■「鼓動が聴こえるくらい互いを近くに感じられる一風変わった面白い会場、今まで行けなかった場所にギターを連れて回りたいとリクエストしていたら、叶いました!」(藤原さくら)
藤原さくらが地元・福岡の大濠公園能楽堂を皮切りに、異空間を巡る『弾き語りツアー2022-2023 heartbeat』を始動。本稿では5月5日に開催された福岡公演のオフィシャルライブレポートをお届けする。
約3年ぶり、藤原さくら待望の全国ツアーがホームタウンである福岡からスタートした。すでに九州各所でのツアーは終了したが、今回のツアーは、能の舞台に始まり、美術館、プラネタリウム、映画館など、コンサートホールとはひと味違った雰囲気の会場が設定され、異空間での弾き語りライヴがコンセプトになっている。ファンにとっても待ち侘びた甲斐のあるツアーとなりそうだ。
初日を飾る福岡会場は、都市のオアシスといわれる大濠公園の一角にある大濠公園能楽堂。GW只中の賑わいに満ちた公園から、一歩会場へ足を踏み入れると、空気は一変。一本松の描かれた舞台を間近にして期待感が高まっていく。
カントリー・ジャズが流れる会場はすでに幅広い世代の来場者で埋まっていた。定刻、舞台の袖から藤原が現れると、大きな拍手が湧き起こる。カジュアルな装いに、足元は足袋という能舞台ならではのスタイルだ。愛用のアコースティック・ギターを手に取ると、新曲「わたしのLife」で幕は上がった。フットパーカッションでリズムを取りながら、ポップなナンバーをしっとりとアレンジしたギターとふくよかなヴォーカルで歌い上げていく。ひと息つくと、「緊張してます!」の第一声とともに、客席へ向かって話しかけた。
「能楽堂は、初めて来るという方も多いかもしれません。のんびり話しながら演っていこうと思います」
藤原自身も緊張を解くかのように会場の空気を緩ませた。
手拍子に乗って、初夏の気配をまとった季節にぴったりの楽曲が続く。音数の多いドラマティックな楽曲も、アコースティック・ギターで表情豊かに強弱をつけ、いつも以上に繊細な歌唱により新鮮に感じられ、序盤から聴き入ってしまう。まさに、弾き語りの醍醐味だ。
ギターが歪む微音、骨太なカッティングの技巧……徐々にアップ・テンポな楽曲でステージは熱を帯びていく。会場が温まったところで、来年まで開催するツアーへの思いを語った。
「ツアーとして回るのは2019年のライヴ・ハウスツアーぶりです。鼓動が聴こえるくらい互いを近くに感じられる一風変わった面白い会場、今まで行けなかった場所にギターを連れて回りたいとリクエストしていたら、叶いました!」
そんな念願の弾き語り一人舞台だけあって、見どころは満載だ。「かわいいなと思って持ってきました」とエピフォンのエレキ・ギターにチェンジし、アコギとは異なる音色を披露。直球の弾き語りに加え、リズムマシンやエフェクター、ルーパーを駆使した変化球で、目の離せない構成を楽しませてくれる。福岡は、やはり彼女にとって「原点に帰る場所」。終盤は10代の頃に作った楽曲、生まれてきた奇跡を歌った曲など、家族、友達への愛情のかけらがとけ込む楽曲、昨年リリースされた愛がテーマの名曲「mother」を歌い上げた。
「愛とは、見守って水を与えること」。過去に、藤原が「mother」について語ったコメントの中にそんなフレーズがあるが、愛する人や物事との関係性を深めるには、時間をかけ、水やりしないと育たない。上京から7年、音楽と向き合い、大切に思う人達と育んできた愛情は、確かなかたちで、今日のステージを伸びやかに開花させていた。
客席が一体となって熱い手拍子で迎えたアンコール。「いつか、もーもーらんど(油山牧場)でもライヴができたら」と笑いも交えながら、ようやく開催できたツアーへの感謝と「また、ここから」の誓いともとれるまっすぐで優しい歌声を届け、幕は下りた。
今回、ギターで初演奏の曲もあるなど、“ひとりスポットライト”の舞台を見事こなし、観客を釘付けにした地元公演。本人曰く「“頑張ってんな”って、近くで観てもらえるツアー」は、この後、会場や季節に合わせてセットリストも変動していくようだ。その日、その場所にしかない空気感を味わいながら、躍動する彼女のハートビートを感じてほしい。
TEXT BY 前田亜礼
ツアー特設サイト
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