昨年2月にデビュー20周年イヤーを締めくくり、武道館公演を含む精力的なライブ活動を継続しているCHEMISTRYが、origami PRODUCTIONSとのリメイクプロジェクトやベスト盤のリリースを挟み、シングルとしては、実に3年半ぶりとなる通算39枚目のニューシングル「スパロウズ」をリリースした。
松尾潔が作詞とトータルプロデュースを務め、作曲を「You Go Your Way」を手掛けた豊島吉宏が担当した表題曲は、日本レコード大賞で初の大賞を受賞した5人組アーティスト・Da-iCEのツインボーカル、大野雄大と花村想太を迎えたコラボレーション曲となっている。かねてよりミュージカルでの共演やソロ楽曲への参加などで交流のあったという2組による世代を超えたコラボレーションが実現した経緯を細かく聞いた。
■(対バンで)距離がよりぐっと近づいた感じがあった
──Da-iCEとコラボすることになった経緯から聞かせてください。
川畑要(以下、川畑):僕はソロ活動しているときにDa-iCEと同じステージに上がったことがあって、みんなと飲んだこともあったんですよ。そこで雄大と仲良くなって、雄大のソロ作品に呼んでもらったり、堂珍は舞台で想太くんと共演していたりとか、それぞれに交流があって。もともと、僕らのことをリスペクトしてくれているっていうのはずっと前から知っていて。あとは、対バンライブに呼んでくれたことがいちばんでかったですね。僕らはそんなに対バンをやるタイプでもないけど、Da-iCE側から呼んでいただいて絶対やりたいって思って。そこで、距離がよりぐっと近づいた感じがあって、この流れになりました。
──コラボに至るまでの流れをひとつずつ聞いてもいいですか。まず、2019年4月にリリースされた大野雄大さんのソロアルバム『この道の先に』の収録された「Changin’」に、川畑さんがフィーチャリングボーカルとして参加してます。
川畑:あれが最初ですね。雄大からオファーをもらって。ケミファンだっていうのも知ってたし、雄大も言葉にしてくれてたし、作家さんがケミもやってる谷口尚久さん(「Wings of Words」「空の奇跡」ほか)で、ぜひ一緒に歌ってもらいたいですっていう流れで制作が始まって。僕はソロではいろんな方と歌ってきましたけど、雄大はやっぱりリスペクトの思いを強く感じましたね。僕が先にレコーディングしたんですけど、雄大は「自分のヘッドフォンから川畑さんの声が聞こえてくるのがすごくうれしい」って言ってくれて。やれてよかったなって素直に思いましたね。
──その後、2020年にブロードウェイミュージカル「RENT」で堂珍さんが花村さんと共演されてます。
堂珍嘉邦(以下、堂珍):グループの存在は知ってたんですけども、舞台で一緒になるまでは詳しくは知らなくて。でも、マークとロジャーという非常に関係性の濃い友達の役だったので、コミュニケーションをどんどん取っていかなきゃいけないなって感じてたんですね。最初は「アニメ声だね」「よく言われるんです」みたいな会話から始まったんですけど、稽古の中で、悩みも含めていろいろ話をしてみたらすごく真面目な人なんだなって感じて。打ち上げに行ってダラダラ話すというタイプでもなく、仕事が終わったら、丁寧に挨拶して帰っていくし、プロ意識の高さを感じてましたね。
──当時、おふたりがテレビの音楽番組に出て、Da-iCEを褒めてるシーンを拝見してました。
堂珍:想太はすごい華があるんです。よく言われるハイトーンだけではなく、質感ですよね。歌ったときにパッと顔が思い浮かぶんですよ。雄大くんの方は包容力があるというか、温かみがある。ルーツにソウルの風味があるのもいいし、4人で歌ったら面白いんじゃないかなって思ってましたね。
──そして、Da-iCEの全国ホール対バンツアー『Da-iCE TWO MAN LIVE TOUR 2022 -REVERSi-』が2022年5月1日に新潟テルサで開催されてます。
川畑:僕らが先にライブして、そのあとのDa-iCEのライブを袖でずっと見てました。彼らはMCでも、僕らのことをすごく良く言ってくれるんですよ。あれ、本心で言ってるのか、誰かに言わされてるのかはわからないですけど(笑)、「リスペクトしてます」って言ってくれて。なかなか照れくさくて言えなそうなことをしっかりと伝えてくれたのはうれしかったし、袖で見られたのは、ぐっときますよね。自分たちがやってきたことが、こうして下の世代の人たちにも届いているんだなっていうのは、ほんとにありがたいなっていう気持ちでしたね。
堂珍:想太はすごいかわいいところがあって、いきなり手の平を目の前に差し出して、「話してると緊張するんです」って手汗を見せてきたりとかして。“かわいいな、おい”って(笑)。すごく忙しそうだったし、スケジューリングが本当に大変そうだなっていうのも感じてましたけど、踊ってる姿も純粋で元気も良くて、ずっと袖でライブを見てました。
──翌月となる2022年6月にはDa-iCEのレギュラー番組にゲスト出演し、初のコラボ歌唱が実現しました。
川畑:「PIECES OF A DREAM」を4人で歌って。対バンのときは一緒に歌ってなかったので、それが初めてですかね。
堂珍:雄大くんが自分のスタイルで歌を歌ったので、ちょっとそれっぽく返したら、にこっと笑って。そういう音楽での会話もできたような時間でした。
川畑:本当に一緒にこの1曲を歌いたいみたいな思いが感じ取れてうれしかったですね。想太くんとは目が合ったけど、雄大の方はあまり目が合わなかった気がしますね。どうしたんだろう?って(笑)。
■「歌ってみた」のような感じで、今のこの時代だからこそ合うと思って。遊び心のひとつでもあった
──(笑)憧れの人とずっと聴いてきた曲を歌うんだから、かなり緊張してたんじゃないですか。2022年に行われたZepp Tour 2022『Get Together Again!!』ではDa-iCEの「CITRUS」をカバーしてますね。
川畑:実はそれぐらいからもうこのコラボプロジェクトは動き出してましたね。匂わせ感もありながら、リスペクト感もありながら。なんか面白いじゃないすか。それこそ「歌ってみた」のような感じで、今のこの時代だからこそ合うと思って。遊び心のひとつでもあったし。
堂珍:でも、キーが高くて大変でした。あれを何回もテレビで歌ってるのを見て、“うわー、大変だな”って思ってましたが、まさか我々もライブで歌うとは。
──少し飛びますけど、2023年2月9日に放送されたNHK『SONGS』で「スパロウズ」をテレビ初披露したことも話題になりました。
川畑:あの番組自体、反響が大きかったですね。デビューしてからの20数年を振り返るっていうのもなかなかなかったし、僕らの代表曲から最新のDa-iCEとのコラボ曲まで披露できて。「懐かしかった」とか、「いい番組だったね」とか。
堂珍:特集を組んでいただけたことがとってもありがたいことですし、Da-iCEとの「スパロウズ」だけじゃなくて、ケミストリーの曲を4曲、歌わせてもらって。改めて、「良かった」という声をたくさんもらいましたね。
──CHEMISTRYにとっては、Da-iCEはどんなグループに見えてますか。
川畑:今のグループ。現代のグループというか。弟みたいなグループとはまた違うんですよね。
──例えば、Da-iCEにとってのCHEMISTRYのような存在というと?
川畑:久保田(利伸)さんとか。
堂珍:僕はDa-iCEの「CITRUS」をライブで歌ったときに、スクープ(Skoop On Somebody)さんの顔が浮かびましたね。7枚目のシングル「My Gift To You」はスクープさんがうちらに提供してくれて、その後、ご自身でセルフカバーされて。
川畑:スクープさんが1997年で、俺らが2001年で、Da-ICEが2014年にメジャーデビューか。「CITRUS」までは意外と時間がかかったんですよね。でも、アニメ『ONE PIECE』のオープニングテーマ「DREAMIN’ ON」(2020年8月リリースのDa-iCE 18thシングル)あたりですごい活躍しているのも知っていましたし。上からとかじゃなく、そういう姿を見るのはうれしいですし、これからも楽しみだなって思いますね。
──そんなDa-iCEとのコラボ曲の制作はどう進めていったんですか。
川畑:松尾潔さんにプロデューサーとして入っていただいて。Da-iCEがCHEMISTRYの初期の作品を愛聴してくれているということだったので、初期の楽曲の中から「You Go Your Way」みたいな曲が良いんじゃないかって。そこから制作に入って、仮の状態から何回か確認させてもらって。最初のデモからは結構、変化しましたね。僕たちからもいろいろと相談させてもらって、意見を言わせてもらいながら進めていった感じですね。
堂珍:「You Go Your Way」を手掛けた豊島さんにミディアムバラードを書いてもらって。レコーディングのときに「すごくいい曲ですね」って言ってくれたから、松尾さんもうれしかったんじゃないかな。
堂珍:現場で直接、松尾さんに「Da-iCEにも曲を書いてください」って言ってましたね。
■4人で歌うことで、4つのストーリーが生まれる
──(笑)その場でお願いできるのがすごいですね。松尾さんとは何か話しましたか。
川畑:「You Go Your Way」の続編というか、続きのようなワードですよね。テイストや世界観は全然違うし、かなり今をしっかり幸せに生きてる感じが出てる。そういう部分では、この曲はこの曲として、単体で聴けるけど、「You Go Your Way」は自分たちの経験してきたことを話した後に出来た曲だったので、個人としては、そんなことも思い出して。当時の記憶が鮮明にあるし、昔、出会ってきた人たちは今、何やってるのかな?って思う節もあるし。だから、意外とリアルでもあるんですけど、4人で歌うことで、4つのストーリーが生まれるじゃないですか。それぞれ、みんな解釈の仕方や角度は違うので、この4人の歌声が重なるものを聴いてもらいたいなっていう思いが強かったですね。
──今のお話を聞くと歌詞にある“あのころ 僕らが 描いていた未来図”や“ずっとあの日の続きの/今日を生きている”というフレーズがより胸に沁みます。
堂珍:まあ、僕ら的に、自分がCHEMISTRYであるっていうところで言うと、再始動してからは続きってことになりますよね。松尾さんの話を聞いていくなかで、“スパロウ”というのは、雀っていう意味で、カラスやトンビ、ワシがいる鳥界ではいちばん弱い存在なんですよね。弱き者がちょっと健気に前を向いて歩いていくっていう描写において、雀に人生を重ねていて。過去を振り返って、ちょっとしたきっかけや出会い、タイミングがもし少しでもずれていたら、自分の未来は違っていたのかもしれない。でも、今は自分の歩いてきた道や出会った人たちのことを噛み締めて、前向いて歩いていこうっていう。弱き者というか、名もなき存在が空に羽ばたいていくっていう前向きなところが共感を生むんじゃないかなって思いますね。
■Da-iCEの2人の存在感がさらなる色を付けてくれたような気はします
──レコーディングはいかがでしたか。2人じゃなく、4人で声を重ねてみて感じたことは何かありますか。
川畑:僕はいちばん最初にレコーディングしたんで、まだ誰の声もなかったんですよね。土台みたいになっちゃうんので、すごく考えましたね。でも、みんなの声は頭にあるんで、それぞれの声を想像はしながら歌いましたし、やっぱり世界観は広がりますよね。ここの2人でも同じ点は捉えていても、違う点もあるわけじゃないですか。今、堂珍が話してたように、雄大と想太君の2人がどんな感じに思ってるのかを聞きたくなるくらい。出来上がった曲を聴いてても、いろんなテイストに切り替わるので、声の表情が変化があって、いいなって思いましたね。
堂珍:想太と雄大くんって、ボーカルとしてのうちらの関係性として似てるって感じてて。2人で歌ってたらどうなってたかなって思うと、きっとそれなりには歌ってたと思うんですけど、Da-iCEの2人の存在感がさらなる色を付けてくれたような気はしますかね。
──ミュージックビデオも公開されました。
堂珍:ちょっと無機質な空間に天井から四本のマイクがあって、そこでお互いに外を向いて円形になってて歌うところから始まって。あとは、壁にスポットの照明当てて、それぞれが和気あいあいとしてるシーンもあったりっていう。基本的には歌を伝えるっていうところかな。
川畑:そうだね。物語というよりは、やっぱり4人のボーカルっていうところにフォーカスしてる。
堂珍:それぞれのヒューマン感が映像に滲み出てると思うので、そういうのを楽しんでもらえたらいいなと思います。いわゆるストーリー仕立てとかではなくて。いい意味で脚色せず、シンプルに歌の言葉に思いを乗っけてる4人の佇まいを楽しんでもらえたらいいかなって感じですね。
──撮影の裏側では何かありましたか。
川畑:事件はないですけど、(時間が)巻きましたね。
堂珍:それは事件だ!
川畑:あははは。どれだけ巻けるかっていうところにこだわってました。
堂珍:和気あいあいと話しながらね。複雑な合成とかも特になかったので。もう粛々と撮っていくっていう感じ。
川畑:3時間切れなかったのが悔しかったですが、2時間50分くらいは巻きましたね。すごいですよ。これが、スパロウズです!
■Da-iCEのファンもCHEMISTRYのファンもどっちも喜んでくれることがいちばんうれしい
──(笑)世代を超えたコラボを終えた感想も聞かせてください。
川畑:『SONGS』では“ケミ愛”って言ってもらいましたけど、Da-iCEだけじゃなく、他にもいろんなジャンルでケミ愛を持っている方ってきっといるのかなと思ってて。今回のコラボをきっかけにして、この先の可能性も見えたなって思いました。もちろん、2人の新曲を出したい気持ちもありますけど、自分たちもワクワクできるようなことも大事かなって思ってて。またこれが続いていったらすごく面白いなと思いますね。
堂珍:僕は、これ、世代超えてるんですかねって思っちゃうんですよね。もちろん年齢でいうと世代は違うかもしれませんが、CHEMISTRYの音楽を聴いてくれてた人たちと一緒にやれた、そういう意味であんまり時の流れは感じていなくて。だからこそあの歌の中で、自分はあんまり前に出ずに4人対等に歌いました。この曲を聴いてDa-iCEのファンもCHEMISTRYのファンもどっちも喜んでくれることが僕にとってはいちばんうれしいですね。
──先ほど、2人の新曲という話も出ましたが、シングルのカップリングには新曲「akatsuki」が収録されています。
川畑:どんな曲をやりたいかっていう話したときに、“シティポップ”っていうワードが出てきて。竹内まりやさんの「プラスティック・ラブ」をライブでカバーしたり、僕は個人的にも好きだったりして。2人であのテイストをやることはなかなかないし、20代後半~30代の今のアーティストたちがやってるイメージもあるし、時代が巡って、オシャレでもありながら歌謡曲でもあるようなものを僕らがやったら面白いんじゃないかっていうところから始まって。結果、2人で歌ってみるとケミになるっていう。ポップスというサウンドがきたとしてもケミらしくなんるんだなって再確認したし、ライブでも楽しめるような1曲になったかなって。
堂珍:クリーンなギターとか、シティポップのエッセンスは入ってるけども、ビートがあるし、ちょっとミラーボールが見えるようなサウンドになってて。グルーヴもあるし、ライブでも盛り上がれるような曲にもなってますね。
──松尾さんの歌詞はどう捉えましたか。
川畑:「スパロウズ」ほど物語っていう感じではなく、日常の1日というか。あんまりそこは深く考えず、楽しんで歌っちゃいましたね。
堂珍:最後の“愛の神話の始まりさ”っていう、ある意味、くさいフレーズがこの曲の個性なのかなっていうところから紐解いていって。自分なりに解読した結果、松尾さんに「これ、今の世の中のことを歌ってますよね」って聞いたら、「よく気付いてくれた」って言われて。要は…ラブ&ピースな曲になったかなと思います。
■自分たちが大切にしているCHEMISTRYの部分は守りつつ、どんどん壊して、新しいこともしていきたい
──39枚目のシングルとしてリリースされる前日にはデビュー22周年の記念日を迎え、ここから23年目に突入していきます。
川畑:この先はどうなるかまだわからないけど、ライブはコンスタントにやっていきたいし、今回のきっかけを、可能性を、僕は広げていきたいなって。そういう一つひとつやっていくことで、先が見えてくるんじゃないのかなって思います。例えば、音楽だけじゃなく、絵とかでもいいと思うんですよ。僕は視覚も大事だと思って。ただ歌ってるだけではなく、見て楽しむことも大事だし、それがエンターテイメントだと思うので、そういったことをやっていったら面白いんじゃないかって。
堂珍:自分たちが大切にしているCHEMISTRYの部分は守りつつ、どんどん壊して、新しいこともしていきたい。CHEMISTRYがコラボするならこういう形になるっていう新しいものを求めたいし、そういう新陳代謝をしていきたいですね。
PHOTO BY 大橋祐希
楽曲リンク
リリース情報
2023.3.8 ON SALE
DIGITAL SINGLE「スパロウズ」(CHEMISTRY × Da-iCE)
ライブ情報
『billboard classics CHEMISTRY Premium Symphonic Concert 2023- Encore-』
4/22(土)東京都 東京文化会館
5/2(火)兵庫県 兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール
プロフィール
CHEMISTRY
ケミストリー/堂珍嘉邦、川畑要によるヴォーカルデュオ。オーディションバラエティ番組『ASAYAN』の男子ボーカリストオーディションで約2万人の候補者の中から選ばれ、2001年3月にシングル「PIECES OF A DREAM」でメジャーデビュー。CD総売上枚数は1,800万枚を誇る。2012年に活動を休止し、ソロ活動に重きをおく。2017年に活動を再開。2021年にデビュー20周年を迎え、アニバーサリーツアーを敢行するほか、代表曲のリメイクを配信リリース。3月8日に、2023年第一弾シングルであり、約3年半ぶりの発表となる39枚目のシングル「スパロウズ」をリリース。
CHEMISTRY OFFICIAL SITE
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