中華圏で絶大な人気を誇るアーティスト、ジョリン・ツァイが『THE FIRST TAKE』に出演した。1999年にデビューして以来、感情の伝わるボーカルと、しなやかさと切れのよさを併せ持つダンスで、トップスターとして君臨し続ける彼女。2014年には安室奈美恵とのコラボ曲「I’m Not Yours(feat. Namie Amuro)」を発表し、最近ではR3HAB、スティーヴ・アオキとのコラボを行うなど、常に新しい挑戦をし続けてきた。インタビューでは、彼女の音楽に向き合う姿勢や、『THE FIRST TAKE』での感想を語ってくれた。
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■デビューしたての頃は、受験生のような気持ちで毎回のステージに挑んでました(笑)
──ジョリンさんの音楽的なルーツやこれまでのキャリアをお聞きしたいんですが、小さい頃はどんな音楽に影響を受けたんですか。
私は小さい頃から音楽を聴くのが好きで、その頃はカセットテープやラジオでよく聴いてました。当時は洋楽が流行っていたんですよ。ホイットニー・ヒューストンさんが好きで、よく真似して歌って録音したりってことをしてました。その後、歌のコンテストに参加したことがきっかけで歌手としてデビューしたんです。
──もともと歌やダンスは習ったりしていたんですか。
小さい頃はそういうレッスンは特に受けてなかったんです。歌を本格的に勉強したのは、デビューしてからです。オペラの歌い方を学んだり、レッスンを受けたり、いろいろ学んでいきました。
──ジョリンさんは1999年にデビューされましたが、当時を振り返るとどんな思いがありますか。
デビューしたての頃は、不安と緊張が入り混じってましたね。まだパフォーマンスすることやアーティストというものがわかってない時期だったので、“失敗したらどうしよう”“歌詞を間違えたらどうしよう”って心配ばかりで、受験生のような気持ちで毎回のステージに挑んでました(笑)。
──明確にアーティストとしての自信や意識が高くなったのはいつ頃ですか。
デビューしてから最初の10年は、いろんな音楽のジャンルや楽曲のスタイルに挑戦したいという気持ちで活動していたんです。毎回チャレンジしている感覚があったので、不安も大きかったんです。そのあとの10年は、自分に適したスタイルがわかってきたので、自信を持って自分に似合うものをさらに追求していこうって気持ちで活動できています。そうは言っても、いまだにステージに立つ不安感はあるんですよ。でも、そうした不確定な要素があることでいい緊張感が生まれますし、それが自分のレベルアップに繋がるなと思ってます。
──なるほど。デビュー後から人気のあったジョリンさんですが、2003年3月のアルバム『看我72変(Magic)』以降はミリオンヒットを連発していますね。それは、どのような変化があったんですか。
『看我72変(Magic)』というアルバムは人気の高い作品なんですが、私としてはなぜそんなにも多くの方に愛されたのかその理由がわからなくて、今でも考えることがあるんです。そうしたなかで思ったのは、私は2001年〜2002年にあまり歌手活動をしていなくて、2003年の『看我72変(Magic)』が新しいスタートという形だったんです。私も制作に全力で挑みましたし、この作品からMVでダンスをメインに見せていくようになったんです。それまでアルバムのリード曲はバラードもありましたが、その作品以降はほぼダンスチューンがメインになっていきました。私もそれからいろいろなダンスジャンルをより勉強して真剣に向き合うようになっていったんです。そうした変化が、多くのみなさんに受け入れてもらえたのかなと思っています。
■異なったスタイルをどう解釈して自分の色にして見せられるかを大事にする
──では、ジョリンさんの歌とダンスのモットーを聞かせてください。
私がいちばん大事にしてるのは、自分がパフォーマンスする楽曲をどれだけ気に入ってるかということです。表現するうえで、まずそれは絶対だと思うんです。あと、いろんなジャンルに挑戦していくなかで、異なったスタイルをどう解釈して自分の色にして見せられるかを大事にしてます。それとダンスナンバーでは、必ず歌とダンスの練習を同時にやるというこだわりもあります。
──ステージに立ってるときに、観客のみなさんに対してどんな思いでパフォーマンスしてますか。
ステージ上では、お客さんとのケミストリーが大事だなと思っています。自分のパフォーマンスでお客さんが「もっと欲しい!」と熱望するようなリアクションがあると、その勢いで自分のパフォーマンスがさらに熱気を帯びるという相乗効果を感じるときがよくあります。あと私は、自分がいいと思うパフォーマンスをしてもお客さんが乗ってくれないようだったら、客観的にジャッジしてダメだなと思ってしまうんですよ。だったら違うアプローチでいこうとか、わりとインタラクティブに考えるタイプです。それと最近は、特にバラードのときは落ち着いて歌うことができるので、会場全体を自分でコントロールしたいと思ってます。そうやってお客さんと向き合って、いろんな気持ちでパフォーマンスしています。
──お客さんとのコミュニケーションでライブが作られていると。では、ジョリンさんの長いキャリアの中で、自分にとってターニングポイントだったという出来事を聞かせてください。
明確的にいつかははっきり覚えてないんですが、自分も音楽制作に関わるようになったときだと思います。今はアルバムのコンセプトやライブの制作にも関わっているんですが、昔は違ったんです。自分で制作に関わるようになってから、もっとこういう作品にしたい、自分の言葉で伝えたいと思うようになりました。少しですが、自分で作詞や作曲にもチャレンジしています。それによって、自分の音楽に対する考え方や姿勢も変わりました。
──あと、ジョリンさんは中華圏だけでなく海外でも活動を行っていますね。
ハイ。やはり海外での活動は、国内とは違う刺激を受けますね。心地いい居場所から外に出ていろんな刺激を受けるのは、いい経験だなと思います。海外は、私のことがあまり知られていない環境だと思っているので、自分の全力を尽くす心意気でパフォーマンスしています。海外の活動で言えば、DJ/プロデューサーとのコラボや安室奈美恵さんとのコラボもすごく刺激的でした。
──安室奈美恵さんとは、2014年の「I’m Not Yours(feat. Namie Amuro)」のコラボやライブ共演もされていますが、安室さんとのエピソードを聞かせてもらえますか。
安室さんは、最初にお会いしたときから一緒にご飯を食べたり仲良くさせてもらったんです。「I’m Not Yours(feat. Namie Amuro)」のMVも一緒に撮りましたし、私のライブを観に来てくださったり、安室さんの沖縄でのラストライブに私がゲスト出演させていただいたりと、たくさんの時間をご一緒させてもらいました。一連のお付き合いから、安室さんは素晴らしい人柄だなというのをすごく感じましたね。ステージを観て、安室さんのパフォーマンスの魅力、ファンとの絆を強く感じました。ほんとに安室さんは礼儀正しい方なんですよ。何度かジョークを言って安室さんを笑わせたいと思ったんですが、言葉が上手く伝えられなかったんです。というのも、安室さんの笑顔がとても素敵なのでもっと見たかったんです。なので、ジョークを言って笑わせたいという気持ちは今もありますね(笑)。
──あとジョリンさんは、アレッソ、ハードウェル、R3HAB、スティーヴ・アオキといったEDM系のDJ/アーティストとのコラボも多くやられてますね。
ハイ。彼らとのコラボは今までと違った体験でした。いちばん違ったのはリモートで作業することかもしれませんね。楽曲が届く前にほとんど相手に会ったことのない状態です。しかも、R3HABさん、スティーヴ・アオキさんとのコラボはコロナ禍だったので、MVの撮影もリモートでした。DJさんたちもそれぞれ異なるスタイルを持ってますので、私としては、自分に合うのかチャレンジしたかったし、コラボしてみて楽しかったです。私もダンスパフォーマンスに合う楽曲が好きで、きっと自分にも合うだろうなという確信を持ってのトライでした。
■変わらずにある、ダンスナンバーに対するこだわり
──お話を聞いていると、ジョリンさんは常に新しい挑戦をし続けてる方だというのが伝わってきます。そうしたなかで、デビューしてからご自身の中で変わったところ、逆に変わってない部分を聞かせてください。
変わらないことは、学ぶという姿勢とチャレンジ精神はずっと持っていますね。あと、ダンスナンバーに対するこだわりも変わらずにあります。歌とダンスというのは、年齢を重ねるごとに気恥ずかしさが出てくるかもしれないと思うんです。歌声がデカすぎて迷惑になるとか。ただ、大きい声で歌うことも、ぎこちなく踊ることも、どちらも大好きなんです。TikTokなどを見るとみんながとにかく踊って歌うのを楽しんでいるんじゃないですか。私もこうして初心を忘れずに、リラックスして自分の思うように踊って、自分の思うように歌うことを大事にしたいと思ってます。
──なるほど。では『THE FIRST TAKE』の話題に触れていきましょう。今回『THE FIRST TAKE』で、「玫瑰少年(Womxnly)」と「親愛的對象(Untitled)」を歌唱されましたが、選曲の理由を聞かせてください。
『THE FIRST TAKE』は、比較的シンプルなサウンドが合うなと感じたので叙情的な曲を選んだんです。「玫瑰少年(Womxnly)」は叙情的でありならがリズム感がある曲です。この曲は、他人に理解されない環境や社会の中で、いかに自分の人生を開花させるかについてを歌った曲です。「親愛的對象(Untitled)」は映画の主題歌として作られた、深い愛情を歌う温かいメロディの楽曲なので、「玫瑰少年(Womxnly)」とはまた違うカラーをお見せできるかなと思いました。
──実際に収録で歌われてどんな感想がありましたか。一発録りのリアルな緊張感などを聞かせてください。
リハーサルのときはあまり緊張しなかったんですが、スタッフさんが徐々にスタジオを出ていくと、急に自分と呼吸音だけが残されるような感覚になったんです。マイクの感度が非常によくて、呼吸すら間違えちゃいけないみたいな緊張感が出てきて、思った以上にドキドキしてしまいました。レコーディングスタジオではよく仕事をしますが、ワンテイクしかできない状況は初めてでした。「親愛的對象(Untitled)」は穏やかに気持ちを込めて歌う曲なのでとにかく緊張しましたね。「玫瑰少年(Womxnly)」はリズムがある楽曲なので、音楽に合わせて緊張を和らげることができて少しリラックスして歌うことができました。
──『THE FIRST TAKE』でパフォーマンスするにあたってこだわったことは?
編曲にはこだわりました。あとはマイクも研究しました。収録で使うマイクで歌うときに、どういう歌う方がいちばん心地よく感じられるか、リスナーさんが明確に言葉を聴き取れるか、自分の声の表現を工夫したんです。今回の準備期間で、新しいレコーディング技術を学ぶこともできました。
──普段のレコーディングやライブとは、また違う感覚がありましたか?
感覚はまったく違いました。普段のレコーディングはラフな格好で行いますし、音を間違えたり少しミスすることもありますがやり直せるじゃないですか。今回は番組なので、できるだけ荒くならないパフォーマンスを心掛けなきゃと思いました。
──では、『THE FIRST TAKE』でのパフォーマンスを通じて、ご自身での評価を聞かせてください。
私は、普段のライブでも自分への励ましの意味も込めて、そのときのパフォーマンスを肯定したいと思っているんです。映像に映っているのは、その時点の私の姿で永遠の自分ではないんです。その瞬間を捉えたものなので、どう見られるかは何も気にせずパフォーマンスしたんです。すべての人たちに満足していただけるかはわからないですが、私としては緊張はありましたけど、すごくナチュラルに自分の歌を伝えることができたかなと思っています。
──なるほど。少し日本にまつわる話題を聞かせてください。日本のカルチャーで好きなものはありますか?
日本の食べ物が好きで、特におせんべいが好きです(笑)。あと、日本は観光するときにすごく快適でそういうところも好きですね。それと日本のアニメもとても好きです。
■アニメーターやクラシック音楽家との共同制作など、さらなる可能性を探して
──日本の好きなアーティストはいますか。
私は、宮崎駿さんと坂本龍一さんが好きです。宮崎駿作品の音楽を手がける久石譲も好きですね。安室奈美恵さんは、これまでコラボをしてきた人の中でもとても好きなポップシンガーです。
──では、ジョリンさんはこれからどんなアーティスト活動をしていきたいですか。
新しい曲を作って世界のいろんな都市でツアーをやるというのはこれからも頑張っていきたいですね。普段の自分は、ただ何気なく文章を書いてみたり、自分はどんな経験を積むことができるのかな?とかリラックスして物事を考えていたりします。実際にやってみたいことは、これまでとは違う場所や業界とのコラボレーションです。例えば、アニメーターやクラシック音楽家との共同制作など、さらなる可能性を探しています。
──最後に、日本のファンへのメッセージをお願いします。
私のダンスミュージックを日本のみなさんにも楽しんでいただける機会があればいいなと思っています。日本の音楽フェスに出たりできたら面白いんじゃないかなって思ったりもしますね。そして、『THE FIRST TAKE』を通じて日本で新しいファンの方たちと出会えることを楽しみにしています。
INTERVIEW & TEXT BY 土屋恵介
PHOTO BY 増田慶
楽曲リンク
リリース情報
2022.12.09 ON SALE
DIGITAL 「親愛的對象 Untitled」
2018.12.26 ON SALE
ALBUM 『Ugly Beauty』
プロフィール
ジョリン・ツァイ
蔡依林(ジョリン・ツァイ)は、常に進化し続ける音楽性とビジュアル・スタイルで人気を博し、メディアに「C-POPの女王」と呼ばれている。これまでアジアでのアルバム総売上枚数が2500万枚を超え、2003年から現在まで発売されたスタジオアルバムが10作連続で台湾の女性ミュージシャンとして年間売上1位を獲得し、21世紀に最も売れたアジアの女性アーティストの一人。中華圏に多大な影響をもたらす音楽賞「金曲獎」を6度受賞したほか、MTV Asia Awards1度とMTV Video Music Awards1度の受賞歴を持つ。
ジョリン・ツァイ OFFICIAL SITE
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