安田レイがニューシングル「風の中」をリリースした。JQ(Nulbarich)やTENDRE、tofubeats、H ZETTRIOが参加したコラボEP『It’s you』から約9ヵ月ぶりとなる通算16枚目のシングルの表題曲は、作曲と編曲にシンガーソングライターのTHE CHARM PARKを迎えた、80’sリバイバルの潮流にもつながる眩い楽曲となっている。作詞は安田レイ本人。バトミントン部を舞台にしたTVアニメ「ラブオールプレー」のエンディグテーマとして、原作を読み込んでから書き下ろしたという彼女に“部活”や“青春”の思い出を聞いた。
INTERVIEW & TEXT BY 永堀アツオ
PHOTO BY 関信行
■原作の小説を読んで、いろいろインスピレーションをもらいながら
──新曲「風の中」はアニメ「ラブオールプレー」2期のエンディグテーマになってます。
制作期間中はまだ1クール目もスタートしてなかったんですけど、作品のことを知らないと歌詞が書けないなと思ったので、原作の小説を読んで、いろいろインスピレーションをもらいながら、歌詞を書き始めたんですね。
──どんなインスピレーションを受けましたか。
バトミントン部の少年たちが成長していく物語になっていて。私はバトミントン部に所属していたことはないんですけど、中学生のときにダンス部に入っていたことがあって。
──ダンス部の思い出を聞きたいです。ちなみにダンスの種類は?
ちょっとジャズ寄りのガールズヒップホップみたいな感じでしたね。ゴリゴリのオラオラじゃなくて(笑)、どちらかというと女性らしい、体のラインも意識した、しなやかでフェミニンなダンスでした。デスティニーズ・チャイルドとかビヨンセとか、グウェイン・ステファニーとか、当時のチャートに入ってたポップスやR&B系のアーティストさんの曲で踊ってて。私が覚えているのは、ダンス部は学校の中であんまり特別扱いしてもらえなかったんですよ。バスケ部やサッカー部、野球部がメインで、ダンス部は練習する場所もあまり与えられてなかったんですよね。廊下でやるときもあったけど、いちばん使わせてもらえたのは柔道場ですね。柔道部が使ってないときに、柔道場を借りて。柔道場の壁には鏡が貼ってあったので、その鏡を見ながらやっていて。とにかく山の中みたいな学校に通っていたので、周りは山や森で、近くには川が流れてて。すごい自然の中でやってたし、クーラーもない環境だったので、夏休みの練習は、本当にしんどくて。1時間もやってたら、Tシャツ絞れるくらい、みんな汗をかいて。いちばん悩まされていたのは、セミの大合唱。暑いので窓を開けると、コンポからビヨンセをボリュームマックスで流しても、セミの鳴き声に負けるくらいの爆音だったんですよ。
──あはははは。
本当にダンスには向いてない環境でずっと練習してて(笑)。でも、汗だくのまま歩く帰り道の風がすごく気持ち良かったんですよね。みんなで、「暑いね~」って言いながら、スプレーをかけて体を冷やして、コンビニやパン屋に寄って、冷たいものを飲んだり、アイスを食べたりして。
■大人になるとああいう時間はないし、それこそ、青春だなって
──目に浮かぶくらいザ・青春という風景ですね。
あははははは。思い出すと、本当に青春映画の中の世界みたいな感じですよね。「練習する場所、最悪だよね」ってみんなで文句を言いながら(笑)、「でも、明日も頑張るか!」って言って帰る。大人になるとああいう時間はないし、それこそ、青春だなって思うので。そういう、普段、生きてると思い出さない、若かりし頃というか…。
──まだ20代ですけどね。
(笑)学生時代のことを思い出せたので、自分の心も若返った気がする。ちょっと気持ちが中学生になりましたね。
──原作を読んでご自身の思い出と重なる部分があったんですね。
そうですね。部活の練習内容は全然違うけど、先生に言われた一言とか、先輩と後輩の関係性とか、リンクする部分がいろいろ出てきて。“懐かしいな!この感じ”って思って。楽しいだけじゃなく、いろんな葛藤があったなって思うんですよ。当時の自分は若いから、何かハプニングが起きたときの対処法がわからなかったりするので、すごい悩んだりとかしてた。授業もあるし、部活もあるし、毎日、エネルギーをフルで使って。しかも、私は、学校が遠いところに住んでいたんですね。バスに乗って、電車に乗って、またバスに乗って…。2時間くらいかけて通ってて。移動も大変だったし、朝も早く起きないといけなかったし、帰りも遅くて。夜、遅くに家について、ご飯食べて、気づいたら朝になってる。毎日、ヘトヘトだったなって思うんですよね。なんのために、私、こんなに頑張らないといけないんだろうって思う瞬間がたくさんあって。
──うんうん。
でも、私は、その学生生活があったからこそ、今、大人になって活かせてることがいっぱいあって。学校の勉強以上に、部活を通しての先輩や先生とのやりとりとか。どうやったら自分の意見を通すことができるのか。どうやったら後輩から嫌われずに、注意ができるかとか(笑)。部活動から学んだことはいっぱいあるんですね。それは、大人になってからも大事だったりするけど、学校の授業では教えてもらえなかったし。
──人間関係を学ぶ場だったんですね。
そうですね。もちろん、体を動かして踊るっていうのがメインではあったんですけど、それ以上の価値が部活動の中にあったなって。思い返してみると、大事なものが見えなくなるくらいヘトヘトになってたんですけど、実は大事な瞬間がいっぱいあった。それは、自分が大人になってから気づいたことではあるんですけど、それを、わかりやすく例えられないかな?って考えたときに、“風”っていうキーワードを思いついて。
■ヒントはすごく身近な“風の中”にある
──風で例えているものはなんですか。
身近なところにあるよってことですね。部活に限らず、大人になってからも、何かに集中しすぎていたり、頑張りすぎていると、それを続ける理由がぼやけてしまうことがあると思うんですよ。でも、その答えとか、ヒントはすごく身近な“風の中”にあって。風は自然に吹いてくるものもあるし、自分が動くことで生み出すこともできる。そんな思いを短いフレーズの中にこめていますね。バドミントン自体も、風が関係していて。
──そうですね。自然の風の影響を受けないように閉め切った体育館の中でやってます。
そうなんですよ。でも、自分で風を生み出して、ゲームを支配することもできるんですね。だから、風っていうのは、この作品の中でも大事に描かれていて。あと、今、「風の時代」とも言われているじゃないですか。
──占星術では、個の自由な生き方が重要となる「風の時代」に入ってると言われてますね。
今のタイミングともマッチしてる気もして。もし、いい風が吹いてないのであれば、自分で風を起こそうよっていう。いろんなところに風がピタッとハマっているような気がして。この一曲を表しているワードでもあるので、そのまま「風の中」というタイトルにして。ずっと英語でカッコつけたタイトルをつけてたんですけど(笑)、久しぶりに日本語のタイトルにしたので、新鮮な感じがしますね。
■3年を経て、今回、なんと2曲もご一緒できて
──作曲と編曲はTHE CHARM PARKさんです。コラボEPの流れも継承してますね。
うんうん。いろんな素晴らしいアーティストさんとコラボしていきたいっていう風が吹いてますね。いちリスナーとして、ずっとファンで聴いてて。自分のラジオ番組で楽曲をかけたりもしていましたし、3年前にゲストとして来ていただいたタイミングで、電波の力を借りて、「一緒にやりたいです」ってお願いして。番組の中で「やりましょう」って言ってくれてから、3年を経て、今回、なんと2曲もご一緒できて。今がいちばん幸せだなって思いますね。デビューしてから9年経ってますけど、一個一個の積み重ねがあったからこそ、今、こうやって自由にできる。好きなアーティストさんとコラボして曲が作れる環境があるのがありがいたいし、本当に頑張ってきて良かったな、続けてきて良かったなって思いますね。
──チャームさんにはどんなオファーをしたんですか。
部活動という青春ストーリーなので、フレッシュで爽快感のあるアッパーなサマーチューンをお願いしました。ただ、チャームさんは「頑張れ頑張れ!っていうただ明るい応援歌はすでに世の中にいっぱいある。だから、安田レイの陰と陽は生かしたい。葛藤の部分をちゃんと描くからこそ、ポジティヴなものが見える曲にしたい」って言ってくれて。すごくうれしいなって思いましたね。
──受け取ってどう感じましたか。80’s風のシンセポップになってますよね。
今、リバイバルで80’sサウンドが洋楽でもきてて。懐かしいって思う人もいれば、新しいって思う人もいると思うんですけど、このサウンドメイキングはさすがだなって感じましたね。あと、お互いのルーツがアメリカにあることも意識してくれたので、歌詞をはめるのが、難しくなかったんですよ。歌詞は日本語なんですけど、洋楽の延長線みたいな感じでかけたので、そこも、さすがチャームさんだなって思いましたね。
■緊張感がないあったかい空気を作ってくださって
──レコーディングはどうでしたか。前作の都会のナイトミュージックっぽいメロウなムードとは違うトーンになってますよね。
そうかもしれないですね。歌はすべてメンタルなんですよね。当日のディレクションにかかってるくらい大事な要素なんですけど、チャームさんがいろいろと考えてくれて。チャームさん自身、レコーディングスタジオでブースに入って、それをスタッフがみんな見てるっていう環境がすごい苦手らしくて。チャームさんはレコーディングをひとりでやるそうなんですね。緊張しすぎていいテイクが録れないからっていう理由で。その経験がある人がディレクションしてくれたのがすごい大きかったなって思うし、チャームさんも歌う側の気持ちをよくわかってる人なので、いい意味で、緊張感がないあったかい空気を作ってくださって。
──肩の力が抜けて、とてもリラックスしている印象でした。
レコーディングブースの中はひとりで孤独だし、緊張もするんですよ。いいものを作りたいという自分に対するプレッシャーもあるから力みがちなんですけど、チャームさんは一からその空気を作ってくださって、メンタルがいい状態で歌えたし、そのおかげで伸びがある歌声になったと思う。ほんとに仏のようなディレクションをしてくれましたね。
──一方、MVは壮大な自然の中で撮ってますね。
富士山の真横までみんなで行って。梅雨の時期だったんですけど、本当に山を舐めてしましたね…。風がどんどん変わってくるんですよ。あったかい夏の風が吹いたかと思ったら、アウターが欲しくなるくらい冷たい冬の風が吹いて来たりして。1日かけて撮ったんですけど、なかなか過酷な撮影でしたね。砂漠のような場所では、車のタイヤが埋まっちゃって…撮影場所まで歩くしか無くなって。砂がふかふかで、歩くと足が持っていかれるから、スタッフもみんなずっこけてて。しかも、私は厚底の靴だったので、こけないように、インナーマッスルフル活用で歩いて(笑)。いい経験ができましたね。
──風をはらんで動く衣装も素敵でした。アニメのエンディング映像どう感じましたか。
すごくカラフルな水彩画になってて。きっとこの楽曲をいろいろ聴いていただいて、作ってくださったんだなって感じてうれしくなりましたね。仲間の絵が続くんですけど、毎週、素敵だな、癒されるな、涼むなって思いながら見てます。
──カップリングは、ソフトバンク「HeartBuds」のテーマソング。ゼクシィで募集されたエピソードをもとに制作されたショートフィルムのために書き下ろしたラブバラード「each day each night」が収録されています。作詞作曲が安田さんご自身、編曲をチャームさんにお願いしてますね。
実はこの曲が先に出来たんですけど、ゼクシィさんなので、ラブソングを作ろうって思って。しかも、タイミング的に、今年、大親友が結婚しまして。結婚式は何回か延期になって、この秋にあるんですけど、その友達にプレゼントしようという思いで作ったんですね。夫婦ふたりの生活をすごく近くで見ていたし、よく話も聞いているので、結婚式でこの楽曲をプレゼントしたいなって思って。
──親友の結婚式で歌うつもりで書いたんですね!
そうです。本人にも言ってあって。うちで完成したものを聴いてもらったんですけど、驚きすぎて、言葉になってなくて。「え、え…」ってびっくりしながら、すごく喜んでくれて。式で歌うのが本当に楽しみなんですけど、自分の実体験をラブソングにするときって、私は結構、現実主義派なので、あんまりロマンチックなことが浮かばないんですよ。
──あはははは。
だから、男性が書くラブソングが好きなんですよ。男性のほうがロマンチストじゃないですか。
──夢みがちですよね。
でも、それは音楽に絶対に必要な要素じゃないですか。もちろん、現実の生々しさを楽曲にするのも素晴らしいし、エグみもカッコよかったりするけど、現実から離れるために音楽を聴いたりするじゃないですか。私はロマンチックなことが自分の実体験だと書けないなと思ってたんですけど、友達へのプレゼントということで、夫婦の暮らしを想像してたら、現実的なものじゃなくて、柔らかくて優しい未来が描けて。これからロマンチックな歌詞を書きたいときは、友達の恋愛を意識したらできるのかもしれないなっていう発見がありましたね。
■未来に向けて、愛の形をもっともっと大きく育ててほしい
──共に育てる愛がテーマになってます。
高校のときからの友達で、お互いにすべてをさらけ出していて。その子が結婚して、隣には旦那さんがいて、ふたりの生活が始まっていて。ふたりでどんどん歳を重ねていくのが、なんて素敵なことなんだろうって思って。未来に向けて、愛の形をもっともっと大きく育ててほしいなっていう大親友からのメッセージですね。めちゃくちゃめでたいことじゃないですか。ふたりがお付き合いしてる頃から知っているし、何回も会っているし。ふたりの歴史を知っているからこそ、さらにうれしいし。ずっと幸せでいてほしいなっていう友達からの願いですね。
──サウンド的には、アコギと歌から始まって、ゴルペルクワイヤーのようなコーラスが入り、スケールがどんどん広がっていく大きなラブソングになってます。
私は壮大なラブソングにしたいですっていうオーダーをしました。後半、周りに友達や家族が、本当の愛を見つけたふたりを祝福しているような映像が浮かんでくるサウンドにしてくれて。きっとこれから、この楽曲もライブで育っていくだろうし、いろいろ発見していける曲だろうなって思ってて。アコースティックでも合うと思いますし、壮大なバージョンでも合うと思うし。いろんな編成で歌っていきたいと思う、大事な一曲が出来たので、ライブがあったら絶対に入れたいと思うくらい大好きな曲になってますね。
──MVはどんなイメージですか。割とシリアスなムードになってますよね。
シンプルなラブストーリーで表現する方法もあったと思うんですけど、ありきたりではなく、ちょっと変化球が欲しいよねっていう話をして。監督からのアイデアで、おじいさんとおばあさんになった夫婦のお話になってます。ふたりにもすごくラブラブな時期があったはずなんですけど、歳を重ねていき、大事な瞬間を忘れてしまっているという。おじいさんの頭の中を覗き込んでる感じですね。若い頃のおじいさんが、大事な瞬間がいっぱいあったんだよ、目を覚まして、思い出してくれよっていうストーリーになってまして。
■いろんな世代のいろんな恋愛にリンクするテーマ
──年齢に関係なく、思い当たるカップルも多いかなと思います。
そうですよね。10代でも20代でも、若いカップルでも、付き合って何年も経つと、フレッシュな気持ちを忘れて、最初の頃のように大事にできなくなってしまうこともあると思うんです。老夫婦だけの話ではなく、いろんな世代のいろんな恋愛にリンクするテーマだと思うし、愛してる人が目の前にいるんだったら、その人を大事にしようっていう思いが伝わるといいなと思います。キャストさんも体を張って頑張ってくれて、すごくいい映像になってますね。
──2曲ともタイアップではありますが、中学時代の部活、高校時代からの親友と、ご自身のプライベートともつながってる曲になってますね。
たしかに。2曲とも思い出すことがいっぱいありましたね。もちろん、今、現在を歌ってる曲ではあるんですけど、懐かしい気持ちになったし、たまにこうして思い出す作業をしたほうがいいなとも思ったし。思い出してないだけで、思い出して曲にできることっていっぱいあるだろうし、いい機会だったなって思います。
■全国各地で歌えている自分に会いたい
──最後に今後の目標を聞かせてください。
他にもチャームさんと作った世に出してない曲があって。フレッシュなうちにリリースしていきたいし、とにかくライブをいっぱいしたいですね。7月に釧路の「KUSHIRO KIRI FESTIVAL 2022」に出させてもらったんですけど、久しぶりの野外ステージがすごく楽しかったんですね。なかなかもと通りにはまだなってないけど、来年はデビュー10周年のアニバーサリーイヤーでもあるし、世の中的にもライブがしやすくなる空気になってることを期待して。だから、目標としては、10周年に向けて、フェスやイベントにたくさん出て、全国のファンの方に会いに行き、新しい出会いもたくさん作る一年にしたい。「ありがとう!」を爆発させながら、全国各地で歌えている自分に会いたいですね。
リリース情報
2022.08.24 ON SALE
SINGLE「風の中」
ライブ情報
Rei Yasuda Acoustic Live 2022 “Home Sweet Home”
10/23(日) 渋谷duo MUSIC EXCHANGE
プロフィール
安田レイ
ヤスダレイ/2013年7月シングル「Best of My Love」にてソロシンガーとしてデビュー。2015年シングル「あしたいろ」で「第57回輝く!日本レコード大賞」新人賞も受賞。2021年3月にYouTubeチャンネル『THE FIRST TAKE』にも出演し、その歌声に高い評価を受けた。これまでにリリースしたアルバム3作全てがiTunesにてJ-POPチャートTOP10入り。2021年11月リリースのEP「It’s you」では、JQ from Nulbarich、TENDRE、tofubeats、H ZETTRIOとコラボレーションが話題となる。
安田レイ OFFICIAL SITE
https://www.yasudarei.net