■ひとりでは描き切れない夢を新しい出会いのなかで実現する。シユイにとってそれを可能にしたのが、『MECRE』だった。
11月9日に現在放送中のTVアニメ『機動戦士ガンダム 水星の魔女』のエンディングテーマ「君よ 気高くあれ」でメジャーデビューすることを発表したシユイが、自身が世に知られるキッカケとなったWEBプラットフォーム『MECRE(メクル)』であらたにMVの募集を開始した。
あらたにMVが募集されるのは、「君よ 気高くあれ」のカップリング曲である、柊マグネタイト提供楽曲の「Mercury」。シユイにとってMECREとの出会いはメジャーデビューに至るまでの過程で欠かせないものとなっているが、今回はそんなシユイと『MECRE』の歩みを振り返ってみたい。
初音ミクが生まれた2007年以降、ネットミュージックシーンを担ってきた歌い手は、今では、活動10周年を迎えるなど、いわゆるレジェンドと呼ばれるような存在になった。歌い手という存在がアーティストとして世間に認められるようになったのは、ここ2、3年のこと。その裏でネットミュージックシーンを守り続けてきた彼らに憧れる星の数ほどの後進が、SNSに日々誕生し続けているのが現状だ。いわば、今はネットミュージックシーン戦国時代。10年前に活動を始めた歌い手と同じことをして勝ち抜くのは至難の業。鍵になってくるのは、どれだけ“突き抜けたオリジナリティを確立できるか”だ。
以前に増してクリエイターの才能の純度が高くなってきている一方で、クリエイターの母数が増えているぶん、せっかくの貴重な才能がSNS上に埋もれてしまう。そんななか、無名のクリエイターの活動にスポットライトを当てるきっかけを作る様々なイベントが開催されるようになった。例えば、無名のボカロPが楽曲投稿をすることで注目を浴びるきっかけを作るイベントとして、ボカロ文化に今欠かせなくなっているのが、2021年にスタートした株式会社ドワンゴ主催のボカロ文化の祭典『The VOCALOID Collection(通称:ボカコレ)』。
無名のクリエイターをプッシュするイベントが話題になるなか、2021年にスタートしたボカロP/歌い手/イラストレーター/作詞家/小説家などのクリエイター同士が必要なパートナーを募集できるプラットフォームサービス『MECRE』から、2022年11月にメジャーデビューを控えるまでにいたったひとりの歌い手・シユイが誕生したことは注目に値するトピック。このMECREでは、「ロイヤリティユーザー」と呼ばれるクリエイターが、サイト内で、おのおのの作品に必要な創作パートナーの募集をかけ、応募した一般クリエイターのなかから人選を行う。そして、コラボが成立するとそのメンバー間での作品の制作が始まり、完成した動画はMECREのYouTube公式チャンネルで公開される。
シユイは、2021年1月、Twitter、YouTube、ニコニコ動画のアカウントを開設し、主に歌ってみた動画を投稿する歌い手としての活動を開始した。毎週月曜日にはツイキャスで歌枠を中心とした生配信を実施しているほか、pixivでデジタルイラストを手掛けるなど、多才。歌ってみたの投稿を続けていたところ、2021年5月末にβ版としての『MECRE』がスタートした。
『MECRE』の第1弾の募集は、「うっせぇわ」現象が起こる前に、Adoをフィーチャリングした「シカバネーゼ」で一躍有名になったボカロP・jon-YAKITORYによるもの。jon-YAKITORYは募集ページで初音ミクをフィーチャリングした原曲を公開し、たったひとりの歌い手を募集していた。SNS上でそれをたまたま目にしたシユイは応募した。
jon-YAKITORYとのディスカッションのなかで生まれた「ONI」は、シユイの透明感のある歌声のなかに隠れていた遊び心を見事引き出し、豪快で大胆な表情が飛び出した一曲として完成。『MECRE』の公式YouTubeチャンネルで公開されると、1ヵ月で100万回再生を叩き出す偉業を成し遂げた。シユイは、もともと自身のYouTubeチャンネルにてjon-YAKITORYの「シカバネーゼ」「フェイキング・オブ・コメディ」の歌ってみた動画を投稿していたこともあり、ボーカルを選ぶjon-YAKITORYにとっては、「ONI」の完成イメージがつきやすかったという。ここにシユイの日々の努力の積み重ねが報われ始める。
2022年7月8日には、歌ってみたの流れを作った伝説の楽曲「メルト」を生み出したsupercellを筆頭に、ネットミュージックシーンで活躍の場を広げるアーティストが所属する「インクス トゥエンター」から、初のオリジナル作品となるEP『思惟』をデジタルリリースしたシユイ。
この作品にはjon-YAKITORY、和風清楚ロックが光る一二三、代表曲に「帝国少女」「flos」を持つR Sound Design、<ボカコレ2020冬>ルーキーランキングのトップに輝いた「終焉逃避行」で一気に知名度を高めた柊マグネタイトといった、豪華クリエイターによる提供楽曲がラインナップした。特筆すべきは、R Sound Designによる「カトレア」のMV制作にあたっては、『MECRE』内で、シユイが募集をかける側の「ロイヤリティユーザー」となり、クリエイターを募集したこと。初めて、募集する側に立ち、あらたな一般クリエイターを加えて完成へと導いたこの作品は、 EP『思惟』収録曲で公開されたMVのなかで最も好調な再生回数となった。まだ経験値が少ないクリエイターでも主役になれることが証明されるとともに、クリエイター同士の新しい出会いが良好な結果を生んだ。
そこから勢いは止まることなく、急展開を迎えることになっていく。現在放送中のテレビアニメ『機動戦士ガンダム 水星の魔女』のエンディングテーマとして、ryo(supercell)がサウンドプロデュースを手がけた「君よ 気高くあれ」でメジャーデビューが決定したのだ。歌を歌うきっかけとなったのは、supercellの音楽だとシユイは告白しており、夢にまで見た共作が実現したといえる。
無名の歌い手としてのスタートから約1年9ヵ月。突き抜けたオリジナリティが求められるのが今のネットミュージックシーン戦国時代を勝ち抜くポイントであると冒頭に綴ったが、シユイはそのポイントを満たした歌い手だ。これまで投稿した歌ってみた動画が70本にのぼっていたり、バラエティ豊かな曲調の楽曲を歌うことで、自身の可能性を外野へと解放していたり、そんなアクティブな活動姿勢は他の歌い手とは異なる独自路線を走っていると言っていい。
歌声は、シユイ本人もjon-YAKITORYとの初の対談で語っていたように、メインストリームのポップスで「うっせぇわ」現象を巻き起こしポップアイコンと化したAdoや、ボカロP・くじらとの最強タッグで世に浸透したyamaに似て、中性的でかつ臨機応変に歌声の温度感を調整することに長けている。
EP『思惟』では、その語彙が示すとおり、心で深く考えることをテーマとして丁寧に言葉を紡いだ一方で、「君よ 気高くあれ」では、壮大なスケール感のあるサウンドに合わせて、前を向くための力を注ぐような逞しい歌声が印象的。EP『思惟』では見られなかった人間らしい感情的な表情が盛大に剥き出しになっている。作品ごとに世界観を大きく変えることのできるボーカルであることから、その歌声に自分色を足していくのは容易なことに思える。今後、まだ出会っていないクリエイターとの共作のなかで、シユイはどんな歌声を咲かせてくれるのだろうか。
誰もが憧れるシンデレラストーリーを描いたシユイのように、日々の努力の積み重ねに小さな行動を足すことで花開くチャンスに巡り会うことができる。様々なクリエイターとの作品作りのなかで、オリジナリティーを見出し、自分だけの色のついた作品を生み出すことができれば、この先もさらに道は開けていくだろう。ひとりでは描き切れない夢を新しい出会いのなかで実現する。シユイにとってそれを可能にしたのが、『MECRE』だった。憧れのクリエイターとの作品作りを超えて、気付けば自身が主役となっていた。今の時代、すべては揃っている。ゆえに、奇跡を起こせるかどうかは自分次第だ。
TEXT BY 小町碧音
リリース情報
2022.11.09 ON SALE
SINGLE「君よ 気高くあれ」
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MVクリエイター募集の詳細はこちら
https://mecre.net/recruitments/761e989d-a303-42e4-af10-6a810fee9ff9
MECRE OFFICIAL Youtube
https://www.youtube.com/channel/UCISAnAHCURVxlpFdR1jLF5Q
MECRE
https://mecre.net/
シユイ OFFICIAL SITE
https://www.shiyui.jp