■第1部は1982年6月30の“あの日”と同じ曲順を再現
6月30日、4回目となる『オフコース・クラシックス・コンサート』が日本武道館で行われた。本記事ではそのオフィシャルレポートを掲載する。
40年前の1982年6月30日。オフコースが、全国28ヶ所69公演行った『over』ツアーの締めくくりとして臨んだ前人未到の武道館10daysの最終日を行なった日であり、それは“5人のオフコース”のラストステージでもあった。このコンサートのチケットの応募総数は53万通という驚くべき数字で、すべてにおいて伝説化されているコンサートだ。
そして、2022年6月30日。「40年後の同じ日に同じ場所でコンサートをやるということで、あの伝説のコンサートに対するファンの皆さんの思い、 気持ちをフォーカスした一夜にしたいと思います」と、このコンサートの音楽監督/指揮を手がける服部隆之が公演に向けてのコメントでも語っていたように、様々な思いを胸に駆け付けたファンで埋め尽くされた客席は、ドキドキ感とワクワク感に包まれていた。
60名を越えるオーケストラとバンドがステージ登場。オープニングナンバーはバンドサウンドでの「愛の中へ」だ。そして日本武道館を空撮で捉えた映像が「NEXTのテーマ~僕等がいた」と共に流れる。これは当時、この伝説のコンサートを観ることができなかった多くのファンのためにフィルムコンサートが全国で開催され、そこで使用され、のちに『Off Course 1982・6・30 武道館コンサート』として映像化された作品の冒頭のシーンだ。小田和正の美しいストリングスアレンジが印象的なインスト曲「心はなれて」から、佐藤竹善が登場し「メインストリートを突っ走れ」を披露。鈴木康博作曲の、疾走感のあるロックナンバーがオーケストラアレンジになると、さらに疾走感が増し、佐藤の強いボーカルが客席に突き刺さるようだ。「君を待つ渚」では、さかいゆうがのびやかなボーカルと佐藤竹善とのハーモニーを披露。
「思いのままに」にはオーケストラの繊細で豊かな音が、曲が持つ切なさをさらに膨らませていく。「哀しいくらい」も切ないメロディを、特にチェロとサックスの音が表情豊かにしていく。この日の第1部は1982年6月30の“あの日”と同じ曲順を再現している。
「40年前、僕もオーディエンスの一人として武道館にいました」という稲垣潤一は、「夜はふたりで」を変わらないハイトーンボイスで披露。オフコース最大のヒット曲「さよなら」はNOKKOが歌った。イントロの後、音が止み、アカペラで<もう 終わりだね>と歌い始めた瞬間、その世界に引き込まれる。情感豊かに歌いあげ、NOKKO節が炸裂。「僕のいいたいこと」(松尾一彦作曲)は原曲でもぶ厚いストリングスが施されているが、この日も壮大なオーケストレーションとギター、サックスをフィーチャーしたアレンジが印象的だ。そこから一転して、静かなピアノから始まるバラード「心はなれて」は、辛島美登里のまっすぐな歌が客席を包み、感動が広がる。
「言葉にできない」は、今回が初出演のCHEMISTRYが歌った。川畑要は「緊張しています」と語り、堂珍嘉邦は昔出演したイベントで小田和正に「頑張れよ」と声を掛けられたことがいまだに忘れられないと語っていた。その小田が、あの日涙で歌えなくなった誰も知るこの名曲を、二人がどんなパフォーマンスで届けるのか、注目が集まった。ハープの音からスタートして二人の質感の異なる、でも抜群の肌触りの声でひと言ひと言を丁寧に伝える。40年前、この会場で流れた映画『ひまわり』の映像が流れると、客席では涙を流す人も。
「一億の夜を越えて」「のがすなチャンスを」は中川晃教が歌った。鈴木康博作の男らしい歌詞のロックナンバーを、緩急つけた表情豊かな歌で披露。まるでロックミュージカルのワンシーンを観ているようだ。この日が3年振りの来日となったソン・シギョンは「YES-NO」を披露。さらに煌びやかさを増したアレンジとソンの柔らかで、少しウェットな声とが相まって情熱的な歌が生まれた。ジャジーで、重厚かつ洗練されたアレンジが施された「愛を止めないで」はNOKKOが歌った。サウンドが歌を立て、歌がサウンドをより印象的なものにするまさに“NOKKO劇場”に、会場全体が引き込まれる。第1部ラストは「I LOVE YOU」。心音を表すリズムに乗り、Ms.OOJAのソウルフルな質感の声が、楽曲全体を包む切なさをより色濃く映し出す。
第2部は「愛の唄」から。西村貴之のサックスをフィーチャーしたアレンジが、楽曲のメロディの美しさを“剥き出し”にする。このクラシックコンサートは、オフコースの楽曲のメロディがいかに美しく瑞々しいかを再確認する場でもある。70年代から、多くの人の心を震わせる音楽を奏で続けてきたオフコースへのリスペクト、愛を、服部隆之のアレンジ、出演アーティストの歌から感じることができる。
美しいロックバラード「いくつもの星の下で」では、さかいゆうと中川晃教のコラボが実現。二人のユニゾン、ハーモニーは絶品だ。アルバム『We are』(1981年)は、スティーリー・ダン、ボズ・スキャッグス、TOTOなどを手がけた名エンジニア、ビル・シュネーを起用し、5人のオフコースのサウンドが確立された名盤と謳われている一枚で、その一曲目の「時に愛は」は、まさに新しいオフコースの幕開けを感じさえてくれる一曲だ。この日もバンドサウンドを前面に打ち出し、稲垣潤一が丁寧にかつエモショーナルに歌う。「でももう花はいらない」は1973年6月5日に発売された、オフコースの1stオリジナルアルバム『僕の贈りもの』に収録されている49年前の作品だが、オーケストラアレンジされ、クラシック曲のような普遍性とやはり瑞々しさを感じる。このポップス×シンフォニックのコンサートが4回も続いている秘密はここにある。オフコースの音楽が持つ普遍性、何度聴いても新鮮で新しい発見がある、クラシック曲のような佇まいだからだ。
「秋の気配」は矢井田瞳と辛島美登里のコラボで披露。男性目線の歌詞がさらに愁いを帯び、伝わってくる。佐藤竹善が歌った「生まれ来る子供たちのために」は、このポップス×シンフォニックのコンサートの、ひとつのクライマックスと言っていいほどの“意味”と感動を伝えてくれた。小田和正が曲に込めた思いを、ひとつ残さず、かつそこに自身の思いを乗せ歌う佐藤の思い、オリジナルの温度感を活かしながら、さらに歌をまっすぐ、感動的に伝えるアレンジとオーケストラの演奏。ステージ上にいる全ての人の思いが“塊”となって、客席に向かってきて、そして包み込んでくれる。
柔らかなストリングスが印象的だった「愛の中へ」は、矢井田瞳が優しく、愛情を感じさせてくれる歌を披露。ソン・シギョンは、このコンサートの基点になっているアルバム『オフコース・クラシックス』(2019年)でも歌っている「君住む街」へを披露。歌詞の行間に浮かぶ感情までも、丁寧に掬いとって表現するように歌ってくれる。CHEMISTRYが歌った「眠れる夜」では客席から手拍子が起き、オーケストラの演奏も一段と熱が入る。ラストナンバーは「YES-YES-YES」。まずMs.OOJAが登場し、歌い始めると、この日のキャストが徐々にステージに登場。この曲も静かな始まりから徐々に盛り上がっていき、爆発的なサビで盛り上がる壮大な曲だが、最後はオールキャストが登場。
1982年6月30日、全ての演奏を終えたオフコースの5人がステージから去り、コンサートの終わりを告げる客電が点き、「ひととして」に続き「YES-YES-YES」が会場に流れる。ステージ上では撤収作業が進む。しかしお客さんは誰も帰ることなく、5人が再びステージに登場することを願いながら、祈りを込めて「YES-YES-YES」を大合唱する。そんな感動的な光景が映像作品にも収録されているが、40年後の同じ日、同じ場所でも、この曲の大サビ部分で客電が点き、オールキャストの声が重なり、客席では一人ひとりが心の中で歌い、大合唱になり感動が広がっていく。
鳴りやまないカーテンコール。映像作品『Off Course 1982・6・30 武道館コンサート』のエンディングと同じように「NEXTのテーマ」の音源が流れる中、武道館、東京の夜景が映し出される。この曲は最後に<ララララ~ 何も見えない明日に向かって 走る僕等がいたね>という小田のボーカルが入っている。小田の声がこのコンサートの“締め”になっているようで、駆け付けたファンと出演者の思いと重なり、最後の最後まで感動させてくれた。
オフコースというグループが、その後に登場したアーティストに与えた影響は計り知れない。そして日本の音楽シーンに残した功績の大きさを考えると、その音楽を後世に伝えておいくためにも、このコンサートは是非続けて欲しいと思った。
その音楽を後世に残すという意味では、これまで映像作品としてのみリリースされていた『Off Course 1982・6・30 武道館コンサート』が6月29日に、最新リマスタリングが施された高音質SHM-CD「1982・6・30 武道館コンサート 40th Anniversary」として初音源化されたことも大きい。あの日の感動は色褪せない。
TEXT BY 田中久勝
PHOTO BY 岩田えり、成瀬正規
リリース情報
2022.06.29 ON SALE
ALBUM『Off Course 1982・6・30 武道館コンサート40th Anniversary』
ライブ情報
『オフコース・クラシックス・コンサート2022・6・30 -in Budokan-』
06/30(木)東京・日本武道館
OPEN 17:30 / START 18:30
音楽監督・指揮:服部隆之
管弦楽:オフコース・クラシックス・オーケストラ
出演(50音順): 稲垣潤一 / 辛島美登里 / CHEMISTRY / さかいゆう / 佐藤竹善 / ソン・シギョン / 中川晃教 / NOKKO / Ms.OOJA / 矢井田 瞳
公式サイト
https://offcourse-classics-concert.jp/