で「全てを燃やしに来た」と沸かせたのはRed Eye。「若いヤツがいちばんカマさな」と語り、とにかくハードに盛り上げる。終盤、「いちばんヒップホップな曲、聴きたいよな?ニッポンのリアルはここにある!」と前置きし、「悪党の詩 REMIX」を披露。彼がラップするきっかけにもなったレジェンド、D.O.も参加し、さらに盛り上げていった。息つく暇もなくステージ上に現れたのはDJ CHARI&DJ TATSUKIの名コンビ。「ビッチと会う」を皮切りにヒット曲を立て続けにプレイしていき、Choppa Capone & RK Bene Babyも登場して目下ヒット中の「Blue Beam (Remix)」をパフォーム。「楽C人生」ではY’sとCandee 、MonyHorseが登場。そして。さらには、IOとMonyHorseでDJ TATSUKI名義の「TOKYO KIDS」を披露して、会場はより興奮の渦へ。
ライブの後半が近づくと、次のアーティストを待つオーディエンスの期待感がさらに高まっていくのを感じた。ANARCHYが登場すると、その空気がさらに張り詰める。マイクを握る姿はドラマチックでもあり、国内HIPHOPシーンにおける唯一無二のキングとしての存在感を放っていた。「俺は、自分の行きたいところに行ってやりたいことやる。一緒に遊ぼう」と呼びかけ、自身の代表曲に加えてBADSAIKUSHとの「DAYDREAM」や「ANGELA」なども披露。緊張感が走る曲間のMCも含め、凄みを感じさせるステージだった。
さらに舞台は転換し、会場を包んだのは三味線の音色。印象的な登場の後に「IRON HORSE -No Mark-」をキックしたのはAK-69。“地方馬がダービーを制す”というパンチラインが、いつもより深く胸に突き刺さる。途中、ANARCHYやYo-Seaらを呼び込み、次々とヒット曲をパフォーム。広い会場内に響き渡るその声は、抜群の存在感を証明してみせた。
AK-69のパフォーマンスが終わると、そのままスポットライトはバックDJを務めたDJ RYOWに。大きなスクリーンには生前のTOKONA-Xの姿が映し出され、そのリアルさはまるで彼が実際に代々木体育館のステージでライブをしているような錯覚に陥るほどだった。MCのG.O.T.O.による掛け合いも軽快に、「知らざあ言って聞かせやSHOW」「New York New York」とアンセムを立て続けにプレイし、合間にBALLERSやYOUNG GUNZの楽曲も挟みながら、名古屋産HIPHOPのレガシーを伝えていく。「ビートモクソモネェカラキキナ 2016」ではなんと楽曲に参加した般若、R-指定、Zeebraがシークレットゲストとして登場。そしてAK-69が揃い踏みして豪華な瞬間を創り上げた。終盤に「WHO ARE U ?」が掛かると客席の後方までが“X”のハンドサインで埋め尽くされ、最高のトリビュート・タイムが締め括られた。
熱気が充満した会場のスクリーンに映し出されたのは“SECRET GUEST”の文字。そして、赤い照明と共に登場したのはKANDYTOWNの面々。話題の最新シングル「Curtain Call」に始まり、「Get Light」「One More Dance」とクールな魅力を振り撒いた。
続いて登場したのはBIM。「Dream Chaser」ではkZmが登場し、絶妙なコラボ曲を生披露。“大袈裟じゃなく、ただしたいんだフェスを”とリリックの一部を変えて歌う姿が印象的だった。“できればずっと、かける音はHIPHOP”という歌詞も、じんわりと染みる。BIMが最後に「BONITA」をパフォームし、温かいバイブスが流れた会場をガラリを変えたのが、続くJin Doggだった。大股でステージを練り歩き、暴れ回りながらシャウトする姿は気迫に満ちていた。「楽しみにしてたか、馬鹿野郎ども」と毒づき、「街風」をハードにスピット。最後にはPetzを呼び込んで「Blue」をパフォームし、音楽性の高さも見せつけた。
凝った映像とサウンドで期待感を煽ったのはTohji。扇情的なシンセの音がガンガン響き、緩急つけたパフォーマンスを続けていく。「みんなに一個だけ確認したい。何バイブス持ってる?」と問いかけ、「Goku Vibes」のイントロと共に、ステージにはElle Teresaの姿も。新世代のロックスターらしい風格漂うステージだった。
いよいよ終盤、¥ellow Bucksが「In Da Club」で華々しく登場する。「ちょっと一回、静かにしてもらおうかな」と会場をコントロールし、続く「Yessir」で爆発的に盛り上げる。「ちょっとここで、名古屋のHIPHOPをやらせてくれ」と前置きし、AK-69を呼び込んで不動の人気曲「Bussin’」をパフォーム。名古屋のレガシーと次世代ががっちりタッグを組んだ瞬間だった。
スクリーンに「Queendom」のロゴが映し出されると、クイーンを迎える準備は万端と言わんばかりに、自然とオーディエンスの携帯電話のライトが会場を埋め尽くす。荘厳なイントロと共に登場したAwich。この夏、幾つものフェスのステージを経験してきたであろう彼女は、動作の一つひとつが研ぎ澄まされ、“極東のクイーン”の名にふさわしい佇まいだ。「イルなレガシーを見せてやるから、来年はアリーナに来い!」と告げ、¥ellow Bucksとともに「Link Up」を披露した。
そしていよいよ『THE HOPE』の大トリであるBAD HOPの出番が。「Friends」を歌いながらステージに現れたメンバーからは、この日最大のエネルギーが発されていた。完成されたマイクパスからは、桁違いのアツさを感じる。「今日は特別なフェス。トリを務めさせてもらって光栄です」とTiji Jojoが語り、「Highland」へ。会場全体が手を挙げ、まるで大きな波のようなうねりを見せる。「Suicide Remix」ではHideyoshiとJin Doggもステージに登場し、レアなコラボ・パフォーマンスを実現させた。「Bayside Dream」、そして最後はお決まりの「Kawasaki Drift」へと続き、圧巻のショウが幕を閉じた。
シーン屈指のラッパーらが一堂に会し、参加したオーディエンスとともに作り上げた伝説的な一夜。文字どおり、一瞬たりともステージから目が離せず、HIPHOPが持つ大きなパワーを浴びた1日となった。
THE HOPE
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