デビュー10周年のアニバーサリーイヤーに初の横浜アリーナ公演を行うなど、様々なことに挑戦し、新たな扉を開いてきた藍井エイルが、4年ぶりとなるニューアルバム『KALEIDOSCOPE』をリリースした。“日々のかけら”と題した前作『FRAGMENT』以降にリリースしてきた8枚のシングルが収録された通算5枚目のアルバムは“万華鏡”のようにカラフルなアルバムとなった。エイルが「ほぼベスト」と胸を張る本作について、中村未来(Co shu Nie)や須田景凪(ex.バルーン)とコラボした新曲を中心に語ってもらった。
*Co shu Nieの「o」は、ウムラウト付きが正式表記
■ダークなところから明るくハッピーに終わる曲が好き
──アルバムの制作はいつぐらいから始まったんですか。
アルバムの制作は…8曲がシングルなので、ほとんどしてないです(笑)。
──(笑)インタールードを除くと、アルバムの新曲が4曲入ってますので、今回は新曲についてお伺いしたいなと思います。まず、4曲目「ANSWER」は、n-buna(ヨルシカ)提供の23枚目シングル「心臓」やエイルさんが作詞を手がけた18枚目のシングル「I will…」と同じく『ソードアート・オンライン』シリーズのアプリゲームの主題歌になってます。
そうです。作曲を手掛けてくれた篤志さんに作詞もお願いしたんですけれども、『ソードアート・オンライン』にぴったりな歌詞の内容になってるかなと思います。全体的にそう言えるんですけど、最初の“これ以上は/差し出すものは無い/何も譲れないよ”っていうフレーズがまさに「ソードアート・オンライン」の世界観かなというふうに思います。
──ご自身の心境と重なってるところはありますか?
私自身はこんなに強くない(笑)。ただ、わりとダークなところから明るくハッピーに終わる曲が好きだし、強い思いを歌うことも好き。“傷を負う様な展開で/憮然としてる様な僕じゃない”っていうちょっとマイナスワードから、守っていくんだって決意していく過程はすごくいいなと思いますね。
──「これが答えだ!」っていう意思の強さと真っ直ぐさを感じますよね。歌入れはどうでしたか。
最初に受け取ったときに“難しすぎる”って思いました(笑)。転調がすごく難しくて、ちょっと不思議な展開もあるので、なかなか覚えられなくて大変でしたね。あと、篤志さんの提案で、「ここは裏声で。ここは地声で」っていう細かい指示があって。しかも、何回も歌わされたんですよ。「そうじゃない。そうじゃない」って言われて。ライブでギターを弾いてもらってるときは(篤志さんは)ドMなのかなと思ってたんですけど、ドMなのかドSなのかよくわからない状態になりました。
──(笑)サビ頭の歌い方が印象でした。
ありがとうございます。結構力強い曲なので、サビはもっとガッツリ行こうと思って、がなりを入れてて。でもレコーディングとライブでは歌い方を変えていて、ライブでは普通に歌ってますね。
■生で歌っても本当に難しかった
──初披露が『東京ゲームショウ2022』でしたね。
生で歌っても本当に難しかったですね。特に“始めから決められていた/ここ以外に生きる場所は無い”から、2回目に出てくる“差し出すものは無い/何も譲れないよ”までブレスがないんですよ。そこがキツくてキツくて。ライブでは動きながら歌うのは難しい楽曲かなというふうに思いますね。
──そして、このヘヴィーでラウドなロックチューンのあとに、アニメ『カッコウの許嫁』の第2期EDテーマで、エイル史上最も温かくてかわいらしいカントリーバラード「HELLO HELLO HELLO」が入ってます。
ギャップがすごいですよね。実は2016年に『E』と『A』というベストアルバムを出したときに、スタッフさんと私で、「ガチャガチャしてて、聴いてて疲れるね」っていう話になって(笑)。なので、もうちょっと柔らかく、でも、激しくっていうような感じで作りましたね。2022年は私にとって、いろんなことに挑戦した1年だったんですけど、その中でも特に「HELLO HELLO HELLO」は自分でも誰?って思うぐらい、声を変えて歌ってて。意識しないとすぐ“藍井エイル”に戻っちゃうんですよね。ライブで普通に歌っちゃうときがあるので、途中で、“あ、やばい”と思って、戻ることがありますね。
■かわいらしい感じに全振りして歌わせてもらって
──(笑)テレビから流れてきたのを聴いたときは、最初はエイルさんだと思いませんでした。
ファンの方にも意外と気づかれてなかったですね(笑)。曲自体がかわいかったので、私もかわいらしい感じに全振りして歌わせてもらって。カントリー調も初めてだったし、新鮮で楽しかったですね。
──続く新曲「ロゼ」はボカロPのバルーンとしても知られる須田景凪さんの提供曲ですが、これも新鮮でした。ピアノとボーカルから始まって、ストリングスが入ってくるというバラードになってます。
私、バルーンがすごく好きで。スタッフさんと話し合って、「書いていただけないでしょうか」っていうお願いをしたら、書いていただけることになって。須田さんは「今までの藍井エイル像を壊す」っていう意味で書いてくださったみたいなんですね。
■強がりで、相手に言いたいことも言えないタイプなので、すごく共感
──そのテーマで書かれた曲を受け取ってどう感じましたか。
実は最初、今よりもキーがマイナス5のすごく低い曲だったんですよ。それをプラス5にして歌ったんですけど、須田さんは「エモーショナルに歌ってほしい」っていうふうに言ってて。「特にサビの部分で」とお願いされていたので、5〜6回ぐらいデモを録ってから、レコーディングしたんです。本当にサビでは叫びに近いような歌い方をして。何度も何度も歌い方を変えながら歌ってみたんですけど、私は歌詞がすごく好きですね。
──どう捉えましたか。
大切な人に伝えたいことがあったけど、結局は伝えられないままでもうお別れしてしまってる状態でいて。伝えられなくて後悔しているっていう歌詞になってます。私自身、強がりで、相手に言いたいことも言えないタイプなので、すごく共感しましたし、結構、切ない楽曲だなと思います。
──ちなに「ロゼ」というタイトルの意味は?
ロゼは人名なんですよ。
──そうなんですか!?エイル=青というイメージの逆で、フランス語のピンクとか、バラの意味かと思ってました。
バルーンさんからは、「ロゼ」か「余光(よこう)」のどっちがいいですか?って言われて。私は過去に「KASUMI」っていう曲を歌ったんですけど、それ以来、人名のようなタイトルがなかったので、もう一目散に「ロゼ」がいいっていうふうに言いました。だからこの歌詞の主人公、自分がロゼなんです。天才ですよね。
■私の人生のこれまでをたっぷり話した
──人名だとわかるとまた別の物語が想起されるような思いがします。そして、「Campanula」は、TVアニメ『15周年 コードギアス 反逆のルルーシュ』の第2オープニングテーマ「PHOENIX PRAYER」に続く、中村未来さんとのコラボになってます。
実は、「Campanula」が先にできて、「PHOENIX PRAYER」があとなんです。最初に、未来とどういう歌詞を書けばいいかについて電話で話して。未来は聞き上手で質問上手なので、結局、5時間くらい、私の人生のこれまでをたっぷり話したんですね。だから「Campanula」の冒頭の“駆け下りた フラフラと今にも転びそうな足で”でというのは過去の私のこと。“真暗 もう立っていられない/逃げなかったのは僕の宿命だから”っていうのもやっぱり歌に戻りたいっていう私の気持ちを描いてくれてて。
──体調不良で活動を休止した時期のことを歌ってるんですね。
そうですね。“君がいる今に繋がっているんだから”っていうのはやっぱりファンの方についてのことだったりします。
■自分が今まで生きてきた中で無駄なことはひとつもないと自信を持って言える
──そのあとにすべてのことが無駄じゃなかったと続きますね。
私自身、例えば、“タイムマシン”と“どこでもドア”のどちらかを選べと言われたら、“どこでもドア”のほうが欲しいんですね。“全てのこと無駄じゃないや”っていう歌詞は、わりと私のポリシーみたいなものなので、すごくしっくりきました。自分が今まで生きてきた中で無駄なことはひとつもないと自信を持って言えるし、そういう気持ちもくみ取ってくれてるなというふうに思いました。ただ、歌うのはめちゃくちゃ難しかったです。これ、カラオケに入って、誰か歌える人いるのかな?っていうぐらい難しいです。
──心の声が漏れる独白のようなかなり低いトーンから始まりますよね。
そうなんですよね。未来はレンジが広い曲を作ってくれるので、新しい藍井エイルを作ってくれるなというふうに思いました。未来はたぶん、私の声色だったりとか、いちばん気持ちよく響くところを考えながら作ってくれたと思うんですね。でも、やっぱりとにかく難しいので(笑)、レコーディングでは、インコのように未来に近づいて、「もう1回歌って。もう1回歌って」っていうふうにお願いして。時には未来がボーカルブースに入って、実際に試しに歌ってみてくれたりして。そういう直接的なアドバイスをくれるのはすごく特別ですよね。作家さんはレコーディングブースに入ることはないので。
──ボーカリスト同士だからこそできるやりとりですよね。
私ができないことも未来はできちゃうんです。「これできる?」ってやってみてくれるんですけど、できないこともあって。とにかく、すごい難しかったですけど、私はCo shu Nieの中村未来のファンでもあるので。最初にデモが送られてきたときに、“未来の声だ!”って感動して。そのデモはいまだに大切に保存してます。
■ファンの人がいるから私は頑張れるという内容
──未来さんとコラボした2曲はどんな関係になってますか。
「PHOENIX PRAYER」はもっと強かったかなと思います。「Campanula」は強さっていうよりは、弱さを前面に出している。だけど、ファンの人がいるから私は頑張れるっていう内容になってるんじゃないかなと思います。
──このタイトルの意味も聞いていいですか。
花言葉らしいんですけど、その花言葉の意味はいまだにわかっていなくて。未来に「“Campanula”って花言葉から?」って聞いたら、「そうだよ」っていうふうに言ってくれたんですけど、いろんな意味があって。感謝、切実な愛、共感、節操、思いを告げる…。どの意味かはちょっとわかってないんですけど、私としては“思いを告げる”が当てはまる気がしますね。“君がいる今に繋がっているんだから”っていうフレーズとも合うんじゃないかなと思います。
──エイルさんが歌詞を書いた日本工学院CMテーマソング「YeLL」でも思いを告げてますよね。“今から私の 手紙を読みます/恥ずかしがらずに聞いてくれるかな”から始まります。
そうですね。最初の歌詞、どうしようかなと思って。スタッフさんに「恥ずかしいのはエイルなんじゃないの?」って言われたんですけど、親ってちょっと照れるじゃないですか。だからこそ、“恥ずかしがらずに聞いてくれるかな”にしたんですけど。
■いろんな人からの愛情をもらって、ここまで来た
──娘から親への手紙なんですね。
はい。私自身、ずっと歌手を目指していたんですけど、なかなか叶わなくて。でも、うちの父親は応援してくれてたんですよね。それを思い出しながら書きました。私は昔、よく泣いてたりしていたし、今は人見知りもひどかったりするけど、いろんな人からの愛情をもらって、ここまで来たよっていう。自分でお気に入りの歌詞は“ねぇ 誰にも言えなかった夢に/今夜 近付こうと決めた”っていうところ。私はずっと、“どうせ無理だよ”とか、“歌手になりたいとか、何言ってんの?”って言われてきて。大人になればなるほど言えなくなっていたし、当時、母親に「ソニーの名刺もらった!」って言ったら、「そんなのいくらでも作れるんだよ」って言われたりもして(笑)。本当にいろんな分岐点を超えて、ここまで来れたんだなっていうふうに思いましたね。
──応援してくれた親への感謝の気持ちを書きつつ、夢を追いかける人を励ます応援歌になってるんですね。
まさにそうですね。タイトルも「エール」と「エイル」をかけてて。「YeLL」なので、eだけ小文字にしました。
■初めてディレクションを私がやりました
──それは気づかなかった!また、中盤に合唱も入ってますよね。
はい。“ずっと頑張ってきた”“負けないでね”“ずっと見守ってる”とか。スタッフさんを呼び集めて、歌ってくださいってお願いして。初めてディレクションを私がやりました。ただ、みんな歌がうますぎて、もうちょい音程を外してほしいと思いました(笑)。この合唱パートを作ったのは、ライブでギターを弾いてくれている新井(弘毅)さんの提案。今はコロナ禍だから歌えないけど、いつかコロナ禍が終わったときにみんなで合唱できるんじゃないかなっていう願いも込めてますね。
──11月に開催した初の横浜アリーナライブでも披露してましたね。
ダンサーさんたちがすごい練習をしてくれて。みなさんが大きく動いてくれたおかげで、すごく華やかなライブになったかなって思ってます。
──エイルさんはトロッコに乗ってました。
ワンマンでは初のトロッコでしたね。トロッコ初心者すぎて、スタンドばかりを見てしまい、アリーナのことが全然見えてなくて(笑)。SNSで検索したら、「エイルはトロッコに慣れてないから、アリーナを全然見てくれなかった」っていうふうに言われてました。慣れていきたいなと思います(笑)。あと、私が「YeLL」「HELLO HELLO HELLO」を歌った後に、「皆さんのお見送りをお願いします。拍手をお願いします」って言うはずだったんですけど、「皆さんのお出迎えをしてください。拍手をお願いします」って言ってしまって…。そのまま、ダンサーさんたちがはけてっちゃうっていう謎の現象が起きて。あれはいまだに心残りですね。
■ほぼベストだなと思いました(笑)
──あはははは。この曲にはボーカルチョップも入ってるので、それも本作のカラフルさのひとつになってるなと感じました。アルバムが完成してご自身ではどんな感想を抱きましたか。
ほぼベストだなと思いました(笑)。ほぼベストの中で新しい曲を4曲入れさせてもらって。ライブに来てくれた人はわかると思うんですけど、実は“不思議の国のアリス”感のあるSEを入れてもらってて。
──Eir Aoi 10th Anniversary Live 2022『KALEIDOSCOPE History of 2011-2022』のオープニングで流れていたSEと一緒ですか?
そうです。前作『FRAGMENT』のときはSEを入れなかったんですけど、それまではずっとやっていて。あのライブで使ったSEがすごく気に入ってて。扉が開いた感じもしていいなと思って、このアルバムの最初にも入れました。
■とても色鮮やかなアルバムになった
──ライブのタイトルがすでに『KALEIDOSCOPE』になってましたよね。
アルバムの伏線みたいな感じですね。私にとって2022年はチャレンジに特化した年で、いろんなジャンルの曲が多かったので、それを万華鏡に例えて、『KALEIDOSCOPE』にしようと思って。とても色鮮やかなアルバムになったんじゃないかなと思います。
──青のイメージが強かった藍井エイルが色鮮やかになっていくことはどう感じてますか?
特に抵抗はなくて。純粋に藍井エイルのいろんな表情を楽しんでほしいなっていうふうに思ってますね。
──また、ライブは、ひとりぼっちで女王様の不思議なパイを食べて、『KALEIDOSCOPE』の世界に閉じ込めて、迷い込ませるというストーリー仕立てにもなってました。
『不思議の国のアリス』的な世界観がモチーフになってて。実はアルバムのフォトブックでも同じテーマで撮影してるんですね(と話しながら、撮ったばかりの写真を少し見せてくれる)」
──あ!おでこを出してるじゃないですか!?
あはははは。初おでこです。今まではNGにしてたんですけど、ビジュアルでも挑戦したいし、いろんな藍井エイルを見せることができたらいいなと思ってて。このビジュアルはベストアルバムと同じ人が作ってくれてて。ベストアルバムは結構、グロかったんですよ。体からクリスタルが出てたりしてたんですけど、今回は『KALEIDOSCOPE』なので、全然違って、華やかな感じにしてもらって。ぱっと見はわからないかもしれないけど、毎回、メイクを変えながら、いろいろな写真を撮っているので、フォトブックも楽しみにしてほしいですし、『KALEIDOSCOPE』の世界観に浸ってほしいなと思いますね。
■マイペースに自分らしく、健やかに
──このアルバムから2013年始まりますが、どんな一年にしたいですか。
今まで駆け抜け過ぎてたので、マイペースで行きたいなと思います。自分の体調管理をしっかりしないとファンの人が悲しい気持ちになってしまうので、マイペースに自分らしく、健やかにいこうかなと思います!
INTERVIEW & TEXT BY 永堀アツオ
PHOTO BY 大橋祐希
楽曲リンク
リリース情報
2023.1.11 ON SALE
ALBUM『KALEIDOSCOPE』
プロフィール
藍井エイル
アオイエイル/動画サイトへの投稿をきっかけに、2011年10月TVアニメ「Fate/Zero」のEDテーマ「MEMORIA」でメジャーデビュー。その後、「機動戦士ガンダムAGE」、「ソードアート・オンライン」、「キルラキル」など多くの人気作品アニメの主題歌を担当。2016年11月、体調不良により活動休止を発表し日本武道館でのライブを2日間敢行し、休養期間に入る。2018年2月、発声障害などを克服し活動再開を発表、自身4回目となる日本武道館公演を敢行、超満員の中で全20曲を熱唱し完全復活を果たした。2022年11月13日、自身初のアリーナ公演となる横浜アリーナでのライブを開催。
藍井エイルOFFICIAL SITE
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