■「Saucy Dogの音楽が少しでも長く、みんなの心の中で生きていけたら」(Saucy Dog・石原慎也)
Saucy Dogが6月16日、大阪・大阪城ホールで初のアリーナツアー『Saucy Dog ARENA TOUR 2022 “Be yourself”』のファイナル公演を開催した。
6月9・10日の東京・日本武道館、14日の愛知・ガイシホールを経た終着点である大阪城ホールは、ステージ後方に壁どころかバックドロップもなく、バンドの一挙一動を360度から見渡せるようなレイアウト。開場中にはSaucy Dogが影響を受けてきたであろうフェイバリットアーティストの楽曲がBGMとして流れ、開演が近づくにつれそれが波の音へと切り替わる。
みるみるうちに埋まっていく客席からこぼれる期待感と緊張感にシンクロするように、激しさを増していくSEの荒波。舞台上に吊るされた三面スクリーンには深い海へと落ちていく楽器の映像が映し出され、石原慎也(Vo、Gu)が一撃でライブの始まりを告げるソリッドなギターをかき鳴らす! 1曲目の「BLUE」からどこまでも伸びやかなボーカルを広大な大阪城ホールに響かせ、まるで海の中のようなスモークが漂う幻想的な光景に石原とせとゆいか(Dr、Cho)のコーラスが溶け合う、神秘的で力強いオープニングだ。
石原が「Saucy Dog初めてのアリーナツアー、“Be yourself”始めます!」と改めて開幕ののろしを上げ、貫く閃光が映えた「メトロノウム」に「僕が言われて悔しかった言葉」と導いた「煙」、切なさと甘酸っぱさが共存するポップソング「シーグラス」と、彼らをここまで連れてきた珠玉のグッドメロディを連発。さらにライブの定番曲「雀ノ欠伸」、地元・大阪のFM802で2018年5月度ヘビーローテーションに選ばれた「真昼の月」と、曲名がごとくまばゆいミラーボールに照らされながら躍動感いっぱいに盛り上げ、石原はこう語る。
「すごい景色じゃない!? 武道館2DAYS、ガイシホールがありまして、1日の最大キャパがここ大阪城ホールで。たくさんの人が来てくれて、後ろのほうまで本当にありがとう! 背中を見せてしまうって今までにしたことがないやん? よくゆいかのほうを見て変顔してたのもできひんね(笑)。僕たちは大阪で結成したバンドで、こうやって帰ってこれて、大阪城ホールでワンマンライブができるのが本当にうれしいです。ツアータイトルの“Be yourself”は、自分らしく、あなたらしくという意味なんですけど、明日からも頑張っていこうとちょっとでも思えるようなライブができたらなと思ってます。何度も間違えて、ずっと後悔してるんじゃなくて、何度間違えても、次に進んでいこうという曲ができました」
ツアータイトルと同名であり、新曲の「Be yourself」は、目の前にいるオーディエンスはもちろん、今Saucy Dogにこんな絶景を見せてくれているすべてのファンにささげるようなメッセージに胸を打たれる一曲で、あらたな代表曲となるポテンシャルも十分。
「シンデレラボーイ」では、サビで火柱が上がる特効でも魅せ、胸を締め付けられるあのざわめきを呼び起こすラブソング「今更だって僕は言うかな」には、息をのむような熱い視線が観客から注がれる。たった3人で大阪城ホールを見事に鳴らし切る姿からも、Saucy Dogがこの景色にたどり着くまでにかけた時間がにじみ出る。
ここで、「楽しんでいただけてますでしょうか? ここからはスペシャルバージョンのSaucy Dogをお届けしたいと思います。スーパーピアニスト、ムラジュン~!」という石原のコールにより、せり出しからグランドピアノとともに村山☆潤が登場。人気YouTubeチャンネル『THE FIRST TAKE』でも共演した頼もしいサポートメンバーと送る「魔法にかけられて」では、楽曲の持つドラマをピアノが彩り増幅。そのままワンマンライブでは恒例のアコースティックコーナーへと続く。
「煙草とコーヒー」では、せとがメインボーカルを取り、満場の手拍子と温かなムードを作り上げていく。MCでは、せとが昨年2月の初の日本武道館公演についても振り返り、コロナ禍に翻弄された日々を乗り越えての、フルキャパでのソールドアウトに感謝を述べる。続けて、「感慨深いですね。ライブ中にちょっと泣きそうでした」と言う秋澤和貴(Ba)に、「早ない? その話(笑)」と返す石原のやりとりもほほ笑ましい。
「いつもの帰り道」では、ここ2年の紆余曲折の感情を、せとの優しい歌声が包み込んでいく。そして、「結」ではストリングスを迎え、切なきミドルナンバーを最高の編成で披露。「ノンフィクション」』では一転、カルテットの旋律が疾走感とスリルを加速させていく。
後半は再びスリーピースで、せとの強烈なドラミングがいざなう「リスポーン」から幕開け。「雷に打たれて」では、秋澤のワイルドなベースラインからいざ突入かと思いきや、石原の機材トラブルでギターの音が鳴らず思いがけず長尺のイントロに。だが、ハプニングにも動じることのないどっしりとしたパフォーマンスで逆に見せ場を作り、極彩色のライティングが高揚感を演出。
そして、噴き出す炎のさなか「ライブってハプニングがあるから楽しくない?(笑)」と石原が言ってのけ、「ゴーストバスター」へ。みずみずしいバンドサウンドを構築する音響、ド派手な光でライブにエモーションを加える照明と、チームの総合力をまざまざと感じるシーンだ。
その後も石原が、“こんな時代だからこそ、こんな世界だからこそ、あなたに届けたい歌”と訴えた新曲「優しさに溢れた世界で』、“会場にいるみんなと僕らも一緒に並んで歩いていくことはできるんじゃないかな”と届けた「バンドワゴンに乗って」と、Saucy Dogの世界観を端的に表したような思いもろとも畳み掛ける。
「大阪でライブがあると、やっぱり帰ってきた感が変わらずにありますね。ここに来てくれてるみんなもそうだし、陰ながら支えてくれてる人たちがたくさんいて…このツアーを通して、改めてそれを実感してます。こうやって多くの人を巻き込んで、音楽を作って、ライブができるのは当たり前じゃないなって。大阪城ホールは僕にとって思い出深い場所で、今日はチラシをくれる人とか、物販でグッズを売ってくれる人とか、柵を押さえてくれる人がいたでしょ? 僕も昔はそういうバイトをしていて。当時のバイト仲間から昨日、“マジ感慨深いわ”って連絡が来ました。そうやって、ようやくここに立つことができてるのも、みんなのおかげだと思ってます。Saucy Dogの音楽が少しでも長く、みんなの心の中で生きていけたら…この曲を聴いて、意外と僕たち、私たちに近いんじゃないか、自分一人じゃないんだなと思ってもらえたらうれしいです。最後は笑っていこうね!」
そんな石原の願いを込めた「猫の背」では、自分の歌がみんなの歌になる運命の巡り合わせをかみ締め、本編は終了。
長い拍手に呼び戻された幸福なアンコールでは、会場の奥の奥にまで手を振る石原も「すごく幸せな空間に包まれたライブだと思いました」と感無量の表情。大阪で生まれたSaucy Dogが、小さなライブハウスで歌っていた「いつか」が、満員の大阪城ホールに鳴り響いた日。「グッバイ」でも石原の歌声がスタンド最上段の最後列までぶち抜き、三位一体ですべてを出し切るような迫真のライブアクトぶり。最後は「今日は本当にありがとうございました!」とメンバーが生声で伝え、全スタッフの名前が流れるエンドロールが夢のような一夜を締めくくる。
関西出身のミュージシャンにとって、大阪城ホールは日本武道館以上に身近で、特別な場所だとも言える。Saucy Dogの偉大なる通過点が、こうしてまたひとつ刻まれた。
TEXT BY 奥“ボウイ”昌史
PHOTO BY 日吉“JP”純平
リリース情報
2022.07.06 ON SALE
MINI ALBUM『サニーボトル』
『サニーボトル』特設サイト
https://saucydog.jp/feature/6th_minialbum
Saucy Dog OFFICIAL SITE
https://saucydog.jp/