Tani Yuukiが2ndアルバム『多面態』を完成させた。
ライブでの定番曲「夢喰」やストリーミング累計再生回数1億回を突破した人気曲「もう一度」など、彼の多彩な魅力を詰め込んだ全12曲。
ステージ経験を積み重ねるいっぽうで、「W/X/Y」が大ヒット曲となり、楽曲提供やタイアップを手がけるなど、大きな変化の渦中にあった2022年から現在にかけて、彼が抱えていた思いが伝わるドキュメント的な一枚にもなっている。
▼Tani Yuuki 2nd Album『多面態』全曲ダイジェストトレーラー
■Tani Yuukiの最新作『多面態』の全貌
──これから『多面態』収録楽曲を一曲ずつ解説してもらいますが、まずはアルバム全体の話を訊かせてください。バラエティ豊かないっぽうで、筋の通った一枚になっていると思いました。
Tani Yuuki:うれしいです。
──アルバムを作るにあたって、まずどういうところがスタート地点になりましたか?
Tani Yuuki:去年はライブをメインに活動したことで、お客さんと一緒に楽しめる曲、盛り上がれる曲を大事にしたいという気持ちが強くなりました。さらに、アルバムを発売してすぐZeppツアーが控えているので、ライブの場面を想像しながら「こんな曲がもっとあると良いよね」みたいなことを考えて、今欲しい曲を作っていきました。
──ライブの場が増えたことで、ステージへの向き合い方にも変化がありそうですね。
Tani Yuuki:変わってきたというか、今までライブがどんなものかを僕が知らなすぎたんです。そこから、お客さんとの対話みたいなものを、実際に肌で感じて、だんだんわかるようになってきたかな? という感覚です。
──アルバムを作るにあたり、何らかのテーマやコンセプトはありましたか?
Tani Yuuki:実は、僕の中で一貫したテーマがあったわけではないんです。“多面態”というタイトルも、先にライブツアーのタイトルとして決めて、そこからアルバムを作り始めたので。強いて言うなら、1stアルバムの『Memories』があの時までの僕なんだとしたら、今回のアルバムは、そこから先の僕をまとめたアルバムかなと思っています。
▼Tani Yuuki 1st Album『Memories』全曲ダイジェストトレーラー
──聴いた印象としては、ある種のドキュメント感があるなと思いました。Tani Yuukiという人が大きな変化の時期を過ごしてきた日々の記録というか。
Tani Yuuki:たしかにそう感じ取ってもらえたならうれしいです。楽曲提供だったり、タイアップだったり、今までになかった経験もしたので。ここ数年で僕が経験したことや変化を落とし込んだアルバムではありますね。
■「生きる偉人たちよ」
──では、ここからは収録楽曲について順に話をうかがいます。オープニングにふさわしい「生きる偉人たちよ」ですが、どんなふうに作った曲ですか?
Tani Yuuki:この曲は、10代の専門学生の頃に作った曲です。僕の1stワンマンライブ『Tani Yuuki 1st LIVE 2020~はじまりのはじまり~』でもやっていて、ずっとリリースしたいと思っていた曲なんです。歌い出しが声だけから始まるアレンジというのもあって、この曲がいちばんオープニング感が強かったので、1曲目に持ってきました。“少年少女 さぁ、大志を抱け”という歌詞は、クラーク博士の「少年よ大志を抱け」というフレーズをもじったもので。高校生の頃からシンガーソングライターになりたいという思いを抱いていたので、その時のことについて…それこそ、自分に対しての応援歌のようなつもりで書きました。
──10代の時の自分が書いた曲と、今向き合ってみた印象はどうでした?
Tani Yuuki:改めて聴くと…ちょっと恥ずかしかったです、「当時はこんなこと思ってたんだ」って(笑)。今じゃ言えない、若いなりのトゲがあるというか。でも、歌ってみると意外と嘘くさくなく、ここまでやってきたことが支えになって、ちゃんと応援歌になってくれています。僕自身に対してというより、また別の誰かを応援する、曲が育っているなと感じました。
■「夢喰」
──2曲目の「夢喰」はライブの定番曲ですが、この曲を作り始めたきっかけは?
Tani Yuuki:ふと思いついたフレーズをSNSに載せていた時期があったんですけど、この「夢喰」のサビは2022年の1月頃に、まったく違うテンポで上げていたんですよ。で、ライブで盛り上がれる曲が欲しいとなった時に、とりあえず土俵に上げてみました。最初はもっとゆっくりだったんですけど、しっくりこなかったんでアップテンポにしたら、フレーズもキャッチーで統一感も出て良い感じになって。そこから仕上げていきましたね。
──バンドサウンドでストレートなギターロックのアレンジは、これまであまりやってこなかったですよね。
Tani Yuuki:やってはこなかったんですけど、それこそRADWIMPS節のような感じもあり、僕自身はずっと聴いてきたタイプの曲ではあったんです。最初はアコースティックギターで作りましたが、こういうエレキギターの方向性にしたいなど、イメージは固まってました。
──実際にライブで披露して、曲が育ってきた感覚はありますか?
Tani Yuuki:それはめちゃくちゃあります。この曲はライブでタオルを回すんですけど、僕のお客さんって初めてライブに来る人も結構いるので、最初はあんまりそういうのに慣れてなくて。でも、だんだんお客さんも一緒に盛り上がるようになっていきました。やっていくうちにステージの動きも変わってきたし、声の厚みを足したり、ライブの中での曲の進化は実感しています。
▼夢喰 (Live ver.) / Tani Yuuki Presents LIVE ”LOTUS”
■「Life goes on」
──「Life goes on」はエレクトロなサウンドの曲ですが、この曲のアイデアは?
Tani Yuuki:こういうフレーズを使いたいと、いつもメモを取るんですよね。そこから作り始めた曲です。ただ、そのまま作るといつも通りEDMっぽくなっちゃうと思って。その頃にWurtSさんの「Talking Box」を聴いてカッコ良いなと思って。こういう感じを落とし込めたらと思って作っていきました。時期としては去年の対バンツアー『Tani Yuuki Presents “LIVE LOTUS”』の頃ですね。毎月一曲新曲を作ろうということで完成させたのが「Life goes on」です。
▼WurtS – Talking Box (Dirty Pop Remix) (Music Video) [Episode 1]
──Tani Yuukiさんの曲は、ボーカルのフロウとリズムの組み合わせの気持ちよさが特徴として大きいと思っており、「Life goes on」はそれが本作でいちばん前面に出ている曲だなと。そういう気持ちよさって、どういうところがポイントになっていると考えますか?
Tani Yuuki:まずは韻を踏んでいるというところですね。むしろ踏んでないところが少ないくらいなので。あとはAメロの歌詞の細かい譜割りからBメロではクラップになってわかりやすいリズムになって、そこからドロップで大きく取れるノリになる。そこがたぶん気持ちいいんだと思います。WurtSさんの「Talking Box」もドロップがめちゃくちゃ気持ちいいので。あの曲とはまた違った感じでありつつ、ちゃんと空間を彩れるフロウになっていて、そこがバチッとハマっている曲かなと思います。
──サビが歌じゃなくてシンセドロップになっているんですよね。そういう意味ではEDM的な構造になっているとも言える。
Tani Yuuki:そうですね。The Vamps, Martin Jensenの「Middle Of The Night」という曲のドロップがカッコ良くて、BPMも全然違うからノリは全然違うんですけれど、サイドチェインコンプとかシンセの感じはかなり参考にしていて。このアルバムでいちばん洋楽っぽい曲だと思います。
▼The Vamps, Martin Jensen – Middle Of The Night (Official Video)
──曲のテーマはどうでしょう?
Tani Yuuki:「夢喰」もそうなんですけれど、やっぱり自分の葛藤や苦悩みたいなものがもとになっている感じがしますね。今までやってきたことが本当に正解だったのかを悩んだ時期があったり、去年はいろいろと決断しなくちゃいけないことがあったので。本当に良かったのかと思うこともあって…でも、もう後戻りはできないし、それでも人生は続いていく。そういうことを言いたくて書いた曲です。
■「自分自信」
──UQ mobile「UQ応援割」WEB限定CM曲の「自分自信」は、タイアップの話を受けて書いたのでしょうか?
Tani Yuuki:そうですね。CM自体も卒業がテーマで、そこには添いつつも自由に書いていいですよと言っていただいて。僕の初めてのタイアップ曲だったんですけれど、それまで卒業ソングというものを書いたことがなかったんで、初めての卒業ソングだったんですよね。それで、仲の良い友達に学生の時に何を考えていたか、何をしてたか、どういう夢や不安があったのかとか、いろいろ聞いて回ったんですよ。妹がちょうど学生だったんで、妹にも聞いて。そうしたら、みんな将来に対しての漠然とした不安みたいなものを抱えている印象だったんですよね。僕も当時を思い返した時に、将来自分がこうやってシンガーソングライターとしてご飯を食べられているとも思ってもいなかったし、就職する未来も見えてなくて。そういう思いをギュッとまとめて落とし込んだのが「自分自信」です。だから、“だれしも始まりの一歩が上手くいくわけがないよな”っていう歌詞になりました。僕自身、失うものなんて何もないと思って挑戦できたのは、専門学校に入ってからなんですよね。そこで体当たりができるようになった感覚があったから、今度は僕が思いっきり背中を押してあげられるような曲を届けたくて。そうなったと思います。
──いろんな意味で初チャレンジの曲だったのですね。
Tani Yuuki:そうですね。しかも、この曲はかなり早く出来た曲で。作り始めてから歌詞とファーストアレンジ込みで完成させるまで、たしか5日間くらいで作りました。もっと早く書ける人はいると思いますが。元々、僕は時間がかかるタイプなので、やればこれだけ早くできるんだ! って、自分の壁を越えられた曲でした。自己ベストを更新できたというか。自分に対して自信を持てないことが、いろんなことに挑戦できない理由になっているんじゃないか、という意味で“自分自信”という曲名をつけたんですけど、この曲を作ったことで、僕自身も自信がつきました。
■「もう一度」
──以前行った、1万字インタビューでも触れた「もう一度」について。かなり前からあった曲ということでしたが、作ったきっかけは?
Tani Yuuki:この曲はコロナ禍のことを歌っている曲です。当時一緒に音楽活動をしていたグループがあって、月に数回同じ場所に集まって動画を撮っていたんですね。でも、コロナ禍で以前のように集まることができなくなってしまいました。自分ひとりの活動をやってはいるけど、大勢の人と集まってワイワイしながらクリエイティブなことができる機会って、すごく僕の中で支えになってくれているところがあったんですよね。なので、正直しんどくて。たぶん、似たような境遇の人はいるだろうと思ったんで、自分がその時抱えていた不安、いつコロナ禍が明けるのかもわからない漠然とした不安を包み隠さず書いた楽曲です。「W/X/Y」にメロディが似ているとよく言われるんですけど、そもそも「W/X/Y」よりも「もう一度」が先に出来ていて、単純に自分の中でこの時のマイブームのメロディだったんです。よく「狙ったの?」とか言われるんですけど…全然狙っていません(笑)。
──配信されてからの反響については、どう捉えていますか?
Tani Yuuki:最初は、今言った「メロディが似てる」という意見が多い印象でしたが、すぐに気にならなくなりました。やっぱり同じような境遇の人たちが多いのか、歌詞と写真を当てはめたり、思い出を曲に重ねたような映像が徐々に増えていったんです。コメントも「この曲がすごく支えになりました」「諦めないでいようと思います」みたいに共感してくれるコメントがすごく増えたんですよね。この曲で伝えたかった芯の部分をしっかり読み取ってもらえているのでうれしいです。
■「何も考えたくないです」
──「何も考えたくないです」はどういう入り口から書いていったのでしょうか。
Tani Yuuki:これはタイトルの通りです。何も考えたくなくて(笑)。当初はもっとアップテンポな曲にする予定でしたが、作っている途中で曲のテーマや芯がブレブレなのに気づいて。これは惰性で作っているのかもしれない…と、一度足を止めたんですよ。で、何度も何度も煮詰め直したんですけど、本当に出てこなくて。「もう何も考えたくないです」ってなってできたのが、この曲です(笑)。今、自分が素直に思っていることを落とし込んだほうが良いと思って完成させました。
──なるほど。リアルな心の叫びだったと。
Tani Yuuki:何も出てこないんで、やけくそになって息抜きに“何も考えたくないです”っていうフレーズで曲を書き始めたんですよ。そうしたら「あれ? 意外と良いじゃん」と。考えなくちゃいけないことがある時って、どうでもいいことを考えちゃうことがあって。サビから後半にいくと、どんどん世界が広がっていくんですよね。自分の内面の話から恋愛の話に飛んで、最後は結局“自分になりたい”と歌っていて。狭いところから始まったのに、多面的ないろんな解釈ができる曲に仕上がってくれたと思います。
──言葉を選ばずに言うと、歌詞のテーマは未整理。でも、それゆえに思いがありのまま綴られたような歌になっているということなんですね。
Tani Yuuki:たぶん、今回のアルバムでいちばん今の思いの丈に近い曲だと思います。この曲においては未整理なのが答えなんだと思うんですよね。元々はアップテンポな曲を作ろうと思ってたんですけれど、曲調も自分の得意技で。ミドルテンポで、転調もするし、すごく僕らしい曲なんじゃないかと思います。
■「ワンダーランド」
──「ワンダーランド」はTBS『王様のブランチ』テーマソングですが、これもオファーを受けて書き下ろした曲?
Tani Yuuki:そうですね。土曜日の朝から昼の時間帯、老若男女分け隔てなく観られる番組だということを落とし込んで書けた曲だとは思っています。
──カラフルでハッピーな曲調ですが、そういうものを作ろうという意識は強かった?
Tani Yuuki:僕の曲って、わりとネオンカラーのイメージのものが多いんですけれど、この曲に関してはパステルカラーのポップな色合いにしたいなと。子供たちの「イエーイ!」っというかけ声が入っているんですけど、そこもこだわりました。大人になると、簡単じゃない話だったり、腑に落ちないこととか、“ぶつかる壁”みたいなものがいろいろあるじゃないですか。僕のお父さんは会社員なんですけれど、平日は自分を抑えて頑張って働いて、土日は弾けているような感じがある。そういう、土曜日くらいは子供みたいに無邪気にはっちゃけて好きなことをしようよ、ということを言いたくて、そこから作り始めました。
■「マーメイド」
──続いては「マーメイド」について、着想などうかがいたいです。
Tani Yuuki:昨年、年末の音楽番組に出た時の空き時間に作った曲ですね。優里くんが歌う「かくれんぼ」のミックスとドラムがすごい好きで、その話題から“優里くんがこの先リリースしそうなタイトルって何だろう?”って話が膨らみまして(笑)。“スカーレット”など、いろいろ候補は出てきたんですけれど、“マーメイド”がいちばんありそうだなっていうのを話しながら、ギターをポロポロ弾いて作りました。「“マーメイド”だったら…最後は泡になって消えるのかな?」と考えながら、サウンドもテンポ感も優里くんっぽさを意識しながら作った曲です。
▼優里「かくれんぼ」Official Music Video
──ある種の遊びというか、お題から発想を広げて書いたのですね。
Tani Yuuki:このアルバムで唯一遊びから書いた曲だと思います。やっぱりテーマがあると書きやすいって改めて思いました。漠然としたイメージじゃなくて、“マーメイド”というテーマから連想して書いていくというか。
──アルバムは全体的にTani Yuukiさんの人生の中での葛藤や経験が綴られていると思うのですが、この中盤の「ワンダーランド」「マーメイド」はファンタジーですよね。
Tani Yuuki:まさしくファンタジーのイメージです。童話『人魚姫』になぞらえている部分もあるんです。1番で“今はどこで誰を想って その足で歩いているのでしょう?”って歌っていて、2番はそことの対比で“その手で抱きしめているのでしょう?”というワードがある。で、Dメロでは“たとえ泳げなくなってもね たとえ唄えなくなってもね この手足で ただ横で 生きていたいだけ”と歌っているという。
■「Cheers」
──「Cheers」は、MAISONdes(メゾン・デ)の302号室に“入居”し、書き下ろした「Cheers feat. Tani Yuuki, 菅原圭」のセルフカバー。元々、サントリー「TOKYO CRAFT」キャンペーンソングとして書き下ろした曲ですね。
▼【302】[feat. Tani Yuuki, 菅原圭] Cheers / MAISONdes
Tani Yuuki:この曲は、“乾杯”や“Cheers”もそうですけど、“琥珀色”や“泡”“グラス”といったビールに関連する単語を入れてほしいという希望があったので、さっきお話したようにテーマが明確だったのですごく書きやすかったです。馴染みのあるビールは350ml缶だから“350mlに揺れる気持ち”というワードにして、そこから曲の尺も3分50秒ぴったりになっています。
──ビールというモチーフと“乾杯”というテーマから、どうイメージが膨らみましたか?
Tani Yuuki:話をいただいた時から、グラスがぶつかる音と泡の音は絶対入れようと決めていました。あと、いろんな乾杯の場面がありますが、会えていなかった友達と久しぶりに集まった時やいつものメンバーで会えた時、仲間との乾杯がグッとくるなと思ったので、全体的な方向性はそういう感じに持っていこうと思っていました。2番では恋愛要素を絡めてるんですけど、これは恋愛の話を酒の肴に持ち寄っている感じで。“いつものメンバー=自分をさらけ出せる空間”で乾杯して、うまい酒を飲んで、心機一転頑張っていこうぜみたいなことを言いたいなと。なので、テーマに沿いながらも友情や仲間を歌っています。
──曲を書いた時期やきっかけも別ですが、結果的に「もう一度」のアンサーソングになっているようにも感じました。
Tani Yuuki:たしかに! それはあったかもしれないですね。会えてなかった友達に、久々に会えた時期でもあったんで。あとは、この曲にはサラリーマンのイメージもありました。土日にお酒を飲んでいるお父さんを想像したりしています。
■「燦々たるや」
──続いて「燦々たるや」については?
Tani Yuuki:この曲を作り始めたのは、ザ・チェインスモーカーズとコールドプレイの「Something Just Like This」という曲のテーマや世界観がめちゃめちゃ良いなと思ったところからで。あの曲にはアメコミのヒーローたちの名前がそのまま出てくるんですけれど、そういうヒーローみたいなテーマの曲を書きたいなと思って書き始めました。その時、自分と同い年、もっと若い人たちが自分で命を絶ってしまうというニュースが目について…学生当時仲の良かった友達、一緒に音楽活動していた仲間が今どうしてるかなって、久しぶりに連絡したりもしてみたんです。自分の手が届く人たちは、そうなってほしくないというか。話しかけるだけでそういうことが阻止できるのであれば、何かしらの合図というか、そういうものを自分に対して言ってほしい、という思いを書きました。なので、サビの最後に“メーデー”という言葉があるんですけど、これは救難信号のメーデーなんです。
▼The Chainsmokers & Coldplay – Something Just Like This (Lyric)
──「Something Just Like This」のヒーローのモチーフから、そういう発想が生まれたと。
Tani Yuuki:お前のためだったらそのくらいできるんだぜ、みたいな結構大げさなことを「燦々たるや」では言いたくて。1番は“ちゃんと 救世主になれるように”と歌っているんですけれど、ヒーロー目線というか、スーパーマンみたいなイメージです。で、2番は自分も相手もヴィランなんですよね。“共有した時間泥棒 運命的共犯者”って歌っていて。相手が悪い方面に落ちてしまうのであれば、自分も同じところまで落ちるというか。どんな状況になっても、味方でいようということを歌っている曲です。
■「運命」
──「運命」は片寄涼太(GENERATIONS)さんに提供した曲のセルフカバーで、元々はドラマ『運命警察』(テレビ東京)の挿入歌として書かれた曲でした。この話を受けたときの最初の印象は?
Tani Yuuki:「ドラマの曲をやるんですか?」と思いました。鈴木おさむさんが脚本を書かれているドラマなんですけれど、台本や概要を見せていただいたら、ドラマ自体の企画とテーマがすごく面白くて。実際にオーディションをして、そこでグランプリを取った方がヒロインとしてキャスティングされたり、現実世界と連動しているドラマなんです。で、主人公として登場する片寄(涼太)さんの役どころも、生きてはいないんですけど現実世界に干渉できるというキャラクターで。そういうドラマの内容と現実とのリンクがすごく面白いし、曲も面白いものになるんだろうなと思っていました。
──これは主題歌としてのオファーではなく、片寄さんが演じるミュージシャンが生前にバズらせた曲として用いられる挿入歌のオファーだったんですよね。
Tani Yuuki:そうですね。実際にTikTokに片寄さんが顔を隠してドラマで登場する服装で弾き語りしている動画が投稿されたりして。すごく面白い企画だったなと思います。
▼運命 – 片寄涼太【MV】
──曲作りにあたってはどのように進めていきましたか?
Tani Yuuki:この曲は2曲候補を作り、鈴木おさむさんに「どっちのほうが良いです?」と直接話をした記憶があります。「“運命”というワードを入れて、タイトルにしてほしい」ということだけだったので、方向を決めるのに戸惑いはなかったんですけど、なんせ運命っていう漠然としたテーマではあったので、何を書こうかなと。でも、僕自身も夢追い人のひとりはあるので、オーディションで勝ち抜いて来られた女優さんやドラマの内容にいろいろ共感できる部分も多く、道は違えど似たようなことを思うところもあったので、その人のことを歌いつつ、ドラマのこと、片寄さんのことも歌いつつも、僕自身のことを歌ってもいるような曲になったと思います。
──アルバムの序盤の楽曲は、将来への漠然とした不安とか、夢を追う時に周りとの軋轢とか、そういう葛藤がテーマになっていますが、それと通じ合うところもありますね。なので、ドラマのために書いた曲ではあるけれども、ある種、Tani Yuukiさん自身のドキュメントの曲にもなっている感じもしました。
Tani Yuuki:まさしくそうですね。やっぱり、アルバムの1曲目から5曲目くらいまでは自分のドキュメント要素があって。「Cheers」とかもそうなんですけど。そういう感じをまとめたのが「運命」かもしれないですね。
■「多面態」
──アルバムを締めくくる「多面態」。アルバムの中では最後に出来た曲でしょうか?
Tani Yuuki:はい。デモの完成は「何も考えたくない」が最後だったんですが、アルバムを最後に締めたのは「多面態」です。この曲もアップテンポな曲を作ろうというところから始めて、しかも僕の中にちゃんと意図があった曲だったので、これは完成させたいなと。…なんですけど、歌詞を書く時につまずいたんですよね。だから、最後になっちゃったんですけど(汗)。
──歌詞はどう書き進めたのですか?
Tani Yuuki:最初は“多面態”というタイトルではなかったんですが、「アルバムの表題曲があっていいかも」と思って、試しに当てはめてみたんですよね。そうしたら2番の“バツの悪い思いをして 四角く囚われた末 突き刺さるのは三角形”というフレーズとか、「多面体」というテーマから書きたいことがどんどん出てきて。ここまで来たら数字を当てはめようと思って“誤解されてしまったって”は5、“ろくでもないって言われたって”は6、“七転八倒繰り返して 苦渋を蹴散らせ”は、7、8、9、10。そうやって書いていくうちに、自分のこれからの覚悟や、目標に対しての決意を歌った曲になったと思います。
──この曲はアルバムの中でも、歌の表現力のギアが上がったのではないでしょうか。
Tani Yuuki:こんなに高いキーものは初めてだと思うので、これはライブでどうやって歌うんだろうと思いながら作りました(笑)。あからさまにコール&レスポンスを入れたのもこれが初めてだし、新しい面を見せられる曲だと思います。
■『多面態』Disc-2収録楽曲
──Disc2には『THE FIRST TAKE』で歌唱した「Myra」「W/X/Y」「愛言葉」の3曲とリミックスの3曲を収録。まず『THE FIRST TAKE』で歌った経験って、どういうものでしたか。
Tani Yuuki:やっぱりライブとも違った緊張感がありますね。最初の「Myra」は、自宅から音楽を届ける『THE HOME TAKE』なので、少し違いはあるんですけれど、ガチガチに緊張しました。でも、「W/X/Y」と「愛言葉」は体当たりでぶつかっても心配のないメンバーが増えて、ちゃんと仲間になれていた。いろいろ成長できたなということを、改めて感じますね。
▼Tani Yuuki – Myra / THE HOME TAKE
▼Tani Yuuki – W/X/Y / THE FIRST TAKE
▼Tani Yuuki – 愛言葉 / THE FIRST TAKE
──「W/X/Y」のリミックスについてはどうでしょうか?
Tani Yuuki: SNSでも最近よくリミックス音源などを見かけたりもするので、自分の楽曲でもカッコ良いリミックスを作ってもらいたくて、TikTokでよく観ていて、リミックスがカッコ良いと思っていたDuuyさんにお願いしました。Matt CabさんはAnlyちゃんの「カラノココロ」のMat Cab & MATZ Remixが衝撃的だったのでリクエストして、KMさんはスタッフに紹介してもらったんです。皆さん、カッコ良いリミックスを打ち返していただいたんで、お願いして良かったなと思っています。
▼W/X/Y (Matt Cab & MATZ Remix) – Tani Yuuki
▼W/X/Y (Duuy Remix) – Tani Yuuki
▼W/X/Y (KM Remix) – Tani Yuuki
──全曲いろいろとお話を訊かせていただきましたが、ライブが楽しみになるアルバムという感じもありますね。ツアーに向けてはいかがでしょう?
Tani Yuuki:アルバムとライブのタイトルが同じ“多面態”なので、その言葉どおり、いろんな面を見せていきたいです。お客さんたちにも楽しんでほしいし、さらに一体感のあるライブができたらなと思っています。
INTERVIEW & TEXT BY 柴 那典
PHOTO BY 北岡稔章(えるマネージメント)
HAIR & MAKE UP BY Chie(H.M.C)
STYLING BY 中瀬拓外
■楽曲リンク
2023.03.29 ON SALE
ALBUM『多面態』
ライブ情報
『Tani Yuuki Zepp Tour 2023 “多面態”』
04/06(木)愛知・Zepp Nagoya
04/14(金)福岡・Zepp Fukuoka
04/16(日)大阪・Zepp Namba
04/23(日)東京・Zepp Haneda
05/06(土)北海道・Zepp Sapporo
05/20(土)宮城・SENDAI GIGS
06/01(木)神奈川・KT Zepp Yokohama
プロフィール
たにゆうき/1998年11月9日生まれ、神奈川県・茅ヶ崎出身。作詞作曲、編曲、サウンドメイクを自身で行ない、ギターのみならずピアノも弾く。デジタルネイティブ世代が注目するシンガーソングライター。TikTokやYouTubeを中心に2015年8月から活動をスタート。2020年5月、 TikTokやYouTubeへ投稿した「Myra」がティーンから多くの支持を集め、自身初となった配信音源はストリーミング再生累計が1億を突破する大ヒット。「W/X/Y」はストリーミング総再生数4億回を突破し、「Billboard JAPAN Streaming Songs of the Year 2022」「オリコン年間ランキング 2022 ストリーミングランキング」でともに1位を記録。
Tani Yuuki OFFICIAL SITE
https://taniyuuki.com/