■「この作品は普通の映画よりも月日が早く過ぎ、感情の波が小刻みに動くので、ずっと泣いてました。自分が出てきてやっと正気に戻りました」(北村匠海)
映画『とんび』の初日舞台挨拶が4月8日、東京・TOHOシネマズ 六本木ヒルズ スクリーン7で行われ、キャストの阿部寛、北村匠海、杏、安田顕、大島優子、そして本作のメガホンを取った瀬々敬久監督が登壇した。
ようやく公開を迎え、全国の観客に映画を届けられることになった気持ちを聞かれた主演の阿部は「名作『とんび』が映画になって帰ってきました。瀬戸内海の穏やかさと町の人たちの温かい雰囲気が、映画のなかに刻まれています。素晴らしい作品になったと思います」と喜びの表情を浮かべる。
そして、阿部演じるヤスの息子・アキラを演じた北村は「この時代に届くべき作品だなと、心の底から思います。たくさんの方に観に来ていただき、僕らが現場で感じた温かさを、一人ひとりが受け取って、映画館をあとにしてくれることを想像すると、とてもうれしく思います」、北村演じるアキラの婚約者・由美を演じた杏は「お話をいただいてから4年、撮影してから2年。ようやく涙を共有できるということが楽しみです」とそれぞれコメント。
ヤスの幼馴染でアキラを我が子のように接する住職・照雲を演じた安田は「ほっこりと温かい気持ちで笑えて、じんわりと涙ぐめる人間性に溢れた作品に参加できて光栄です」、その安田演じる照雲の妻で、アキラに母のような愛情を注ぐ幸恵を演じた大島は「今日、朝一で父と祖母は観に行ってくれたのですが、祖母はずっと泣きっぱなしで感動していたと、父から聞きました。皆さん心温まるような映画ができたので、これが日本中に広まっていけばいいなと思います」と、それぞれが公開を迎えた喜びを伝えた。
本作のなかで思わず泣いてしまったシーンについて聞かれた阿部は「歌を歌うところがあり、完成した映画を観たときに、こんなに胸を打つ歌ってあるんだなと思いました」とコメント。
北村は「思春期の頃からのアキラを演じていて、(子供の頃のアキラを初めて)映画で観て、この作品は普通の映画よりも月日が早く過ぎ、感情の波が小刻みに動くので、ずっと泣いてました。自分が出てきてやっと正気に戻りました」と、自身が演じたアキラの幼少期の姿を見て感動したことを明かした。
杏は「私も何度も泣いたんですけれど、小さい頃のアキラが一所懸命泣いたり、いろんな現実を受け止めたりしていたところは、心にグッとくるものがありました。そしてそれを支える阿部さんが、不器用なんだけど必死で接している姿に、親の目線で心が苦しくなりました」、安田は「アキラが大学進学で上京するときに、ヤスが車を追っていくシーンです。あのシーンは脚本を読んだときから涙が出てたんですけど、そこに至る前のアキラの手紙にもやられました。いつの間にか、息子が親父の心配をしているようになって。そのあとのヤスが車を追うシーンも泣けるんですけど、その前のシーンがすごく好きです」とコメント。
大島は、「アキラのお母さんがなくなって、幼少期のアキラが、『お母さんは?』というところですね。実際にスクリーンで観て、こんな無垢な表情で、お父さんに問いかけてたんだ、と、幸恵の気持ちに戻って涙してしまいしました」と、様々な場面で胸を打たれる箇所があると答えた。
北村演じるアキラが大学進学を機に上京するシーンなど“新生活”のようすも描かれた本作。4月を迎えて間もないこの時期に、それぞれがこの春に始めたことや、初めてみたいことについて聞かれ、阿部が「昨日から考えているんですけど思いつかないんです(笑)。細かいことだと、言語やDIYをして三日坊主で終わってるんですけど…」と話すと、安田がすかさず、「阿部さんはやっぱり、ご自分の公式ホームページを更新されたほうがいいと思います」と、“日本一繋がりやすい”として有名な“阿部寛のホームページ”について言及。阿部は「あれは、人気だから(笑)」と笑いながら答えた。
北村は「父にずっとゴルフを誘われていて、やりたいです。あと、釣りも本格的にやりたい。サーフィンもやりたいです。父が海が好きで名前に“海”という文字が入っているんですけど、今年は自然関係のアクティブなことをやりつくしたいですね。もしかしたら真っ黒になってるかもしれないです」と、アウトドアの趣味を始めたいと告白。
杏は「小さい缶の栽培キットでミニトマトを最近作り始めました。あと、最近長いシリーズの海外ドラマを見始めたので、字幕の言語を変えたりして観てみたいです」、安田は「早起きを始めたいですね。仕事だとできるんですが、休みの日の早起きが難しいですね。夜更かしが好きで、次の日が休みだと結構深くまで起きてしまうので、早起きができないんです。でも休みの日の午前中起きていたらこんなことができたら午後がすごく豊かになるなと思って…早起きがしたいです」、大島は「ベランダの掃除を始めました。花粉が舞っていて、枯葉も多くなってきたので掃除をし始めたんですね。きれいになったら、プランター菜園をやりたいなと思っています」とそれぞれ答えた。
さらに、新しい環境に身を置いたときに、自分の背中を押してくれた人について聞かれると、阿部は「この世界に入るときに親父に相談したときに、『(三人兄弟の)いちばん下だから失敗してもいいからとりあえずやってみろ』と言われ、この世界に入りました。普段は親父と話さないんですけど、たまに聞く意見を大事にしていました」と、芸能界に入る前に父親から言われた言葉について話した。
北村は「特定の人はいないんですけど、自分が初めてすることを抱えているときに、友達や役者仲間の会話のなかで“みんな初めてというものは絶対に経験しているし、1回しかない”というのに19歳とか20歳のときに気づいて、はっとしました。この間舞台を初めてしたんですけど、それも楽しかったです」とコメント。
杏は「歴史上のいろんなことに思いを馳せると、今悩んでいることはちっぽけだなとか、逆に今この瞬間も、あとに続いていく歴史の一部の一部ではあるけど、歴史のひとつではあるから大切に生きよう。と、小説などを読んだりすると思います」と、自身が好きな歴史の一部に自分を置くことで気持ちを整理すると告白。
安田は「新しい環境というのは、いろいろとへこんだりすることがあると思うんですけど、そのたびに母ちゃんの言葉を思い出します。『あんたは絶対大丈夫、そんじょそこらじゃ挫けない心がある。だって私が育てたから』という言葉を思い出すことがありますね」と、母からの言葉を思い出し、大島は「私は悩んだりしたときに、高校の先生が卒業のときに『己を信じ精進せよ』という言葉を書いてくれたんですね。今でも座右の銘にしていて、その言葉が背中を教えてくれました」と、恩人である高校の先生について話した。
ここで、会場からも新生活を応援してほしい人を募ることとなり、この春から大学進学し、上京のために一人暮らしを始めたという男子学生が「親とよく話していたので、ひとり暮らしで無音が寂しい」という悩みを告白すると、阿部は「最近よく受験生を励ましてほしいというのをあるドラマをやってから再三要求されるんですけど、もう大丈夫(合格してます)よね?(笑)」と、自身の出演していたドラマでのエピソードを話しながら、「ひとりで大変だと思う。だけどな、寂しいときはたくさん食べて、とにかく半年乗り切ればなんとかなるから。頑張ってこいよ!」と、劇中のシーンさながらのエールを送った。
最後に会場に駆け付けた観客に向けて、瀬々監督は「ヤスという人間の一生を、次の世代にバトンタッチすることを願って作りました。そして、新しい女性の生き方も描いています。この映画に描かれている家族はどこか欠けているのですが、その反面、正しい家族はあるのだろうかという疑問も問いかけています。この物語は、今僕たちが生きることに繋がっていくと思いますので、是非観て頂きたいです」と熱い思いを伝えた。
主演の阿部は「改めて、監督とこの映画をやれて幸せだったと思います。親になったときは誰もが初めてであって、いろいろ悩むと思います。正しい親なんていうのはないと思うんですよね。その都度悩んで失敗して、自分を責めて、そういうふうに人間は生きていくんだと思います。正しいことを押し付けるのは間違っていると思います。優しさをもって、一生懸命愛情をもって人に接する。この映画のなかには、いろんな優しい人間がたくさん出てきて、たりない父親であるヤスを励まし合いながら、そしてみんなが親になって、優しさをもって育っていきます。こういう話は、時代を超えて、普遍的だけど感動する。そう信じてます」と強い想いと作品への自信と期待を伝え、温かな雰囲気のなか、イベントは終了した。
映画情報
『とんび』
4月8日(金)全国劇場公開
出演:阿部寛
北村匠海 杏 安田顕 大島優子
濱田岳 宇梶剛士 尾美としのり 吉岡睦雄 宇野祥平 木竜麻生 井之脇海 田辺桃子
田中哲司 豊原功補 嶋田久作 村上淳
麿 赤兒 麻生久美子 / 薬師丸ひろ子
原作:重松清『とんび』(角川文庫刊)
監督:瀬々敬久
脚本:港岳彦
配給:KADOKAWA イオンエンターテイメント
(C)2022『とんび』 製作委員会
映画『とんび』作品サイト
https://movies.kadokawa.co.jp/tonbi/