CHET GroupとMECREの共同プロジェクト『X Beyond -5055年の世界-』より、地上波放送アニメ制作プロジェクト『X Anime』がスタートした。第1弾は、「金木犀 feat.Ado」のイラストを手がけた気鋭のイラストレーター・世津田スンの一枚絵からインスピレーションを受けて誕生した全12話から成る5分完結のホラーアニメ『さみしいあなた』。6月から声優オーディション、お題に沿ってユーザーによる作品が生まれる「monogatary.com」で物語の公募、ボーカルオーディション、MECRE内のボーカル公募が同時進行する形で制作が進められた。作品に携わったボカロP・吐息、世津田スン、ツインボーカルのMINA、仝(ドウ)の4人は新たな発見に出会えたと振り返る。
■スンさんがアニメを担当されるのも、MECREで知ってすごく楽しみで
──吐息さんの書き下ろした今作の主題歌「さみしいあなた」のボーカリスト2名が公式から発表されたのは、昨年12月9日。一連の制作プロジェクトの時系列的には、いちばん最後になったと聞いています。
MINA:当時、オーディションを受ける際、吐息さんのボカロバージョンの楽曲を聴いた段階では、v flowerと歌愛ユキのボイスが入っていたのでデュエットになるのかな?と勝手に想像していました。ただ、その時点で、デュエットになることは一切聞かされていなかったんです。グランプリ受賞後に、ひとりでふたり分のレコーディングをすることになって、完成音源を聴いたときに初めて、仝さんという歌い手さんとのデュエット曲になることを知りました。
──仝さんが今回、MECRE内の『X Beyond Project』の募集に応募してみようと思った理由は?
仝:MECREを使っている知人が多かったので、自分もやってみようと思ったし、もともとスンさんと吐息さんのファンだったので、これはやるしかないみたいな気持ちで応募しました。スンさんがアニメを担当されるのも、MECREで知ってすごく楽しみで。
──おふたりがボーカリストとして抜擢されたときの心境はいかがでしたか。
MINA:合格発表は、まずはオーディションの公式LINEを通して知ることができてそのあとにSNSで正式に発表されると聞いていて。当然、当時は自分が受かるわけがないと思っていました。でも、届いたLINEのトーク画面に「最終合格者 MINA」と書かれていたので、そのとき周りにいたオーディションを支えてくれた方たちにその画面を見せたら、すごく喜んでくれて。その後SNSで「受かりました!」とも発表したときにはファンのみなさんも盛り上がってくれて、やっと受かったんだと実感することができましたね。ずっとふわふわしていて、時間が経って、大きな喜びに変わったというか。
仝:私は、好きな方々のコラボに舞い上がって応募したところがあったので、なによりもびっくりしました。完成音源を聴いてからやっと喜びの実感がわいた感じです。
──スンさんはこれまでアニメーションを制作されたことはありましたか?
世津田スン:一度、日本ハム株式会社のCMでアニメーションを制作したことはあります。僕が1カット描いたイラストをアニメーション動画制作会社の方が動かしてくれるという。ただ今回は、口パクの差分だったりとか、表情の差分だったりとかも全部自分で描いてきました。
──今回は、相当、労力も時間もかかったのではないでしょうか。
世津田スン:1話に約50枚のイラストを使うので、日割りすると大体1日約7枚のイラストを描かないといけないスケジュール感でした。これまでは1枚のイラストを描く際、僕は細かいところまですごく時間をかけることを大事にしてきました。でも、今回描いてみて、素人目から見て特に気付かれないレベルの玄人の頑張りはいらなかったんだ、と気付かされたんですよ。とにかくたくさん描いて早くあげる状況下で、いかに見てくれる人に不自然に思われないレベルに持っていけるかということに注視したので、これまでとはまったく別の描き方をする必要があって。自分の成長に大きく繋がった機会だったと思います。
──吐息さんは、MINAさんが参加されたボーカルオーディションの決勝の課題曲にもなった今作の主題歌「さみしいあなた」を制作されました。スンさんの一枚絵からインスピレーションを受けて曲を書くのも、最終的にその後あがってきたそれぞれの物語に合う形にするのも難しかったでしょう?
吐息:そうですね。ただ僕は、楽曲タイトルも含めて、怖いものに対する執着をあまり細かく書かずに少し距離を置いて制作することで、あとからどんな物語が来たとしても楽曲が物語に寄り添えるようにしました。
■たくさん集まった怖い話に対して寄り添う形に曲を作ることができていたのは、すごく良かった
──実際にあがってきたそれぞれの物語を読んでみていかがでしたか?
吐息:どんな人が読んでも、怖い話なんだと最初から伝わる物語になっていました。なので、たくさん集まった怖い話に対して寄り添う形に曲を作ることができていたのは、すごく良かったなと思っています。
──「背筋が凍る怖い話」をテーマに描かれたスンさんの一枚絵がもととなって、monogatary.com内でそれぞれの物語が生まれました。物語に昇華してもらうことを前提に、一枚絵で工夫したところというと?
世津田スン:ペンダントを描いてみたり、背中から幽霊を出してみたり、物語に変換しやすそうな一枚絵にすることを心がけました。実際にあがってきたそれぞれの物語を読んだら、ペンダントをあげてくれている作品、服から出ている幽霊を表現してくれている作品もあったので、僕の一枚絵をしっかり見てくれたんだと感動して。物書きさんはやっぱりすごいなと感心しました。
──ここまでしっかりホラー要素を含んだイラストを描いたのは今回が初めてですか?
世津田スン:昔はピアスがバチバチに開いていたり、刺青をガチガチに入れるイラストを描いたりしていて。別の種類の怖い表現をしていました。でも今は社会風刺的なテイストで、一般人の心に刺さるイラストに加えてかわいらしさだったり、かっこ良さだったり、ポップな風味を出している作風なんです。なので、あえて昔の怖いイラストを描いていたときの記憶を呼び起こしつつ、ポップでありながらもビビッドな色合いを持った今の作風に落とし込むことを意識しました。
──MINAさんと仝さんは、「さみしいあなた」を歌ってみて、意識されたところはありましたか?
MINA:オーディションを受ける時点では、自分の歌う楽曲がホラー作品の主題歌になることも知らなくて。吐息さんの楽曲を聴いてどういう物語なのかなと想像したときにいろんな感情が溢れている曲だと思いました。MINAは普段、「夢を掴むんだ」みたいなメッセージを持った曲とか、とくにロックな楽曲を歌うことが多くて、しっかりアクセントをつける歌い方をしているんです。でも今回の楽曲は全然違うテイストだったので、MINAの中でできるこの楽曲に寄り添った歌い方はどうしたらできるかをすごく追求して歌いました。それこそレコーディングのとき、ミックス師さんに「普段通りのロックな歌い方だと変だよ」と忠告を受けながらレコーディングしたりして(笑)。
仝:もともと、ポジティブな感情のイメージの曲より、ネガティブな感情をもとにした曲の方が自分としてはすごく歌いやすいし、表現の幅が広がるなと思っているところがあって。なので、今回の曲を聴いたときにも、マックスでこの負の感情を出そうと思って、とにかく自分の解釈に沿って歌いました。
──また、普段はキャスケットシンガーとしてレコーディング風景の実写MVを投稿しているMINAさんとボカロ曲の歌ってみた動画を投稿している仝さんの活動スタイルの違いも歌声に表れている気もします。
MINA:ライブでシンガー仲間とデュエットすることはあったんですけど、今回のように面識のない形でデュエットするのは初めてでした。仝さんが歌うとすごくパワフルな楽曲になるし、MINAが持っていないものをめちゃくちゃ持っていたので、刺激を受けました。全然違うふたりだからこそ味のある楽曲になったと思います。
仝:私はMINAさんがグランプリを受賞されたのを知ってからレコーディングに入ったこともあって、YouTubeに投稿されていた準決勝の時のMINAさんの歌唱動画でMINAさんの歌声を初めて聴いたんです。めちゃくちゃ綺麗で力強いMINAさんの歌声に寄りすぎるのも違うし、私ができるMINAさんと違うアピールポイントはどこだろう?とか、普段、ひとりでは考えないところまで考えるきっかけになりましたね。
──吐息さんがYouTubeに投稿されている動画は歌い手さんをフィーチャーしているものも多いです。今回の一連の制作も含めて、歌い手さん、イラストレーターさん、その他の分野のクリエイターさんと関わりながら、ひとつの作品を作ることでの醍醐味とはなんでしょうか。
吐息:今は、自分ひとりで動画を完成させられるボカロクリエイターの方たちが多くいて。僕も曲以外に動画も自分で制作することがあるんです。なかには絵まで自分で描いたり、アニメーションまで作ったりする人がいる。そうなると、もともと決まっているひとつの世界観をみんなに届ける感じにどうしてもなりやすくて。でも、ほかの分野のクリエイターさんに関わってもらうことで、良い意味で想定外なことが起こるというか。
──想定外なこと?
吐息:例えば歌い手さんにボカロの声を収録したデモ音源を送ったときに、ボカロには真っ直ぐに歌わせていたところを、歌い手さんが少し表情を変えて歌ってくれたりすることがあるんですね。僕はよく楽曲を作るとき、歌い手さんには自由に歌ってもらうように声かけするようにしていて。結果、想定外の音源が送られてきたときはそのままオッケーすることが多いんですよ。多くの人に広める上でもボカロ楽曲にはボカロ楽曲のいいところがあります。でも、人が歌うと、やっぱり届ける層が全然変わって広く行き渡っていくのも良い。自分が作った楽曲ではあるけど、当初、自分の頭にもなかったようなことが完成したときに見えてくるのが、すごく楽しいです。
■人に頼っていくなかで、さらに大きな目標を達成しようという目的を持って
──では、それぞれの作品を作り終えてのみなさんの感想を教えてください。
MINA:普段はMINAに合わせてオーダーをして曲を作ってもらうことが多いなかで、すでにある楽曲に自分を寄せていくのは、難しかったです。でも、自分に伸びしろがあることに気付かせてもらえたきっかけにもなったし、挑戦してみてとにかく楽しかったので、今後もこうした機会を掴めるように活動を頑張っていきたいなと思いました。
仝:私にできない歌い方だったり、表現をしているMINAさんと一緒に歌わせていただいたことで、大きな感動にも繋がったし、もともと憧れていたスンさん、吐息さんと一緒にひとつの作品を作ることができて、本当に光栄でした。
吐息:「さみしいあなた」は、デュエット曲、アニメの主題歌でもあったので、普段の活動と比べて、関わってくださる数、届く数の違いを改めて感じました。あとは、どこまで楽曲を噛み砕いて多くの人に届けられるかを考える機会にもなったので、個人的にもすごく貴重な経験になったと思っています。
世津田スン:僕は作品をまずはひとりで完結させるような制作の仕方をしてきたんです。でも今回、想像以上に忙しかったこともあって、海月いまりさん、栞音さんのお二方に背景デザインをお願いしました。あとは別の分野で、手が回らない部分を、僕のマネージャーのような立ち回りをしていただいている方にもお願いしたりして。これまで誰かに頼ることは、あまりしてこなかったんですけど、人に頼っていくなかで、さらに大きな目標を達成しようという目的を持ってこのお仕事ができたのは、僕にとっては前進だったなと思っていますね。
──人に頼ることの大切さも教えてくれるきっかけになった、と。
世津田スン:自分がやったことのない部分に対しては、しんどさを感じるし、やろうとしないことが多いじゃないですか。でも今回、良い意味でやったことのない部分を仕事として任せてもらえたので、意外と自分はこういうことができたんだな、と知らない自分の能力に気付けたりして。自信がさらに上乗せされたことで、今後の活動もすごく楽しみになっているし、皆さんと意味のある時間を一緒に過ごすことができたなと思ったので、とにかく感謝の気持ちでいっぱいです。
──今後はホラー要素の強いイラストも積極的に描かれていくのでしょうか?
世津田スン:実は最近、練習がてらにホラー要素のある作品を投稿していたら、フォロワーさんが減っちゃったんですよ(笑)。シンプルにネガティブな印象が強いだけで、ポジティブな部分があまり目立たないイラストになってしまっていたのが原因だと個人的には思っていて。なので、今は、例えばめちゃめちゃかわいい女の子の裏の顔をすごく怖いものにしたり。ポジティブな要素も合わせてホラーを描くことを練習しています(笑)。
──3月31日には最終話が放送されますが、アニメ「さみしいあなた」を楽しむうえでの注目ポイントがあれば教えてください。
吐息:僕は、スンさんと背景デザインを担当された方々が作ったアニメ、声優さん、仝さんとMINAさんのボーカルに寄り添うように「さみしいあなた」を作ったので、自分以外に注目して楽曲を聴いてほしいと思っています。
世津田スン:1週間ごとに1話ずつ放送されるんですけど、1話から最終話までのクオリティの変化に注目してほしいですね(笑)。漫画家でも1巻から十何巻後には絵柄が全然違っているみたいなことがあるんですけど、あの変化が12話間で楽しめるんじゃないかと個人的には思っています。あと、MVも回ごとに色反転が使われたり、違いがあるそうなのでそこも楽しんでもらえるとうれしいです。
■各回ごとの話を見た後で主題歌を聴くと感じることが違ったりすることがよくあって
──最後は、ボーカルのおふたりを代表してMINAさん、お願いします。
MINA:ボーカルを担当した身としては、「さみしいあなた」のボカロバージョンとシンガーバージョンの聴き比べも、楽しんでいただきたいですね。私はアニメが好きでよく観るんですけど、各回ごとの話を見た後で主題歌を聴くと感じることが違ったりすることがよくあって。それをこのアニメでも感じ取ることができると思うので、毎話のエンディングも最後まで見てもらえるとすごくうれしいです。
INTERVIEW & TEXT BY 小町碧音
楽曲リンク
リリース情報
2023.1.25 ON SALE
DIGITAL SINGLE「さみしいあなた」仝×MINA
プロフィール
吐息.
映像クリエイター、ボカロP。2020年にYouTubeチャンネルを開設、デビュー曲「ANEMONE feat.Ado」を公開し話題に。ボカロ作品に留まらず、「生きる feat.arh」や「ねぇ、ダリア feat.相沢」「ありふれて花束 feat.菅原 圭」など話題のシンガーとコラボしている。
https://twitter.com/vf_ie0
世津田スン
イラスト作家になる以前は17年の野球歴を持ち、実業団チームに所属していた。24歳で野球を引退し、同時に14歳からの趣味であるイラストレーションでイラスト作家として独立した。独学で学んだ心理学などの学術的知識を元に、見る側の心に刺さる作風を意図的に作成し、SNSを中心に活動イラストのみならず、微写体モデルや講演会など、知識と経験を活かした他分野への活動の幅も広げている。
https://twitter.com/cojp35176498
MINA
X Animeシンガオーディショングランプリ。約3000人の応募の中から見事勝ち取った実力派シンガー。キャスケットをかぶりながら歌うその姿は目にも耳にも残る。
https://twitter.com/Go_mina_Way2
仝(ドウ)
クリエイターのプラットフォームMECREの募集から見事チャンスをつかんだ歌い手。 読み方は(ドウ)。楽曲によって様々な表現ができる個性派シンガー。
https://twitter.com/Cu_do3
X Anime「さみしいあなた」-OFFICIAL-
https://twitter.com/xanime_xxx
https://www.youtube.com/@xanime_Official
MECRE
「MECRE」は、”昨日初めて作品を発表した人も、1,000万回再生動画の主も、フラットに出逢い新しい創作活動ができる場所”をテーマとし、各クリエイター・アーティストは自身の ポートフォリオページを制作したうえで、自らの新しい創作にあたって必要なパートナーを自由 に募集することが できるサービス。また、クリエイター・アーティストにとっての新しいビ ジネスポイントや、活動の幅を広げる様々な機会を提供・サポートする機能も持つ。
https://mecre.net/