コンスタントに楽曲リリース、ライブを重ね、キャリアを充実させているiri(イリ)が、最新アルバム『PRIVATE』を5月10日にリリースする。
4月19日に先行配信される「Season」では「自分からこんなポジティブなワードが出てきて、うれしかったです」と語るほど、肩の力を抜いて今のiriを表現できたという本作。彼女の今に迫る。
■“しがらみ”はなくなった
──前作『neon』では、「今の自分はいろんなことを経験し、吸収して。言わば、蝶になって羽ばたく前のサナギの状態」ということをおっしゃっていましたが…それから一年経ってみてどうですか?
iri:本当に恥ずかしい。まあ、その時はそう思っていたんでしょうね(笑)。
──ということは、今回の6thアルバム『PRIVATE』は『neon』のモードとは違うと?
iri:違いますね。『neon』を制作していた頃は、すごいストイックだったというか。ベストアルバム後初のオリジナル作品で、自分のなかにあるものをもっとちゃんと出したいという感覚があって…インタビューでも謎に尖っていた気がします(笑)。今は肩の力がすとんと抜けたというか、『PRIVATE』はナチュラルに、日常に溶け込むような曲たちが作れました。神経質になりすぎず、これまでやってきた弾き語りで作る楽曲制作のスタイルとか、自分が思う自分の魅力をしっかりと出せたと思います。
──iriさんは作品ごとに変化が如実に表れていますよね。
iri:そうですね。それこそ初期の頃に作った『Juice』は、ローファイではないけど、サウンドも音数もかなりシンプル。だからこそ「これじゃあ足りない」と思って、どんどんいろんな要素を足して派手にしていったんですけど、今度はそれを削ぎ落とす勇気がもてなくて。勇気を振り絞ってトライしたのが『neon』でした。そうやって自分のありのままを出したけど、でも実際はどうだったのかなって。ちょっと自信がなかったんです。ただ、今回の『PRIVATE』は派手にしなきゃとか、これを出したらどう思われるかな? という変なプレッシャーを感じずに、自分が表現したいように、自分が言いたいようにストレスなく作りました。もちろん、曲作りや制作は大変でしたけど、そういった今まで自分が勝手に抱えてしまっていた“しがらみ”はなくなって。歌詞においても、それが出せています。
■“悪くないこの世界は”って素直に思ったこと
──たしかに「Season」の“どうやらそれほど/悪くないこの世界は”というフレーズをiriさんが歌うことに驚きました。初期の頃だったら歌わなかった歌詞なんじゃないかなと。
iri:そうなんですよね。そこが自分でもいちばんびっくりしてることかもしれない。無理に言ったことじゃなくて、“悪くないこの世界は”って素直に思ったことなんですよ。自分からこんなポジティブなワードが出てきて、うれしかったです。
──人生観が変わったり?
iri:んー、いろんなことが吹っ切れて「悪いことだって、それはそれで今後のスパイスになっていくよね」という考えに至ったんですよね。誰だって経験することがあると思うんすけど、音楽を一緒に作っていく仲間、周りの友達、関係者の方々…深く付き合っていくうちに「あれ? 意外と考え方が合わないのね」と感じたり、長く一緒にいても意外と知らないことがあったり。そういう些細なすれ違いが最近は多くて、結構なショックを受けたんですよ。で、それをポジティブに捉えたのが「Season」。その人と考え方や価値観が合わなかったから、「はい、さよなら!」と怒りに変えるんじゃなくて、今は合わないかもしれないけど、この先でまた合っていく可能性はある。その時により良い関係になるためのスパイスが今なのかも、という思考になりました。
■吐き出すってなるとリアル過ぎる
──あと、「Season」「染」「moon」など、情景描写の解像度がグンと上がった気がするんですよね。
iri:そこはいちばん大事にしたところかもしれないです。私が見ている、想像している情景が、曲を聴いてる人の頭の中でしっかり映像化できるのはすごく大事にしました。そういう言葉選びは、かなり意識して作っていきましたね。
──iriさんの音楽は情景というよりも、リアルなメッセージ性に注目されること機会が多かったですが、今はそっちのソングライティングに向かっていると?
iri:本当はそういう作品を多く作っていきたいんですよ。ただ、わりとノンストップで曲を作り続けていて。配信して、毎年アルバムを一枚作っていくと、いわゆる言葉が降りてくる状況を待っていられないわけですよ(笑)。待てないってなると、やっぱり自分で吐き出していかなきゃいけない。吐き出すってなるとリアル過ぎちゃうんですね。で、それが自分ではすごく恥ずかしくて。そういう曲があっても良いんじゃない? と思って作っているものの、本当はストーリー性があって情景がしっかり浮かぶような曲を作りたかったんです。そういう意味で、今回は制作時間をかけさせてもらって“降りてくるのを待つ”的なことをしました。
──情景描写で言うと表題曲「private」もまさにですよね。
iri:1stアルバム『Groove it』の頃から「いつか一緒に作りたいな」と思っていた、LAのトラックメーカー・Asoと一緒に作りました。一緒に曲を作らせていただく時って、スリーコードにビートが乗ってる音源をワンコーラス投げてもらって、それにメロディや歌詞を乗せて形にしていくのが基本の流れなんですけど、彼の場合はトラックがもう出来上がっていて。いわゆる構成みたいなものがほぼないというか、ひとつの物語を聞いてる感じで。その曲を聴いて浮かんだ情景や、感情をそのまま歌詞に落とし込みました。
■素の状態をもっと世に出して良いんだ
──今回の制作で印象的だったことはなんでしょう?
iri:Yaffleくんとのやり取りですね。『Groove it』に入っている「rhythm」は、私がギターで弾き語りした音をトラックにしてもらったんですけど、それ以降はYaffleくんがコードを作ることがほとんどだったんです。今回は新しいトライとして、初めて私が鍵盤を弾いてコードを考えました。で、弾いたコードを録音しループさせて、適当にビートを乗せて、そこに歌を入れたのをYaffleくんに渡して。今度はYaffleくんがそのコードをボイスメモで録って、生ピアノで弾いて、録音してサンプリングしてトラックを作る…そうして出来た「DRAMA」は、その時の作業してる声も入ってるし、遊び心のある曲が作れてすごく楽しかったです。
──『PRIVATE』はiriさんの中で、どういう位置づけの作品になりましたか。
iri:やっと肩の力を少し抜いて、音楽ができるようになりましたね。これまでは「メジャーでやっていくためにはこういうトラックで、こういうサウンドにしていかなきゃいけない」とか「こんな曲を求められているんだ」と意識して作っていたんですよ。それが良い意味でだんだん抜けてきて。もちろんリスナーの方が自分の音楽を理解してくれたのもあるし、スタッフさんの協力もあって。とにかく自分を飾らず、素の状態をもっと世に出して良いんだなと思えた一枚ですね。
INTERVIEW & TEXT BY 真貝 聡
■楽曲リンク
2023.04.19 ON SALE
DIGITAL SINGLE「Season」
2023.05.10 ON SALE
ALBUM『PRIVATE』
ライブ情報
iri Hall Tour 2023 “PRIVATE”
5/17(水)神奈川・神奈川県民ホール
5/18(木)宮城・トークネットホール
5/25(木)北海道・カナモトホール
6/02(金)福岡・福岡国際会議場 メインホール
6/06(火)岡山・倉敷市芸文館
6/08(木)大阪・サンケイホールブリーゼ
6/09(金)大阪・サンケイホールブリーゼ
6/16(金)愛知・日本特殊陶業市民会館ビレッジホール
6/18(日)東京・東京ドームシティホール
詳細はこちら
https://iriofficial.com/live/
プロフィール
イリ/神奈川県出身のシンガーソングライター。地元のJAZZ BARで弾き語りのライブ活動を始め、2014年ファッション誌『NYLON JAPAN』とSony Musicが開催したオーディションでグランプリを獲得。2016年、アルバム『Groove it』でメジャーデビュー。
iri OFFICIAL SITE
https://iriofficial.com/