■サカナクション、ORANGE RANGE、キュウソネコカミ、go!go!vanillas、サンボマスター、Dragon Ash、KALMA、Mr.ふぉるて、DJダイノジらが、ロックフェスの多幸感を体現!
ビクターが主催するロックフェスティバル『ビクターロック祭り2022』が、3月19日に千葉・幕張メッセ国際展示場9、10ホールにて開催。計11アーティストが出演し、熱演を繰り広げた。
『ビクターロック祭り2022』は、音楽事業で80年を超える歴史を持つ日本のレコード会社として、いつの時代もロックシーンに確かな足跡を残し続けているビクターが、“ずっとロック、これからもロック”を合言葉に開催するロックのお祭りで、2014年に初開催。新型コロナウィルスの影響により開催直前に中止となった2020年以来、3年ぶりの開催となった。
会場には高さ5メートルに及ぶビクターのシンボル犬“ニッパー”の巨大オブジェが登場するなど、ビクターならではの趣向を凝らした演出でイベントを大いに盛り上げた。
5年ぶりの出演となり、3月30日にコンセプトアルバム『アダプト』をリリースするサカナクション(※メイン写真)を筆頭に、ORANGE RANGE、キュウソネコカミ、go!go!vanillas、サンボマスター、Dragon Ashなどのビクターを代表するアーティストに加え、今年度はKALMA、Mr.ふぉるてが初出演。今年で6回目のクロージングDJを務めるDJダイノジの出演、そしてオープニングアクトに『ビクターロック祭り』への出演を懸けた『ワン!チャン!!』オーディションで2020年グランプリに輝いたものの開催断念を経て念願の初出演となったThe Shiawaseと今年度のグランプリ輪廻の出演など、計11アーティストの出演となった。
また、全国565店舗を展開する「カラオケまねきねこ」のライブビューイング視聴設備のある3,000ルームにてライブが生配信され、会場に駆けつけることができないファンにも会場の熱気が現地より届けられた。
PHOTO BY Rui Hashimoto(SOUND SHOOTER)
【ライブレポート】
■輪廻(『ワン!チャン!!オーディション2022』グランプリ)
オープニングアクト1組目は、Eggs presents『ワン!チャン!!~ビクターロック祭り2022への挑戦~』で見事グランプリを受賞し、『ビクターロック祭り2022』出場権を獲得した3ピースバンド、輪廻。双葉(Gu、Vo)がギターを奏でながら「君の記録」を歌い始めると、りぃこ(Dr)のパワフルなビートが勢いよく飛び出し、リノ(Ba)のベースラインが幕張の地を揺らす! “生まれ変わっても信じてよ君が選んだ爆音を生まれ変わっても愛してよ君のものなんだよ”というフレーズが様々なバンドのファンが集まる今日の始まりにぴったりだ。衝動に満ちたサウンドは清々しいが、細やかなハイハットワークとギターカッティングから始まる「actor」は、歌に至るまでのセッションもギミック満載でこだわりが伝わってくる。なお、りぃこが着ている真っ赤なTシャツには“通過点”とプリントされていて、「輪廻はこれからもっともっと大きなステージに立っていくので、どうかこれからもよろしくお願いします!」と宣言した双葉、ふたりと共に演奏するリノもきっと想いは一緒だろう。ラストに披露したアッパーチューン「大人になったらさ」まで、全開の笑顔で今を謳歌する3人。ここから始まるストーリーを想像させるようなライブで存在感を示した。
TEXT BY 蜂須賀ちなみ
■The Shiawase(『ワン!チャン!!オーディション2020』グランプリ)
オープニングアクト2組目は、仲井“B.B.”陸(Vo、Gu)、木村駿太(Ba、Cho)、神谷幸宏(Dr、Cho)の3人組バンド・The Shiawase。『Eggs presents「ワン!チャン!! ~ビクターロック祭り2020への挑戦~」』でグランプリを獲得したものの、本来出演予定だった『ビクターロック祭り2020』が中止になってしまったため、2年越しで出演を果たした。ステージに登場すると、まずは仲井が伸びやかな歌声を会場に響かせる。1曲目は「平成アロハ航路」。ブルースやファンクなどルーツミュージックへのリスペクトが詰まったサウンドは清涼感抜群で、場内が一気に常夏になった。しかしその次は「溶けないでいて」という冬の曲。南半球から北半球へワープしたような展開にツッコミを入れたくなるが、3人+サポートのキーボーディストによるきらきらしたサウンドが今度は雪景色をイメージさせた。そんな2曲でバンドの持ち味をしっかり見せたあと、「僕は昨日大学の卒業式でした!」と仲井。彼が通っていた小学校の名前をタイトルにしたラブソング「三重西小学校」は、仲井のみならず木村や神谷も一緒に歌っていくバラードで、全力の歌声に“青春”の二文字が浮かぶ。バンドの演奏を前にこの春の思い出、あるいはかつての青春に想いを馳せた観客もいたことだろう。一音一音を刻みつけるような渾身の演奏にも胸を熱くさせられた。
TEXT BY 蜂須賀ちなみ
■キュウソネコカミ
『ワンチャン2022』の輪廻と、『ワンチャン2020』のThe Shiawaseのステージが終わり、本編のトップバッターを飾ったのは、キュウソネコカミ。
「ロックの祭り、できる人ー!」というヤマサキセイヤの絶叫から「ビビった」でスタートを切るが、力が入りまくっているのか、早くもイントロでギターの弦を切り、歌い始めながらサッとギターを持ち替える。間奏でヨコタシンノスケがジャンプ、そして“♪さぁみんなで手を降って”のくだりではセイヤがギターを置いて両腕を上下に振るというおなじみのアクションにオーディエンスが一斉に続くさまは、2年前まではどこのフェスでも見慣れた光景だったが、今の世の中のこの状況で目の当たりにすると、なんだかやたらと感動的に映る。
「あの頃の気持ちを忘れるなー!」というセイヤの雄叫びからの「KMDT25」では、間奏でドラムが祭り囃子のビートになり、シンノスケが「今日はお祭りって聞いてるんですけど! サカナクションもサンボもDragon Ashもお祭りに来てると思うんですけど! そんな感じでついてこれるんですか!?」と、オーディエンスをあおりまくる。
次は、「KMDT25」と同じく、2014年のミニアルバム『チェンジザワールド』からの「スベテヨシゼンカナヤバジュモン」。そして、ライブでの鉄板曲になりすぎたあまり、キュウソの曲ではないことを誰もが忘れている「KMTR645」へ。当然アガるフロアに向けて、シンノスケが4月20日リリースのレキシのニューアルバム『レキシチ』のポスターを掲げて宣伝に務める。「あとでラインします、池田さん!」。
1年前のミニアルバム『モルモットラボ』でリメイクした「シャチクズ (2020ver.)」を歌い終えたセイヤ、「アツいわ、やっぱ。1曲目の一音目で元気出るわ!」と笑顔を見せる。
続いて、「ゆっくりしゃべらないと、何を言っているか、わからないですよね。ゆっくりしゃべって、伝えていこうと思います。しかし、ゆっくりしゃべること以外、伝えることがありません!」などと、すっとぼけたMCをするも、それを「この瞬間だけは奪われないように、みんなで頑張っていきましょう」と締めるあたりに、今のこの状況ならではの本音が出ている。
そこからは「推しのいる生活」「The band」「ハッピーポンコツ」と、日本中のあらゆる場所でオーディエンスを熱狂させ続けてきたキラーチューンを、3発続けて締め。
「The band」の“ライブハウスはもう最高だね/ロックバンドでありたいだけ”という歌詞は、やはり2年前とは比較にならないほど切実に響いた。ラストの「ハッピーポンコツ」に入る前に「やっぱ必要やな、こういうの。ライブハウスとか、フェスとか、いろんなことがなくなっちゃってー」と、話し始めたシンノスケは、「コロナ禍で“ここから行くぞ”という新人バンドが行く手を阻まれている、そういうバンドをみんな応援してください、それこそがこれからシーンを盛り上げていく大切なことやと思うー」と、オーディエンスにメッセージを送った。
TEXT BY 兵庫慎司
■Mr.ふぉるて
Veats SHIBUYAで4日間にわたって行われたイベント『ビクターロック祭り〜アタラシイチカラ〜』よりビクターが誇る若手アーティストが登場! Mr.ふぉるては、昨年12月にGetting Betterからメジャーデビューしたばかりの4ピースバンドだ。1曲目「なぁ、マイフレンド」から気合いが漲っているのがわかる演奏で、バンドのエネルギーを受け取った観客が拳を高く上げる。そんななか、「悲しみや苦しみが消化しにくい世の中ですけど、だからこそ前を向こう、頑張ろうというのはちょっと嘘臭く感じて。本当の救いになるのは、俯きながらでも気づかせてくれる大切な人や物だと思います。そんなロックをやりに来ました」と伝えたのは稲生司(Vo&Gu)。「夢なずむ」は夢を諦めない気持ちについて歌った曲で、カラフルなサウンドが彷徨いもがきながら生きる一人ひとりの人生を肯定してくれる。“ステージの上 縁の下”というフレーズが特徴的な「シリウス」はMr.ふぉるて流の人間賛歌だろう。華やかな音像の下、手拍子が起こる光景は温かくも美しく、まさにここが“愛が目に見える場所”なのだと感じさせられた。あっという間にラストを迎え、ミディアムバラード「幸せでいてくれよ」が届けられる。「まだまだ若手なんですけど、もっともっと頑張ってどんどん大きくなっていくので、これからもよろしくお願いします!」(稲生)という意気込みとともに、今目の前にいる人の笑顔を願う一曲でライブを閉じたのだった。
TEXT BY 蜂須賀ちなみ
■go!go!vanillas
3月16日・17日のZepp Haneda2デイズからツアーが始まったばかりのgo!go!vanillasが、その2本と次=3月24日・25日Zepp Nagoyaの間のこの日に、『ビクターロック祭り』に登場。
ステージに現れて楽器を持つ前に、(主に牧達弥と長谷川プリティ敬祐が)しばし踊ってみせて、フロアの空気をほどく。そして、牧がギター一本で歌い出した「LIFE IS BEAUTIFUL」に、はじけるように3人の音が重なり、一斉にオーディエンスが揺れ始める――という、軽やかだが熱いオープニング。バンドの音の上を泳ぐように、牧のボーカルが朗々と響く。
次は「むちゃくちゃやるから、覚悟しとってな!! 1、2、1、2、3、4!!」という、プリティのカウントから、「デッドマンズチェイス」へ。プリティ→牧→間奏を挟んでジェットセイヤ→柳沢進太郎、と、4人でリードボーカルをリレーしていき、最後は全員でユニゾンになる。ジェットセイヤ、隙あらば腰を浮かし、叩きながら立ち上がる。今日に限ったことではないし、この曲に限ったことではないが。
続く、アッパーな「お子さまプレート」ではフロント3人が左右にステップを踏んでみせる。その曲終わりのノイズが消えぬうちに、柳沢がリフを弾き始め、プリティが腕で“E” “M” “A”のポーズを、オーディエンスに求めてから「エマ」へ。もう4曲目、すさまじい勢いでライブが進んでいく。間奏ではフロント3人がセンターに集まり、弾きながら背中を合わせるポーズ。
「楽しんでもらえてるでしょうか? 春になってきましたよ!」と、ギターを置いてハンドマイクになった牧が、この日最初のMCを入れる間も、音は止まらない。ドラムのビートに乗って、話している。「そんな季節に、新曲を持って来ました!」と、3月30日リリースのニューシングルであり、始まったばかりのツアーのタイトルでもある「青いの。」を披露。曲に合わせてブルーの照明がステージを包む。オーディエンスがステージに向ける集中力が、グッと上がったのを肌で感じる。
「ビクターは、ロックバンドが多いからね。ロックのかっこいいところを、ここからどんどん見せていきたいと思います!」というMCから後半へ。「子供に戻りましょう、皆さん!」と、牧と柳沢でツインボーカルをとる「クライベイビー」へ。イントロで牧、ジャンプしまくりながらギターソロを決める。この曲でも、続く「平成ペイン」でも、フロアのあちこちから突き上げられる腕の数が、どんどん増えていく。後半、曲がブレイクして牧の歌とギターだけになるヴァースでは、ジェットセイヤ、オーディエンスに向けて、指揮者のジェスチャー。
ラストは、「俺たちがこのビクターに入ったときに、初めて作った、ロックンロールの魔法を、みんなにお届けして帰りたいと思います!」という言葉からの「マジック」。オーディエンスみんな、イントロからラストまで、大きなジャンプで4人に応えた。
TEXT BY 兵庫慎司
■サンボマスター
続いてはサンボマスターが登場。重いビートが象徴的なトラックに乗せて山口隆(唄とギター)がラップする「その景色を」がまず届けられた。鮮烈なシーンを経て、山口が「いいか、おめえら。悲しみで踊るんじゃねえぞ。苦しみで踊るんじゃねえぞ。じゃあ何で踊るかって、幸せになるために踊るのよ。幸せに踊りまくってまいりましょう!」と投げかける。すると、エネルギッシュなバンドサウンドとともに空気が弾け、「ヒューマニティ!」のギターイントロに手拍子も発生。そんななか、山口は今日も曲中や曲間に言葉をたくさん詰め込み、あらんかぎり伝えようとしている。「おめえの心の花が咲けばいいなと思って、ここに歌いに来たんだ! その花の花言葉は不安じゃねえぞ。悲しみじゃねえぞ。真っ暗闇じゃねえぞ。愛と平和だ!」。そんな言葉をきっかけに鳴らされたのが「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ」だ。心穏やかではいられない出来事が続く昨今だが、そのうえで「この毎日で、おめえと一緒にいるって決めたんだよ!」(山口)と叫び、ラブ&ピースを鳴らすのがサンボマスターというロックンロール。今は「愛と平和!」とシンガロングすることすらできないが、それでも確かにひとつの想いがあのとき共有されていた。
これら3曲による走り出しのあと披露された最新曲「ボクだけのもの」も心に残る名場面だった。魂から声を出す山口の独唱に、近藤洋一(ベースとコーラス)のベースライン、木内泰史(ドラムスとコーラス)による助走のビート、そして観客の手拍子が順に加わることで迎えるドラマチックなオープニング。削ぎ落としたアプローチによって浮き彫りになった歌と言葉が、聴く人一人ひとりの心に浸透していくさま。ミクロとマクロ、個人と宇宙の交信をイメージさせるようなロマンチックな演奏だった。
「ちょっと早いけどよ、俺たちからの春休みの宿題はよ……次会うときまで勝手に死ぬんじゃねえぞ、この野郎!」(山口)と「輝きだして走ってく」からライブ後半へ。「できっこないを やらなくちゃ」が、様々な制限があるなかでも全国各地に音楽を届け続けるロックバンドとしての生きざま、そして3年ぶりに開催された『ビクターロック祭り』の真ん中にある想いと重なったところで、いよいよ残すはあと1曲。最後は観客一人ひとりに「花束」を贈り、心の中でのコール&レスポンスで心を繋いだ。あなたの心を縛る呪いは、何回でも解きに行く。あなたには生きてほしいんだと、何回でも伝えに行く。綺麗事でも上っ面でもなく、全力を懸けてそれをやるのがサンボマスターというバンドだ。
TEXT BY 蜂須賀ちなみ
■KALMA
本日の『アタラシイチカラ』2枠目、つまりニューカマー枠で出演したのが、このKALMA。2016年に札幌で結成(現在も在住)、全員2000年生まれなので、今年で22歳。2020年3月にミニアルバム『TEEN TEEN TEEN』で、ビクター/スピードスターレコーズからメジャーデビューした。今日のステージでは「デイズ」「ねぇミスター」「これでいいんだ」の3曲を演奏。
T-REXの「20th Century Boy」をSEに、赤一色のライトのなか、3人がステージに登場。まず畑山悠月(Vo&Gu)がバンドの音に合わせて客席にでっかい第一声を放ち、「北海道から来ました、KALMAです」と自己紹介。「いい日にします。会場全部に届くように歌います!」と宣言してから、1曲目の「デイズ」に入る。
このバンド史上、もっとも大規模……かどうか知らないが、少なくとも自分が観て来た中では(そこそこ何度も観ていると思う)、格段に大きなステージである。が、荒削りだしラフだが、それがそのまま魅力になっている今のKALMAの音は、この広い幕張メッセに、とてものびのびと響いている。
それが伝わったからか、立ち上がって腕を振り上げているオーディエンスがあちこちにいる。このひとつ前がサンボマスター、この次がDragon Ash、そのあとがORANGE RANGEとサカナクション、と考えると、そのなかにあってこの健闘ぶりは、かなりのものだと思う。
最初は高校1年のときに、この『ビクターロック祭り』に出られる『ワンチャンオーディション』に応募した。出られなかったけど、そのときに観てくれたビクターの人のおかげで、今こうして本編のほうに出ている。これってすごいことだと思う――という熱いMCを(他にもいいMC、いろいろあったが、すごい分量になるので割愛)、「ラスト1曲やります。出会ってくれてありがとうございます!」と締めてから、ラストの「これでいいんだ」は、歌われた。
TEXT BY 兵庫慎司
■Dragon Ash
フレッシュなKALMAからバトンを受け取ったのはDragon Ash。1997年2月にミニアルバム『The day dragged on』でビクターエンタテインメントからメジャーデビューし、今年2月でデビュー25周年を迎えた。ライブが始まる前に流れた25年間を振り返るVTR、過去のMVなどを観て懐かしさを感じていた観客もいたのではないだろうか。
SEと観客の手拍子をバックにオンステージ。この日の1曲目としてKj(Vo&Gu)が歌い始めたのは「陽はまたのぼりくりかえす」。日の光を思わせるオレンジ色の照明が輝くなか、櫻井誠(Dr)が繰り出すビートに、ステージ上のメンバーも客席を満たす観客も自由に身を揺らし始めた。場内に広がるのは、希望を内包した温かなバンドサウンド。スクリーンに映るメンバーの表情も穏やかだ。一転、BOTS(DJ)のスクラッチを合図に瞬時にギアチェンジ。「Mix it Up」で轟く重厚なサウンド。多方面から照明を浴びながらhiroki(Gu)が炸裂させるソロ、そしてサポートのT$UYO$HI(Ba/The BONEZ、Pay money To my Pain)をフィーチャリングに迎えたベースラインが特に強烈な一曲「Fly Over feat.T$UYO$HI」と畳みかけていく。
プリミティブなラテンのリズムと開放的なメロディが一体となった「AMBITIOUS」など、様々な要素をハイブリッドさせて生まれる独自のバンドサウンド、その説得力からはやはり25年の歴史キャリアを感じる。そんななか、「久々なんじゃない? 『ビクターロック祭り』は。まだマスクもしなきゃいけないし、声も出せないけど、できるところまでは前進したと俺は思っている。こんなデリケートなときにスピーカーの前に集まってくれてありがとうございます」と観客に伝えるKj。心を交わす場所としてのライブ空間を連想させる曲「ダイアログ」をまっすぐ届けつつ、「Jump」では音を楽しむという原始的な感覚を呼び覚まさせ、その音でみんなを文字どおり飛び跳ねさせる。「ロックフェス楽しい?」というKjの投げかけに応え、客席から上がる腕の数々。そして「コロナがなくなったらマスクとって一緒に歌おうな!」という約束が交わされた。
バンドにとって神聖な場所、ライブを行う現場を歌った曲「百合の咲く場所で」を終えてMC。ここではKjが「俺たちみたいなバンドマンはこうやって観に来てくれる皆さんが拠り所だし、みなさんのおかげで大きな音で大好きなロックンロールを鳴らせています。願わくば俺たちの話ばっかじゃなくて、音楽業界の話ばっかじゃなくて、皆さんの生活を音楽で少しでも支えられていたら俺たちは今日来た意味があります」と語り、ラストの「New Era」へと繋げた。ここにすべてを置いていかんとするメンバーの気概、熱量を感じさせる名演。壮大なスケールのサウンド、その輝きは私たちの未来を照らす灯だ。
TEXT BY 蜂須賀ちなみ
■ORANGE RANGE
2022年で25周年を迎えるDragon Ashは、その軌跡を振り返るオープニング映像がライブの前に流れたが、2021年が20周年だったORANGE RANGEも、ライブの前に20周年振り返り映像があった。後半のMCで、法被姿のRYOが、去年はコロナでお祭りっぽい活動があまりできなかった、だから今年も祭りをやる、と説明した。
というのはいいが、今日のORANGE RANGEは2MCだった。HIROKIがコロナ陽性で欠席。今年最初のライブも、ここ幕張メッセだったが、そのときはYOHがいなかった(1月22日のイベント『LIVE HOLIC』、YOHが体調不良で抗原検査を受けたら陰性だったが、大事を取って不参加)。代わりにお客さんたちが助けてくれた。で、今日はそのリベンジだけど、見てのとおり、HIROKIがいない。「皆さん、HIROKIのぶんまで歌ってください」って言いたいけど、(声が出せないので)それも言えない――と、1曲目の「チェスト」のあとのMCで、RYOが説明する。
で、その末に「いけますか幕張! いけますか『ビクターロック祭り』!」と叫ぶ。この展開、普通なら、悲壮な空気になってもおかしくないのに、オーディエンス、明るく大拍手で応える。人徳というか、バンド徳というか、とにかくこのバンドの持つ、得難いキャラクターならではだろうと思う。
「ビバ★ロック」で、シンガロングの代わりに腕を高々と上げさせ、「桜がちょいと開花してますね。だけどORANGE RANGE、春の曲はない! 春の次の夏の曲はたっぷり持ってますよ!」とアオリを入れてから「上海ハニー」へ。「声も出せないし、制限があって大変だけど、制限があっても沖縄のダンス、カチャーシーはできるわけですよ!」の言葉で、フロアいっぱいにカチャーシーが広がる。その壮観な景色を、RYO、「すごいうまいですよ、皆さん!」と、称賛する。
「SUSHI食べたい feat.ソイソース」と「イケナイ太陽」で「ワンマンかこれ?」と言いたくなるくらい、さらに場をアゲてから、RYOが言う。
「いちばん悔しいのは、HIROKIなんですよ、沖縄から出れずに。だから、ちゃんとHIROKIに『後ろまで手が上がってたよ、みんな楽しんでたよ』って伝えますからね」
「みんな、今、大変な時期だから、うまくいかないこととか、自分を見失いそうになることばっかだと思うけど、『ORANGE RANGEが、主メロを歌うメインボーカルがいないなかで、ライブやったよ』って思い出してくださいね、そういうときに。僕たちは、そういう存在になりたいので」。大きな拍手が湧く。
「辞退するという道もあったけど、今日ステージに立ってよかったなと思いました。最後にもう1曲だけ、力を貸してください」と、ラストに「Ryukyu Wind」で、もう一度オーディエンスをピークまで踊らせてから、ORANGE RANGEはステージを下りた。
TEXT BY 兵庫慎司
■サカナクション
9組の熱演を経て、トリを務めたのはサカナクション。SEと青色のライティングが幻想的な世界を作るなか、山口一郎(Vo&Gu)、岩寺基晴(Gu)、草刈愛美(Ba)、岡崎英美(Key)、江島啓一(Dr)の5名が横一列に並びスタンバイしているのがシルエットからわかる。今年3月30日にコンセプトアルバム『アダプト』をリリースするサカナクション。ライブのオープニングでは、アルバムの1曲目となる「塔」から「ミュージック」へと繋げることで、ベースミュージックからバンドサウンドへの移行をグラデーション的に描いていった。
冒頭のリズムで次の曲が「アイデンティティ」だと察した人が多かったのか、観客のノリがもう一段階激しくなったところで「皆さんどうも、サカナクションでーす! 心の中で一緒に歌ってください!」と山口。そうして始まった待望の「アイデンティティ」に、マッシュアップアレンジを挟みながら「ルーキー」が重ねられ、つまりオールタイムベスト的な楽曲が惜しみなく披露された。全体的に低音の鳴りが深く、特に「ルーキー」はリズムを担う江島以外のメンバーも要所でタムを叩くアレンジであることも相まって、問答無用で踊りたくなる。そうして「プラトー」に辿り着いた瞬間のカタルシスたるや。冒頭の静けさとサビでの躍動、地を鳴らすドラム&ベースと光のギター&キーボードによるコントラストが聴く人を歓喜の果てへと連れていく。
サカナクションが『ビクターロック祭り』に出演するのは2017年以来5年ぶり、そしてフェス自体の出演も2年ぶりとのこと。山口は「2年ぶりのフェスなので、どんな感じなのか思い出しながらやってるところがありますけど。せっかくこうして集まったんですから、思いっきり、一緒に汗をかくまで楽しく踊りましょう!」とも言っていたが、久々のフェス出演を楽しむメンバーの笑顔が印象的だったものの、いわゆるブランクのようなものは一切感じられない。むしろ「プラトー」に「陽炎」に「ショック!」など、さらなるキラーチューンを引き連れての堂々たる帰還、そして床が揺れるほどの盛り上がりようである。なお、「ショック!」では、女性リポーターがステージ上に登場し演奏中のメンバーにマイクを向けるなど、MVを模した演出も。リズムに合わせて脇を締める通称・ショックダンスを客席でみんなが踊っていた。そんななか、間髪入れずに歪んだギターが鳴り、始まったのは「モス」で極めつきは「新宝島」。高速で上空を行き交うレーザー、特徴的なキメ&コーラス、軽快なギターカッティング、グルーヴィーなベース&ドラム、刺激的な鍵盤フレーズ……。とにかく様々な要素が場内のテンションをこれでもかと引き上げる。
「ビクターの新社長を迎えての初めての『ビクターロック祭り』です。楽しんでいただけましたでしょうか?」(山口)とコアな情報を交えながら迎えたフィナーレ。「忘れられないの」、そして心が洗われるような「目が明く藍色」まで、音楽を全身で楽しめる喜びをただただ分かち合う、ピュアな時間が続いたのだった。
TEXT BY 蜂須賀ちなみ
■DJダイノジ
トリのサカナクションのあとは、「毎回出ているし毎回必ず盛り上げるけど、昔も今もきっと未来も、ビクターと何の契約もない人たち」としておなじみ、DJダイノジがクロージングアクトを務める。
……って、ちょっと待て。この会場、ご覧のように、全席指定ですよね。で、今日、当然、規制退場、ありますよね? 今の今まで気がつかなかったけど、クロージングDJと全席指定と規制退場、相性が悪すぎないか? サカナクション終わったらどーっと帰っちゃって、でもそこではDJダイノジやってるから規制のアナウンスできなくて、とんでもないカオスなことになるんじゃない? あと、残った人も、イス席じゃあ踊るっていっても……って、ならない?
ならなかった。大半の人が残って、最後まで自分の席で、手拍子を打ったりダンスしたりジャンプしたりして、ダイノジのDJを楽しんだのだった。びっくりした、正直。人気あるんだなあ、DJダイノジ。コロナでみんな飢えていたのかもしれない、DJダイノジ的な楽しさに。という意味ではDJダイノジ、ある意味、フェスを体現している存在なのかもしれない。それは誉めすぎ。
「今日は素晴らしいビクターレーベルから出ているアーティストだけで、いきたいと思います」と大谷ノブ彦、宣言。せっかくなので何をかけたか書いておきます。
「今夜だけ間違いじゃないことにしてあげる」Awesome City Club→「きらきら武士 feat.Deyonna」レキシ→「Magic Music」木村カエラ→「Crazy Crazy」星野 源→「ギャグ」星野 源→「ファントムヴァイブレーション」キュウソネコカミ→「MONSTER DANCE」KEYTALK→「クラーク博士と僕」四星球→「KEEP ON ROCKIN’」THE BAWDIES(ここで大地、エアギター)→「ワンダーフォーゲル」くるり→「Yang 2」avengers in sci-fi→「夜の踊り子」サカナクション→「ショック!」サカナクション→「勝手にシンドバッド」サザンオールスターズ→「SHAKE」SMAP→エンドSE:「歩いて帰ろう」斉藤和義
こういう選曲の中に、アヴェンズとか入れてくるあたり、いいなあと思う。おつかれさまでした。お客さんみんな、最後までめちゃくちゃ楽しそうでしたね。最高のクロージングアクトだったのでは。
なので、「レキシと木村カエラと斉藤和義は、ビクターに移籍して来る前の曲じゃないか」という揚げ足は、取らないでおきます。
TEXT BY 兵庫慎司
『ビクターロック祭り~2022~』OFFICIAL SITE
http://rockmatsuri.com/