メジャーデビュー10周年を迎えたKANA-BOONから新曲「ぐらでーしょん feat. 北澤ゆうほ」が届けられた。
TVアニメ「山田くんとLv999の恋をする」OPテーマとして制作されたこの曲は、the peggiesの北澤ゆうほを迎えた男女ツインボーカル曲。“ふたり”の距離が少しずつ近づく様子を、華やかさと切なさを共存させたサウンドとともに表現している。
『THE FIRST TIMES』ではKANA-BOONの谷口鮪、北澤の対談をセッティング。「ぐらでーしょん feat. 北澤ゆうほ」を軸に、アニメーションと音楽の関係性、さらに谷口、北澤が楽曲提供したTVアニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』についても語ってもらった。
■ひとりの人間として背負ってる、戦ってるなということも感じはじめて、ミュージシャンとして親近感を覚えて
──谷口さん、北澤さんはこれまでにも交流があったんですか?
北澤ゆうほ(以下、北澤):親友ですね(笑)。
谷口鮪(以下、谷口):ハハハ(笑)。
北澤:もともとの交流はなかったんですよ、実は。ただ、いろいろ接点はあって。the peggiesのメジャーデビューシングル(「ドリーミージャーニー」)はアニメ(『BORUTO-ボルト – NARUTO NEXT GENERATIONS』)のエンディングテーマだったんですけど、そのときのオープニングテーマがKANA-BOONの曲(「バトンロード」)だったり。
──アニメ『さらざんまい』も、OP曲がKANA-BOON(「まっさら」)で、ED曲がthe peggies(「スタンドバイミー」)でした。
北澤:そうなんです。なのでKANA-BOONとthe peggiesの名前が並ぶことはあったんですけど、直接のやり取りはなくて。最初の接点は、私たちの活動休止前の最後のライブを鮪さんが配信で見てくれたことですね。「とてもよかったです」って言ってくれて、「うれしいです。ありがとうございます」という会話があった数週間後に、「曲に参加しませんか」とお話をいただいて。
谷口:うん。
──鮪さんはthe peggiesに対してどんな印象を持ってたんですか?
谷口:ゆうほちゃんの作る曲がすごく好きで。「グライダー」で知って、ずっと聴いてたんですけど、こんなにいいメロディを作れる人はなかなかいないなと思ってて。活動を重ねるなかで、自立性というか、ひとりの人間として背負ってる、戦ってるなということも感じはじめて、ミュージシャンとして親近感を覚えていたんですよね。『山田くんとLv999の恋をする』のOPテーマを担当することになって、「ツインボーカルでいこう」という話になったときに、すぐに「じゃあ、ゆうほちゃんにお願いしよう」と思いました。
北澤:うれしいです。
谷口:せっかく一緒にやるんだったら、自分たちが興味を持っている人がいいと思ったし、楽しくやれる人がいいなと。the peggiesは活動休止中だし、「どうなんだろう?」と思ったんだけど、オファーしたらすぐにOKをくれたんですよ。最初はリモートの打ち合わせで、「どうも」みたいな感じで(笑)。
北澤:固かったですね(笑)。
谷口:画面上にスタッフさんもいたからね。楽しいアニメ作品に向けて曲を作るわけだし、ビジネスライクなのもイヤというか、自然な感じでやりたかったんですよ。なので制作に入る前に何回かおしゃべりして。
北澤:ごはんとかも行ったんですよ。KANA-BOONは高校生の頃からみんな聴いてたし、私も好きな曲がいっぱいあって。完全に先輩だし、すごい人だと思ってたんですけど、一緒に話をしてると“ヘンな人かも”って(笑)。
谷口:失礼だな(笑)。
北澤:(笑)気を遣ってくれたんだと思うんですけど、だんだん緊張がとけてきて、本当に友達みたいな感じになって。“自然体で楽曲に参加していいんだな”って思えたのはすごくよかったです。
谷口:緊張してる状態でレコーディングしても、本来のパフォーマンスはなかなか出しづらいですからね。そうじゃなくて、友達みたいな感じでやれたらなって。
──「ぐらでーしょんfeat. 北澤ゆうほ」はポップな明るさを押し出した楽曲。制作にあたって、鮪さんはどんなイメージを持っていたんですか?
谷口:まず原作を読んで、空気感や雰囲気をつかむところからですね。めちゃくちゃキュンキュンしたし(笑)、これは男女問わずに楽しめる作品やなって。楽曲に関しては…ロックな曲はもちろんですけど、ポップス寄りの曲を作るのもすごく興味があって。そっちにエネルギーを注げるチャンスだと思いましたね。
北澤:今の話、すごく共感しました。私もロックが好きでバンドをはじめたんですけど、ポップな曲を作るのもすごく楽しいし、自分に向いていると思っていて。「ぐらでーしょん」のデモを聴かせてもらったときも、the peggiesの活動で培ってきたものを活かせる曲だなと思ったし、私が表現したいものがギュッと詰まってるなって。
谷口:うん。
北澤:これはKANA-BOONの曲ぜんぶに言えることだと思うんですけど、爽やかで明るい曲でも、フタを開けてみると、いろんな傷だったり、“それを乗り越えてきた”ということもちゃんと入ってるんですよ。そのうえでポップに表現しているのもすごいし、「これは絶対いい曲になる!」って思いました。
■どちらか一人ではなくて、両方の目線を入れたくて。そのうえでふたりの恋愛を見守るような歌詞に
──“ふたり”がすれ違いながらも、少しずつ近づいていく様子を描いた歌詞も素晴らしいですね。
谷口:アニメの主人公は“茜”と“山田くん”なんですけど、どちらか一人ではなくて、両方の目線を入れたくて。そのうえでふたりの恋愛を見守るような歌詞にしたかったんですよね。
北澤:俯瞰してるってことですよね?そういう歌詞の書き方はしたことがないので、「そういうやり方もあるんだ」って。私も今度やってみます。
──鮪さんが書いた曲を実際に歌ったときの感覚はどうでした?
北澤:まず、キーを合わせるのが大変だったんですよ。当たり前ですけど、私と鮪さんは普段のキーがぜんぜん違うので。
谷口:うん(笑)。実際の作業はベースのマーシー(遠藤昌巳)にお願いしたところが多いんですけどね。彼は音楽理論やコードのこともよくわかってるので。
北澤:あと、最初のデモは歌詞が仮だったんですよ。ボーカルのレコーディングの数日前に「歌詞が完成したから、もう1回歌ってみて」って連絡がきて。私はずっと自分で作って自分で歌ってきたから、そういうやりとりをするのも初めてで。(the peggiesの)「メンバーはこんな気持ちだったのかな」って思ったし、ワクワクしました。
谷口:「メロディ、こう行くんだ?」とか思うよね。
北澤:そうですね。Dメロの一気に浮遊する感じも自分ではやったことがなかったですが、すごく好きで。私、コーラスにも口を出させてもらったんですよ。“スクロールしてる”のところで追っかけのコーラスを入れたらどうですか?って。採用されてうれしかったです。
谷口:そうやって言ってくれるのはすごくありがたくて。一緒に作ってる感じがあると、曲に対する気持ちも違ってくると思うんですよね。
■自分たち以外のレコーディング現場を見させてもらうのも初めてで。やり方や手順がぜんぜん違っていたし、勉強になりました
──Twitterにも書かれてましたけど、レコーディングはかなり楽しかったみたいですね。
谷口:めっちゃ楽しかったです(笑)。
北澤:まずオケ録りを見させてもらったんですけど、あんなにずっと笑ってたことなんて、ここ最近なかったです(笑)。KANA-BOONの皆さんはすごく仲良しで、全員面白くて。
谷口:俺以外はみんな変人やから(笑)。
北澤:(笑)自分たち以外のレコーディング現場を見させてもらうのも初めてで。やり方や手順がぜんぜん違っていたし、勉強になりました。the peggiesはスタッフの方を含めて、みんなで意見を出し合ってたんですよ。KANA-BOONはバンド主体で事を進めていて。次にレコーディングするときは、これくらい強い気持ちで、主体性を持って臨もうと思いました。
──歌のレコーディングはどうでした?
北澤:ビックリするくらい早く終わりました(笑)。
谷口:完全に仕上げてきてたんですよ、ゆうほちゃん。気になることは何ひとつなく、「最高!」って。
北澤:ちゃんと練習したんですよ(笑)。上手く歌えないと失礼だなと思ったし、苦手なところも自分なりに把握したうえでレコーディングに臨んで。すぐにOKが出たから、逆に“ほんとに大丈夫かな”って思いましたけど。
谷口:ほんとに大丈夫でした(笑)。それまではくだらない話ばっかりしてたし、ミュージシャンの顔をお互いに見てなかったんですよ。ボーカル録りのときは“プロだな”と思ったし、自分もちゃんと練習しないとなって思い直しましたね。
北澤:いえいえ。あと、ミックス作業も刺激的で。
──ミックスにも立ち会ってたんですか?
北澤:はい。オケ録りもそうなんですけど、「私も行っていいですか?」ってことごとく登場させてもらって(笑)。ふたりのボーカルのパンの振り方とかも、すごくこだわっていて。自分では絶対に思いつかないやり方だったので、「すごい」と思いながら見て。
谷口:“ふたり だんだん近づくたびに”という歌詞もあるので、ふたりの声が曲の中で近づく感じにしたくて。ミックスのときはいつもいろんなアイデアがあって、めっちゃ細かくこだわってるんですよ。想像していた通りの形になるのがすごくうれしくて、夢中になっちゃうんですよね。
──完成した曲を聴いたときはどう思いました?
北澤:自分で言うのはヘンかもしれないけど、こんなに早く自分の歌声を聴けると思ってなくて。この曲に参加させてもらって、しっかりレコーディングして、自分が歌っているという事実がすごくうれしかったです。
谷口:ゆうほちゃんは歌ってるべきだと思うんですよね。「絶対にミュージシャンとしての活動を止めてはいけない」というとプレッシャーになるかもしれないけど、音楽を辞めてはいけない人って絶対にいるので。今回は僕らのフィールドでしたけど、こういう風にゆうほちゃんの歌声を届けられるのは僕個人としてもうれしいです。本当に大事な声なので。
北澤:ありがとうございます。
■ガチガチになってたら、ゆうほちゃんに「恥ずかしがらないで、ちゃんとやりましょう!」って言われました(笑)
──ミュージックビデオからも、KANA-BOONのメンバー、北澤さんの楽しそうな雰囲気が伝わってきました。
北澤:ショッピングモールで撮影したんですけど、普通にお客さんもいて(笑)。
谷口:朝早く始めたんですけど、途中からお店が開き始めたんですよ(笑)。観覧車とかもあって、楽しいシチュエーションでした。
北澤:ずっとワイワイしてましたね。MV自体が久しぶりだったので、撮影の1週間くらい前からソワソワしちゃって。カメラに向かって歌ったり、“ニコッ”とかできるかな?って緊張してました。
谷口:当日は僕のほうが緊張してましたけどね。ふたりで歌ってるシーンから撮り始めたんですけど、ギターもマイクも持ってなくて、体と顔だけで表現しなくちゃいけない状態だったので。ガチガチになってたら、ゆうほちゃんに「恥ずかしがらないで、ちゃんとやりましょう!」って言われました(笑)。
──(笑)すごく有意義なコラボレーションになりましたね。
谷口:そうですね。経験値を得られたのもそうですけど、とにかく“山田くん”のファンの方が喜んでくれているのがうれしくて。
北澤:それぞれの道が進んできて、それが交差した感じがあって。お互いがやってきたこともちゃんと込められているのもいいなって思いますね。
──一緒に楽曲を作り上げたことで、お互いの印象も変化したのでは?
北澤:さっきも言いましたけど、鮪さんは人の緊張をほぐすのがすごく上手なんですよね。こっちが固まってしまわないように、いろいろ話しかけてくれて。“仲良しの友達になれてうれしい”というのと同時に、先輩として尊敬できる部分もたくさん見させていただいて。自分より遥かに経験が豊富だし、持っているスキルもすごいんですよ。でも、現場を離れて普通に話していると、やっぱり面白くて(笑)。おしゃべりの返しも面白いし、ラジオみたいにずっと聴いてたいです。
谷口:(笑)ゆうほちゃんは、歌がいいのはもちろんですけど、“こういう人なんだな”とわかったのがよかったですね。すごく人間らしいというか、すべてにおいて強いわけでもないし、ずっと弱いわけでもなくて。そこをちゃんと行き来しながら曲を作って、歌ってるんだなと。ゆうほちゃんの音楽がもっと好きになったし、これからも聴きたいと思ってます。
──ちなみにお二人は、アニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』にも楽曲を提供していて。鮪さんは「Distortion!!」、北澤さんは「なにが悪い」を書き下ろしていますが、それぞれどんなテーマで書かれた曲なんですか?
谷口:やっぱりこれも原作を読んでから作ったんですけど、テーマは孤独ですね。孤独だった主人公(後藤ひとり)がバンドを組んで、“孤独じゃないかも”と実感して。そこから変わっていく姿を描けたらな、と。1話から3話までのエンディング曲だったので、幕開けに合う楽しい曲にしたいというのもありました。
北澤:私は「ぼっち・ざ・ろっく!」と重なるところがすごく多くて。女子高で同級生たちとバンドを組んだのもそうだし、文化祭でヒーローになる夢を描いたり、下北沢のライブハウスに出るのもそうだし。ぼっちちゃん(後藤ひとり)が言うことも、当時、自分が考えていたことすぎて。これまでに何度もアニメの曲を担当させてもらってますけど、こんなに作品と自分が近いのは初めてだったし、経験ベースで書くことができました。
──最後に、今後の活動について聞かせてください。KANA-BOONはメジャーデビュー10周年イヤーを迎えて、精力的な活動が続いています。
谷口:10周年なので、めでたければめでたいほどいいかなって(笑)。アルバムリリースも発表したし、ライブもたくさんやりたいですね。そろそろスケジュールが固まりつつあって、いろんな形のライブがあるんですけど、みなさんにお会いする口実になるなって思ってます。
■KANA-BOONにも新鮮な風が吹いたし、俺たちもこの経験を次につなげたい
──北澤さんはthe peggiesの活動休止から半年が経ちました。
北澤:はい。すごくいろんなことを考えてましたね、この半年。中学生のときにバンドをはじめて、それ以外のことはほとんどやってなかったんですよ。それが途切れてしまって、人生レベルで「これからどうする?」って考えたり、自分と音楽の関係性をについて見つめ直したり。結果としては“私は音楽を辞めたくない”という結論に行き着いたんですけど、そのタイミングで「ぐらでーしょん」に参加できたことはすごく意味があると思っていて。外からも“ゆうほちゃん、続けるんだな”って思ってもらえるだろうし、制作やレコーディングをいろいろ見させてもらって、“音楽の現場は、私の人生にとっていちばん楽しい場所だ”と改めて感じることができたんです。そのおかげで音楽に対するワクワクを消さないでいられたし、次につなげていきたいなと思ってます。KANA-BOONは10周年ですけど、私は0年目のつもりで頑張ります。
谷口:そう言ってもらえるとこっちもうれしいです。KANA-BOONにも新鮮な風が吹いたし、俺たちもこの経験を次につなげたいですね。
──KANA-BOONが良い状況だからこそ成立した楽曲かもしれないですね。
谷口:そうですね。今は本当にバンドが楽しくて。楽しくないことはやるべきじゃないと思っているし、すごくいいマインドでやれてると思います。
INTERVIEW & TEXT BY 森朋之
PHOTO BY 大橋祐希
楽曲リンク
リリース情報
2023.4.2 ON SALE
DIGITAL「ぐらでーしょん feat. 北澤ゆうほ」
ライブ情報
KANA-BOON 10th Anniversary KICK OFF LIVE「Sunny side up – Moon side up」
4/30 大阪 大阪城音楽堂
5/14 東京 日比谷野外音楽堂
KANA-BOON Jack in tour 2023
https://sp.kanaboon.jp/feature/Jit2023
プロフィール
KANA-BOON
カナブーン/谷口鮪(Vo / Gu)、古賀隼斗(Gu)、遠藤昌巳(Ba)、小泉貴裕(Dr)からなる大阪・堺出身のロックバンド。2013年のメジャーデビューから全国各地のフェスへ出演し、破竹の勢いで邦ロックシーンを席巻。また、数々のヒットアニメの主題歌を担当し、国内だけでなく海外にも届くグローバルヒットを出しながら最前線で活躍を重ねている。今年、メジャーデビュー10周年を迎え、既に「フカ」「サクラノウタ」「ぐらでーしょん feat. 北澤ゆうほ」と3曲を配信リリース。春には10周年のキックオフLIVEイベントとして、大阪と東京にて初の野音ワンマン公演の開催を控え、6月14日にはコンセプトアルバム『恋愛至上主義』をリリースする。
KANA-BOON OFFICIAL SITE
https://www.kanaboon.jp
プロフィール
北澤ゆうほ
キタザワユウホ/活動休止中の3人組ロックバンドthe peggiesのVo & Guと共に全作詞作曲を担当。北澤が紡ぎ出す楽曲は飾らないながらも心に鋭く突き刺さる歌詞や自由なメロディラインが特徴。これまでに映画・TV-CM・アニメ・番組挿入歌等数々の楽曲を担当している。2022年にはthe peggies誕生10周年、メジャーデビュー5周年を迎え日比谷野外大音楽堂でのワンマン公演を成功させた。
北澤ゆうほ OFFICIAL SITE
https://www.kitazawayuho.jp