■松下洸平 2ndシングル「Way You Are」インタビュー
ドラマや映画など数多くの話題作に出演する、松下洸平。俳優として勢いづくいっぽう、同じように彼が熱量をもって取り組んでいるのが音楽活動である。
幼い頃から“当たり前にあるもの”として溢れていたのもあり、松下の音楽遍歴をたどっていくと、彼にとって歌うことはとても自然な流れで手にした表現方法の一部だった。
8月17日発売の2ndシングル「Way You Are」にも通ずる“伝える”ことに重きを置いた楽曲制作、そして興味を持ったことには全力でトライする性格の松下が大切にしている人生観を聞いていく。
■松下洸平を形成した、音楽遍歴
──高校3年生の時に観た、映画『天使にラブ・ソングを2』に感動して、自身も歌いたくなった…というエピソードは有名ですが、どこに魅力を感じて突き動かされたのか、その音楽遍歴と共にうかがっていければと思います。
松下洸平:遡ると、中学生時代からソウルやR&Bなどに惹かれていたんです。元々、親がいわゆるディスコサウンド…アース・ウインド & ファイアーやボーイズⅡメンなどが好きで、自宅や家族で出かける際の車中でよく(音楽を)かけていたので、わりと小さい頃からそういう音楽を身近に感じていたほうなんじゃないかとは思います。
小学生までは親が好きな音楽を一緒になって聴いていましたが、中学生になってからは自らそういう音楽を好んで聴くようになり、そこからヒップホップも好きになって、ソウルとR&Bとヒップホップを遡っていくようになりました。
好きを突き詰めていった結果、ダンスにも興味を持ち始めて、地元のダンススクールに通うようになりました。その頃から音楽やファッションにも興味を持ち始めるようになって。
音楽でいうと、デスティニーズ・チャイルドやアッシャー、日本だとZeebraが好きでした。
──NITRO MICROPHONE UNDERGROUND(ニトロ・マイクロフォン・アンダーグラウンド)とか?
松下:そうです、そうです! ニトロも好きでした。時代的にもそのあたりがすごく流行っていましたからね。そういう音楽を聴いて踊っているうちに、音楽を通して何かを表現したいという気持ちが芽生えていきましたが、この頃はまだ自分で歌うという選択肢は考えていませんでした。
■歌への表現欲求が高まった時に出会った『天使にラブ・ソングを2』
──それはダンサーとして表現したいという思いが強かったということですか?
松下:最初はダンサーとしての表現欲が強かったのですが、DOUBLEやFull Of Harmonyといった素晴らしいR&Bを歌う日本のアーティストがいることを知り、自分も彼ら、彼女らと同じように歌で表現してみたいと思うようになりました。
ただ、時期的にはそれが高校3年の進路を決めなくちゃいけない時でもあったので、すぐ人前で歌うことはなかったんですけど、ちょうど高校生たちがゴスペルを歌うシーンが出てくる『天使にラブ・ソングを2』を観て、とどめを刺されました(笑)。
ダンススクールに通うようになったことで、ゴスペルやR&Bが好きな共通の趣味を持つ友達が増えたことも大きかったと思います。自分の好きなことに夢中になれる場所、同じように音楽が好きな仲間がいて思う存分話せる環境がある幸せをすごく感じていました。
学校の友達とも楽しい時間を過ごしましたが、そことはまた違った特別な場所といいますか。自分にとってかけがえのない時間でした。
■楽器ができなくても、鼻歌からオリジナル曲を作成
──なるほど。自分で作詞や作曲をするようになったのは?
松下:18~19歳くらいから始めました。当時は楽器の演奏が何もできなかったので、歌詞を書きながら、作曲は楽器のできる友達に鼻歌を聴いてもらい、「これに伴奏をつけてほしい」とお願いして作っていきました。
──当時からオリジナル曲があったんですね。
松下: “こういうことを歌いたい”って気持ちもあったので。当時、なぜか学校の自習室にキーボードが置いてあったので、そこでコードの勉強をして。楽器のできる友達にも手伝ってもらいながらだったので、「そんなコードはないよ!」「いや、でもこういうニュアンスにしたいんだよ!」ってやり取りをしながら(笑)。
少しずつですが、自分の頭の中にあるメロディに、コードを付けられるようになっていくのはうれしかったですね。今思い返すと、パッと閃いたものを自分の手で形にしたかったんだろうなと。なので、これやりたい! と思ったら、よし、やろう! って行動する、そんな連続だった気がします。思いついたらすぐ行動という感覚は僕のベースにあるものでしょうね。
──お芝居に関しても同じ感覚があるということですか?
松下:演じる時も、その場で感じたことを出すタイプなので、台本に細かく(演技プランを)書き込んで演じるってことができなくて。僕としては、相手の表情や声色、現場の空気だったり、その場で感じたままを…その日にできたことが正解というか…。
──感性そのものなんですね、歌もお芝居も。
松下:そうなのかもしれません。
■音楽と芝居、両立の鍵は“楽しむこと”
──お芝居を優先するために音楽活動を一時休止されていた時期もありますが。
松下:芝居を始めた当初は演じるということがただ楽しくて夢中になりました。また、経験が少なかったのもあり、向き合う時間が必要で、気づいたら頭の中がずっと芝居のことでいっぱいになってしまっていたんですね。当時は音楽のことを考える余裕もなくなってしまい、なかなか両立することが難しくなってしまったので、自分としては、今は演技を頑張ろうと一旦音楽活動を休止することにしました。
さっき「その場で感じたままを出す」というお話をしましたが、その考えにたどり着くまでは自分が考えていた以上に向き合う時間が必要でした。ただ、せめて音楽を完全に忘れないようにという意味も込めて、年に一回、小さな会場でファンの方々とイベントをして、歌いました。
──音楽を再開したいと思ったきっかけは?
松下:いろんな方々から背中を押していただいたんですけど、「もう一度、CDを出して本格的に歌ってみない?」という言葉が大きかったですね。そう声をかけてもらえていなければ、歌う場所には戻れなかったかもしれないですね。
今はそう思えるようになったのですが、俳優と音楽の両立を「大変だな」「辛いな」って思いながらだと、自分が大事にしているものがどんどん薄れていってしまうので、“両方ともを楽しむ”ことが重要ということに気づいたというか…これは僕の人生観でもあり、何をやるにも楽しみたいなって。
そのためには自分に余裕がないと良い状態は保てないので、良い作品を作るためにも、なるべくフラットな状態でいられることを心がけています。
■ストレートに想いを伝えることの大切さ
──演技に振り切った時期から、改めて音楽と向き合うようになった今、ご自身が作る楽曲で変化を感じることはありますか?
松下:演じる作品から学ぶことがすごく多いです。例えば、恋愛作品で自分が誰かに好意を寄せている役だとして、その相手に好きだという想いが伝わりきらなかったシーンも、逆にちゃんと伝えることができたシーンも、どちらも相手に自分の気持ちを伝えることが大切だなって役を通して気づかされたり。
──前者は後悔、後者は喜びという違いはありますが、たしかに自分の気持ちを相手に伝えることは大切ですね。
松下:相手に想いが伝わっていないことで話がこじれていくので、「ちゃんと(想いを)伝えろよ!」と感じながら演じることもあり(笑)、素直に伝えることは大事ですよね。
そういった気づきもあり、歌詞を書くうえで僕はなるべくストレートに想いを伝えるようにしています。今回の「Way You Are」は自分がありのままでいることの大切さ、そしてその難しさを歌詞にしたのですが、大変だけど、貫くことで見えてくる景色もあるんだな、その景色を見るために楽しみながら頑張っていこうという想いがあって。「Only you」はラブソングですが、聴いた人が情景を想像しやすい言葉を意識して歌詞にしました。
■「Way You Are」で目指したのは、リスナーの日常に入り込むこと
──なるほど。「Way You Are」の歌詞の中に“キミはキミの味方でいて 心の示すまま歩こう”という言葉がありますが、優しいながらも力強いメッセージですよね。
松下:歌詞は、作曲のUTAさんが何度もご一緒されているAKIRAさんとの共作で書かせていただいたんですけど、まず僕が歌詞の形で伝えたいメッセージを書き、それを汲んだうえでAKIRAさんが書いてくださり、その両方をちょうど半分くらいの比率で重ね合わせていきました。
特に意識したのは、綺麗事じゃなく、大きく背中を押せなくても、今日1日を頑張れる曲にすることでした。「頑張れば夢は必ず叶う!」「諦めないで!」と言うのも素敵ではありますが、言葉そのものが重荷に感じてしまう時もあるじゃないですか。
聴いてくれる方の日常にすっと入り込めるような曲作りを意識していました。
──寄り添ってくれる歌詞だな、と近くに感じられたのは、そういう想いがあったからなんですね。曲自体も軽快なアップチューンで、晴れやかな気持ちにさせてくれます。
松下:「Way You Are」は作曲してくださったUTAさんからデモをいただいた段階で「2ndシングルっぽい!」って思った曲でして(笑)。他の候補曲もあったんですけど、「Way You Are」がいちばん夏というタイミングにも合っていたし、今回は恋愛ではないメッセージの曲にしたかったこともあり、「Way You Are」のビートがしっくりきました。
■寄り添えるように、少しでも気持ちを軽くできるように
──こうやってお話をうかがっていると、松下さんの人間性や気持ちが詰め込まれたシングルだったんだなと感じます。“優しすぎて無理して合わせて 本音が引っ込んで”っていう部分はまさにそうなんじゃないかなと。
松下:自分を見失いそうな時や、自分らしく生きられない時に、こういう曲があったら良いなって思ったんですよ。閉じこもってしまう気持ちをオープンにできるような、そんな曲を作りたかったんです。
背中を押したいんだけど、強く押し続けると絶対に苦しくさせちゃうから。ちょっとずつちょっとずつ押すことで、渡したい気持ちを届けたいなって。
“ため息と嘘の 代わりに光と愛を”という言葉は、音楽活動を通して何か渡すことができたらって思う気持ちから出てきた言葉で。ありのままの自分でいるということ自体が普通のことではないですからね。
誰にも無理しないでいてほしいんです。簡単に言ってしまっていないか、ちゃんと誤解なく思いが届けられているのか、受け取る側の感じ方は特に意識していました。
──今おっしゃった“ため息と嘘の 代わりに光と愛を”というフレーズは、ゴスペル的でもありますね。
松下:あっ! そうかもしれないですね。
──「Only you」は言葉がもっと近い印象があります。“言葉にすんのは難しい”“ずっと側にいれんのにな”とか、口語体で書かれているのもあり、ちょっと砕け具合がより近さを感じるなと。
松下:そうですね。そこもすごく意識したところでした。今まで書いてきた恋愛ものは、繋がりきれていなかったり、片思いだったり、好きだったけどサヨナラしてしまったり、ちょっと切ない要素が多かったので、今回はそういう切なさを一切取り払って、愛する人のためだけに真っ直ぐな想いだけを綴って書きました。
■wacci橋口の誘いから「恋だろ」ライブ披露
──そういえば、wacciのライブで一緒に「恋だろ」(松下洸平が出演した木曜劇場『やんごとなき一族』挿入歌)を歌唱していらっしゃいましたよね。
松下:「恋だろ」は聴いた瞬間から一発で好きになった曲で、橋口(洋平)くんの言葉も、wacciの演奏も本当に素晴らしくて。ドラマを撮影していた時も「恋だろ」に何度も励まされていました。それもあって、よく自分のSNSやインタビューで「恋だろ」のことを語っていたら、橋口くんが一緒に歌ってくれないかとwacciのワンマンに声をかけてくれたんです。
本当に光栄で、歌っている時はすごく不思議な気持ちでした。(『やんごとなき一族』で松下が演じた)深山健太の気持ちもあるし、自分自身としても大好きな曲でもあるし、両方の気持ちで歌ったんです。
今まで感じたことのない、歌っている自分ともうひとりの自分が同じステージに立った感じで…ん~、でもどうかなぁ、あのステージで歌っていた感覚は健太が強かったかもしれないです。
──2022年の11月30日からは全国ツアーも始まりますが、今後目指したいところとは?
松下:自分の気持ちに正直に、ゆっくりと丁寧に聴いてくれる人たちの気持ちに寄り添える楽曲を作って、歌っていけたらうれしいですね。
INTERVIEW & TEXT BY 武市尚子
PHOTO BY 関 信行
HAIR & MAKE UP BY 榎並孝介
STYLING BY 後藤泰治
リリース情報
2022.08.17 ON SALE
SINGLE「Way You Are」
プロフィール
マツシタコウヘイ/1987年3月6日。2008年に「STAND UP!」(洸平名義)でCDデビュー。2009年にミュージカルで初舞台を踏んで以降、俳優として舞台や映像で活躍。2021年8月25日、松下洸平名義で1stシングル「つよがり」をリリース。2022年8月17日に2ndシングル「Way You Are」を発売、さらに11月30日からは全国ツアー『KOUHEI MATSUSHITA LIVE TOUR(仮)』を開催する。
松下洸平 OFFICIAL SITE
https://www.kouheiweb.com/