菅原圭(すがわらけい)と春野(はるの)、ネット発の次世代アーティスト2組による対談インタビュー。
かねてよりお互いの音楽に惹かれ、リアルでも交流のある2組が、いかにして出会い、親交を深めていったのか。
そして、実は正反対なキャラクターだからこそ面白いコラボになったという「celeste feat.春野」について、熱いトークを繰り広げる。
▼菅原圭 – celeste feat. 春野 (Official Video)
■菅原圭と春野の出会い
──菅原圭さん、春野さんはどのように出会ったのですか?
菅原圭:かなり昔にインターネット内の共通のコミュニティで知り合いました。ただ、当時はひと言ふた言コミュニティ内で話したことあるかな? くらいで。それが2〜3年前にたまたま共通の仲間を通じて、ネット内で再会したんです。
春野:でも、お互い確信を持てず、かつどれだけ近づいていいのか距離感をはかっていたところもあったので「あのコミュニティにいた春野さんですか?」「菅原さんですか?」と、恐る恐る昔話を投げてね(笑)。そこからよく話をするようになり、ご飯を食べに行くなどリアルでの親交も始まりました。
■真逆な音楽ルーツ
──ともにシンガーソングライターである、おふたりの音楽ルーツもうかがいたいです。
菅原:私はJ-POPですね。サザンオールスターズ、スピッツ、久保田利伸さんなど、親の影響で知った80年代・90年代の音楽がベースにあります。
春野:小・中学生の頃、毎週オリコンを買って、最新チャートをチェックしてCDショップに行く日々でした。音楽を作るようになってからは、海外の音楽もチェックし、ストリーミングの時代になってからは、特にアジアのヒップホップ、R&B、アメリカのチャートをよく聴いています。今の自分の音楽のルーツ的には、韓国のヒップホップやR&B、アジアのディープなR&Bですかね。だから、(菅原)圭とは被らないかも。
菅原:全然違うね! 私は音楽を作り始めてから、自分のルーツをどんどん遡っていて、中森明菜さんや山口百恵さん、オフコースを聴いています。
──日本の70年代の音楽まで攻めていると。
菅原:曲作りを始めたのがここ数年のことで、どんな曲を作りたいか考えた時、幼少期に親が車で流していた80年代・90年代の音楽が浮かぶんですね。
想像を掻き立てる歌詞や、琴線に触れるメロディ…自分が惹かれる部分を突き詰めていったほうが、もっと成長できるような気がして、最近は私が生まれる前の曲も積極的に聴いています。
春野:なるほど。僕は新しいものを追い求めていて、なんなら今週出た音楽を自分に取り込みたいタイプです。つねに新しいものから発想を得て、それをどう自分の音楽にできるか? を大事にしています。
■楽曲へのこだわり
──ルーツが違うと、楽曲へのこだわりにも違いがありそうですね。
菅原:自分はメロディラインと、歌い出しの言葉がどれだけ発しやすい言葉かを気にします。編曲をしないぶん、言葉とメロディラインが主な創作の場になるので。あと歌詞のドラマチックさ!
時代背景もあるんでしょうが、90年代・2000年代あたりの歌詞ってめちゃくちゃドラマチックなんですよ。
例えば、宇多田ヒカルさんの「Automatic」。“七回目のベルで/受話器を取った君/名前を言わなくても/声ですぐ分かってくれる”って、ふたりがどれだけ深い関係性なのかがわかる、めちゃめちゃ詩的で素敵な表現だなって思うんです。
そうしたロマンチックな表現にインスピレーションを受けて、まずキャッチコピー…歌詞のテーマを決めてから歌詞を書くことが多いです。
▼宇多田ヒカル – Automatic
春野:僕はまったく違いますね。基本的にトラックを先に作るので、編曲が出来てからメロディと歌詞を作っていくことが多いです。ただ、最近出してる「Angels」「U.F.O」は、ピアノ弾きながら出てきたメロディと歌詞をもとに作りました。最近自分の中での制作の順番が変わりつつありますね。
▼春野 – Angels (lyrics)
▼春野 – U.F.O MV
■菅原圭×春野がコラボに至るまで
──なるほど。では、新曲「celeste feat.春野」の話題に移りましょう。そもそも春野さんとのコラボは、どのようなきっかけで?
春野:僕がすごい「フライミ feat.PSYQUI」って曲を気に入って、「もし良かったら一緒にやろうよ!」って話をサラッとしたんです。圭がそれを真面目に考えてくれて、コラボの話を持ちかけてくれたんです。
▼菅原圭 – フライミ feat.PSYQUI (Official Video)
──菅原さんが作詞作曲、春野さんが編曲という形に決めたのは?
菅原:私は春野さんの音楽の大ファンで。自分で書いた曲に呼ぶのか、書き下ろしてもらうのか…どうオファーするか悩みましたが、最終的には大好きなアーティストを呼ぶからこそ、自分のメロディラインと歌詞への春野さんのアプローチを見てみたいなと。
それで、春野さんとやるための曲を2曲書き下ろして、歌と編曲をお願いしました。そこから「celeste」が良いってことになったものの…春野さんの作業が煮詰まっているように感じたので、もう一曲お渡ししました。計3曲、春野コンペみたいでしたね(笑)。
春野:手ごたえ的には最初から「celeste」にあったから、制作過程で僕自身のハードルもどんどん高くなっていったんですよ。元々デモをもらったのが1年半くらい前なんですけど、その間に圭がルーキーの人気者になってきたり、彼女のこの曲への意気込みも感じていたので、これは絶対良い曲を作らなきゃ! と、気づけば勝手に煮詰まっちゃって、なかなかアレンジが進まない時期がありました。最終的にトラックは、圭がやったことのないだろうアプローチのサグい(ギャング風のワルっぽい雰囲気)アレンジになりましたね。
■「celeste feat.春野」で表現した、揺るがない愛
──「celeste feat.春野」は、どのようなテーマで作った曲ですか?
菅原:この曲は映画『シェイプ・オブ・ウォーター』からインスピレーションを受けて歌詞を書きました。メロディラインも、ゆったりめで静かなんだけど、少し激しいところもあるっていう気持ちの浮き沈みを書きました。
──恋人への複雑な思いを吐露するような印象を受ける歌詞でしたが、映画のイメージをどのように落とし込んでいったのですか。
菅原:『シェイプ・オブ・ウォーター』は、言葉を発することができない女性と人魚みたいな地球外生命体の禁断の恋愛を描いている映画で、お互い言葉のやりとりはないものの“好き”って気持ちは伝わっているんですね。だけど、深い話し合いまではできない間柄というか。
言葉でのコミュニケーションがなくてもふたりは心を通わせ、愛し合い、ただ幸せになりたいと願うものの、その境遇からまわりから非難されるんですね。そうしたふたりの世界と社会の相容れない感じを、身近に当てはまるものをプラスしながら掘り下げて歌詞にしました。歌詞としては片方の心情なんですけど、いろんな受け取り方をしていただけたらうれしいです。
──歌のレコーディングはどのように?
菅原:一緒に録りました。も〜緊張しまくりでした(笑)。好きなアーティストに自分の歌詞をまじまじと見られて歌ってもらう緊張感はヤバいです。冷や汗かきながらのレコーディングでした。
■春野が語る、菅原圭の歌詞の強み
──ちょっと歌詞で聞きたいんですが、“二番混じる”は何の二番ですか?
菅原:曲の一番、二番の“二番”ですね。一番を歌ってるつもりが「それ二番だよ」って友達に言われたことがあって。どっちが先か後かわからなくなってくる…みたいな感覚です。
──感情のループを表現したわけですね。
菅原:そうです。今どこを走ってるのか? みたいな。
──もうひとつ、“レコードに残そうよ”とありますが、なぜレコードなのですか?
菅原:私の中のイメージで、レコードはその場にいる人の肉声を盤に刻んでる感覚があるんです。電子機器じゃない、生々しく刻まれたものがレコードなんじゃないかなって。
人って、誰にも見せたくないけど残しておきたいことってあると思うんですよ。自分の内に秘めておきたいけど、消えてなかったことにならないように、世界にひとつだけのレコードに残したい気持ち。
あと、あなたには見せたくないけど、知らない人になら話せるみたいなチグハグな感情を伝えるには、“レコード”が良いんじゃないかなって思いました。
──実際レコードの盤面はギザギザの溝ですし、傷跡のように生々しいですね。
春野:圭の歌詞は言葉の抑揚感がすごく新鮮で。日本の歌謡曲をモチーフに歌詞を書くって言ってたけど、言葉が現代っぽく散文的なんですよ。
菅原:プライベートで「話飛びすぎ!」ってよく言われるんです。それが歌詞にも出てるんじゃないかな(笑)。自分的には会話しながら頭の中で連想ゲーム的にトーク内容が繋がっているので、辻褄が合ってるんですけど、聞いてる相手は…。
春野:いろんな方向に興味がある、おしゃべり好きな人だと思ってた(笑)。リリック的には、誰にも真似できない気持ち良さだったり、言い換えれば違和感も楽しめるリリックかなって思いますね。
──あと、タイトル“celeste”の由来についてもうかがいたいです。
菅原:“セレストブルー”っていう色があるんです。
春野:『シェイプ・オブ・ウォーター』もそうですけど、監督のギルレモ・デル・トロの映画ってきれいな青緑を出すじゃないですか。あの質感ですね。音的に合う気持ち良い色はこれかなってふたりで決めました。
■自分で作った曲も大切に育てていきたい
──なるほど。では、曲が完成しての今の感想を聞かせてください。
菅原:自分は春野さんの、低音がしっかりしてて、コーラスが空気に溶けて立体的に広がるボーカルがすごく好きなんです。そんな素敵な歌声と一緒に歌えてうれしかったですし、もっと自分も頑張ろうって思いました。
春野:やっぱり僕も圭の声の印象がすごくありますね。アレンジャー目線で言うと、圭の歌の良さがうまく活かせたんじゃないかなって感じてます。
あと、今まで出してきた圭の曲もいろんなアレンジがありますけど、そこに対して大きめの石をぶん投げられたかなって。「普通のポップスはやらねーぜ!」ってくらいの気持ちのものができたなと(笑)。
菅原:自分としては…自分が書き下ろして人を呼ぶ度胸もあるんだってところも見てもらえたらなと思います。
──作家としての自信にも繋がったと。
菅原:はい。自分は、誰かに呼んでいただいて歌うことが多いのですが、やっぱり自分で作った曲も大切に育てていきたいんですよ。今回本当に良い栄養分、良い緊張感を与えていただけて、完成した時のモチベーションの上がり具合はすごかったです。
それに、他人の曲を編曲して歌う春野さんの新しい一面を春野ファンに見せられるんじゃないかとも思いますし、コラボ相手がいるからこそ書ける菅原圭の曲という新しい面も感じてほしいです。
春野:熱いっすね、思いが(笑)。
菅原:良いもの作れたので、やっぱり熱い思いはありますよ。
INTERVIEW & TEXT BY 土屋恵介
楽曲リンク
リリース情報
2022.10.26 ON SALE
DIGITAL SINGLE「celeste feat. 春野」
◎菅原圭
2022.12.14 ON SALE
DIGITAL ALBUM
※タイトル未定
菅原圭 プロフィール
スガワラケイ/Spotify「RADAR:Early Noise 2022」にも選出された注目のシンガーソングライター。2020年11月に初の配信シングル「フライミ feat.PSYQUI」をリリース。以降、YouTubeやストリーミングサービスを中心にオリジナル曲を発表&リリースしている。
菅原圭 lit.link
https://lit.link/0keisugawara
春野 プロフィール
ハルノ/作詞・作曲・トラックメイキング・ミックスまで自身で行う、マルチな才能を発揮するネット発の次世代シンガーソングライターであり、プロデューサー。2020 年発売のEP『IS SHE ANYBODY?』では、iTunes およびApple MusicのR&B チャートで1位を獲得。
春野 OFFICIAL SITE
https://haruno-official.com/