■「未来の子どもたちにいい時代が来るように、私たちがやることはまだまだあります。死ぬまでにいいことをひとつでもして、人生を全うしましょう」
変態紳士クラブのプロデューサー・GeGが2020年に設立したGoosebumps Music初の主催イベント『チルフェス -Open Air Fes-』が、4月29日大阪・大阪城音楽堂で開催された。
ステージには巨大な樹木があしらわれたセットとバックドロップ。DJブースもウッディな配色で、『チルフェス』の名にふさわしい雰囲気をデコレーションからも醸し出す。
とは言え、当日の降水確率は何と100%。続々と入場するレインコートを身にまとったオーディエンスをDJ YUMIKOが出迎え、オープニングへの期待感を徐々に高めていく。
ここで、Goosebumps Musicマネージャー・山中氏が登場し、「今日はお集まりいただきありがとうございます。雨なのに皆さん、めちゃくちゃ温かい!」と会場に漂う熱気に感謝の声を漏らすなか、ともに司会進行を務めるファッション雑誌『egg』専属の人気モデル・ゆうちゃみが、『チルフェス』の開演を高らかに宣言!
まずはオープニングアクトのシンガー・SISUIが、「この20分間、SISUIのことだけを見て!」という意気込みのもと、そのきゃしゃな体からは想像できないド迫力のボーカルで一気にロックオン。与えられたチャンスに目いっぱいアピールする人懐っこさと、歌い出せば可能性しかない声のギャップに魅了された人も多かったことだろう。
「シンデレラ」「HOPE light」「ローカルプレイ」ではBIG KRAWとあうんのコラボレーションも果たし、「GeGくんに『チルフェス』に呼んでもらったとき、爆アガりでした! すごく幸せです」と放った最後の「マザー」まで、なぜ彼女が記念すべき一日の幕開けを担ったかをその歌声で証明したSISUIだった。
主宰のGeGがビールを持って景気づけの乾杯をするものの、強くなる一方の雨……。KENGO from FULLHOUSEの渾身のプレイが、『チルフェス』を途絶えさせてなるものかと鳴り響いていく。
その思いが天に届いたのか、一向に止む気配がなかった雨が弱まり、少しずつ日が差してくる野音。ついには雨が止み、「ここからは僕たちが伝説を作る日になる!」とはマネージャー山中氏。
約1時間のインターバルすら伏線とでも言わんばかりに、次なるライブアクト・kojikojiへとバトンタッチし、波の音がさざめくメロウなトラックを背にした「TASOGARE」から心地いいチルタイムを演出。
アコースティックギターを爪弾き、自身の存在を広めるきっかけとなったBASI feat.唾奇のカバー「愛のままに」を可憐に奏でたあとも、「for you」や新曲「true to true」と続けたところで、今度は雨よけのために舞台上に設置されたテントが風で転倒!
初回にしてひと筋縄ではいかないアクシデントの連続だが、その都度タフに、ポジティブに乗り越えていく『チルフェス』。
「ビックリした……(笑)」とはごもっとものkojikoji談であったが、仕切り直しての「ほろよい」から再び、時に神々しさすら感じるウィスパーボイスが、やわらかく頬をなでるように客席の隅々にまで染みわたる。
「本当に寒い雨のなか、ここにずっといてくれてありがとうございます。風邪をひかないようにだけして、最後まで楽しんで帰ってください」と、『チルフェス』につかの間の癒やしと安らぎを与えてくれたkojikojiだった。
ここからはギター、ベース、ドラム、キーボード、パーカッションに弦楽カルテットという大所帯バンドG.B.’s BANDがバックを固め、早速Goosebumps Musicイチ押しのシンガー・Hiplinが、「青春トワイライト」を椅子に腰掛けリラックスした表情で歌い上げ、山岸竜之介のギターソロが艶やかに楽曲を彩る。
「いろんな意味で忘れられへん一日になりそうですね。一瞬一瞬を楽しんでいくのが人生を生きるコツですよ。楽しんでいきましょうね」と告げ、「Little baby」では一転、マイクを手に動き回り気持ち良さそうに歌声を響かせる。
「イマジン」しかり、毎曲ごとに見る者に優しく語り掛けるアットホームなライブは『チルフェス』の真骨頂か。会場からひときわ大きな歓声が上がったのは「Grow Up」。これぞ代表曲と言えるミドルバラードをG.B.’s BANDの壮大なサウンドが包み込んでいく。
「めっちゃいい曲(笑)」と自画自賛するのも納得の名曲に続いては、「女の子と一緒に歌う曲があるので、もう一回呼んでいいですか?」とkojikojiを招き入れ、「帰り道 feat. kojikoji」を披露。異なる個性が溶け合う極上の一曲を経て、ラストは「おわかれ」へ。ストリングスがエモーションを増幅する見事なエンディングとなった。
「今日は『チルフェス』なので、いつもとは違うセットで」と、「come again」を皮切りに、「Lotta Love」「been so long」と、m-floのゴールデンヒッツ目白押しで初っぱなからブチ上げたのは☆Taku Takahashi。その後も、バブルガム・ブラザーズから小沢健二 featuring スチャダラパー、THE BOOM、久保田利伸、宇多田ヒカル、椎名林檎、MONDO GROSSO、KICK THE CAN CREW、RIP SLYME、tofubeats、Awich、iri、eill、藤井風etcまで……1990~2020年代の新旧J-POPゴールドブレンド。
「サンキュー『チルフェス』、この後も楽しんでいってください!」と、鉄板の40分ノンストップMIXで思う存分踊らせた。
昨年、大阪・なんばHatchで行われ大反響を巻き起こした『メロメロライブ ~GeG’s Live Set vol.2』の再来とも言うべき、この日のGeGのライブのコンセプトは「メロメロLIVE SET」。G.B.’s BANDにGeGが鍵盤で加わる最強編成で、SISUIの新曲「会いたくなっちゃうじゃん」、小林柊矢が16歳のときに作ったという「僕が君の前から消えた時」と話題のシンガーを交えて魅せたかと思えば、19FreshとSNEEEZEの2MCで矢継ぎ早にボーカルをスイッチし盛り上げた「SUKIDEKIRAI」、「ずっとお世話になってる兄貴で、ホンマに最強やと思ってて。喰らってください!」と称賛したPERSIAとの「舞浜」と、GeGの交遊関係を音楽で体現していく。
「俺の友達、すごい人多過ぎひん?(笑) 次は相棒を呼びたいと思って。イントロを聴いたら分かると思うんで」との予告通り、冒頭から瞬時に歓声が沸き立ったのは変態紳士クラブの「YOKAZE」。
GeGと変態紳士クラブで活動を共にするVIGORMANとWILYWNKAを満場のハンズアップが迎え、さらには4月27日にリリースされたばかりの3rd EP『舌打』より、「ホンマにええ曲やなと思って。今日がライブで初披露です!」と「溜め息」を。
地を這うような日常を綴ったハングリーなリリックが心を奮い立たせた名シーンの後は、VIGORMANがHiplinと「Days Gone By」を熱唱するなど、ドラマチックなフィーチャリングの連鎖はとどまることを知らず、Rin音、そしてSNEEEZEが合流し、最高にグッドヴァイブな「LIFE IS GOOD」へ!
最終的には再度SISUIも加わるオールスターズな様相で入り乱れ、トドメは「この曲に人生を救われたというか変えられたんで、みんなに聴いてもらいたくて」とのGeGのたっての願いにより、「I Gotta Go」をHiplin、kojikoji、WILYWNKAの三声で。「メロメロLIVE SET」の面目躍如のスウィートさで締めくくった。
「10年前の自分へ。明日PUSHIMさんのバックバンドやるよ。羨ましいでしょw。明日はまたひとつの夢が叶う日。最高の演奏をしよう」とライブ前日にGeGがTwitterに記した、運命の時がついに来た。
約7時間にわたる宴の幕引きはPUSHIM。「ずーっとこの人と一緒にやりたくて、いろんなご縁があり呼ばせてもらいました。俺が一番好きなレゲエシンガーです!」とGeGが溢れんばかりの思いをぶちまけると、バックヤードから聴こえてきたのは、あのレゲエクイーンの歌声……!
「虹のあと」、そして「RAINBOW」と、すっかり雨の上がった大阪城音楽堂に、愛に満ちたボーカルで虹をかけていくPUSHIM。圧倒的な歌唱力と風格で聴かせた「Brand New Day」には、見渡す限りが総立ちで体を揺らす。
「皆さんのパワーが強いから、雨も止んだし、いい感じね。GeGくん、ありがとう。彼のおかげで立派なイベントが開かれました。GeGくんに大きな拍手を!」とはPUSHIM。とことんピースフルな「I pray」に抱かれ、「Light Up Your Fire」ではスマホのライトがすっかり日の落ちた野音に光をともしていく。
この絶景には思わずPUSHIMも「めっちゃキレイ」と口にし、早くもラストナンバーへ。
「楽しんでますか『チルフェス』。今日は音楽のワクチンを皆さんに注入したので、もう大丈夫です。そして音楽のワクチンは100%ピュアでナチュラル。明日から皆さん元気だと思います。世界は昔からずっと戦争が絶えません。今もどこかで新しい戦争が始まってます。でも、私たちが住んでるこの国は約80年間、戦争はありません。それを維持していくためには、一人ひとりが時代に参加すること。こうやって音楽を楽しめるって、めちゃくちゃ幸せじゃないですか? 未来の子どもたちにいい時代が来るように、私たちがやることはまだまだあります。死ぬまでにいいことをひとつでもして、人生を全うしましょう。LOVE & PEACE」
そんな言葉を添えて捧げた「a song dedicated」が、音楽の力を改めて感じさせるような感動的なラストシーンを創出。誰もが諦めかけた豪雨から、奇跡のフィナーレへ。初回にして忘れられない伝説を生み出した『チルフェス』となった。
TEXT BY 奥“ボウイ”昌史
PHOTO BY TANA(GUIDANCE SHOT)
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