■「あなたの人生で何かしらの彩りであったり、新しい変化を加えられるような、そういう作品を生み出すのでよかったら受け取ってください」(RADWIMPS・野田洋次郎)
RADWIMPSが『FOREVER IN THE DAZE TOUR 2021-2022』を完走。1月9日に幕張メッセで開催された公演のオフィシャルライブレポートが到着した。
RADWIMPSを自由な音楽集団としてのバンドたらしめるタフネスというものを、どこまでもポジティブかつダイナミックに体現したツアーだった。未だコロナウイルスの猛威に脅かされ続ける時代に生きているということに対しても、そう。バンドの内部事情としては、ギターの桑原彰がプライベートで生じた問題から無期限の活動休止中にあり今回のツアーに参加できなないという危機もあった。しかし、彼の不在を穴として埋めるのではなく──2015年9月にドラムの山口智史が持病により活動休止せざるを得なくなり、それ以降のライブをツインドラムで臨むことを選んだあのときのように──今回もRADWIMPSはTAIKING(Suchmos)と沙田瑞紀(miida)というふたりのサポートギターを迎えたまったく新しい編成をもって七転び八起き、堅忍不抜のマインドで音楽とともに前へ進んでいく覚悟を示した。そして、そのアティテュードは昨年11月に3年ぶりにリリースしたニューアルバム『FOREVER DAZE』の背中を支えている真髄としてもそのまま置き換えられる。
昨年12月4日に神奈川県・ぴあアリーナMMにて幕を開けたRADWIMPSにとって約2年3ヶ月ぶりとなるツアー『FOREVER IN THE DAZE TOUR 2021-2022』。その後、ツアーは年を跨ぎ2022年1月30日に宮城県・セキスイハイムスーパーアリーナにてファイナルを迎えた。ここでは、1月8日と9日に開催された千葉県・幕張メッセ国際展示場9-11ホール公演の2日目の模様をレポートする。
ツアーの折り返し地点であり、RADWIMPSにとって2022年のライブ初めとなった幕張メッセ2DAYS。1曲目の「TWILIGHT」へ導くオープニングのSEが鳴り始めると同時に1万人のオーディエンスの視線がステージに注がれ、その先には下手から上手に向かってサポートドラムの森瑞希、ベースの武田祐介、ボーカルの野田洋次郎、サポートギターのTAIKING、同じくサポートギターにして楽曲によってはシンセも弾く沙田瑞紀、もうひとりのサポートドラマーであるエノマサフミの6人がほぼ横並びで立っている。バンドサウンドとEDMの方法論が融合し『FOREVER DAZE』屈指の光量の高さを誇る「TWILIGHT」の音楽像とレーザー光線が乱反射する照明の演出が、会場全体の高揚感を一気に引き上げる。続く「桃源郷」はロックバンド然とした躍動感と熱量に満ちていて、このツアーで練り上げた充実のグルーヴ感がむき出しになっていた。左右のLEDビジョンに映し出されるメンバーたちの表情もまた活き活きと輝いていた。ギターがふたりいるからこそ、洋次郎が歌に専念するシーンが増したことも今回のツアーで特筆しておきたいポイントだ。
「どうもRADWIMPSです。会いたかったよ!」
洋次郎がそう叫ぶと、「ドリーマーズ・ハイ」へ。ステージ中央のビジョンには光と色が鮮烈な化学反応を起こすようなモーショングラフィックがカオティックに生動し、それ自体が照明の役割も担っている。ちなみに今回の総合演出を手がけたのは映像作家の山田健人だ。『FOREVER DAZE』の収録楽曲である「海馬」や「MAKAFUKA」などにも顕著だったが、ハイパーな視座で楽曲ごとにディストピアとユートピアを劇的に切り替えそこに現出させるような彼の作家性が、RADWIMPSの最新の音楽世界、さらには6人のアンサンブルと濃密に共振していた。あるいは刺激的な演出が施されていたからこそ、リリカルな歌の魅力を極めてシンプルなステージングで届けられた「うたかた歌」のような楽曲もオーディエンス個々人に沁み入るように響いたといえる。今後もしこのツアーが映像化されることがあれば、こういった演出の妙もぜひつぶさに堪能してほしいと思う。
中盤のハイライトとなったのは恒例となっている「DADA」と「おしゃかしゃま」の流れだ。洋次郎が指揮者となりソロ回しが展開され、それぞれのプレイヤーとしてのスキルやパーソナリティがフィーチャーされていく。「おしゃかしゃま」で武田、TAIKING、沙田の3人はセンターステージに移動し、そこでバトル形式のような格好で互いのプレイをぶつけ合った。武田が会場の空気を震わせるスラップを披露すれば、TAIKINGはディープ・パープルの「Smoke on the Water」のあのフレーズを引用しつつハードなソロを奏で、沙田もフライングVでそれに応えながらギタリストとしての悦びを解放するようにしてフレーズを編んでみせた。洋次郎もまた「匿名希望」でセンターステージに立った。『FOREVER DAZE』の中で最もシニカルでダークなムードに覆われ、洋次郎が現行のトラップ/ドリルを昇華するようにして舌鋒鋭いラップを放っていくこの曲のただならぬ緊張感もまた、RADWIMPSのライブにとって不可欠な要素といえる。メインステージのビジョンにはのっぺらぼうとなった人間の不穏な映像がうごめき、センターステージにたどり着いた洋次郎が緑のレーザーに四方を囲まれながらオーディエンスの頭上にせり上がっていく演出も見事だった。
「まだいけるかい? 終わりたくないけど、終わりに向かわないと進めないという、すごい、すごい不思議なもんで。それはライブという時間もそうだし、一生もそう。だけど、どうせ進むなら、終わりに向かうなら、おもいきり愛しい時間を一緒に過ごしましょう」
洋次郎がそう語ると、文字通りの多幸感がバーッと広がった「NEVER EVER ENDER」を皮切りにライブは後半のセクションへ。洋次郎がギターを持ち〈ロックバンドなんてもんを やっていてよかった 間違ってなんかいない そんなふうに今はただ思えるよ〉とサビのフレーズを弾き語った時点で大きな拍手が起こった「トアルハルノヒ」も実に印象的だった。曲を歌い終えると洋次郎は「ロックバンドなんてもんを好きでいてくれてありがとうございます」とオーディエンスにあらためて謝辞を述べた。
一呼吸置いてからエレピのイントロをバックに東京というホームタウンについて、『FOREVER DAZE』でその街をタイトルに冠した曲を作った思いを語りだした。特別な街だけれど、照れくさいから特別だとは言いたくない関係性。でも、このタイミングであえて歌ってみようと思い立ち、この人と一緒に歌うならば特別な曲にできると確信したということ。そして洋次郎は「大きな、大きな拍手でお迎えください」と、iriその人をステージに招き入れた。あえて飾り気を取り除いたサウンドの中でシームレスに優しく穏やかなフロウとメロディを紡いだ洋次郎とiriにオーディエンスから温かい拍手が送られた。
iriが「胸いっぱいですよ。また洋次郎さんと一緒に歌えることを願ってます」と言うと、洋次郎は「こちらこそ。それぞれの表現の途中できっとまた会える気がするし、あなたが何を表現し続けるかずっと見ていたいし、あなたの唯一無二のその声を、音楽をずっと楽しみにしてます」と応え、ふたりはハグを交わした。
「Tokyo feat.iri」に続いて流れたのは、「SHIWAKUCHA feat.Awich」のイントロだ。洋次郎が最初のサビを歌い終えると、「みなさんでっかい拍手でお迎えください! Awich」と叫ぶ。すると、センターステージに立っているAwichにスポットライトが当たり、彼女は「ワッツアップ、幕張!」と咆哮すると、まさにヒューマニズムの塊のような、折れない魂というものを漲らせるようにしてソウルフルなラップと旋律が渾然一体となった歌唱を放った。そこにいる誰もが、Awichという比類なきラッパー/シンガーのすごみと包容力を十二分に体感しただろう。「アイラブユー、RADWIMPS! 素晴らしいツアーに参加させていただいて本当にありがとうございます。大好きです!」Awichが深い感謝の念を伝えると、洋次郎と互いを慈しみ鼓舞するようにしてハグをした。そこから「いいんですか?」へ。ここでは過去のライブ音源から抽出した合唱が、歌いたくても歌えないそこにいるオーディエンスたちの声なき声とハンドクラップを後押しした。
「数十年しか生きてないけど、生きてるとしんどいことがいっぱいあって。もう無理だな、やってられないな、投げ出したほうがずっとラクなんじゃないかと思うようなことが何回か訪れて。それでも俺は明日を選んで生きていて。それがなんでなのかよくわからないけど、それがなぜなのか知りたいがために歌を作っていて。今回のアルバムもそんな感じで作っていたんだろうなと思います。誰かに与えられた正解じゃやっぱりダメで、自分が生きてる意味をちゃんと自分で見つけたい。これからもそんなふうに歌を作っていきます。それが何かしらのヒントになったらとてもうれしいです」
洋次郎のそんな言葉から橋渡しされたのは「鋼の羽根」。“揺るぎないものがほしかった 壊れない意志がほしかった”というサビのフレーズが迫真的に響き渡った。
そして、本編ラストは『FOREVER DAZE』のラストナンバーでもある「SUMMER DAZE 2021」。時代の移り変わりとともにある逃れられない困難も歓喜の瞬間も受け止めながら、現在進行系のアンセムを鳴らそう──そんな揺るぎない意志を感じさせるこの曲は、このツアーを通して本当の完成を見たのだと思う。あらためて、スケールが大きくも生々しい生命力を感じさせる曲だ。
アンコールでは「棒人間」、「スパークル」、「君と羊と青」の3曲が披露された。「スパークル」の冒頭で微笑ましい演奏トラブルもあったが、それはバンドと会場にいたオーディエンスたちだけで共有する秘密としておこう。
とにかく、2022年もRADWIMPSはこの激動の時代を音楽とともに、音楽をあきらめずにタフに走り続けていくということを、しかと目の当たりにしたライブだった。そう、本編最後のMCで洋次郎はこうも言っていた。最後にその言葉を記してこのライブレポートを閉じようと思う。
「ここで今日会えたから次の楽しみがまた増えたし、こうやってエネルギーをたくさんもらったので。まだ言えないことがたくさんあるけど、現在進行系でたくさんの作品を作っていて。それがあなたの人生で何かしらの彩りであったり、新しい変化を加えられるような、そういう作品を生み出すのでよかったら受け取ってください」
【1/09(日)SET LIST】
1.TWILIGHT
2.桃源郷
3.ドリーマーズ・ハイ
4.海馬
5.カタルシスト
6.DARMA GRAND PRIX
7.MAKAFUKA
8.うたかた歌
9.DADA
10.おしゃかしゃま
11.セツナレンサ
12.匿名希望
13.NEVER EVER ENDER
14.トアルハルノヒ
15.Tokyo feat.iri
16.SHIWAKUCHA feat.Awich
17.いいんですか?
18.鋼の羽根
19.SUMMER DAZE 2021
[ENCORE]
20.棒人間
21.スパークル
22.君と羊と青
TEXT BY 三宅正一
PHOTO BY Takeshi Yao
リリース情報
2022.03.04 ON SALE
ALBUM『余命10年 〜Original Soundtrack〜』
RADWIMPS OFFICIAL SITE
http://radwimps.jp/