台湾出身のシンガー・A-Lin(アーリン)が「THE FIRST TAKE」に出演した。2006年のデビュー以来、数多くのバラード、ラブソングを歌ってきた彼女。憂いと優しさに溢れた歌声は、リスナーの感情を揺さぶるしなやかさがある。彼女は、中華圏、シンガポール、マレーシアなどのアジア圏でも絶大な人気を誇るアーティスト。「A Kind of Sorrow」(有一種悲傷)のMVは、YouTubeで1億回を超える再生数となっている。魅惑のボーカルを持つA-Linに、「THE FIRST TAKE」出演の思いやこれまでの音楽キャリアについて話を聞いていこう。
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■2023年に、金曲奨で最優秀中国語女性歌手賞を獲得
──A-Linさんの自己紹介をお願いします。
ラブソングをメインで歌っているシンガーのA-Linです。今年でデビュー18周年になります。最近ですが、去年2023年に中華圏でいちばん注目されるミュージックアワードの金曲奨で最優秀中国語女性歌手賞を獲得することができました。ずっと目標にしていたのでとてもうれしいです。そして、私は台湾の先住民のアミ族の出身です。
──今回「THE FIRST TAKE」(以下、「TFT」)に初出演されましたが、出番を終えての率直な感想を聞かせてください。
とてもスリリングな緊張感のあるパフォーマンスでした。私はよく実力派歌手と呼んでいただいてるんですが、そんな自分でもとても緊張がありました(笑)。ほんとにワンテイクのみのパフォーマンスは、18年のキャリアでも初めてだったので(日本語で)“すごく緊張しました〜”。でも、実りのあるとても豊かな内容の収録でした。
──「TFT」で歌唱された楽曲についての解説と選曲の理由を聞かせてください。
まず「A Kind of Sorrow」(有一種悲傷)は、映画『悲しみより、もっと悲しい物語(比悲傷更悲傷的故事)』の主題歌になった曲で、歌詞は映画のストーリーに沿った形で書かれたものになっているんです。ただそれだけではなく、人々の心に寄り添う内容になっています。この曲のMVが1億回再生されていて、とても人気の曲でもあります。なので、以前からのファンの方、初めてA-Linを聴く皆さんにも親しめる楽曲かなと思って選びました。あと今回、「TFT」に向けて新しいアレンジで歌わせてもらったので、それもよろこんでいただけるかなと思ってます。そしてもう1曲が「Best Friend」(摯友)になります。金曲奨を獲得した2022年のアルバム『LINK』に収録されている楽曲で、歌詞は、今どきの若い人の恋愛を描いています。友だち以上恋人未満のような悲しい恋のストーリーですが、寂しい人の静かな夜に寄り添えるような歌になってます。とても人気があるラブソングなので、ぜひ「TFT」で聴いてもらいたいなと思いました。
■ラブソングに対して複雑な感情を持っているんです。好きだけど好きじゃないみたいな気持ちがある
──ラブソングが多いA-Linさんですが、ご自身はラブソングに対してどんな思いを持っていますか。
実は、私自身ラブソングに対して複雑な感情を持っているんです。好きだけど好きじゃないみたいな気持ちがあるんですよ。というのも、ラブソングを歌うときは、歌詞の世界に入り込むためにつらい経験を思い出したり、自分の感情の深いところをさらけ出さないといけないからなんです。でもファンの方からは「ラブソングを歌ってるときのA-Linの歌声がすごく好き」と言っていただけますし、それは素直にうれしいことですし、ラブソングを好きだって感情もあるんです。なので「TFT」では、A-Linと言えばのラブソングという私のいちばん得意なものを聴いていただきたいなと思いました。歌詞の言葉がわからなくても、歌のメロディやパフォーマンスで感情が伝わると思うので、そこからA-Linという存在を知っていただいて、楽曲に共鳴していただければなと思ってます。
──では、「TFT」出演に向けて特別な練習などはされましたか?
パフォーマンスをするうえで、体のコンディションは大きな影響があるんです。「TFT」の収録は早めの時間帯だと聞いていたので、早起きしようと思いましたし、ちゃんと声出せるのかな?って心配もありました。それにとても基本的なことですが、歌詞をちゃんと間違えずに歌えるかな?って不安も感じました。なので「TFT」でパフォーマンスする2曲を、しばらくの間、毎日10回フルで歌う練習をしてたんです。このあと大きなライブも控えているので、そこに向けての練習と「TFT」に向けての練習を力を入れて頑張っていました。でも収録では、まずスタジオの雰囲気に圧倒されましたね。スタッフの方が、本番のカウントダウンをした瞬間はかなり緊張しました。でも、毎日練習してたおかげでリラックスしてちゃんと歌えました。あと(日本語で)“ちょっと日本語の練習もしました”(笑)。
──ライブも一発勝負の場ですが、やっぱりスタジオでの緊張感は違いましたか。
(日本語で)“ぜーんぜん違います”。いちばんの違いは、ライブは歓声とかコールアンドレスポンスがあるので、観客のみなさんの反応がその場で受け取れるじゃないですか。「TFT」ではそういうのは一切なく、自分の歌声がすごく聴こえるんです。そこが大きく違いました。ただ本番は、緊張よりも新しいチャレンジへの興奮がありました。あと、いい意味でのドキドキも感じていたんです。ファンの人がこのパフォーマンスを見てどんな反応をしてくれるのかな?って未知な部分があったので、そこもワクワクしながら楽しめました。
──新鮮な挑戦として歌えたと。では、「TFT」でのパフォーマンスをご自身で採点すると何点ですか。
うーーーん(笑)、10点中7点です。減点した3点中の2点は、自分は高いパフォーマンスを求めるタイプなのでもっと行けるという伸び代の部分ですね。あとの1点は、見てくれたみなさんに決めてもらいたいなって意味での点数です。
──7点の内容も聞かせてもらえますか。
7点中の6点は、私自身歌に自信があるので、合格点はクリアできたかなって意味での点数です。プラスの1点は、体のコンディションもよかったですし、まず「TFT」に出られること自体が、自分に実力があると認めていただけた証明でもあるわけじゃないですか。そこも含めて、自分を誇ってもいいという意味で7点にしました。
■高校時代の学校の歌のコンテストに参加して2位を取ったとき、もしかして自分は歌が上手いのかも?って
──なるほど。では、ここからはA-Linさんの音楽キャリアについて聞いていきたいです。もともとどんな音楽に惹かれて歌手を目指すようになったんですか。
3歳の頃から、私はあまり記憶がないんですが「テレビで流れているCM曲を一緒に歌ってた」と母親に聞きました。1回聴いただけですぐ覚えて歌うような子だったらしいです。私自身、小学校の頃から音楽が好きだって意識はありましたね。学年が進みたびに、だんだんと歌うことが大好きになっていきました。ただ、取り立てて自分が歌が上手いとは思っていなかったんです。歌に自信が持てたのは、高校時代の学校の歌のコンテストに参加して2位を取ったときです。もしかして自分は歌が上手いのかも?って思いました。そこから、いろんな歌のコンテストや大会に出たり、パブなどステージで歌ったりしていく中で、歌手を目指したいって気持ちになっていったんです。そして事務所のマネージャーと出会って、音楽のキャリアが始まった感じですね。
──A-Linさんはどんなアーティストに影響されたんですか?
マライア・キャリー、ホイットニー・ヒューストンです。歌の先生って思ってます。あとDREAMS COME TRUEも好きです。
──声を張って歌う人に惹かれたと。
そうですね。彼女たちの歌を初めて聴いたときは、うわーって圧倒されました。自分もああいう風に歌ってみたいなって思いました。
──A-Linさんは3オクターブの歌声と言われてますが、それは自然とできていった感じですか?
そうですね。ただ、よく勘違いされるんですが、私の3オクターブは高い音域じゃなく、低いところからの3オクターブなんです。音域は広いんですが、自分は低音から中音域を出すのが得意で、温厚感のある歌声に自信があります。
──ロウとミドルで聴かせるタイプだと。ちなみに、小さい頃はマライアやホイットニーの歌まねなどをしていましたか?
よくやってました(笑)。小さい頃、家でお兄ちゃんやお姉ちゃんは家事を手伝わなきゃいけなかったんですけど、よく母から「A-Linは『オールウェイズ・ラヴ・ユー』 を歌うだけでいいよ」って言われてラッキーって思ってました(笑)。聴きたいですか?
──聴きたいですけど、いいんですか?(笑)
ハイ、じゃあ歌います。“And I will always love you〜”(1番を歌い切ると取材部屋の全員が拍手)。
──ありがとうございます! スモーキーなボーカルが素晴らしいですね。
ありがとうございます。なので、家事の手伝いはしなくて大丈夫でした(笑)。
──(笑)。さてA-Linさんは2006年にデビューされましたが、振り返ると当時はどんな思いで活動されていたんですか。
20代の頃は、思い込みも激しかったですし迷いが結構ありました。その頃は、デビューしてCDを出せばすぐに有名になれると思い込んでいたんです。外に出るときは帽子を深く被ったり、顔を隠すようなこともしてたんです。でも、自分はそんなに成功してないという現実を知ったときにすごく落ち込みました。なかなかうまくいかず、不安に思うことも多かったですね。でも、周りの人にたくさん助けられて、歌を頑張っていこうって思えたんです。自分の考え方や音楽に向かう姿勢も変わっていきました。もっと自分の思いを込めた楽曲を歌っていこうって切り替えたり、他のアーティストとのコラボもたくさんして、だんだんと自信がついていったんです。
■2018年に発表した「A Kind of Sorrow」(有一種悲傷)のおかげですごく注目されました
──A-Linさんのターニングポイントとなった楽曲を挙げるとすると?
「TFT」でも歌った「A Kind of Sorrow」(有一種悲傷)ですね。2018年に発表したこの曲のおかげですごく注目されましたし、この曲はいろんなアーティストにもカバーされたんです。英語で歌ってくれた方もいれば、韓国、マレーシアのアーティストもカバーしてくれました。いつか日本語のカバーも聴いてみたいなって思ってます。どなたかぜひ歌ってください(笑)。
──(笑)。今年で音楽活動18年ということですが、キャリアの中で特に印象に残っている出来事はなんですか。
特に思い出深い年は、2022年の38歳の頃です。アルバム『LINK』を出した年なんですが、その年はすべてに自信を持って活動できた1年だったんです。仕事でもプライベートでもたくさん知り合いができましたし、いろんな番組にも出演できました。すごく幸せな1年でした。あと、コラボのお仕事をたくさんしてきたこともすごく印象に残ってます。福山雅治さんとのコラボ(アルバム『Galileo⁺』収録、A-Lin⁺名義の「戀愛魔力(恋の魔力)」「親一個吧(KISSして)」「最懂你的人(最愛)」の3曲。2013年発売)もありました。リッキー・マーティンさん(「Vente Pa’ Ca (feat. A-Lin)」。2017年発売)、中国のピアニストのラン・ランさんとかたくさんのアーティストの方との共演は、とてもいい経験になりました。そうしたたくさんの経験を経て『LINK』というアルバムが出来て、しかも金曲奨をいただけたのはほんとに幸せなことだと思っています。
──せっかくなので、アルバム『LINK』を紹介してもらえますか。
アルバム『LINK』は、日々生きていく中で苦しいこともあるけど、悪いことも受け止めて、自分自身を信じて向き合えば必ず乗り越えられるということをみなさんに伝える作品にしたかったんです。人間誰もが自分はとても幸運だと信じるべきだと思いますし、たとえ辛いことがあっても幸せな人生を信じて歩んでいこうというメッセージを込めました。
■私のモットーは「人生は短くて苦しいからこそセクシーであれ」です
──なるほど。では、A-Linさんのアーティストとしてのモットーを聞かせてください。
私のモットーは「人生は短くて苦しいからこそセクシーであれ」です。ちょっと不思議かもしれませんが(笑)。
──それはなぜですか?(笑)
説明しますね。このセクシーはいわゆる性的な意味ではないんです。人生において、仕事でもプライベートでも、何かに真剣に向き合って自信を持ってやるという行動はセクシーだし、魅惑的だと思うんです。今回「TFT」に出てパフォーマンスできたことも、私からするとセクシーなことだと思うんです。意味的には、ちゃんと感謝と尊敬を持ってひとつひとつのことを成し遂げたい、そうした毎日を過ごしたいって気持ちですね。もちろん完璧にできないこともいっぱいあるんですけど、完璧じゃないものですら完璧なんじゃないかなと思うんですよ。
──哲学的な発想ですが、未完なものだからこその輝きがあるということですね。
ハイ。セクシーという言葉も事柄も、受け取り方は人それぞれ違うと思うんです。例えば、私はサックスの音もギターの音もセクシーだと思うんです。必ずしも視覚的なことばかりじゃなく、聴覚的なものもセクシーだし魅惑的だなと思いますね。すごく多面的な意味で、人生短いし苦しいですけど必ずセクシーでなければならないと思ってます。
──つまりA-Linさんは、自分の思う魅惑的な概念を歌に乗せて届けて聴く人の心を豊かにしたいということですか?
まさにそうです。それこそが私の思うセクシーです(笑)。
──なるほど。あと、A-Linさんは日本のカルチャーで好きなものはありますか。
私のおばあちゃんは日本語を話せるので、子どもの頃に演歌や童謡を教えてもらっていたんです。“ももたろうさん”とか歌ったり、演歌の(こぶしを効かせて)“ハ〜〜〜〜〜”って歌い方はかなり上手にできるようになりました。それはおばあちゃんのおかげです。最近の日本の音楽もよく聴きます。私は米津玄師さんが大好きで、彼の才能に魅了されますね。楽曲のすごさ、楽器の演奏、ステージのパフォーマンスなどに圧倒されます。
──「TFT」で、この人すごいなと思った人はいますか。
女王蜂のアヴちゃんが「メフィスト」を歌っているのを見たんですが、とても衝撃を受けました。歌詞はあまりわからなかったですが、パフォーマンスに圧倒されたんです。オーラを纏ったような歌声で、ほんとにすごいと思いました。きっと「TFT」に向けての万全の準備で挑まれたんだろうなと思いましたし、私も同じようにがんばらなきゃと思いました。
■私のネイティブの言語、アミ語を自分の得意としてるバラードとラブソングに取り入れたい
──そうだったんですね。では、A-Linさんはこれからどんな音楽活動をしていきたいですか。
私は、台湾の先住民のアミ族なんですが、アミ族の文化をもっと自分の音楽に取り組みたいと思っているんです。アミ語を自分の得意としてるバラードとラブソングに取り入れたいんです。私自身、文化をすごく大切にしているんです。アミ族の文字はもうほとんど失われているんですが、まだ音楽と言葉は私たちの世代にも伝わっているので、いつかアミ族の文化を取り入れた私なりの音楽を作りたいと思っています。
──ルーツとアイデンティティーを反映した作品を作りたいと。では最後に、TFTを見てくれるみなさんにメッセージをいただけますか。
今回の「TFT」のパフォーマンスを通して、A-Linの音楽、そして私自身も知ってもらいたいです。私は音楽を通して、インターナショナル的な交流もしていきたいと思ってます。「TFT」をきっかけに、A-Linを好きになってもらえたらうれしいです。
INTERVIEW & TEXT BY 土屋恵介
ライブ写真提供:Sony Music Taiwan
プロフィール
A-Lin
アーリン/中華圏の人気女性シンガー。2005年デビュー以来、「生まれながらの歌姫」「ドラマ主題歌の女王」と称され、圧倒的な歌唱力と3オクターブに及ぶ広い音域で知られている。中華圏のレコ大である「金曲獎」(Golden Melody Award)に7回ノミネートされ、2023年度に「最佳華語女歌手獎」(中国語部門最優秀女性歌手賞)を受賞。台湾大手DSPのKKBOXが毎年選出するKKBOXアワードの年間トップ10アーティストに7回ランクイン。ディズニー映画『モアナと伝説の海』のテーマ曲「How Far I‘ll Go」(どこまでも)の中国語バージョン歌唱を担当。Ricky Martin、Lang Langなどの国際的なスターとのコラボも。ヒット曲「有一種悲傷」(A Kind of Sorrow)(映画『比悲傷更悲傷的故事』(More Than Blue)主題歌)、中華圏のアカデミー賞である「金馬獎」(Golden Horse Film Festival and Awards)の最優秀オリジナル映画音楽賞にノミネート。台湾Spotifyで再生回数1億回突破、2019年最も再生された楽曲。中華圏、シンガポール、マレーシアの20個以上の音楽チャートで1位を獲得した。
A-Lin OFFICIAL SITE
https://alin920.com/
A-Lin YouTube Channel
https://www.youtube.com/channel/UCURRzgKx4DkVozbOjFflMpg