■「2022年、音楽でゴリゴリ攻めていきたいと思っています。THE ORAL CIGARETTESがどんな感じで番狂わせしていくのか、よかったら見ていてください」(THE ORAL CIGARETTES・山中拓也)
THE ORAL CIGARETTESの初の全国ホールツアー『Hall Tour 2022「SUCK MY WORLD」』が2月5日、熊本市民会館シアーズホーム夢ホール公演からスタートした。
2020年4月にリリースされた5thアルバム『SUCK MY WORLD』を携えたツアーが約2年越しに実現。本来は同年5月からアリーナツアーを、8月からライブハウスツアーを開催する予定だったが、新型コロナウイルスによる感染症拡大の影響を受け、断念せざるを得ない状況に。
コロナ禍のオーラルは、2020年9月に有観客ワンマンとして開催され、その後映像作品化された実験的ライブ『「ORALIUM」at KT Zepp Yokohama』、収録曲のジャケット写真やオブジェの展示やメンバーのトークで『SUCK MY WORLD』の世界観を伝えた『TALK & MUSEUM TOUR』と新しいライブ表現にトライしていたが、その一方で『SUCK MY WORLD』のツアーも諦めず、開催できるタイミングを探っていた。
結果、アルバムのツアーは初のホールツアーとして新たに日程が組み直され、この日いよいよ開幕を迎えたのだった。なお、先駆けて昨年10~11月には、ファンクラブ会員限定で『SUCK MY WORLD』の全曲再現ツアーが行われている。
ファンクラブ会員限定ツアーで全国5都市をまわったものの、本格的な全国ワンマンツアーは2018年9月~2019年3月以来に開催された4thアルバム『Kisses and Kills』のツアー以来となる。ロックバンドとしてのフィジカルが前面に出た攻めのバンドサウンドに、サイケデリックな配色の照明、ステージ上で焚かれるスモーク。“オーラルここに参上!”と堂々と伝えるオープニングに待ちわびていた観客が力強く拳を上げた。
『SUCK MY WORLD』は、“ロックバンドとは”という核心を突き詰めるため、音楽の歴史を遡るような構成を採ったアルバムだった。そのツアーとなれば、4人が鳴らす音そのものにフォーカスした内容に。鈴木重伸(Gt)の強烈なリフが導く「Tonight the silence kills me with your fire」、あきらかにあきら(Ba,Cho)のリズミカルなベースラインに観客が揺れた「Fantasy」などバンドの演奏に胸を熱くさせられる場面が続いた。力強いプレイでボトムを支えつつ、時には全体の起爆剤となる中西雅哉(Dr)も頼もしく、豊かに歌い上げる山中拓也(Vo,Gt)は耳に手を当てたり観客を煽るようなしぐさをしたりしている。ステージには巨大なスピーカーが並びアグレッシブなライブを象徴していて、円形のスクリーンはアルバムアートワークを彷彿とさせるもの。そのステージに対して、巧みに映像を駆使する演出も見応え抜群で、もはやアリーナ/ドームレベルの規模感だった。
初日の熊本公演では『SUCK MY WORLD』収録曲に加え、MV再生数が1億2000万回を超えた「狂乱 Hey Kids!!」などの人気曲、「起死回生STORY」「Mr.ファントム」といった初期曲も惜しみなく披露。ライブ3日前から熊本でリハーサルを重ねていたとのことで、バンドのサウンドはツアー初日とは思えないほど仕上がっている。また、客席に誰もいない状態でのリハーサルは「おもんなかった」とメンバーが言っていた通り、観客のリアクションを受け、さらに熱量を高めていくのがロックバンドの本分で、ステージ上の彼らは水を得た魚のよう。そんなコンディションであんな曲やこんな曲が鳴らされたら……。今回のツアー、相当ヤバいことになっているので、今後の公演に行く予定の人は楽しみにしていてほしい。
久々の全国ツアーということで熊本でのワンマンも久しぶり。MCでは山中が、熊本地震で大きな被害を受けたものの、昨年秋に天守閣の復旧が完了した熊本城を見に行ったと話し、「完成してるやん! 素晴らしいやん!」「街の人たちの勢いに背中を押されて、気合いを入れてやってまいりました」と伝えた。そんなMCに対する拍手は長く、その長さに、ライブを待ち望んでいたファンの気持ちが表れていたように思う。また、今回のツアー、細やかな照明演出も見どころの一つなのだが、「なんとゲストが来ています!」と熊本県のゆるキャラ・くまモンがレーザーで描かれる場面も。スタッフの遊び心が感じられる演出に場が和んだのだった。
以前ならばシンガロングが起こっていた曲で「心の中で歌ってちょうだい!」と伝えたり、余韻に想いを巡らせる無音の数秒を共に過ごしたり(それはとても豊かな時間だった)、音楽の中でコミュニケーションを重ねるバンドとオーディエンス。そんななか、途中では、山中が言葉を重ね、“自分たちがバンドで表現している人間の弱さ、負の感情に共感してくれる人を救いたい。一緒に笑いたい”、“失敗はいつか必ず成功に変わる。だから生き抜いてほしい”といったメッセージを伝えたあと、「The Given」を歌い始める場面があった。この日のMCでも過去のインタビューでも、ライブ活動が思うようにできない日々は、ファンの声によって自分たちの曲が確かに届いているのだと実感する日々でもあった、と語っている4人。バンドが生きる理由をくれた人たちとの対面が叶った今、とにかく、何よりも、あなたには生きていてほしいのだと伝えたかったのだろう。過去に生死をさまよった経験があり、余生のような感覚で今を生きているという山中が歌う理由、その根源をドラマティックに鳴らす曲に、2022年現在の心からの願いが重なり、切実な温度感を帯びていく。
曲調は幅広くなり、ライブの規模も拡大し、オーラルの活動は今も広がりを見せている最中だが、一方、彼らが音楽で表現したいこと、リスナーに伝えたいことはかえってシンプルになっていっている。そしてこの日は、バンドシーンの最前線に躍り出てもなお失われない渇望感、「そもそも俺らはダークホースだった」という実感を象徴する曲も演奏。総じて、“根源に還る”というモードが今のオーラルにはあるのでは、と思わせられた。
「2022年、音楽でゴリゴリ攻めていきたいと思っています。THE ORAL CIGARETTESがどんな感じで番狂わせしていくのか、よかったら見ていてください」と山中。その言葉通り、ここからまた何かが始まっていくはずだという予感にワクワクさせられたライブだった。全17公演の『Hall Tour 2022「SUCK MY WORLD」』は4月3日の大阪・オリックス劇場公演まで続いていく。次なる番狂わせの狼煙が全国各地で上げられることだろう。
リリース情報
2021.10.13 ON SALE
DIGITAL SINGLE「MACHINEGUN」
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