■flumpool・阪井一生、妹のためにsumikaメンバーのサイン色紙をゲット。「これはお兄ちゃんの株、爆上がりやで?」(山村隆太)
flumpoolが主催する『flumpool Special 対バン Tour 2022「Layered Music」』。5月5日に大先輩であるスガ シカオを迎えた名古屋で開幕。ここでは、5月7日にsumikaを迎えて行われた、神奈川県民ホール公演の模様をレポートする。
【ライブレポート】
先攻はsumika。観客の手拍子に乗せて登場した片岡健太(Vo&Gu)、黒田隼之介(Gu&Cho)、荒井智之(Dr&Cho)、小川貴之(Key&Cho)とゲストメンバーたち。「俺たちを選んでくれたflumpoolと、そして今日を探し出してくれたあなたに、感謝を込めて、トップバッターsumika、始めます!」とまずは片岡が挨拶。「イコール」を放つと瞬時に会場は温かな空気感に満たされた。続いて、オリエンタルなリフと怒涛のラップで沸かせる「Flower」を投下。大拍手の鳴り止まないなか「フィクション」へ突入、ファンの鳴らすクラップが演奏の一部のように溶け込んで、一体感が増大。さらに「1.2.3..4.5.6」「グライダースライダー」と畳み掛けて、すさまじいエネルギーをステージから放射。ジャンルを横断する多彩な曲調、また、1曲の中でもドラマチックに表情が変化していくのが楽しく、見どころ、聴かせどころの連続。片岡は曲間でオーディエンスに頻繁に呼び掛け、讃え、煽っていく。
興奮冷めやらぬなか、flumpoolとのなれそめを語る片岡。出会いはコロナの時世になってからで、山村隆太(Vo)のラジオにゲスト出演したことだとしながら、2007年の「花になれ」から存在は知っていて、母親に「あんた、ああいうふうになりなさいよ」とテレビの中の山村を指さして言われていた、と語り笑わせた。今回のライブは、緊急事態宣言もまん延防止措置も出ていない久しぶりの状況下であるため、「セッションに誘っていただいたんですけど、flumpoolだけを観てもらったほうがいいんじゃないかなって、お断りしたんです」と明かした。flumpoolとflumpoolファンの想いを汲んだ、sumikaからのリスペクトを感じる判断であり、誠実な言葉だった。その後、小川がピアノで奏で始めたのはflumpoolの「星に願いを」。片岡は両手でマイクを握り締め、美しいメロディラインを情感豊かに熱唱。1コーラスのショートバージョンだったが、粋で感動的なサプライズだった。
「ふっかつのじゅもん」では黒田が前へ出て華々しいギターソロで魅了。後半はsumikaのエッジーな側面が顔を覗かせ、ダークなエレクトロ要素を打ち出した「Babel」、ジャジーで艶やかな「Stawberry Fields」は荒井の繰り出すビート感が心地よい。一連の流れで深遠な世界へと誘ったあとは、アカペラでコーラスをする際にメンバーが顔を見合わせる姿が微笑ましかった「Summer Vacation」、そして圧倒的なメロディの美しさに聴き惚れた「願い」。sumikaというバンドの多面的な魅力が、セットリストにしっかりと反映されていた。
改めて片岡は「今日ですね、対バンに誘ってもらってめちゃくちゃうれしかったんですよ」と語り、「単純に曲が好きだから、とかだけじゃなくて、隆太くんが声が出なくなった(※2017年に歌唱時機能性発声障害を発表。以後活動を休止)ことを知ってるから。僕も2015年に声が出なくなったことがあって、その辛さを知ってるから。そして、支えてくれる人のありがたさを知っているから。すごいメンバーが集まってるんだよ、flumpoolって。同時に俺たちもすげぇメンバーが集まってると思ってるし、比べようもないんだけどさ。同じような気持ちで歩んでいけるバンドって、本当に少ないと思うから。この縁だけは絶対に逃したくないなと思った。音楽だけじゃなくて、人として、今日は一緒に対バンしたいなと思って、ここまで来ています」
「誰がつくっているかっていうのも、同じぐらい大事。それはスピーカーのようなものだと思っています。どれだけいい曲をつくっても、スピーカーが壊れてたら、きっと音は悪いはずです。どれだけいい曲つくっても、人間性が伴ってなければ僕は全然響かないです。flumpoolはいい曲つくってるだけじゃなくて、人間として心に響くから絶対今日一緒にやりたいと思いました。そして、そのバンドを支え続けてきているあなたの前で演奏できたら、すごく幸せだと思って、今日ここに来ました」とも語った。
代表曲のひとつである「ファンファーレ」の歌詞は、直前のMCで語った苦境とリンクして聞こえ、心を揺さぶられた。ラストは躍動感とはちきれんばかりの楽しさが詰め込まれた「Shake & Shake」を披露、圧倒的な多幸感のなか全曲を終了。全員で深く礼儀正しいお辞儀をするsumikaに大きな拍手が送られた。去り際に「あんなこと言いましたけど、セッションしてるバンドはバンドで、絶対間違ってないですからね。俺たちなりのやり方を選びました。ありがとうございました!」と言い添え、片岡はステージを去った。
セット転換の後、後攻のflumpoolが登場。ツアーはこのあとも続行するため限定的なレポートとなるが、SEから1曲目へと突入する場面は必見。flumpoolのロックバンドとしての成熟を感じられるはずである。かつてはギターソロに執着しないタイプのギタリストであった阪井一生(Gu)が、熱くソロプレイに没入する姿も忘れられない。「いろいろ振り付けとかあるけど、自由に楽しんでくださいね!」と観客に呼び掛けた山村。そのコメントは対バンライブなら自然な配慮だが、実際には、2バンドのどちらを目当てに来場したのか判別できないほど、両バンドのライブを全オーディエンスが同等の熱狂で迎え入れていた。座席の間隔を空けることなく100パーセントの集客がかなったライブではあるものの、歓声やシンガロングは今もまだ禁止。それに屈することなく、ファンは力強い手拍子やワイパー、突き上げる拳、曲間の拍手に想いを乗せて届けていた。
MCでsumikaのライブを振り返り、「星に願いを」を披露したことに触れ「まじサプライズ。セットリストも(楽屋)裏にあるんですけど、そこだけ『新曲』って書いてあって。でも2分って書いてあるし『えらい短いな』と思ってた」と語る一生に、「気付けたな(笑)」と尼川元気(Ba)。小倉誠司(Dr)は一連のやり取りに手を叩いて爆笑していた。山村もsumikaとのなれそめを語り始め、「僕も大好きで、片想いをしていたんですよ。友だちになりたいなと思ってて。声を壊してたっていうのも乗り越えて……」と共通点に惹かれたことを明かす。大阪のフェスではニアミスに終わり声を掛けられなかったものの、知人を通じて繋がってラジオのゲストに招待。のちにsumikaのワンマンライブを東京ガーデンシアターで鑑賞し、「『絶対に(対バンを)やりたい!』と思って、その場で健太くんに電話して」と山村。そのような勇気を振り絞ることができ、「自分の口で伝えたいと思った」のも、sumikaという存在あってこそ、だと振り返る。
「sumikaの音楽もそうです。音楽と言う場では、いつもと違う自分が生まれる」「皆さん、ここでしか、今日この場でしか出せない顔、表情を引き出せたらなと。丁寧に全力でやらせていただきますので、最後までよろしくお願いします!」と熱く語り掛け、デビュー曲「花になれ」を届けた。美しいメロディは不変の魅力を放ち、ディレイ、リヴァーブの掛かった幻想的なサウンドメイクで大人びたflumpoolの色も加えた。最新アルバム『A Spring Breath』から届けた表題曲からは、柔らかさの中に凛とした強さを感じられた。期待と不安が混在する春という季節にふさわしい、始まりの一歩を踏み出す名バラードは、このツアーでさらに育っていくことだろう。
妹を筆頭に「阪井一家は全員sumika好き」と宣言し、サインがほしいというお願いを「マイク通さんと言えない」とはにかんだ阪井。sumikaのライブをメンバー全員で袖で観ながら「パワフル過ぎる。どうする? どうやったらsumikaを仕留められるか」と焦っていたと阪井は明かし、「最終的には、音楽は勝ち負けじゃないしなって」と山村。尼川は「あれだけインタビューとかで“勝ちに行く”って言ってたのに」と笑った。
続けて、2021年10月1日、事務所独立後初の新曲としてデビュー記念日にリリースした「その次に」も披露。「『次に行くぞ』という気持ちで書いた曲」だと山村は明かし、不安もあるなかで「“4人で進もう”と思った、この気持ちは間違いじゃないと思ったんです」と語った。ストリングスに小倉の明確なキックが加わり、客席からは手拍子が起きて、グルーヴしていくアンサンブル。歌からは、直前のMCで語られた想いがはっきりと伝わり、真っ直ぐに胸に響いてきた。
ワンマン以上にflumpoolメンバーのパフォーマンスが激しく、ステージを縦横無尽に動き回っていたのは、sumikaに触発されて生まれた変化のように感じた。クールな印象のある尼川のパフォーマンスも生き生きとしていて、前へ出てファンを煽る場面も。「イイじゃない?」でのフォーメーションチェンジはダイナミック、タオル回しありジャンプあり、ファンのクラップありで大いに盛り上がった。
アンコールのMCで山村が「袖でsumikaの皆としゃべってたんですけど、『どっちのファンかわからないね』っていうぐらい、皆がひとつになったのは、きっとお互いの音楽が目指しているところが一緒だからだと思うし、今日sumikaとflumpool何かが繋がったのかなと思います。そんな想いを受けとってくれた皆さん、本当にどうもありがとうございました!」と挨拶すると、大拍手。このツアーでセッションは恒例となっているが、sumikaとは「またどこかでいつか願いがかなうといいな、と」と機会を未来へと温存、flumpool単独での楽曲披露に代えた。最後にsumikaもステージに登場し、阪井の妹に宛てたサイン色紙をメンバー全員で書くと、「これはお兄ちゃんの株、爆上がりやで?」と山村。代表して片岡から阪井へと贈呈式が行われ、会場は大拍手に包まれた。ファンを背にして全員での記念撮影、メンバー紹介で一夜は幕を閉じた。
セッションはなくても、お互いの存在がライブに影響を与え合っていることがハッキリと感じられた、sumikaとflumpoolのスペシャルな出会い。今後このツアーは、6月11日・12日の高橋 優、6月18日・19日のフレデリックとの対バンが予定されている。flumpoolは相手によって何を引き出され、対バン相手に何をもたらすのか? オーディエンスはその日、その場所でしか見られない新しい顔の、目撃者となることだろう。
TEXT BY 大前多恵
PHOTO BY 後藤壮太郎(sumika)、関口佳代(flumpool/集合写真)
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