2003年にインディーズリリースした「贈る言葉」の大ヒットと、メジャーデビュー曲「ブラスター」から始まったFLOWの旅が、ついに20周年を迎えた。やんちゃなミクスチャーバンドからクレバーでオールマイティなポップ/ロックバンドへ進化し、アニメソングの世界で名を挙げ、北米、南米、アジアを中心に海外ツアーを繰り返し、唯一無二の存在感を確立して現在に至る、その歩みは実にドラマチックだ。最新アルバム『Voy☆☆☆』はその集大成であり、新たな旅へのスタート地点でもある。20周年のさらにその先へ、5人の今の声を聞こう。
■考えもしなかったことが20年の間に起こるわけで。そういうものがちゃんと集約できた1枚
──20周年記念アルバムのテーマは、旅、世界、航海。FLOWにぴったりだと思います。
TAKE:20年という長い期間をFLOWという船で航海してきて、時に新しい仲間が乗り込んだり、海外までたどり着いたり、今後は五大陸制覇を目指すという意味も込めて、このテーマで行こうということになりました。
KEIGO:「Voy」はスペイン語で「行ってきます」で、「ここで終わりではなくてさらにその先へ」ということと、コロナが明けつつある今、新しく始まる雰囲気が自分たちの中にあるので、そういう意味で「行ってきます」という意味を込めてます。あと「☆☆☆」のところに「age」を入れると『Voyage』になって、まさにアルバムのテーマである「旅」ということになるし、「age」だけでも20年という月日や、これからの時間を表していて、さらに「Voy」という響きが、ライブハウスでみんなが叫ぶ「オイ!オイ!」という響きに似ているということもあります。ちょうど今、ツアーで声出しが解禁になったんですけど、みんなの声が帰って来たということでもあって、いろんな意味を込めたタイトルになっています。
──全20曲、ボーナストラックを入れて21曲で、聴く前はビビってたんですけど。ぴったり60分で、それほど長いわけではなく。
TAKE:CD1枚に収まる内容にしようとは思ってました。ストリーミングの時代に、CDにパッケージする意味合いというのは結構考えて、CD1枚を通してまるで五大陸を旅しているような、この流れで聴くから意味があるものにしようということで、この形になりました。オセアニア大陸から始まります。
──それが1曲目のインスト「Terminal 1」ですね。
TAKE:ジャーマンメタルと日本の三味線の融合です。ごっちゃん(GOT’S)に「ジャーマンメタルで」と言って、作ってもらいました。
GOT’S:ジャーマンメタル、好きなんで。TAKEがギターのフレーズを三味線に変えて、よくまとめてくれました。
■いろんなコンセプトでアルバムを作って来たんですけど、今回がいちばんバラエティに富んでいる
──この「Terminal 1」から「Terminal 5」までのインスト5曲が、アルバムのキーになってますね。まさに五大陸を象徴するサウンドを散りばめながら、音楽が進んでいく。
TAKE:一個ずつの港や空港を転々として、旅をしていく感じですね。南米エリアではボサノバ、アフリカではエジプトっぽい音楽とか、音で楽しめる世界旅行になっています。
KEIGO:五大陸を目指すということも含めて、20年やってきたすべての意味がここにあると思います。20年前にデビューしたときは、まさか海外でライブができるなんて思ってもみなかったし、考えもしなかったことが20年の間に起こるわけで。そういうものがちゃんと集約できた1枚なんじゃないかと思います。
TAKE:ライトなリスナーの方には『コードギアス』とか『NARUTO』シリーズの『BORUTO-ボルト-』とか、『バンドリ!』からAfterglowさんとコラボした楽曲とか、『エウレカセブン』のパチスロ楽曲とか、いろいろ入ってますんで。アニメファンにも納得の1枚です。埼玉県の人には、NACK5の冬のステーションキャンペーンの曲もある。
KOHSHI:そこだけむちゃくちゃ狭い(笑)。埼玉県民向け。
IWASAKI:今までもいろんなコンセプトでアルバムを作って来たんですけど、今回がいちばんバラエティに富んでいるというか、いい意味でコロナの3年間が肥やしになって、身になっていると思います。この3年間で、音楽への向き合い方がすごく変わったので、それがあったからこそここまで来れたと思うし、次に向かう自分が見えたところもあったので。
GOT’S:海外の、実際に行った国に関係する曲もいくつかあって、まだ行ってない国をイメージした曲もあって、“こういうアルバムが作れるようになったんだな”と。行ったことのない国に早く行って、このアルバムを完成させたいと思いましたね。
──残るは、アフリカとオセアニアですか。
GOT’S:そうです。これを作ったからには、目指したいですね。
■絶対モテない男たちが、女の子たちとはしゃいでる
──そして、なんたって注目は、ボーナストラックに入っている「贈る言葉」の20周年アニバーサリーバージョン。20年振りの再録音で、武田鉄矢さんが出演しているミュージックビデオも最高です。
IWASAKI:改めてこの曲と向かい合って、これがなければ何も始まってないなと思いましたね。最初のリリースのあと、しばらくは十字架として背負っていた時期もあったんですけど、それを乗り越えて、改めて武器として持ち出せるようになったというのは、20年という時間が消化させてくれた部分もあると思います。当時の勢いはそのままに、スキルは現状のもので行こうということで、ちょっと上手になっているというか、しっかりした演奏の「贈る言葉」に変わっていると思います。
GOT’S:当時の、若さしかない演奏も、あれはあれで良しということもあるじゃないですか。今回再録するにあたって、当時のノリも出しつつ、きちっと、というのとも違うけど、20年で得たものが出せたかなと思います。
KEIGO:ただ、新しいミュージックビデオの中で、武田鉄矢さんと一緒に当時のMVを見るシーンがあるんですけど。あらためて見たら、ひどいですね、あのMV(笑)。
IWASAKI:今だと、コンプライアンスの問題があるんじゃないかな(笑)。
KOHSHI:絶対モテない男たちが、女の子たちとはしゃいでる。だからフワフワしてるんですよ。こいつらモテないだろうなーって。
TAKE:人生初めてのMVの、その最初のカットが、ギャルと水着で風呂に入るという。
IWASAKI:「海パン持ってきて」って言われて、「なんで?」って(笑)。
──あはは。そんなバンドいないですよ。
TAKE:あれは卒業パーティーなんですよ。卒業式が終わったあとの夜、先生もいない、親もいない、仲間たちで楽しもうよというシーンをイメージして、楽曲もそういうアレンジメントにしようということで作ったんで。でも、そこになぜ水着のギャルが登場するのか(笑)。
IWASAKI:監督がね、振り切った人なんで。竹内鉄郎さん。
TAKE:あれで“ミュージックビデオはこういうもんだ”と思っちゃった。「贈る言葉」で、イワちゃんがドラムを叩きながらマシュマロを食べさせられるシーンがあるんだけど、次の「メロス」でマシュマロチアダンサーズが出てくるという。
KEIGO:その繋がり、誰がわかるんだ(笑)。
──最高です。でもね、思うんですけど、あのやんちゃなスタイルのままでやっていたら、FLOWは今頃いったいどうなっていたのか。
KOHSHI:たぶん消えてますね(笑)。
TAKE:リアルパンクになっちゃう。時代にそぐわず、コンプラに引っかかりまくりで。
KOHSHI:そもそも精神がパンクじゃないから。無理がある。
KEIGO:盛大にコケて終わったんじゃないですか。
──そもそも「贈る言葉」を選んだ時点で、リアルパンクとは方向が違うでしょう。
GOT’S:当時、お客さんをつける方法がわからなかったんですよ。いつまで経っても友達ばっかり呼んでたから、どうやったら増えるんだろう?って、考えに考えてたどり着いたのが「贈る言葉」だった。これでホームランを打てなかったら次はないぞって感じでした。背水の陣というか。そしたら結構な場外ホームランになっちゃって、僕たちが思ってる以上の効果があって。
TAKE:37万枚かな。時代もありましたけど。
GOT’S:『CDTV(COUNT DOWN TV)』のエンディングに使ってもらって、それもびっくりしたのに、1週間後に「Mステ(ミュージックステーション)決まりました」って。だから、なんて言うのかな、実力のないまま急に売れちゃって、ライブの見せ方もまだまだわかってないし、必死でした。でもまあ、自分たちにできることは決まってるんで。
■(武田鉄矢さんとは)20年前ぐらいに一度お会いして、今回お会いするのが2回目で、それが撮影の本番
──そういう意味でも、武田さん、金八先生は本当の恩人というか。
KOHSHI:まさにそのお礼を、新しいミュージックビデオでさせてもらいました。
GOT’S:20年前ぐらいに一度お会いして、今回お会いするのが2回目で、それが撮影の本番だったんですよ。俺らが教室に座っていて、武田さんが入って来るのを待っている。
KEIGO:ドキュメントっぽく撮りたかったんですよ。
GOT’S:表彰状を渡すというストーリーだけ決まってて、あとは全部その場で。あの緊張感はすごかった。
IWASAKI:最初、武田さんがTAKEに(表彰状を)読んであげてるシーンでウワーッてなって、鳥肌が立って、そこからドキドキですよ。
──君たちに努力賞、皆勤賞をあげたい。武田さんからFLOWへの、20周年にふさわしい贈る言葉が素敵でした。
TAKE:それもこれも、FLOWという船がなければ経験できなかった歴史ですから。それが20年後にここまで連れて来てくれて、その先もまだ見据えられる状態にあるのは、非常に幸せなことだなと思います。
──よく聞かれると思いますけどね。バンドを長く続ける秘訣というのは?
TAKE:やっぱり「新しいことをやり続けること」じゃないですか。まだやってないことを、新鮮味を持って取り組むことだと思います。
KOHSHI:もともとが、好きなことをやらせてもらっている20年なので。嫌いにならない限りはずっと続けられるというか、この5人で奏でているのがいちばん心地が良かったりする。当たり前ですけど、だから続けてこれたんじゃないですか。
KEIGO:最初の頃は、目の前のことに一生懸命すぎて、右も左もわかんなくて、「贈る言葉」で急に知られるようになったこともあったから、自分がやれることすらもわかんないというか。バンドの中の立ち位置もそうですけど、自分が担えることって何だろう?とか、そういうものはやっぱり月日が経って、経験を積み重ねていく上でできたものだなと思っていて。この5人の中で、俺にできないことをほかの人はできるとか、それがリスペクトに変わるし、だんだんちゃんとした五角形になって、経験と共に形作られてきたのかなってすごく思います。
■思い返すと、コロナ禍っぽかったね。ライブできないし、活動止まっちゃうし
──ちなみに、いちばんつらかった時期は。
KOHSHI:つらかったのは、KEIGOが事故ったとき(2005年12月、追突事故に遭い負傷)ですね。初めての挫折を味わったというか、あれはやっぱり忘れないです。
TAKE:思い返すと、コロナ禍っぽかったね。ライブできないし、活動止まっちゃうし。
KEIGO:ああー、たしかに。あのときはみんな迷ってたと思う。
GOT’S:なんでだろうね。ちょっと休めば、ぐらいの気持ちで良かったのにね。
KOHSHI:めちゃくちゃ深刻になってた。
IWASAKI:走り続けてたから。ツアー中やったし。
KEIGO:セミファイナルとファイナルを中止して。俺は俺で、ただただ罪悪感がすごくて。
KOHSHI:(事故を)喰らってるほうだからね。罪悪感も何もないんだけど。
KEIGO:そうなんだけど、でも理由は俺の怪我だから。あのときはそういう思いしかなかった。
TAKE:で、ごっちゃんが最初にお見舞いに行ってくれてね。ひとりでね。
KEIGO:日にちを間違った。「明日だよ」って(笑)。
GOT’S:バラバラに行くと迷惑がかかるから、メンバー4人で一緒に行こうと言ってて、待ってたら、「誰も来ねぇな」って。しょうがないからひとりで行って。すごい豪華な病室で、「いいところにいるね」って。
KEIGO:何しに来たんだ(笑)。で、「間違っちゃった。帰るわ。」って。
GOT’S:でそれで、次の日(待ち合わせの日)は行かなかった。
IWASAKI:みんなで行くんちゃうんかい!って。
TAKE:これでよく20年続いてるな(笑)。
──GOT’Sさんらしいなぁ。でもそういうタイプがひとりいるのもバンドが続く秘訣かもしれない。GOT’Sさん、挫折とか悩みとか、あんまり抱えないタイプでしょう。
GOT’S:ないです。俺はいつも「なんとかなる精神」なので。今までの人生そうやって生きてきたんで、バンドが続けられるのも、嫌なことさえなかったら大丈夫。
TAKE:唯一、辞めるって言い出す理由は…。
GOT’S:バンジージャンプとお化け屋敷。嫌なことリストのトップ2。それが仕事に入ったら俺は辞めます。
TAKE:お化け屋敷に20年の活動が負けちゃう(笑)。
GOT’S:それがなければ大丈夫。むしろ、何かの違いでやめていく人たちって、どんだけつらいことがあるんだろうなって思う。
──ああ、音楽性の違いとか、性格的な違いとか。
GOT’S:相当なものがあるんでしょうけど、俺にはちょっとわからないです。
──末永くよろしくお願いしますよ。イワさんが叩ける限り。
IWASAKI:健康第一で。体が動く間は、ちゃんとケアをしながら頑張ります。年齢が上がってくると、ずっと同じ感じでは無理なんでしょうけど、別の部分で補うことを考えて、いろいろ画策してるんで。今は楽しく叩けてます。
GOT’S:切るときは、周りが言ったほうがいい?「イワちゃん、お疲れ様」って。
──は?何言ってるんですか(笑)。
KEIGO:バンド、壊そうとしてない?(笑)
TAKE:でもね、今はテクノロジーが進化してるんで。メカイワサキになりますよ。ドルルルゥゥゥ!って。
IWASAKI:足だけメカになる。
KOHSHI:もう人じゃない(笑)。
IWASAKI:昨日、あるバンドのドラマーのツイッターで見たけど、メタリカのラーズのドラムを「うまくない」っていう人がいるけど、存在が大事なんだと。ラーズがいないとメタリカじゃない、そこに重要性があるんだと。そういう価値観を持つ人もいますからね。その集合体として、5人のFLOWが集まっていることが大事なんじゃないですかね。
──本当にそうですね。真面目な話。
TAKE:この前も、久々に海外に行って、またこの話になるんだなと思ったんだけど、ライブでボーカルだけ突出して前に出て見えるバンドは多いけど、「FLOWは全員が横に並んで見える」っていう話をされたんですよ。それは日本で言われることも結構あって、誰かが突出してるとかじゃなくて、5人でFLOWだから、バランスが良く見えるって。海外の人もそう思うんだって。メキシコだったかな。
IWASAKI:言われたね。
TAKE:この5人のバランス感は、そういうところにも表れてるんじゃないかと思います。
■FLOWにとって切っても切れない、アニメとの出会いはむちゃくちゃでかい
──そこですね、20年の結論は。というわけで、すでにアルバムのリリースツアーが始まってます。ファイナルは5月11日の東京・恵比寿LIQUIDROOM。そして7月1日には、20周年にふさわしいでっかいライブが控えてます。『アニメ縛り』のセットリストで臨む、幕張メッセ国際展示場でのライブです。
KEIGO:今まででいちばん大きいところで、お祭りですね。しかもFLOWにとって切っても切れない、アニメとの出会いはむちゃくちゃでかいので、ひと作品ひと作品への感謝もあるし、全員が楽しめると思うんですね。アニメでFLOWを知ってくれた人もそうだし、もともとライブとかでFLOWを知ってくれた人もそうだし、アニメ曲でもありライブ曲でもあるわけなので。20周年にふさわしいアニメ縛りフェスティバルは、やるべきことなのかなと思うので、皆さんでお祭りをしたいなと思います。
──楽しみです。そして、たぶん、FLOWの20周年イベントはここで終わりじゃないですよね?
TAKE:今年が20周年突入イヤーなので。それの山場が『アニメ縛りフェスティバル』で、来年の7月まで20周年イヤーはあるので、引き続きいろいろ画策してやっていきます。
──お楽しみはこれからだ。
TAKE:はい。このあと、FLOWにとって初めての試みも予定しているんですが…。
今は言うなと言われてます(笑)。
──今、SACRA MUSICのスタッフがすごい目で見てましたけど(笑)。まだまだ続くFLOWの20周年。期待してます。
TAKE:飽きないように、新しいことをやっていくので。楽しみにしていてください。
INTERVIEW & TEXT BY 宮本英夫
PHOTO BY 大橋祐希
楽曲リンク
リリース情報
2023.2.22 ON SALE
ALBUM『Voy☆☆☆』
ライブ情報
『FLOW 20th ANNIVERSARY LIVE TOUR 2023「Voy☆☆☆」』
4/1(土) DRUM LOGOS (福岡)
4/2(日) なんばhatch (大阪)
4/14(金) 松阪 M’AXA (三重)
4/21(金) 神戸 VARIT. (兵庫)
4/22(土) 松江 AZTiC canova (島根)
4/26(水) 浜松窓枠 (静岡)
4/30(日) HEAVEN’S ROCK さいたま新都心VJ-3 (埼玉)
5/4(木・祝) PENNY LANE24 (北海道)
5/11(木) 恵比寿LIQUIDROOM (東京)
『FLOW 20th ANNIVERSARY SPECIAL LIVE 2023 ~アニメ縛りフェスティバル~』
7/1(土) 幕張メッセ 国際展示場
プロフィール
FLOW
フロウ/KOHSHI(Vo)、KEIGO(Vo)、TAKE(Gu)、GOT’S(Ba)、IWASAKI(Dr)の5人組ミクスチャーロックバンド。2003年にシングル「ブラスター」でメジャーデビュー。特にアニメ作品との親和性に定評があり、アニメ『NARUTO-ナルト-』オープニングテーマ「GO!!!」や、『コードギアス反逆のルルーシュ』オープニングテーマ「COLORS」ほかを手がけている。海外活動にも精力的で、19ヵ国59公演を超えるライブ実績を持つ。2021年8月、Spotifyにて、『NARUTO-ナルト-疾風伝』オープニングテーマ「Sign」が、全世界で7,000万回再生を突破、全楽曲トータルで2億回を突破。
FLOW OFFICIAL SITE
https://www.flow-official.jp