■「『新世界』の新曲たちが我々にとってここからどんどん血となり肉となっていく過程を、皆さんにも一緒に感じていってもらいたいなと思ってます」(MUCC・逹瑯)
MUCCが、ニューアルバム『新世界』発売日である6月9日に、『新世界完全再現』ライヴを神奈川・CLUB CITTA’で開催した。
【ライブレポート】
6月9日はロックの日でもあるのだろうが、MUCCと彼らを愛する夢烏(ムッカー)たちにとってのこの日は、25年前からムックの日と決まっている。
そう、ついに今年の6月9日でMUCCは結成25周年の大きな節目を迎えたのだ。
そして、その機に彼らは現体制での初アルバムであり通算16枚目のアルバムともなる『新世界』を発表したうえで、朱ゥノ吐+会員限定ライヴ『新世界完全再現』を川崎CLUB CITTA’にて開催し、まさに文字どおりのあらたなる世界をキャリア四半世紀ならではの威風堂々たる面持ちをもって、我々へと見せつけてくれることになったのだった。
なにしろ、この夜の公演については開演する前からMUCCの新世界秩序を告げるインフォメーションが会場ロビー内に大きく掲出されており、そこでは6月9日のみならず2日後にあたる11日から開始された『MUCC TOUR 2022「新世界」~Beginning of the 25th Anniversary~』にも通ずるものとして、以下の文面が来場した人々に向けて伝えられることに。
「ライヴフロアではスマートフォン、携帯電話の緊急時以外の使用を禁止させていただきます。電源を切って新世界をお楽しみください」
「どうしても携帯を使わないといけない場合、モバイルエリアがございますのでそこで使用をお願いします。それがMUCC新世界法です」
「新世界は夢烏の皆様の心が、猛スピードで、急旋回、急上昇、急降下するアトラクションです。
MUCCの新世界を心身ともにご堪能ください。それではいってらっしゃいませ」
では、実際にこの夜の川崎CLUB CITTA’においては何がどのように起こっていったのか。
これを言葉で端的に表現するのはなかなか難しいところがあるものの、たとえるならば“IMAX3Dシネマにも似た没入感および迫力感を備えたライヴパフォーマンス”がそこに具現化されていた、ということになるのではないかと思う。
また、本公演に限っては『新世界完全再現』とうたわれていただけあり、演奏曲目が完全に新作『新世界』の内容に基づいていたのも特徴で、当然のごとく冒頭を飾ったのは表題曲にして序章的な役割も持つインストゥルルメンタル「新世界」と、歌詞のなかに“狂いそうな新世界 綺麗だった?旧世界”という象徴的なフレーズが織り込まれている「星に願いを」。
ちなみに、一般的に「星に願いを」と言えばディズニーのアニメ映画『ピノキオ』の主題歌がつとに有名なわけだが、MUCCの描く「星に願いを」はファンタジックどころか刺々しいほどにリアルかつシニカルな描写の歌詞と、重苦しいほどのヘヴィサウンドが混濁したかたちで一体化した、厳然たるロックチューンとなる。
ただ、その厳然たるロックチューンは斬新な視覚演出を含めた“IMAX3Dシネマにも似た没入感および迫力感を備えたライヴパフォーマンス”をともなうことにより、MUCCの生み出す新世界へのゲートとしての意味合いをもこの場で持つことになっていたとも言えそうだ。
コロナ禍の勃発以降、ライヴは“配信でも楽しむことが可能なエンタテインメント”という認識が随分と広まったところはあるが、少なくともMUCCがここで体現してみせた“Feel the music or be part of one”な贅沢ステージングは、絶対に生のライヴでしか体験することができない極上体験だと断言出来る。
前述したバンド側からのインフォメーションのなかに、アトラクションという単語が見受けられたのはつまりそういうことだったらしい。
「MUCCです。『新世界』へようこそ。ということで、今日アルバムが出ました。ありがとうございます。これから『新世界』を連れてツアーに出るわけですが、やっぱり何十回、何百回とリハをやるよりも、こうしてライヴ一本をやることの方ほうが曲を急成長させるんじゃないでしょうか。この『新世界』の新曲たちが我々にとってここからどんどん血となり肉となっていく過程を、皆さんにも一緒に感じていってもらいたいなと思ってます。今夜のライヴはその最初の血の一滴になるわけなので、存分に楽しんでいってね。よろしくお願いします。じゃあ、行こうか!」(逹瑯)
こうした今宵最初のMCをはさんでの「HACK」では新曲ながらに夢烏たちが途中にはさまれるクラップ部分ですかさず加勢したり、オールドスクールなロックンロールをMUCCが現代的に再構築して聴かせてくれた「NEED」ではグルーヴにあわせて場内が揺れたりと、アルバム発売当日とは思えぬエモいバイブレーションが発生していったのもライヴならではの醍醐味だったところで、当然このあたりはツアーが始まって進行していくごとにより濃度を増していくことになるのは必須だろう。
また、懐かしき90年代UKロックの香りが漂う逹瑯作曲の「R&R Darling」や、作曲者でもあるYUKKEがアップライトベースを駆使しながらアンニュイな空気感を醸し出してくれた「COLOR」、昨年からMUCCファミリーの一員となったサポートドラマー・Allenがミヤとともに作ったという「Paralysis」、ミヤが珍しくKillerギターを使ってみせた夢烏お待ちかねのコテコテなメタル色と泣きのメロが炸裂する「零」と、彼らの生演奏ならではの魅力がより表出しやすい楽曲たちについても、ここからライヴを重ねていくたびに熟成度合が高まっていくことは間違いない。
ちょうど世界情勢が激変した時期に作られていたことになるせいか、特に詞の面で考えさせられるところが多い「いきとし」では、これまたグラフィカルな視覚演出が加わることで強烈なメッセージ性が生まれていたこと。
それを受けての「WORLD」が、この場内にい合わせた人々の心を浄化するような美しく力強い歌として聴こえてきたこと。
そうしたことも全て含めて、今回の[新世界完全再現]は単にアルバム通りに曲を演奏をしていくライヴという域をゆうに超え、紛うことなきMUCCによる新世界の全貌を堪能することができるものであったと言えるだろう。
なお、当夜の公演では予定外の「蘭鋳」を含む計2曲がアンコールとして演奏された他、終演後には出口にてQRコードがプリントされたフライヤーが来場者全員に配布されたのだが、あらかじめスマホ使用を禁止しておきながらの“QRコード”とはこれいかに。
この計らいはMUCCからの心憎いファンサであると同時に、『新世界』をより『新世界』たらしめるものとして機能しているため、これから『MUCC TOUR 2022「新世界」~Beginning of the 25th Anniversary~』に参加される方については、終演まで使用禁止となるがQRコードリーダー付デジタル端末のご持参を推奨しておきたい。
25周年での6月9日・ムックの日を経たMUCCが、今夏いっぱいをかけ各地で展開していく『新世界』は、あなたの訪れを必ずや歓迎してくれるはずだ。
TEXT BY 杉江由紀
PHOTO BY 冨田味我
■『新世界完全再現』(朱ゥノ吐+会員限定ライヴ)
2022年6月9日(木)神奈川・CLUB CITTA’
<セットリスト>
01. 新世界
02. 星に願いを
03. 懺把乱
04. GONER
05. パーフェクトサークル
06. HACK
07. NEED
08. 未来
09. R&R Darling
10. COLOR
11. Paralysis
12. 零
13. いきとし
14. WORLD
リリース情報
2022.06.09 ON SALE
ALBUM『新世界』
MUCC OFFICIAL SITE
https://55-69.com/